悲喜交々
学校とは何か。
―――答え、無意味にコミュニティを広げ、無意味に人と触れ合い、無意味に妖怪が多い場所。
自分でも思う。私は冷めた人間だ。友達を必要ともしないし、されないし。基本的に学校ではしゃべることが少ない。しゃべる相手がいない。「青春のせ」どころか「S」すらない。むしろ青春とは何か解らない。だから学校がつまらなかった。アイツが転校してくるまでは。
「はよっ、トール!!」
「……おはよ」
ハイテンションで話しかけてきたのは、この間転校してきた北山翼という男。
『俺さー、ここには姫さん探してきたんだけどさー、まさかアンタ退治したりしてない?』
たまたま私の隣の席で、たまたま学校の案内を任された私へ、見ず知らずの他人からの第一声。おかしい。もうちょっと普通の会話をしよう。特に「私人間じゃないです」というニュアンスのこと言っていいのか疑問に思った。一応、師匠ほどではないが、ちょっとくらいなら妖怪を傷つけることくらいできるんだから、私。
『…アンタ何者よ』
私が聞いたら、転校生は答えた。すんなりと。
『天狗』
これが私と北山翼との出会いだった。
「ねー、トールゥー。アンタんちの烏丸さんに会わせてよー」
大人っぽい雰囲気には似合わない甘ったるい声。
北山は、スラッと背が高く、切れ長の目、長めの髪。きっと、こういうのを巷ではイケメン、というのだろう。まぁ、私にはそんなことどうでも良かった。
「ヤダ。師匠アンタみたいなの気に入っちゃうかも知れないから」
「いーじゃん。それで」
「そしたら師匠、きっとアンタに協力しちゃうから」
「俺にとっては大助かり。それのどこがいけないのさ」
「だって、アンタの探してる姫さんって妖怪でしょ?なんか企んでるんでしょ」
北山は黙った。そして……
「企んでる。俺は、姫さんに助けてもらおうと思って」
北山は妙に真剣だった。何か、重大なことが起こったのだろうか?
「実は…」
「実は?」
「実は、俺の住んでた山が枯れ始めたんだよ」
「………」
山が枯れ始める、それはその土地の霊気が弱まっている証拠だ。
植物は、物質的な栄養はもちろん、その土や空気に含まれる霊気をも成長するための糧とする。その植物が枯れたとなれば、その土地の栄養が尽きたか霊気が弱まったかが原因となる。そして大抵は、後者の方が圧倒的に多い。人間が無暗に入り込んでその土地を穢したりするのが主な原因だが、人間にその自覚はない。
「そんでさー、ちょっと大事なモノなくなっちゃってさ…そこに妖怪の姫がいると聞いてここに駆けつけたわけさ」
暗い感じの口調だった。大事なモノ…家族でも失くしたのだろうか?驚きはしなかった。妖怪たちにも感情があるということに。既に知っていた。妖怪も人間と同じように生きていると。
それを知ったのは、ずいぶん最近になってからだったけど。
「………私、今日は寄り道しないでまっすぐ家に帰ろ!」
「トール?」
「それと、私の後ろから何か憑いて来てても気にしないようにしよ!」
北山が嬉しそうにしたのが分かった。そして何だか私の心は、照れくさくて嬉しくて。そんな表しがたいあたたかいモノでいっぱいだった。