よ:よそ見をしても許される人、よそ見をしたら許されない人
笑顔は人を欺く。こいつがその代表。
いつでも笑っている。人好きのする笑顔。
まあ中身は悪い奴じゃない。相当にしたたかではあるけど。
女からすると、母性本能をくすぐられるらしい。『人懐こい犬みたいで可愛い』、いつでもそんな評価をされている。
「純は無愛想過ぎるんだよ」
そう言われたって、俺はこいつみたいには笑えない。
お前みたいな、二重のはっきりしたくりくりした目だったなら。お前みたいな、明るく話し掛けやすい雰囲気だったなら。お前みたいに、程よい背丈だったなら。お前みたいに、すらすら言いたい事が浮かぶんなら。
そんな事を僻んでも仕方がない。
友人として、こいつと居るのは快適。女が絡まなければ、こいつは実にさっぱりした、友達思いのよく気が付くいい奴だ。
女絡みの事件をこちらに飛び火させなければ、の注釈付きで。
二股三股四股はこいつには当たり前。
「だって向こうが好きって言ってくれるの、断れないじゃん?……へえ、そう。純ってそうなの。薄情なんだ。意外と鬼畜。女の敵ー!」
いや違うだろ、と俺は思う。だけど俺が考えをまとめきる前に、間髪置かずにこいつは言うのだ。
「僕を好きになってくれた気持ちには、誠心誠意お応えしなきゃ。例えそれが同時期で、複数でもね。ありがたく相手の想いを全て余さず受け止めるのが男だよ、純」
歪んだ『男たるもの』を真剣に言い切るところが、こいつ・悠哉のすごいところだと俺は思う。
以前こいつは、デートの待ち合わせをダブルブッキングしてしまったらしい。A子とB子、どちらにも同じ時間の同じ場所を伝え、見事に二人が同時に現れた。
その時、こいつは取り乱しもせずに、笑顔で二人に話し掛けたと後にB子は俺に語った。
「二人共、来てくれてありがとう! 僕はA子ちゃんの気配りの利く優しさや元気をくれる笑顔、B子ちゃんの気持ちのこもった言葉や実直で誠実な表情が大好きなんだ。二人の良さは各々違う種類でどっちも頂点だから、どちらかなんて、とても僕には選べないよ。二人の事を、僕はこれ以上ない位に愛してる。だから二人にも仲良くなってもらいたいって考えたんだ。そう言うのって、おかしいのかなあ……」
その時そう言われて、うなだれた犬みたいなこいつがますます可愛く思えて、二人は共にこいつを許したらしい。恐るべし、母性本能くすぐり野郎。
……考えを遡ってみれば、何だか俺に対してだって、こいつが見上げる目で『お願い』的な事を口にしたりする事は多いかも知れない。大抵俺は無意識に承諾したり頷いたりしてる、みたいなんだけど。
単に身長差のせいだと思っていたけど。自分の可愛い容姿を知っての『悠哉マジック』に、知らず知らず俺も引っ掛かっているのかも知れない。
……それにしたって、可愛いって得だ。
ただうとうとしてるだけで、写メ撮っちゃえ、なんてきゃあきゃあ言いながら女の子達が集まってくる。こいつの無類の女好きを知っていながら、「それでも悠哉くんと付き合いたいの」と女の子達は言う。
もし俺が二股なんかした日には、「最低……」とか本気で引かれるだろう。「あいつ? あいつ好きなの!? 絶対止めな、すっごい泣かされる事になるよ!! だってあいつ、あいつのくせに二股なんかしやがったんだよ!」、きっとそう言われる。ああ、間違いなくそう言われて嫌悪される。
俺だって好きな子位見付けたい。手を繋いで歩きたいし、ふわっとした髪の毛を撫でたりもしたい。願わくば、キス位、いい加減にもう経験したい。
「はいはいしょうがないなあ、僕で我慢しなさい」なんて言いつつ俺にもたれてくる、こいつの空しい同情なんて嫌だ。だってその冗談を冗談に取らない女の子達に、俺は手酷く睨まれるから。
こいつと居る限り、俺に明るく楽しい男女交際の未来はないな、と俺は溜め息をつくのだった。




