ことのはじまり
短編で公開した同名小説ほぼそのままです。
「恋は一生モノにならない方が多いよね」
「いきなり何だ」
「それに比べたら友情は一生モノになる確率ずっと高いじゃん?」
「人の話聞けって」
「あたしねー、トヨちゃんとは良い友情築けそうだと思ってたのよー」
「……………ああ、豊川?」
「恋愛じゃなくて友情! 分かる?」
「男女間の友情って成立しづれえんだよな……・」
「友達だよねと暗示をかけ続ければ一線を越えることはまず無いの!」
「それって成立しづれえっつーことだろ。ってかそれって友達超えることに心理的ストップ掛けるだけで惚れることの歯止めにはならんじゃんよ」
「そんなにあたしをいじめるのが楽しいかサワちゃんよ!」
「サワちゃん言うな。………まあ、男女が居ると子孫を残したいっつー遺伝子の欲求が生まれるのは自然じゃねえの?」
「その遺伝子を超えて異性間の友情を築ける動物が居るのに人間が出来ない筈無い!」
「そーか、で、豊川との友情に亀裂が入った?」
「その一歩手前ぐらい………」
「あ?」
「トヨちゃんに彼女が出来たのよ」
「ああ、そんなこと言ってたな、あいつ」
「可愛い子なのよ、女の子ーって感じ。で、やっぱり可愛いその子の友達が周りに居るわけよ」
「それで?」
「『豊川君はエリの彼氏なんだから近付かないで!』って言われた………」
「信用無いのな、お前」
「親しくないんだ、信用以前の問題だ!」
「女って怖えーの」
「あ、トヨちゃんに言っちゃ駄目だよ、今の」
「それほどデリカシー無く見えるのか、俺」
「どーして清く正しい男女間の友情に皆さんこんなにも理解が無いんでしょうか! はい、沢村君!」
「スルーか………。ほら、あれだ、男女間の友情がいつの間にか恋愛感情に変わるっつーのは漫画の王道らしいし」
「おおう、なるほど! じゃあ早速フロム友情トゥー恋愛な漫画撲滅運動開始!」
「一人でやれや」
「冷たい…………」
「で、お前はどうしたいんだ?」
「トヨちゃんとの友情を継続させたい! 周囲になるべく波風立てずに」
「ならその彼女ときちんと話しあえば?」
「『私は絶対豊川君にフォーリンラブなんてことありえないから友達づきあいさせて』って?」
「……………変だな」
「変でしょ?」
「じゃあやっぱあれだろ、豊川の意思を聞くべき」
「あたしと友達してたいかって?」
「ああ。変じゃないだろ?」
「うん、変じゃない。………クサいけど」
「ま、彼女持ちと友情を保つなんざ至難の業だろ」
「そう、そこなのよ! そこでね、あたしは名案を思いついた!」
「何だ」
「あたしが彼氏持ちになればよっぽど大丈夫くない?」
「……………まあ、フタマタに見えなきゃな」
「やっぱ名案だよ、うん」
「ってか、居るのか、好きな奴」
「ノープロブレム! ってわけでサワちゃん、付き合って!」
「…………………………は?」
「ああ何そのすっごい怪訝そうな顔!」
「いや正直意味不明」
「じゃあ改めて言おう、サワちゃん、あたしと付き合って!」
「…………豊川のために?」
「あたしのために!」
「…………………………お前さ」
「サワちゃんが好きなんです」
「………………」
「むしろトヨちゃんの方が口実、みたいな」
「……………………今までの話、全部前置き?」
「うん」
「お前、恋愛は一時で友情は一生っつってただろうが」
「別にトヨちゃんがグラスでサワちゃんが紙コップって言ってるわけじゃないよー? 男女間の友情なんて一生モノっていう付加価値が無きゃリスキーすぎて大抵の奴は嫌がるんだもん」
「……………お前と付き合うのも大概リスキーだと思うんだが」
「え、今振られた? あたし振られた!?」
「や、そういう意味でなく」
「おう、ラッキー」
「…………お前、本当に俺のこと好きなんだろうな」
「はっはっは、あたしらしい告白の形式を考えた末こうなったのだ」
「高笑いかよ」
「じゃあ何かねサワちゃん、あたしが放課後君を呼び出してだね、頬を染めて目を潤ませて『沢村君、実はずっと好きだったの』ってやってみろ」
「キショイな」
「キショイ言うな! 伝統的少女漫画に則って描写してみたのに!」
「少女漫画撲滅したいんだろうが」
「呉越同舟という言葉を知らんのかね、サワちゃんよ」
「何で無意味に絡み口調なんだよ」
「好きだぜサワちゃん!」
「お前以外だったら告白にそのテンションってのがありえねえ………」
「あたしだから良いって分かってんじゃん。ってかサワちゃん、君は何回女の子に告らせる気かね」
「………………あー」
「ほらほら振るなり食うなり好きにして」
「や、何で俺そんなに手ぇ早くなってんの?」
「じゃあ頷け」
「命令か」
「突っ込んでないで早くやるー」
「……………ああもう、じゃあ乗ってやる」
「せんきゅー。じゃあまた明日」
「おう、また明日………………って、これって正しい形なのか?」