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英雄の孫は今日も最強  作者: まーびん


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8/19

第8話  カテリーナの気持ち

毎週金曜更新の予定……です……多分。

「なんであのこがここに……」


 ある日、俺は祖父ちゃんと一緒にターセル男爵領の冒険者ギルドに来て、クエストボード前の集団を見てピタリと動きを止めた。

 そこにいたのは、魔法使いっぽいおしゃれなローブに身を包み、5歳児の身長にしては長い杖を携えたカテリーナだった。


「あら、ロイ。奇遇ね」


 カテリーナは、どこか勝ち誇ったような笑みを浮かべ、腰に手を当てる。

 カテリーナの周りを取り囲む3人の屈強な大人たちは、格好からしてどこかの冒険者パーティのようだ。

 そして、困り果てたように俺と祖父ちゃんに歩み寄ってきたのは、ガストール祖父ちゃんの部下の、ヘレス師団長とか言う人だ。


「ルードルフ様、どうなっているんですか⁉」


 ヘレス師団長は、チラチラとカテリーナの方を盗み見しながら、事情を説明してくれた。


「国王陛下から、王女様が突然冒険者登録をしたと言われて、しかもその活動場所がこのターセル男爵領だっていうじゃないですか。自分も冒険者登録を済ませてることを嗅ぎ付けられて、これ幸いとお世話を申し渡されたんですよ!」

「む?」


 祖父ちゃんは俺を見て頷く。


「先日のロイの活躍に感化されたのかもしれぬな。ロイと友達になりたいのではないか?」


 そんな祖父ちゃんの言葉を聞いていたようで、カテリーナはつかつかと歩み寄ってくる。


「いいえ、英雄様。私は別に、友達になどなりたいわけではありませんわ!」


 カテリーナは俺を指さし、宣言する。


「私はロイのライバルですの! ロイよりもすごい冒険者になって、あっと言わせて見せますわ!」

「ほう」


 祖父ちゃんは興味をそそられたようで、顎をさすりながら俺とカテリーナを見比べている。

 だが俺には、面倒な、という感想しか湧いてこない。

 カテリーナは冒険者を野蛮だとか言っていたくせに、どういう心境の変化だよ。


「私はこの『黒狼師団』と一緒に、Aランクのクエストに行くのよ! うらやましいでしょう! さぁ、ヘレス師団長、冒険に行くわよ!」


 俺と同じくまだ仮登録のカテリーナは、Fランクのクエストか、パーティメンバーのランクに合わせたクエストにしか行けない。

 だから、わざわざ高ランクパーティを仲間に引き込んだようだ。

 ずいぶんと金がかかったのではないかと思う。

 俺を見返すためだけにそこまでするのには、ちょっと呆れてしまうが。


 部外者だけに王女を任せるわけにはいかないと、とばっちりで王家に巻き込まれたヘレス師団長は、見るからにしょぼくれてカテリーナ達の後について出ていく。


「英雄様に、王女様に……この冒険者ギルドはどうなっているんだ……」


 部屋の奥から、ギルドマスターの深い深いため息が聞こえた。



 俺の安息の冒険者ギルドは、にわかに騒がしくなってしまった。

 翌日は、セクトたち『灼熱の赤獅子』もこのギルドにやってきていて、俺に色々と情報を教えてくれる。


「『黒狼師団』と言えば、モルグーネの王都でも有数のパーティっすよ」


 セクト達は、同業の冒険者たちの情報には詳しいらしく、王都で聞いた噂を話す。


「入団条件はAランク冒険者であること。人数は20人前後の、大規模パーティっすね」


 ニールもセクトに頷き、続ける。


「人数が多いので、大物の討伐も安定してこなす、王家の覚えもめでたい冒険者パーティらしいです。魔物討伐、要人警護など、いろんな仕事をこなしていますね。半分、王家のお抱えと言った所です」

