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「えぇと……どういったご用件で、当店にお越しくださったのでしょうか?」

「急を要することなのだ。頼む、私の願いを聞き届けてくれ!!」


 瞑らな瞳で懇願する老人。赤い帽子に赤い服。白ひげでメガネを掛け、外にはトナカイが赤い鼻をしながら、こちらの様子を伺っているようだった。どちらかといえばこの老人の方が願いを聞き届けてくれそうなもんだが。

 隣に居る俺は、この赤服の爺さんはこの店の屋根を工事している途中で、ミスして落ちて来たのだろうと、確率的にとても低い事象を勝手に頭に浮かべて整理した。未知の世界が存在することを否定し、本物のサンタであることをいち早く頭の中から空にする。どうにも俺の胸中では、嫌な予感がぐるぐると渦巻いて離れないのだ……。


「それではまず、あなたのお願いをお聞かせいただけますか?」

「おぉ!聞いてくれるか!!それはありがたい!!」


 席を飛び立ち、マスターに握手を求める。苦笑しながらマスターは握手に応じた。マスターの手が大きく上下する。こんなに激しい握手を見たのはアメリカのアニメを観て以来だ。


「私は見ての通りサンタなのだが、とあるサンタから世界を救うために、マスターを尋ねて来たのだ」

「えぇと、それはどういった意味で捉えればいいのでしょうか?あなたがスーパー等のお店で働いている従業員の方で、同じ同僚のサンタがあまりにも仕事をしないから経営の危機にあるということですか?」

「違うわい!どうしてそうなる!!わしは本物のサンタじゃぞ!」


 ちらっとマスターの表情を伺ってみると、冷や汗が大量に流れているのがわかる。先程俺に対してサンタの知識を振りまいていたのに、いざ本物を目にするとどうしてこうも堅くなる?もしかして、さっき俺が聞いたサンタの話って……マスターの嘘?


「え、えぇと……本当に本物のサンタさん?トナカイの引くソリに乗って世界中を駆け巡る伝説の男ですか?」

「そう言われると照れるな……」


 何頬を赤く染めてんだ。赤くなるのはトナカイの鼻だけで十分だ。


「サンタ界の中で、最も仕事ができるサンタが突然謀反を起こしたのだ。目的はまったくわからないが、明日の夜、子供達の夢を全て掻き消して、世界を滅ぼそうとしておるのだ!」

「え、どうして夢を掻き消すのが世界の滅亡に繋がるんだ?」

「夢を掻き消された子供達は無気力となり、何もやる気が起きずに、生きる夢も希望も失ってしまうのだ。君も例外ではないぞ?18歳未満の子供達は全てそうなってしまうのだ」

「それは大変だ!」


 大げさにリアクションをしているように見えるのは俺だけか、マスターは両手を大きく挙げて、ひぇぇ、と悲鳴を上げた。

 どうにも、この場に居て緊張感がないのは俺だけらしい。どうしてサンタ一味でそんなことをしようとする奴が現れたのか、なんていう話はどうでもいい。

 そもそも、本当にサンタが実在しているかどうかという議題から念密に話をしてほしいもんだ。この爺さんの頭のネジが五本くらい抜けているだけじゃないか?


「悠一。これはいけませんね。サンタさんを助けましょう!」

「助けるって言っても、どうすりゃいいんだよ。そのサンタがどうして世界を滅亡に導こうとしているのかがさっぱりわからない。そもそも、この爺さんが本当のサンタかどうかも疑わしい……」


 俺が疑いの眼差しを爺さんに向けると、爺さんは頬の肉を大きく釣りあげて、満面の笑みを俺に見せて来た。いやいや、そんな顔されても怪しいもんは怪しい。


「わしがどうやってここまで来たかがわかれば、悠一君も信じるじゃろう。……しかし、問題が起きてしまってな」

「一体何があったんだ?」

「移動魔法を使うために一緒に居てくれなきゃいけないトナカイが今居ない」

「どうしてだよ。勝手にどっか行ってしまったのか?」

「最近餌を上げるの渋っていたからのぉ。餌を探してどっか行ってしまったわい」

「行ってしまったわいじゃないだろ!どう考えたって爺さんが悪いだろ!トナカイを餓死させる気か!?」

「トナカイがどこかへ行ってしまう前に、やけにわしの事を冷たく睨んでいたような気がするのぉ。クソジジイ、テメェのとこには二度と戻らねェ、死ね!みたいな」

「爺さん、心の中では少し罪悪感感じてんだな……」


 俺は深くため息をつき、マスターにミルクティーのおかわりを頼んだ。相変わらず、この喫茶店のミルクティーは美味しい。それだけは疑う余地がない。


「どうしてそのサンタさんが世界の滅亡を企むのかはわかりませんが、まずはサンタさんを止めることから初めていきましょう。そのサンタさんに名前は?」

「彼の名はブラックサンタじゃ。名前の通り、服が黒く、他のサンタと比較せずとも奴だとわかるじゃろ」

「では、そのブラックサンタをおびき出し、どうにか彼の悪行を阻止するとしましょう」

 とんとん拍子で話が進んでいく。外の雪がひどくなりつつある。窓から見る外の景色が俺の心を動かす。今のうちに帰らないと。

「サンタさんが来る好条件は、やはり子供が居ることでしょうか?」

「そうじゃな。例えば、夢や希望を胸に抱く少年少女の元には、特に来やすい」

「夢……ですか」


 不穏な視線をマスターから感じた。目が開いているかどうかわからないくらい薄目なマスターの瞳がこちらを向いているかは定かではない。しかし、この時俺が不安に感じたことは確かだ。


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