徒手空拳
「アイツまた嘘ついてるぞ」
「透ちゃん、何が見えるのぉ?クスクス」
「嘘つき」
「嘘つき」
「うそつき」
「嘘つき」
やめて
私、何もしてないのに
本当のこと言ってるだけなのに
それ以上そんな事言うのやめて
ひとりにしないで
置いていかないで
「何してるんだ、こんなとこで?」
誰かが話しかけてきた。私は近所の公園で、泣いていたところだった。
「なんでも、ないです」
私は涙を拭いて、ぶっきらぼうに答えた。まぁ、むしろ見ず知らずの他人に心を許す人間もいないだろうけど。
「……飲むか?」
そう言って話しかけてきた男の人は、ジュースの缶の、2つあるうちの1つを差し出してきた。無論私は受け取らず、ただ首を横に振った。
「まぁなー、知らないオッチャンに飲み物もらってもなぁ…ハハ」
彼はそう言って笑い、しばらく無言の時が流れた。
「でもな、俺は今日からお前の保護者になるんだ」
私は彼を睨んだ。そんなこと、この世のほとんどの中学生が信じるわけないじゃないか。
「…嘘つき」
私は同級生から言われた言葉を発した。そしてまた、涙が溢れそうになる。
「お前は、嘘つきなんかじゃないよ。透」
彼が言ったその一言に、私は驚いた。一体何に?“透”と言われたこと?それとも―――
嘘じゃない、と認めてくれたこと?
透は何か言おうとして、やはり口を閉ざした。この世には恐ろしいほど執着の強い誘拐魔だっている。こんなことで同様してはだめだ。と言っても、別に誘拐されたところで悲しむ人なんていないけど。
「俺も、見えるよ」
彼のたった一言で、透は救われた気がした。
「俺にも、見える。お前と同じものが。信じてくれるか、お前は?」
私を捉えている、彼のその強いまなざしは、しかしとても柔らかかった。