「へぇぇ」


 それじゃあ、俺の理想の冒険者像とは違うな。

 俺は王家関連のしがらみなんて抱えたくないし、我が道を行く自由でアウトローな冒険者を目指しているのだから。


「しかしあのお姫様、やけに兄貴に突っかかってましたね?」


 セクトは、この日もカテリーナに絡まれていた俺に、興味津々の様子で尋ねてくる。

 俺がかいつまんで事情を説明し顔をしかめていると、ニールが苦笑いした。


「王女様との婚約って……、下手をしたら、ロイ君が王様になってしまう所だったかもしれませんね」

「ぜったいやだ」


 俺は顔の前でバツを作り、拒否する。


「おうさまになったら、ぼうけんしゃできないでしょ!」

「うむ、やめておくのがよいぞ。あのような面倒臭い立場は」


 祖父ちゃんも、貴族としては結構失礼なことを言い、頷いている。


「しかし、ロイのライバルとは大きく出たものだ。感心したぞ。切磋琢磨できる相手がいるのは良い事だ!」


 祖父ちゃんは満足そうだが、ニールたちはもの言いたげに目を見交わせた。


「あのお姫様が冒険者になったのって、ライバルになりたいんじゃなくて、ロイ君を振り向かせたいんじゃ……?」


 何やらニール達がコソコソ言い合っているが、俺はあまり興味がないので聞き流す。

 そこに、声をかけてくる者がいた。


「ルードルフ様! お探しいたしました!」


 見れば、ターセル男爵家の使用人がこちらに近づいて来る。


「男爵様がお呼びです。王都から手紙が届いたそうで」

「まったく、せわしない連中よ」


 祖父ちゃんは不機嫌そうに顔をしかめて、問うように俺を振り返った。 


「ロイ、どうする?」


 祖父ちゃんがいないと、俺はFランクのクエストしか受けられない。

 つまり、今日の所は一緒に帰るか、と聞いているのだろう。


「あ、だったら、俺たちと一緒にクエストに行くのはどうです?」


 そこで声を上げたのがセクトだ。


「臨時で俺らのパーティに入れば、兄貴をBランクのクエストに連れてくこともできますよ」

「びーらんく!」


 俺は目を輝かせ、祖父ちゃんを見上げた。

 まだ行ったことのない高ランククエストに、俺は興奮を抑えられない。


「じいじ、おれ、びーらんくのくえすとにいく!」

「しかしなぁ……」


 祖父ちゃんは渋面になり、セクトたちを眺める。


「兄貴のことはお任せください! 命に代えてもお守りいたします!」

「貴様らごときで守れるはずがなかろうが。ロイの足手まといになるだけだ」


 祖父ちゃんは一蹴し、俺を見る。

 俺はなんとか祖父ちゃんから許可をもぎ取ろうと、必死に弁明した。


「くろのもりにしかいかないから! ひがえりくえすとにする! ちゃんとゆうがたまでにはかえるから!」

「うむ……黒の森なら、まぁ良かろう。ロイにとっては庭のようなものだしな」

「「「えっ⁉」」」


 祖父ちゃんの許可に、セクトたちの顔が引きつる。


「いや、俺たちあそこで死にかけたんですが⁉」

「おれがいるからだいじょうぶだよ」


 俺はセクトたちを宥め、祖父ちゃんはくれぐれも気を付けるのだぞ、と言い残して、使用人と共に帰って行った。



【カテリーナ】


 私はロイに婚約の話を断られた後、お父様に直談判した。


「お父様! 私、冒険者になりますわ!」

「ブッ!」


 お父様は飲みかけの紅茶を吹き出して、カップをガチャリとテーブルに置いた。

 大人なのに、ずいぶんお行儀が悪いのね。


「カティ! ど、どうして冒険者になど⁉」

「それは当然、ロイを見返すためよ!」


 私は、練りに練った計画を話して聞かせる。


「私がすごい冒険者になれば、ロイは私を尊敬するでしょう? そしたら、ロイの方から婚約してって言ってくるはずよ!」

「う、うん、えぇと……」


 お父様は、何とも言えない顔で言葉を探している。

 私の素晴らしい思いつきが分からないのかしら。

