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草行露宿

「師匠、洗濯物終わりましたぁー」


 私は烏丸師匠を呼んだ。私のことを引き取ってくれた人。


「そうかそうか、そんじゃ洗いモンもよろしく」

「――――はい……」


 師匠は人使いが荒い、というか自分じゃ何も出来ない。歳は二十三。今まで一人でどうやって生きてきたのだろう、と思うくらい何もできない。


 ―――もしや女がいるのでは!!


 そう思ったのは引き取られてから一ヶ月も経たないうちだけだった。よく観察してみると、烏丸師匠は女性に、というか人自体に興味がない。いつも相手にするのは妖怪ばかり。私にはその気持ちが解らなかった。


 ―――あんな迷惑にしかならないモノのどこが良いの?


 私がそう烏丸師匠に言ったとき、何故か師匠は悲しげな顔をして、そして私は金輪際師匠の前では言わないようにしようと思った。



「透、ちょっと仕事行ってくらぁ」

「はぅわっ!!」ガシャン。


 不意に師匠に話しかけられたので、私は驚いて変な声が出てしまった。更に、その時私はお皿を洗っていたときだった。ガシャン、というのはお皿を落として割ってしまった音だ。


「んじゃ、それ片したら学校行けよ」


 師匠はそう言って行ってしまった。

 師匠は妖怪を見ることができる。そしてそれを祓うだけの霊力・妖力ちからがある。たまにその力を頼ってくる人がいるのだ。


 師匠はどんな気持ちで妖怪を退治しているのだろうか。妖怪は迷惑だ、と言った私に悲しげな顔をした師匠は、いつも仲良くしている妖怪たちの仲間をどんな顔で、どんな思いで退治しているのだろうか。


 ―――きっと、こうね


 私は目を閉じて、眉間にしわを寄せ、唇をキュッと結ぶ。きっとこんな感じだろう。私は妖怪が大嫌いだ。だから師匠の気持ちはわからない。でも、もしも私の大切なものを、好きなものを壊さなければならないとしたら、私もこんな顔になってしまうのだろう。ただその大切なものが妖怪か妖怪じゃないか、それだけの違いだ。


 師匠は、本当は妖怪退治なんてしたくないのだ。それでも仕事を引き受けるのは、妖怪と同じくらい人も好きなのだろう。最近思うようになった。師匠が人に興味がないような素振りをしているのは、妖怪たちがその人たちに迷惑をかけないように。そして妖怪退治をするのは、困っている人を助けるため。


 ―――師匠には大切なものがたくさんあるのね



 そんなことを思いながら、私は制服に着替えた。私の通っている東高校の制服は地味だ。紺色のブレザーに灰色のスカート。それにエンジ色のリボン。どこにでもあるような感じだ。まぁ、私が可愛い制服を着てようと何も変わらないのだけれど。


 準備は終わって私は家を出る。二人で暮らすには大きすぎる家を。実際はすごく窮屈だけど。



  だってここには、たくさんの妖怪が住んでいるのだから




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