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「ちょっと悠一!どうしてこうなるわけ!?」
「俺よりマスターに意見を述べてくれ……」
12月24日。天気は悪天候でも快晴でもない。ちらちらと粉雪が降る、美しきホワイトクリスマスとなった。
午後6時、マスターの喫茶店である“ライフイズユアセルフ”に呼ばれた俺と幼馴染の淺倉夢奈は、唐突にマスターの私室である八畳一間に入れられた。そこにあったのは、二人用の布団のみ。この部屋に入った時、何をしろと言われたわけではないが、あれこれ頭の中で想像が膨らみ、夢奈と俺は顔を赤らめた。中学生故、そういった連想をしやすいのだ。致し方ない。
「これから、悠一と夢奈にはここで寝てもらいます」
「ね、寝てもらうってどういうことだよ!」
「そうよ!なんで悠一の隣で寝ないといけないわけ!?」
俺達が抗議すると、マスターは半にやけ顔でこう言った。
「これも世界を救うためですよ。イチャイチャしろだなんて誰も言ってませんよ?」
「最近の若者はけしからんのぉ」
ひょっこりとマスターの後ろから現れるサンタ。
「悠一と夢奈の魂は、地球上では類稀なる色をしています。ブラックサンタさんがあなた達を狙わないわけがありません。ここに現れた時に、私とサンタさんでブラックサンタさんを捕獲します!」
かくして、「ブラックサンタ捕獲大作戦!」(命名:マスター)が決行されることとなった。……俺と夢奈はまったく承諾してねぇぞ!!
俺達の不満は他所にやられ、俺と夢奈は一つ屋根の下、同じ部屋で服も着替えず寝させられることとなった。
布団は勿論くっつけているわけでもないし、相手はパジャマ姿で居るわけでもない。ただ隣で寝ているということを意識してしまうだけでも、顔が赤くなりそうだ。恐らく、夢奈も同じ心境のはず。中学生が体験するにはいささか早すぎるってもんじゃないか。
「どうしてこうなっちまったかな……」
ため息をつきながら、ゆっくりと目を瞑る。妙な緊張感から眠気はまったくない。寝れるとは思っちゃいないが、目をずっと開けたり、ましてや夢奈の方を見たりなんてできるわけない。しかし、ここでふと些細な疑問が浮かんだ。俺はこうして恥ずかしさを紛らわせようと目を瞑っているが、夢奈はどうしているんだろうか。
時刻は夜中の12時近く。もう寝ていてもおかしくない時間だ。
俺は仰向けの状態から、ゆっくりと右隣に顔を向けてみる。すると、がちがちに固まった夢奈が、頬を赤らめながら天井のどこか一点を見つめていた。月明かりに照らされて鮮明に頬が赤く見えた。
「おい夢奈」
「何?」
「なんでそんな固まってんだ?」
「なんでって、そんなの言わなくてもわかるでしょ?」
「大体見当はついてるけどよ」
やっぱり、気にしているらしい。そらぁ、年頃の女の子が一つ屋根の下で男と一緒に寝るなんていったらそりゃ気にするに決まってる。そう考えていると、なんだか冷静になる自分が居た。この状況が他人から見るとそれは面白い構図であり、これからの展開に期待するところだろう。皆さんにとっては残念だろうが、何も発展しやしないんだがな。
「悠一……なんだか……恥ずかしいよ……」
「状況と発言だけ聞くと誤解するような台詞を吐くな」
突然夢奈は虚ろ目で俺を見て来た。その表情がなんだか色っぽく見えた。いかんだろ中学生がこんなん!やっぱ色んな意味でまずいってマスター!
「……あれ、なんだか……眠くなってきちゃった」
緊張の糸が切れたのか、夢奈は眠たそうに片目を擦り、目を瞑った。
俺も唐突に眠気が襲ってきた。瞼が重たくなり、眠りにつきそうになった時、外から歌声が聴こえて来た。
「クリスマスなんて、大嫌いさ~」
マスターの独特な歌声ではない。聞いたことがない声だった。外で雪を踏みしめながら、この部屋に向かってくるのが感覚としてわかる。
一瞬意識が飛び、次に目を開けた時には、黒い服を着て、黒い帽子の先に白いふわふわの毛玉を付けた、黒ひげの爺さんが、夢奈の枕元に立っていた。
眠気が吹き飛び、体を起こそうとしても、金縛りにあっているように体が動かない。
「可愛い子み~つけた☆」
次の話で「ホワイトクリスマス編」は終了です。
終了後は「滅亡予言編」のアップに戻っていきます。