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第30話 ニホンオオカミJr達の覚醒

 パサディナ五輪予選開幕前、U21でキャプテンを務めていた下川が、五輪代表、太田監督に進言していた


「監督、俺はキャプテンを降ります。このチームのキャプテンは出浦にしてください。お願いします。」


「自分に自信が無くなった訳じゃありません。出浦ならこのチームを戦う集団に変えられる力を持っていると思うんです。五輪で金メダルを獲るにはあいつの力が絶対必要なんです。」


下川の気持ちを汲んだ太田監督は、電話で龍永にその旨を伝える。龍永は父、敬助同様に


「監督、あなたはこのチームを優勝させるチームにするんですか?本気ならキャプテン引き受けます。」


太田監督ははっきり答える。


「当たり前だ。その為に下川はキャプテンを降りてお前にこだわったんだ。」


龍永には太田監督や下川の覚悟が伝わった。そして太田監督に提案する。


「監督、俺は別にストライカーにこだわってません。このチームには前線に俺より上手いタレントが何人か存在します。だから俺はポジションは特にこだわっていませんから好きに起用して下さい。もう既にチームの許可は取ってあるので予選から合流できます。絶対一緒に優勝しましょう!」


このチームには、龍永と共に既にA代表入りしていた長身フォワードの斎藤、決定力の高い椎原、このチームの10番阿部がいた。龍永は彼らとの共存を望んだ。


最終予選のメンバーが発表された。

GK 1ピサロ堀川(名古矢)、12戸島(堺)、19宮沢(ロサンゼルスAC)

DF 2高木(今原)、3北爪(ソシエド)、4下川(ファイアノールト)、5鈴木仁弧(アルメル)、16染谷(河崎)、17小林(フレンクフルト)、22平田オナイウ(東港大)

MF 6米倉(備前)、7尾崎(河崎)、8吉田(ジェンク)、10阿部(バレンシアーノ)、13川渕(茅ヶ崎)、14篠原(ハノーベル)、15仲村(広嶋)、18藤田(堺)、23加納(摂津)25益山(摂津)

FW 9斎藤(シュツットガリア)、11椎原(ヴォルフガンク)、20西脇(デケレン)、24本村(佐倉)そしてキャプテン21出浦(フベントルス)


 このチームにプレーメーカーは選ばれておらず、ボランチとサイドアタッカーが豊富に選出されている。そこで太田監督は、龍永にトップ下へ下がるよう指示した。


基本フォーメーションは4-5-1。キーパーに堀川、センターバックに副キャプテン、オランダリーグで売り出し中の下川、スペインBリーグの北爪、右に本来左サイド、日系アルゼンチンの鈴木仁弧、左にドイツリーグの小林、ボランチに龍永の先輩尾崎とベルギーリーグの吉田が並ぶ、右ウィングにスペインで駆け出しの10番阿部、左ウィングにストライカーの椎原、トップ下にコンバートされた龍永、1トップは長身の斎藤という布陣。


太田監督の狙いは、龍永を軸に、割り当てられたポジションの位置から点を取るというもの。龍永がボールを保持したら、龍永を追い越すようにオーバーラップを敢行、全員がフォワード、アタッカーと思ってプレーするという超攻撃的なサッカーだった。


 彼らは今までのそれとは違った。全員が龍永をに負けじと練習から牙を剥き出しにしていた。龍永すら驚く程に。また、彼らは口々に話す。


「出浦とやるとプレーの幅が広がる。」


コンバートは成功したようだ。


 今回の出場枠はたったの2枠。つまり、決勝まで行かないと五輪本大会に進めない厳しい戦いになる。そして迎えた最終予選。U23日本代表は悪魔のような強さを見せた。グループリーグ初戦中国戦8-1、第2戦インドネシア戦7-2,第3戦ターンオーバーで迎えたバーレーン戦6-3。おおよそサッカーのスコアではない数字を叩き出した。太田監督の采配がズバリ的中した。続く準々決勝UAE戦では、龍永がハットトリックを記録。あと1試合で本戦出場が決まる。準決勝は敵地、カタール戦であった。


 完全アウェー、日本代表はボランチ吉田を怪我で欠き、代わって米倉を投入。運命のカタール戦の火蓋が切って落とされた。


 日本ボールから、立ち上がりからカタールはゴール前に人数をかけ、ガチガチに固めていた。前線に3人張っている。龍永が


「お前ら小学生か?」


と呟く。キーパーの堀川が


「こいつら全員俺に任せろ!」


と檄が飛んだ瞬間、カタール陣中央にいた龍永が強烈なシュートを放つ。ゴールバーを大きく叩き、跳ね返ったボールを左サイドの椎原が再びミドルシュート。ディフェンダーに当たりコーナーキックを得る。右サイドショートコーナーから阿部が仕掛ける。カタールのディフェンダー、サイードが止めるが、その背後に龍永が睨みを効かし、立ちはだかっていた。龍永が奪い返すと、日本イレブン、ベンチ、監督やコーチでさえも目付きが獣のようにギラリと変わっていた。日本代表が全員「ニホンオオカミJr」に変貌していた。その後、何と全員が