 私が後ろに立っているおじ様を見上げると、おじ様は額に手を当て、小さくため息をついて説明を交代した。


「私たちがロイ君との婚約を勧めただろう? だから、ロイ君を振り向かせるのに協力をして欲しいそうだ」

「おじ様! 私は別にロイを振り向かせたいだなんて言ってないわ!」


 そんな言い方、まるで私がロイを大好きみたいじゃない。

 私はしっかりとくぎを刺しておく。


「私がすごい冒険者になれば、ロイの方が勝手に私を好きになるはずだって言ってるだけよ!」

「……そう言うことにしておこう」


 おじ様は小さく両手を上げて降参し、お父様は疲れたように顔を拭う。


「カティ、冒険者は危険なんだよ。ロイ君のようにはいかないよ?」

「あら、ロイには英雄様がついているんだもの。私にも、護衛がいたっていいと思うわ」


 確かにロイは強いけど、私だってその内負けないぐらい強くなって見せる。

 だから、最初だけは大人のサポートがあったっていいはずだ。


「お母様にも、許可は取ってあるもの。「やると決めたら全力で取り組みなさい」って、応援して下さったの」

「あぁ、いかにも言いそうだ……」


 私がお母様の真似をして話すと、お父様はお母様の顔を想像して頭を抱える。


「カティの決意は固いようだし、勝手に暴走して冒険者活動を始められるより、しっかりと根回しをしてからの方が安心だろう」


 おじ様がちょっと失礼な物言いをしているけど、私を擁護しているので許してあげることにする。

 お父様は、ようやく俯いていた顔を上げ、私を見た。


「わかった。カティ、十分気を付けるんだよ。大人たちの言うことをちゃんと聞いて、勝手なことはしないように」

「はい、約束しますわ、お父様」


 私がいい子で答えると、お父様は疲れたように少し笑った。


「しかし……男の子と仲良くなろうとする努力を、男親としては応援すればいいのか、悲しめばいいのか……」


 全力で応援すればいいと思うわ。

 私はすんと澄ました笑顔で、お上品に紅茶に手を伸ばした。



【ロイ】


 セクト達『灼熱の赤獅子』と共に黒の森に来た俺は、Bランククエストの紙をニマニマと眺める。

 討伐対象はレッドオークという、そこそこの魔物だ。

 

「こうらんくくえすとだ……!」


 Sランクのクエストが特高ランク、A~Bランクのクエストが高ランク、C~Dランクのクエストが中ランク、E~Fランクのクエストが低ランクのクエストに分類される。

 つまり、俺は中ランクを飛び越して、一気に高ランククエストに足を踏み入れたわけだ。

 祖父ちゃんと来れなかったのは残念だけど、初めての高ランククエストにワクワクしないわけがない。


 別に、カテリーナがAランクのクエストに先に行ってしまったのが悔しかったとか、そう言うわけではないのだ。

 決して。


 俺はカテリーナの事は気にせずに、いつものように冒険者活動に勤しむことにした。

 なのに……。


「なんでいるの?」


 俺は不機嫌さから半目になって、カテリーナ達一行を睨む。


「あら。黒の森に入る許可は、ギルドマスターから出ているわよ?」


 カテリーナは俺の前に進み出て、得意げに腰に手を当て胸を張る。


「それに、Aランクの魔物討伐クエストって、この領地じゃ黒の森しかないでしょう?」

「それは……そうだけど……」


 俺が悔しそうに認めると、カテリーナはフフン、と気取って鼻を鳴らした。


「それよりも、英雄様はどうしたの? 見慣れない冒険者を連れてるけど」


 カテリーナの怪訝そうな視線に、セクトたちは一応自己紹介をする。


「ほう、お前たちが灼熱の赤獅子か。噂は聞いたことがある」

「若手の有望株らしいな」


 カテリーナの後ろの屈強な冒険者たちが言うと、セクトたちは慣れた様子で頷いた。


「まぁな。黒狼師団の話も聞いてるぜ。王家のお気に入りだってな」

「フン……」


 同業者同士、探るような視線を向け合う二組に、俺は感心する。

 いかにも一人前の冒険者っぽい。

 

