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忍べない

なんでだ、四十番?

なんであなたが四十番?


白猫は喉元まできたツッコミを飲み込む。


初戦の最終組が呼ばれて、選手が競技場に入った。その中にいてはいけない人物を見つけて、白猫は頭を抱えた。

「はじめ!」

合図の後、三十九番と四十番の決着は一瞬だった。四十番は迷わず一歩を踏み込むと、相手の太刀を流し、肩を打った。それを見た見物人や審判席から歓声が上がる。

早々に勝ちを決め、笑みを浮かべてこちらへやってくる凛々しい侍は……。

「やあ。お前の試合もなかなか見物だったぞ」


白猫の現在の雇い主、旭川巴その人である。



初戦が全て終わり、今は敗者復活戦だ。敗者が総当たり戦で、残った一人が二回戦に進める。白猫に負けた成明は、次々と敗者を打ちのめしている。

それを目の端で追いながら、白猫は横に立つ人物に問いかけた。

「あなたはなぜこの大会に?」

「腕試し……それと、美しい姫とお近づきになれるかもしれないと聞いてな」

しれっと答える巴は、この状況を楽しんでいる。忍びを雇っておきながら、当人がこんな形で標的に接触を図るなんて前代未聞だ。

「ああ、そうだ。私は朝倉巴雅あさくらともまさと言う。お前は?」

「……太助です」

巴雅と名乗った巴は、好きにさせておこう。そう決めて、白猫は観戦に集中した。

やはり成明は強く、倒れている半数は彼に敗れた者のようだ。

「あの男、やるな」

「そうですね……あの方の勝ち残りで決まりでしょう」

「ぜひ手合わせ願いたいものだ。お前も再戦したいだろう?」

「ご冗談を。先程の勝ちはまぐれです。次こそは西森様に打ちのめされますよ」

「そうか?私はお前とも戦いたいのだが?」

「それこそ身に余ります」

笑顔を振り撒く巴は本当に男前だ。誰も女だと疑わないだろう。


白猫の予想通り、最後までその場に立っていたのは成明だった。

総勢二十二人になった二回戦からは、くじ引きで対戦表が作られた。幸い、巴や成明とは勝ち残らなければ当たることはない。対戦相手も、白猫の本気を出させるほどの実力はなさそうだ。ここでようやく、負けて観戦に集中できそうだ。

「おい、太助」

試合の出番が回ってきたため、競技場に出ようとしたところ、巴から声をかけられる。

「このまま勝ち残れ。ちょうどいいから、姫の護衛になるといい」

彼女は白猫の耳元に顔を寄せると、真剣な声音で命じた。

「……俺の仕事をご存知で?」

「愚問だな。お前の主は誰だ?」

白猫は隠すことなく、深く溜め息を吐いた。


「太助ちゃーん!かっこいいー!」

黄色い歓声を上げる拓馬は後で蹴る。

主の命令通り、白猫は次の対戦相手を倒した。忍びと気取られないように、昔見た拓馬の型を真似てだったので多少苦戦したが。控え席に目をやると、巴が満足そうに微笑んでいた。本当に、読めない主である。

「やっぱり強いじゃないか、太助」

入れ違いに競技場に出る成明が、すれ違い様に声をかけてきた。

「恐れ入ります。ですが、ただの真似事……西森様のような本物のお侍様には敵いません」

「ははっ……今の対戦相手も、一応侍だよ。武者修行中らしいけど。ちなみに、私の次の相手の弟子だって」

……この男、白猫と同様に出場者に探りを入れているのか。

「顔は広い方がいいだろう?もしかしたら、一緒に護衛になるかもしれないのだし」

相変わらず、裏のありそうで爽やかな笑顔だ。どうも最近、くせのある人物が身の回りに多い。

「……そうですね。私はお給金さえいただければ、どなたとお仕事をすることになっても構いませんが」

成明はきょとんと目を丸くしてから、それまでとは違う、ニヤリとした笑みを浮かべた。

「言うねぇ。君は本当におもしろい」



その後試合は進み、残るは決勝と準決勝の三試合となった。組合せは白猫と若い家臣の永本常光ながもとつねみつ、巴と成明だ。

常光は拓馬の友人で、白猫自身幼い頃に面識があるが、気づいていないようだ。拓馬のように容易に気づかれても困るが。

成明同様、常光はかなりの腕前だった。侍の型をまねている白猫では敵う相手ではない。本来の動きを見せて正体を気取られては、任務続行は難しい。主の命令は護衛になることだが、何名選出するのか明言はされていない。ここまで残れば、選ばれる可能性は十分あるだろう。白猫はこれまで通りに戦うことに決め、常光に敗れた。


そして、次の試合ーー実力者同士の巴と成明の戦いだ。




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