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目的

拓馬は敵とみなせば、誰であっても容赦しない。


「お前が毒を仕込んだ張本人かそうでないかは関係ない。毒を運んだことは事実だからな」


牢に入れられた侍女への尋問は連行した白猫、和倉の右腕たる竪琴家親子、つまり拓馬とその父親が同席した。

「私は本当に知らなかったんです!信じてください!」

「どうでもいい。毒はどこから持ってきた?」

笑顔なのに目が笑ってない。拓馬の威圧感に、侍女は怯えきっている。

やりすぎだ、馬鹿。喋らなくなるぞ。

白猫は仕方なく、俯く侍女の前に屈み、目線を合わせる。

「饅頭は貰い物だと言っていましたね。どなたからのものですか?」

「……親戚から実家と、城勤めの私にそれぞれ送られてきました」

「では、親戚含め一族全て処分を……」

「拓馬様、落ち着いてください」

殺気立つ拓馬を諌めて、白猫はじっと侍女の顔を見つめた。

まっすぐ合わせる視線。涙を浮かべながらも口を固く結び、強く訴えてくる表情。

「……運び屋と送り主を当たりましょう」

「しー……太助ちゃん。彼女は白なの?」

今、素で呼びかけたな、馬鹿。

白猫の言葉に毒気を抜かれた様子の拓馬に頷き、竪琴当主に目をやる。それまで黙って成り行きを見守っていた竪琴当主は、侍女の前に歩み出た。

「疑いが完全に晴れたわけではない。そなたは実家に戻り、家族もろとも謹慎を命ずる」

侍女は涙を溢して、頭を垂れた。



「その侍女は気の毒にな……もし、そのまま暇を与えられるなら、私が雇ってやろうか」

あんたは、どれだけ女好きなんだ!

白猫は巴へのツッコミを表情には出さず耐えた。

下手人捜索を竪琴家に任せ、白猫は姫の護衛に戻った。部屋の中で姫の傍には成明と常光、外の庭先では巴と白猫がつく形になった。これまでは交替で護衛と見回りをしていたが、今日からは全員で姫に張り付くことになりそうだ。

「……牢から出しましたが、彼女は真っ白というわけではありませんよ」

「ほぉ……なぜ?」

巴の口元がおもしろいものを見つけた時のように緩む。思えば、潜入してきた忍びを雇い直したり、他国の動向を探るのに自ら赴いたり、この人の好奇心は人一倍のようだ。

「たしかに、毒のことは知らなかったようですが……誰かを庇っている様子でした」

彼女の瞳には、譲れないものがあるという強い意思が感じられた。全くの無実の罪を被せられたというのなら、もっと気が動転しているはずだ。

「まあ、下手人捜索は俺には関係ありません。任期まで姫の傍についているだけですから」

「冷たい男だな。女性にもてないぞ?」

「……これ以上をお求めになるなら、命じればいい」

始めは、姫の内情を探ること。次に身辺の怪しい人物を調べろと言われた。そして今は、姫の護衛をさせられている。

白猫の予想が正しければ、次の命令は巴の本当の目的。好奇心もあっただろうが、わざわざ外部の忍びを雇い、自ら動いてまで果たすべきこと……。


「ーー姫を守れ。身にふりかかる危険を全て排除しろ……」


そう言った巴からは笑みが消え、大国を治める当主の凛々しい顔だった。


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