「かっこいい……!」

「お、ほんとですか、兄貴! 照れるなぁ!」


 セクトは頭をかき、すぐに締まりのない顔に戻る。

 台無しだ。


「そこの君」

「?」


 黒狼師団の一人が俺に話しかけてきて、俺は視線を向ける。


「ロイ・ターセルだな。話は聞いている」


 何の話だ? と俺が首を傾げると、隣の男が続けた。


「我々は、王家から君の情報を秘匿するよう命を受けている。だから、この場にいる者に力を隠す必要はないぞ」

「ふぅん」


 別に力を隠すつもりなどなかった俺は、適当に答える。

 しかし、王家は、俺の実力が部外者に漏れることを懸念しているようだ。


「お喋りはこの辺にして、さっさと依頼に行きましょう、兄貴」


 セクトは空を見上げながら俺を促す。

 夕方までに俺を帰さないと、祖父ちゃんから雷が落ちるからだろう。

 俺たちは、レッドオークを探して森の奥へと歩き出した。



「……ねぇ、なんでついてくるの?」


 俺は振り返らずに、後ろのカテリーナ達一行に尋ねる。

 答えるのは、ヘレス師団長だ。


「いやいや、ついて行ってるわけじゃなくてね? 自分たちもこの奥にいる魔物を探してるんだよ。ほら、この黒の森って、歩ける場所が少ないからさ」


 確かに、この黒の森はほとんど人間が分け入っていない手付かずの自然だ。

 だから、俺たちが先を行くこの獣道ぐらいしか歩きようがないのは分かる。

 分かるが、ずっと後をついてこられるのはストレスなのだが。


「なんのくえすとをうけたの?」

「イビルディアだよ。黒い毛皮の鹿みたいな奴さ。ロイ君知ってる?」

「うん。それ、もっとみなみにいるよ」


 この間出た、ミラージュフロッグと大体同じ生息地にいる。

 そう言うと、カテリーナは眉を顰めた。

 襲われた時の事を思い出したらしい。


「しかし、イビルディアがAランクとは。本来ならBランクの魔物だが」


 黒狼師団の男が、依頼の紙をポケットから取り出す。

 セクトはやれやれと言うように首を横に振った。


「黒の森は、魔物が皆巨大化するんだ。ゴブリンがオーク、エルダーボアがドラゴンに相当すると思った方がいいぜ」


 そんなことも知らないのか、と、セクトがマウントを取っている。

 この間まで、自分だって知らなかったのに。

 しかし、ニールもオルガも、セクトに同調するようにうんうんと頷いている。


「とにかく、勝てないと思ったら、すぐに逃げた方がいいですよ。ここの魔物は異常ですから」

「そうそう。それでもどうしようもなくなったら」


 セクトたち3人は、じっと俺を見る。


「兄貴に助けを求める事だな」

「……お前達、恥ずかしくないのか?」


 幼児に助けを求めろ、と言うセクトたちを、黒狼師団は呆れたように眺める。

 しかしセクトたちは、分かってないな、と反対に首を振って呆れるのだった。



「……あれ?」


 しばらく進み、俺はピタリと足を止める。


「おっと。兄貴、どうしたんです?」


 セクトは、しゃがむ俺に合わせて身をかがめる。

 俺は地面の跡を指さし、バルガを見上げた。


「このあしあと」

「……イビルディアのようだな」


 バルガは土に指をつけ、状態を調べながら考察する。


「土の乾き具合からして、通ったのは直近のようだ。しかも、足跡が荒れている。かなり駆け足だったようだな」

「う~ん……」


 魔物の生息域が変わっている?

