盲亀浮木
今日からお前の保護者に――――
見ず知らずの他人の言葉とは思えない。でも、嬉しかった。仲間を見つけられた。
俺にも見える――――
「…ねぇ、どうしてあなたが、保護者なの?」
中学校の制服のリボンをいじりながら、透は訊いた。
「あぁ、お前の母親の、友達なんだ。俺もお前と同じものが見えると知って、厄介払いしたいんだろ」
口調が少し乱暴だった。何か、あったのだろう。
「あなたは、私なんかを引き取ってどうするの?」
「そんなもの、決まってるじゃないか」
彼は透をじっと見据えて、優しく微笑みながら言った。
「一緒にいる。ただそれだけだ」
一緒に
『あの子……気味悪いわ』
『今日も同級生とケンカしたって』
『嘘をつくから』
『きっと、さみしいのよ』
『両親があんなに無関心なんだから』
『嘘をつくから嫌われるんだ』
『嘘をつくから』
『嘘つきだから』
『嘘つき』
『嘘つき』
『嘘つき』
異形のモノが見える透への、同情と畏怖。その矛先は透の両親へ。
両親は言った。
『あんなモノは私たちの子どもなんかじゃない』
両親は言った。
『迷惑をかけないで』
両親は言った。
『アンタ、誰?』
両親は言った。
いや、何も言わなくなった。
「一緒に、いても、良いの?」
透の頬は涙で濡れていた。両親からの、人からの拒絶。
植えつけられた思い。
ワタシハ、必要ノナイ存在。
ワタシハ、邪魔ナ存在。
ワタシナンカ、ウマレテコナケレバヨカッタノニ
「…あぁ、一緒に。いつまでも、とはいかないかもしれないけれど、でも―――
『ただいま』と言って『おかえり』が聞こえる
そんな生活を、共に―――――」
彼は笑っていた。
夕方の太陽は沈み、世界を燃える色から、幾千、幾万の星をちらつかせる藍色に。
その夜透は、家を出た。
星がとても、綺麗に輝いていた。