「あと3点」


と呟き始めた。カタール陣営は困惑していた。


「こいつら全員がニホンオオカミになったというのか・・・?」


 龍永が奪ったボールは逆サイド椎原にアーリークロス。椎原がヘッドで難なく先制。ゴールが決まっても全員


「あと3点」


と呟いていた。カタール陣営は気付く。


「まさか出浦が3点狙っているのではなく、こいつら一人一人が3点狙ってるのでは?」


その通りである。全員同世代の龍永に負けじと、今も牙を剥き出しにしている。このチームは異常だ。アジアの列強国が大差で負けているのはそういう事である。日本陣営は


「お前らの肉よこせ!」


「カタールゴール前に肉の塊が転がっている。どの部位から喰らうか早い者勝ちだ!」


と思わせる眼光で睨み付けていた。


 開始5分の失点にカタールは再びキックオフ。ゆっくりパスを回すが、左サイドバック小林がカット。ボランチ尾崎とワンツーで抜け出しゴール前へ侵入。ディフェンダーモハメドがマークに付くが、そのままシュート。キーパームスタファがファインセーブしラインを割ろうとしたが、龍永が追いつきカタールゴール前に戻す。ゴール前にいた斎藤が落ち着いて決め、2点目。日本イレブンは全くニコリともせず全員が


「あと3点」


と呟き続けるのだった。開始10分と経たないうちに、カタールは早くも「11匹のニホンオオカミJr」に挙げ足を噛み付かれたような状況。野に放たれた「ニホンオオカミJr達」はこの2点目からが怖い。敗退したアジアの国々は皆そう思っていた。


 再びカタールボールで試合再開。今度は変化を付けてワンタッチの素早いパス回し。左サイドヤシンの折り返しにフォワード、サイフが頭で合わせようとするが、キーパー堀川がキャッチ。その瞬間、ニホンオオカミJr達が前線に一気に走り出した。堀川が大きくパントキックしたボールは先程までヤシンと競っていた鈴木仁弧がトラップ。ワンタッチでボランチ尾崎に、更に尾崎が中央の龍永にキラーパス。抜け出した龍永がそのまま豪快なシュート。キーパームスタファの両手を弾き、早くも3点目。まだ前半が始まって20分も経っていない。カタールは完全に弄ばされていた。

更に、このプレーでキーパームスタファが負傷退場。ワールドカップ決勝で見せた龍永のキーパー殺しのこのシュートに、どの国もやられていた。


 この後両眼を充血させ、舌とヨダレを垂らし、牙を剥いたニホンオオカミJrの群れが次々と襲いかかる。右サイドをドリブルで切り込んだ10番阿部、コーナーキックからオーバーラップしたセンターバックの北爪、今大会初スタメンの米倉のミドルシュートが次々と決まり、前半だけで6点取って前半が終わる。カタール陣営及び、ホームのカタールサポーターは最早言葉を失っている。あの有名な「ミネイロンの惨劇」のようだ。固まるサポーター、顔を覆う女性達、泣き出す子供達、後半カタールはこの6点差をどうするのか・・・


 後半カタールボールで試合開始。交代はないが、11匹のニホンオオカミたちは既に睨みつけている。


「もっと肉喰わせろ。」


「ついでにお前らの大腿も噛みちぎるぞ。」


と言わんばかりの表情。落ち着いてボールを回すカタールだったが、それこそが命取りである。日本は立ち上がりからハイプレス。ディフェンダーモハマドに戻されたボールに斎藤、尾崎、オーバーラップしたディフェンダー下川、そして龍永が急襲。出しどころがないモハマドが代わって入ったキーパー、バシールに戻すと。今度は両サイドの椎原、阿部がプレスにかかる。慌ててクリアしたボールを、長身の斎藤と龍永が2人ががりでブロック。こぼれたボールを走り込んできた下川がシュート。後半立ち上がりから7点目。カタールサポーターからは


「もう勘弁してくれ!」


と悲鳴が上がる。


「こいつら何なんだ?」

「この恐怖感はなんだ?」

「まだ俺達を痛めつけるのか?」


カタールイレブンは最早心を砕かれそうになる。こいつら相手に何やっても勝てない。日本代表はそう思わせた。下川のゴール後、龍永は叫んだ。


「銭のある奴は故郷へ帰れ!俺と来る奴は狼だ!」


 この日の審判団は中東勢だ。試合前から既に相手が怪しい。ましてや相手のホームである。これくらいやらないと金メダルなんて獲れない。キャプテン龍永率いる日本代表は皆そう思って臨んだ。そして全員声を荒げた