 黒の森に、何か異変が起こっているのだろうか。


 カテリーナ達一行は、その足跡を追うつもりらしい。

 どうにも気になった俺は、「今度はそっちがついて来るのね」なんてカテリーナにからかわれながら、ターセル男爵家の一関係者としてそれに同行することにした。


 果たして、イビルディアはその先にいた。

 よりにもよって、俺たちが探しているレッドオークの群れと激しく戦っていたのだ。


『ブオオオォォォ‼』

『『『ブギイイィィ‼』』』


 と、雄たけびを上げながらぶつかる大型の魔物たちに、カテリーナは委縮する。

 イビルディアはヘラのような巨大な角で、レッドオークたちを薙ぎ払って、前足で踏みつける。

 骨の砕ける嫌な音がして、カテリーナは口を覆った。


「何だ、あのデカさは……‼」


 通常の倍以上あるイビルディアに、黒狼師団は緊張をみなぎらせる。

 大きさだけでなく、この黒の森の個体って、戦闘能力も数倍高いんだよな。

 あと、本来は割と臆病なはずのイビルディアが、やけに興奮して好戦的になってる。

 やっぱり、何かおかしい気がする。


「おい、姫を守りながら3人でやれるのか⁉」

「く……大人しいイビルディアなら、姫を守りながらでも討伐できると思ったが……これは無理だな。撤退するぞ」


 黒狼師団は、どうやら危険を冒してまでクエストに固執する気はないようで、撤収を決める。

 うんうん、命あっての物種だし、正しい判断だ。

 さすがAランク冒険者。


 と俺が感心していると、カテリーナが不満の声を上げた。


「ダメよ!」


 カテリーナは一瞬俺を見て、黒狼師団に視線を戻す。


「クエスト失敗なんて認めないわ! 戦うわよ!」

「カテリーナ様、それは無茶ですよ」


 ヘレス師団長はカテリーナを諫める。


「冒険者だけで挑むならまだしも、カテリーナ様がいては足手まといになります」


 正論だ。

 ヘレス師団長、普段は情けない態度を見せているが、いざという時は身分差があってもはっきり意見を言えるタイプらしい。


 しかし、カテリーナはまた俺を見て、グッと息をつめる。

 何でいちいち俺を見るんだ……。


「私が足手まといじゃないってことを見せてあげるわよ!」


 何故か俺にそう言い捨てて、カテリーナは草むらを飛び出していく。


「ちょっと⁉ カテリーナ様⁉」

「姫!」


 ヘレス師団長と黒狼師団もそれに続くが、イビルディアはすでにカテリーナに目を付けてしまっている。


『ブオオオォォォ‼』


 前足を上げて威圧するイビルディアに、カテリーナは震えながら長杖を構えた。


「ほ、焔よ! わが剣げきとなりて敵をつらぬき爆ぜよ! 『エクスプロージョン』‼」


 カテリーナの魔法詠唱は、威力が抑えめになる短縮詠唱だ。

 それでも、結構高威力の中級魔法『エクスプロージョン』だから、相手には傷を負わせられるだろう。

 しかし、カテリーナの杖先に集まった魔力は、不安定に明滅する。


「まずい! 制御できてない‼」


 真っ先に叫んだのは、魔法師団所属のヘレス師団長だ。

 黒狼師団も、その声に反応し、カテリーナの傍に駆け寄る。


「暴発するぞ!」

「姫を後ろに……!」


 しかし、ギュッと一回収縮した赤黒い魔力は、次の瞬間カテリーナの頭上で爆発に向かう。

 黒狼師団たちはとっさに、カテリーナを庇うように肉の楯になる。


「しょうがないな」


 俺はため息をつき、片手をかざした。


「『しーるど』」


 ドン‼


 と爆音が響き、地面が揺れる。


「あ、兄貴っ⁉」

「お姫様たちは⁉」


 土埃と煙に巻かれ、辺りの様子が一瞬見えなくなるが、俺はブンと手を振ってさっさと煙を払う。

 煙の中から現れたのは、俺のシールドで守られた黒狼師団と間にいるカテリーナだった。

 ヘレス師団長は、自分の力でシールドを張っていて無事だ。


「だいじょうぶ? けがは?」


 俺が尋ねても、黒狼師団は言葉もないみたいで、ただ首を横に振っている。

 大丈夫ってことだよな?


