忠臣と優しの君
正式に姫を守ることになったなら、やるべきことは決まっている。
「情報を寄越せ。下手人を見つけてやる」
唐突に白猫に呼び出された拓馬は、目を輝かせて頷いた。
「しーちゃんが手伝ってくれたら、鬼に金棒だよ!」
抱きつこうとする拓馬に、懐にあった饅頭を投げつける。それを受け止めた拓馬は笑みを消して、顔をしかめる。
「そういえば、よくこれが毒だと気づいたね。見た目や匂いじゃ全然わかんなかったのに……」
「それは朝倉殿が町で買った、ただの饅頭だ。姫や城の者に配っていた」
「……彼のことは疑わないの?」
いぶかしむ拓馬。彼は朝倉巴雅の正体を知らないのだから、無理もない。
「たしかに怪しく見えるが、あの人は姫に危害を加えるつもりはないだろう」
むしろ全力で守れと言われた程だ。
「ふーん……しーちゃんが言うなら信じるけど」
拓馬はまだ腑に落ちないと言った顔だが、とりあえず巴の件に関しては区切りを付けたようだ。
「それで毒の件だが、まず貰い物というのが気になった」
身辺警護を増員してまで、姫の身が案じられる時に、そうやすやすと外部からのものが通るはずがない。
「そういうのは、お前がうるさそうだからな。まずお前や他の家臣が止めているだろう?」
「もちろん。侍女にも通達してるはずなのに……あいつ、やっぱり黒でしょ?」
「まあ、潔白ではないだろうが……それは置いといて」
一気に表情が険しくなる拓馬を宥めながら、白猫は話を進める。
「不審な状況なのは確かだったが、一番の決め手は勘だ」
「……しーちゃんの勘?」
「勘。あれは食べない方がいいと思った」
白猫はきっぱりと言い放つ。
「なら、納得。しーちゃんの勘はすごいもんね」
白猫の勘はよく当たる。今までそれによって命拾いしたことも多い。拓馬もそれを知っているだけに、ようやく笑顔が戻る。
「えっと、情報だよね?どこまで話そうか……」
「姫に関わることでわかっていることは全部教えろ。俺がはっきりしない内は出し惜しみしていたんだろう?」
てへっと笑う拓馬に饅頭第二弾を投球してやろうと思ったが、その忠誠心は理解できるので、白猫は仕方なく息を吐いてこらえたのだった。
花見当日ーー
姫の暗殺未遂事件があったものの、当主の判断によりそれは予定通り行われることになった。
姫には毒の事は臥せられている。もっとも薄々勘づいているようだが、皆が隠しているので聞こうとはしない。利口な娘だ。
そのためか、ここ数日は姫に元気がない。拓馬や巴が積極的に話しかけても、作った笑みしか浮かべない。かわいそうだが、白猫は姫を励ます余裕はなかった。
護衛をしながら、姫の暗殺を企む輩を調査していたからだ。休息する時間はなかったが、おかげで怪しい人物を絞ることができた。
「やはり、身内の仕業か……」
白猫からの報告を受けた巴は顔をしかめる。
「平穏な和倉を望む数名の家臣が動いているようです」
「ふんっ……平和ボケの馬鹿共が!」
巴は苛立った様子で命じる。
「その馬鹿共の思惑を当主や皆の前でさらけ出せ!逃げられないようにな!」
巴がここまで怒る理由……実は、白猫はそれも一緒に調べていた。
それは当主としては甘い……国のためでもあるが、どちらかと言えば身内のためのことだった。
大国を治める統率力を持ち、人を思いやる優しさも持つ。白猫は主人は持たない。だが、こういう主の元ならば仕えてもいいかもしれない。
「承知」
今はともかく雑念を捨て、一時の雇い主に頭を垂れた。