「あと3点!あと3点!あと3点!」


ベンチも含めて連呼していた。そう。「あと3点」取れば10点差になる。龍永達はそれほど飢えていた。


 後半開始11分、カタールが速攻を仕掛けてきた。前線3人にロングボールを送る。下川が弾き返す。すると、後方からボランチのジャマルがミドルシュート。北爪がヘッドでブロック。こぼれ球をサイフが拾いシュートするが、キーパー堀川がキャッチせず、ダイレクトで相手陣内に大きく蹴り返す。そのボールがなんと前に出ていた相手のキーパー、バシールの頭上を越える。更に、ワンバウンドしたボールにはトップスピンがかかっており、そのままカタールゴールに吸い込まれる。なんと8点目をキーパーが決めたのだ。


「このチームはキーパーまでゴールを奪おうとするのか?」


とカタール陣営は最早絶句。ここで日本はメンバーを3人代える。椎原に代えて西脇、斎藤に代えて篠原、ボランチ尾崎に代えてサイドアタッカーの益山。ボランチは米倉のみ。まだ点を取るつもりである。カタールも3人代え、再びカタールボールからリスタート。カタールは、尾崎の抜けたボランチのスペースを突くが、そこを埋めていたのは下川であった。あくまで攻撃陣は前に出るよう檄を飛ばす。カットしたボールは龍永に繋がる。振り向きざまシュートの体制に入る。カタールは2人ブロックに行くが、龍永の蹴ったボールが相手ディフェンダーの股を抜き、更に右の踵に激しく当たり、右サイドの阿部の元に飛んできた。阿部が得意のドリブルで切り込みシュート。キーパー、バシールが横っ飛びでセーブするが、代わって入った益山がヘディングシュート。これはゴールバーに当たるも、中にいた西脇が強烈なボレーシュート。なんとアウェーで9点目。カタールサポーターが帰り出すようになる。


 そして後半30分、日本はメンバーチェンジ。阿部に代わり川渕、そして龍永に代わりボランチの仲村。龍永はここで御役御免。西脇が1トップ、トップ下が普段サイドの川渕が務める。スタジアムが静まりかえり、数少ない日本サポーターが歓喜する。その中に、母、京香が来ており、龍永に手を振る。交代した龍永は母に両手を大きく振った。

 

 そして早速代わって入った3人が見せる。仲村と米倉が奪い、右サイドの篠原へパス、篠原が逆サイドに振り、左の益山へパス。益山がオーバーラップした小林へ送るとそのままゴール前へ切り込みディフェンダーを引きつけ中央にパス。待ち構えていた川淵が丁寧なシュート。これが決まり10点目。完全アウェー、審判団も中東勢の圧倒的不利の中10-0のスコア。試合終了のホイッスルと共にカタールイレブンはがっくり膝を落とし、泣き崩れる。勝った日本はパサディナ五輪出場が決まるが浮かばれない様子。なんと全員が


「くそ!ハットトリック出来なかった!」


と口々に悔しがる。喜んでいる者等何処にもいなかった。


 これが龍永率いるU22日本代表の姿である。ベンチも含め全員が「ニホンオオカミJr」と化し、全員がゴールという獲物を狙う狂暴な狼と変貌を遂げたのである。あわよくば、この試合の龍永のシュートで負傷したキーパーのように、相手も殺しにかからねばこうやって餌食にされてしまうのである。龍永は心の中で1人思う。


「親父みてーになってたまっか!こっちが食わなきゃ食われて終わる!ガキの頃から散々叩き込まれてんだ!この眼にしっかりと刻まれてんだよ!」


 決勝の相手は韓国。しかし「ニホンオオカミJr」の群れに為す術もなく、5-0で日本が優勝。勝利者インタビューで龍永がリポーター、日本サポーター、視聴者に吠える。


「俺達ニホンオオカミJrの群れが欲しいのは唯一つ!金メダルだけだ!おい!日本にいる家に閉じこもった連中は全員俺達に付いてこい!俺達が開放してやる!勇気をくれてやる!俺達と来る奴は全員狼だ!俺達今大会のオリンピック日本代表は全員ニホンオオカミJrだ!」


視聴者は「何言ってんだ?こいつ。」と思っている人間も多く、SNSもこの発言に大いに荒れたが、この半年後、龍永率いる日本代表は、その恐るべき強さを世界に知らしめることになる。龍永にとって五輪は、父、敬助を超えなければいけない最大の壁となっているのだから。


五輪編ですが、対戦相手は想像で決めました。

このメンバーも個人的に選んだメンツです。

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