 俺は、ひきつった笑顔で俺を見つめるヘレス師団長に近づき、手を差し出した。


「それかして?」

「え……?」


『ブオオオオォォ‼』

『『『ブギイイィィィ‼』』』


 すぐ近くで怒声が響き、ヘレス師団長達はハッとする。

 魔物と交戦中ってことを一瞬忘れてたな、この人たち。


 魔物たちは、さっきの爆発の原因である人間を共通の敵と認めたようで、一斉にこちらを威嚇してくる。

 俺はヘレス師団長の手から短杖をさっさと奪い、杖を掲げて魔力を込める。


「『すいじん』」


 複数の水の刃が、掲げた短杖から真っすぐに魔物に向かって飛んでいく。

 首や腹を両断され、魔物たちはあっけなくドサドサと地面に崩れ落ちた。

 もちろん、イビルディアもだ。


 辺りが血の海になって、俺は血で汚れないように足元に気を付けながら、ヘレス師団長の所へ行って短杖を差し出す。


「はい、かえす」

「あ……うん、ありがとう……」


 ヘレス師団長はまだ呆然と辺りを見回し、尋ねる。


「こ、この魔法は何だい……? ロイ君」

「おれの、おりじなるまほうだよ」

「あ、あぁ……そう……、3歳で魔法作っちゃうんだね……」


 ヘレス師団長は遠い目をして、ははは、と乾いた声で笑っていた。


「さすが兄貴っす!」

「一瞬でこんな数の魔物を倒すなんて!」


 セクトたちは俺に駆け寄り、取り囲む。

 しかし、その歓喜の声の合間に、押し殺した嗚咽が聞こえてきた。


「う……うく……うぅぅ……‼」


 俺は黒狼師団の間にいるカテリーナを振り向く。

 カテリーナは泣き出すのを必死にこらえるように、目に大粒の涙を溜めていた。

 周りの大人たちもどうしていいか分からないようで、顔を見合わせている。


「……ぇばいいじゃない……!」

「え?」


 聞き取れなかった俺が首を傾げると、カテリーナはキッと俺を睨んで叫んだ。


「足手まといだって言えばいいじゃない!」


 そして、ボロボロ涙をこぼしながら、大声を上げて泣き始める。


「ろ、ロイにっ! み、認めてもらいたかったっ! のにっ! うまくっ、まほうっ! つ、つかえなか……っ! うわぁぁぁんっ!」


 泣きながら必死に訴えている内容によると、俺からしたらビックリなのだが、どうやらカテリーナは俺と仲良くなりたかったという事だった。

 あんなにつんけんされて、絡まれていたのにだ。

 う~ん、女心って複雑。


 でも、実を言うと、俺はこの一件でカテリーナをちょっと見直してる。


 俺は唯一ハンカチを持っていそうなニールからハンカチを借りて、カテリーナに差し出す。

 3歳児の俺がハンカチなんて持ってるわけはない。


 カテリーナは、俺が差し出したハンカチを見て、一瞬泣くのをやめて目を丸くする。

 俺は隙を逃さず声をかけた。


「たしかに、あしでまといだった」


「「「おい!」」」


 大人たちから総突っ込みが入るが、俺は気にしない。

 カテリーナがまた泣きそうに顔を歪めるが、俺はさらに言葉を続ける。


「でも、さいのうあるとおもう」

「……グス……本当?」


 カテリーナは俺の言葉に興味を引かれたようで、鼻をすすりながら続きを待っている。


「5さいで『えくすぷろーじょん』つかえるの、すごいよね?」


 俺はヘレス師団長を振り返り、確認する。

 ヘレス師団長は、慌てて深く頷いた。


「えぇ、すごいですよ! それはもう! 普通は魔法学園中学年で習いますから! 暴発はしましたが、発動できたのだって、魔力量がそれに達してるって証拠です!」

「……でも、ロイはもっとすごい魔法使えるじゃない……」


 カテリーナが拗ねるが、ヘレス師団長が俺を指さして失礼なことを言う。


「こんな規格外と比べちゃいけません! カテリーナ様は十分、いや、十二分に天才ですよ‼」

「……ロイもそう思う?」


 上目遣いに俺を見るカテリーナに、俺も頷いて見せる。


「さいのうはある。でも、つかいかたがだめ。だから、べんきょうすればいい」


 冒険者としての振る舞いや、戦闘における心構えがなってない。

 しかし、5歳でそれらを完璧にこなせっていう方が無茶だし、それらは努力すれば後付けで身に着けられるものだ。

 そもそも、あんな巨大な魔物相手に逃げずに立ち向かったっていう点だけでも、そこらの大人より度胸があると思う。

 という趣旨の事を俺が説明すると、カテリーナの目に光が戻る。


「そ……そうよね……! 私、べんきょう得意だもの! 魔法の先生だって、私は天才だって褒めてくれたし……! これからがんばればいいのよね……!」


 調子を取り戻し始めたカテリーナに、俺もホッとする。

 泣いてる子供をあやしたのなんて、前世も含めて初めての事だったし。


 この後、泣き疲れてぐったりしていたカテリーナは、黒狼師団の一人に負われて帰ることになった。

 レッドオーク、イビルディアの討伐証明部位は、黒狼師団とセクトたちに持ってもらって、俺は護衛として手ぶらで帰る。


 冒険者ギルドから屋敷までセクトたちが送ってくれた頃には、もう夕日が沈みかけていたが、祖父ちゃんは怒ることはせず静かに俺を迎え入れてくれた。

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