任務完了
『やあ、子猫。
既に知っているだろうが、今回の一件は和倉、旭川、そして日沖の三国同盟から引き起こったものだ。旭川と日沖は元々参戦していたから、内部からの反感はあっても簡単に押さえられるものだった。ところが和倉は違う。乱世を終わらせるためとは言え、それまで勧んでやってこなかった戦を始めるんだ。当然、反感は大きい。
しかも、同盟のための婚姻が八重殿と雅殿じゃね……。
あ、ちなみに僕も八重殿との結婚の候補に上がってたよ。でも日景が八重殿の初恋の相手を教えてくれて、わぁっ!ちょうどいいじゃん!と思ってね。
まあ、それで内乱が起こるんじゃないかって心配になって、日景を和倉へ送ったんだ。
巴殿も心配してたけど、あそこの忍びはさほど優秀じゃないし、表だって彼らが助けたら益々反感を買いそうでしょ?
そこで、何度か僕の仕事を手伝ってもらってた君をあっせんしようと思ったんだ!でも巴殿も君も素直じゃないし、頑固だし、正攻法じゃ上手くいかないと思って、変化球投げてみました!
仕えてみてどう?当主として、人として、結構良い人だと思うよ。
ずっと思ってたんだけど、
』
「引き上げるのか?」
八重出立の前夜、護衛を交代し、厩に向かった白猫は待ち構えていた巴に声をかけられる。雅は先に戻ったが、巴は万が一を考えて姫と共に行くと残っていたのだ。さすがに護衛はさせられないので、客人としてだが。
「……昼間に旭川の迎えも到着しましたし、俺がいなくても問題ありませんよ」
白猫は巴の横を通り抜け、拓馬の馬を出した。無断拝借だが、後で本人の家に返せばいいので、なんの罪悪感もない。
「まあ、そうなのだが……」
巴は何か言いたそうに口を開きかけては閉じるという行為を繰り返している。そうこうしている間に白猫は支度を終え、馬に跨がった。
「では、旭川様。報酬については後日ご連絡いたします」
「……ああ。世話になったな」
ぎこちない笑みに一瞬鈴久の手紙を思い出し、多少後ろ髪が引かれる思いがしたが、白猫は巴に会釈で返し、和倉の城を後にした。
自身の屋敷に戻って数日ーー
やたらと構いたがる祖母を適当にかわしながら、久しぶりにのんびりとした日々を過ごした。
とうに八重は旭川に着いているだろうが、いじめられていないだろうか。
姉に似て意外と行動力のあった雅は、どんな当主になるだろうか。
あの型破りながら優しい元主は同盟を成功させ、この乱世を治めるのだろうか。
……などと、あの手紙のせいか、らしくもなく考え込む。
「めっずらしいー!しーちゃんがだらけてる!」
床に寝そべって天井を見つめていたら、視界に拓馬が割り込んできた。不覚にもちょっとびっくりした。考え事をしていたとは言え、直前まで気づかなかった。仕事中なら死んでいた。
「お紺さん直伝で気配を消してみました!どう?」
「……余計なことを」
思わずばばさまへの怨み言をこぼす。意識を戻してから他の気配にも気づく。
「あの人も連れてきたのか」
「うん。しーちゃんに会いたがってたし。入ってきなよ、つね」
拓馬に呼ばれ、常光が神妙な面持ちで部屋に入ってくる。そして……。
「すまん、しろ!!」
……ものすごい勢いで土下座された。




