表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/19

姫君の恋

「八重様の様子がおかしい……」

そう声をかけてきたのは、同僚となった成明だ。

あれから成明は、ことあるごとに白猫にかまうようになった。それを見かける度に拓馬が頬を膨らませるのが目につく。仕事でなければ、間に割り込んでくるのだろうな。面倒な奴。

まあ、それはともかく……。

「姫様がですか?今朝もいつも通りの笑顔で挨拶してくださいましたよ」

「いや、そうではなく……なんだろうな?ある人物の近くにいたら、挙動不審になっているような……」

「……巴雅殿のことですか?」

八重との対面後、巴はとにかく彼女に対して甘い態度で接し、紳士的に振る舞う。あんなにあからさまな軟派をされたら、誰でも動揺するだろう。

「姫様を惑わさぬよう、太助からも言ってくれるかい?」

「効果はないと思いますが……」

今のところ、彼女が白猫の言うことを聞いた試しがない。

「それにしても、太助はモテるね。巴雅殿や拓馬殿、姫様まで君がお気に入りみたいだし、奉公人も君を見かける度に声をかける」

「皆さん、よくしてくださいます」

巴はからかっているだけだし、八重姫は平民上がりの太助を気にかけてくれている。奉公人達は仲間意識を持ってくれていて、拓馬はただのアホだ。ここ数日、周りにかまわれすぎて心中穏やかでない。

「本当に、平和だ。護衛の意味がないくらいね」

「このままご当主様の杞憂に終われば良いのですが……」

「そうもいかないのが、世の常だね」

そう言った成明は、やはり感情の読めない笑みを浮かべていた。


そうこうしている内に、花見の席が近づく。桜は次々に開花し、見頃を迎えている。

八重はこの宴席が済み次第、輿入れすることになっていた。誰の元に嫁ぐのか、当主はまだ公表していない。家臣の中でも一部の重臣しか知らされず、本人でさえ相手がわからないのだと言う。拓馬は知っているかもしれないが、そう簡単に吐く奴ではない。こちらが忍びであるとわかっているので、余計に教えることはないだろう。ふざけているように見えて、真面目で忠義に篤い。

そんな誰かもわからない人に嫁ぐことになり、さぞ悩んでいるだろう姫君は、実は別のことで悩んでいた。

「どうしましょう、太助。巴雅殿の近くにいると、なんだかドキドキしてしまうの」


何やってんだ、旭川当主!とういうか、同性!


白猫は心から叫びたいのを我慢した。

「……なぜですか?」

幸い、今この八重の部屋で傍にいるのは白猫だけだ。冷静を装い、探りを入れる。

「はじめてお会いした時から、初恋の方に似ていると思っていて……」

だから八重は、あの時驚いていたのか。

「今頃、巴雅殿のような素敵な方に成長されているかと思うと、あの頃の気持ちを思い出してしまって」

良かった、ドキドキの相手は初恋の君だ。

しかし、巴はどういうつもりなのだ?もしや、八重を自分の虜にして、和倉の縁談を壊すつもりか?

……あの破天荒な主ならあり得そうだ。

「その初恋の方は、どちらの?」

一人納得して、白猫は八重に話を促す。

「わからないわ。私が小さい頃、花見にいらした他国の方なのは確かだけれど……私と同じくらいの年だったわ」

「その方が今、目の前に現れたらどうされますか?」

八重はきょとんとした顔をして、一瞬どういうことかわからなかったようだが、次第に顔を赤くしていく。

「その質問、すごく意地悪だわ」

そう言ってそっぽ向いた八重に、白猫は「かわいい」と素直に思った。同時に、不憫に思う。忍びに感情移入はご法度だが、見知らぬ相手に嫁ぎ、戦の火種になるかもしれない八重に同情してしまうのだ。

せめて、その初恋の思い出を糧に、これから襲い来る災厄に立ち向かってほしい。

「失礼いたします、姫様」

ちょうど良い時に、侍女が入ってくる。

「お茶にされませんか?おいしいお菓子をいただきましたので」

言いながら、侍女は八重の元へお盆に乗せた茶と菓子を運ぶ。

「ありがとう。太助も一緒に食べましょう?」

「……そうさせていただきます」

白猫は八重の元へ置かれる前に、盆から菓子を取り上げる。侍女は眉をひそめて白猫を見た。

「なんて行儀の悪い!」

「姫様、できればこの菓子全ていただけませんか?」

「えっ……?いいけれど、なぜ?」

「それは後程。侍女殿、お話がございます。一緒に来ていただきます」

白猫は侍女の腕を掴み、引きずるように部屋から連れ出した。



ーー菓子には毒が仕込んであったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