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英雄の孫は今日も最強  作者: まーびん


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第3話  トリスタニアの裏切り

毎週金曜更新の予定です……多分。

 それから1週間後に、祖父ちゃんは白竜に乗って北の地へと旅立ってしまった。

 これから兵士をビシバシ鍛えたり、軍備を整えたりするんだろう。

 

 俺はというと、一緒に遊び歩いてくれる祖父ちゃんがいなくなって、鬱々と毎日を過ごしている。

 母上から、屋敷の周りぐらいしか出歩く許可が出ないので、俺の世界は一気に狭くなってしまったのだ。


 そんな行き場のない俺の足は無意識に、祖父ちゃんが帰ってくるときに白竜を出迎えるあの小高い丘に向かってしまう。

 そこで俺は草をむしったり、小石を投げたりして無為に時間を過ごすのだ。

 そうして時間を潰しながら、俺はある事を思い出し、ちょっと青ざめたりもしていた。


(あれ? あの時の会話、何かフラグっぽくなかった⁉)


 戦場で、「無事に帰れたらあの娘と結婚するんだ」って言うぐらい、不用意な会話だったような気がする。


 なんていうのは、まぁ半分冗談なんだけど……。

 でも、そんなつまらないことを考えてしまうぐらい、俺は祖父ちゃんの安否が気になってそわそわしていたのだ。



 それから一月がたち、朝晩の冷え込みが厳しくなりつつある、冬の入り口の季節。

 ネヴィルディア帝国の奇襲を受け、モルグーネ王国は戦争へと突入した。

 襲撃を受けたのは、祖父ちゃんがいる北の戦線。

 しかし、大方の予想を裏切り、帝国の奇襲は王国の精鋭軍により一旦退けられたという。



【ルードルフ】


「ワシがおらぬ5年の間に、よくもこれだけ腑抜けたものよ」


 ワシは、指揮官が座る椅子の背にもたれ、腕を組む。


 兵の基礎鍛錬がなっていないのはもちろん、軍の上層部からしてたるんでいる。

 退役前に常在戦場の心根を叩きこんだつもりだったのだが、まだ甘かったようだ。


「奇襲をしのいだ程度で油断するな。奇策が通じぬとなれば、帝国は力押しで来るぞ」


 元々、国力差に驕って戦争を仕掛けてきた相手だ。戦端が開かれた以上、物量で押し潰そうとするだろう。


「斥候兵からの連絡はまだか。何をしておる」

「はっ! 申し訳ありません! ただいま斥候の竜騎を新たに飛ばしておりますゆえ……」


 遅い。全ての動きが遅い。

 帝国相手に後手に回っているようでは勝てぬ。


「もうよい、ワシが出る」


 ワシが立ち上がると、王弟オレリアス他、ワシの部隊の者が続く。

 作戦本部の天幕を出しなに、ワシは号令をかけた。


「今より、帝国の本陣を攻める!」

「し、しかし……! 我等だけでですか⁉」


 オレリアスの部下が情けない声を出す。

 それをオレリアスが諫めた。


「こちらにはルードルフ様がおられる。勝機はある」


オレリアスはワシを見て、ニッと笑った。


「我が国に英雄ありという事を、帝国に見せつけてやりましょう」

「……」


 どこまでもワシ頼みか。

 ワシは苦々しい思いを隠し、一つ頷くにとどめた。



 ワシが斥候を飛ばしたのは、敵陣の内情を探らせるため。

 しかし、戻ってきた斥候兵は8騎中5騎。

 それでも敵の本陣の大まかな位置は分かった。


 帝国はこれが勝ち戦だと信じて疑わぬ。それゆえに油断が生じる。

 それは、帝国の陣形が守りよりも攻めに重きを置いていることからも見て取れる。

 だが、それこそがこちらの勝機となり得る。


「これより敵大将の首を取る。魔法師団、援護せよ!」

「はっ!」


 魔法師団を二組に分け、一組は防御壁の突破、もう一組を援護に当たらせる。

 そして、陣形と防御壁が崩れたところを突き、太陽を背にしたワシの竜騎部隊で遥か上空から急襲する。

 ワシもかつての戦場で使ったことのある手であり、戦の勉強をした者ならば、想定し得る戦法。

 しかし、帝国に予想できぬ所が一つある。


 ワシが戦力に加わったゆえの、想定外の突破力だ。


「「「うおおおぉぉぉっ‼」」」


 ワシは自らの白竜ディアナに乗り、雷のように敵陣に迫る。


 魔法師団により防御壁は崩されていたが、さすがに敵兵も迎撃の構えを見せる。

 眼前には、敵の魔法師団が放つ火魔法が立ちふさがるが、ワシはそれを一閃で切り捨て、大本営へと降下する。

 ワシの後に続く部隊が雑魚を蹴散らす中、ワシは一直線に大将首めがけて竜を飛ばす。


 大将は、ワシと目が合った瞬間、まさか、という顔をした。

 昼日中、弱小と侮った王国軍に大本営まで突破されるなど、ついぞ考えなかったのであろう。

 だが、そんな後悔はもう遅い。


 ワシは竜の背に乗ったまま、すれ違いざまに容赦なく指揮官の首を刈り取る。

 血しぶきがかかる間もないほど高速で駆け抜け、ワシは自分の部隊を振り返った。

 今度は魔法師団の援護を受けながら、敵陣を突っ切って自陣営まで戻らねばならぬ。

 が、敵将を取った今、敵軍の統制は乱れている。


「できる限り、敵をかき乱して戻るぞ!」

「「「おぉー‼」」」


 ワシは魔法で強化した膂力に物を言わせ、目についた兵を片っ端から血祭りに上げながら、自陣へと竜を走らせる。


「こ、これが『紅の英雄』……!」


 オレリアスの部下の一人が、返り血に染まるワシと竜を見てつぶやいた。



【ロイ】


「じいじ、だいじょうぶかな……」


 俺は、何度目になるか分からないため息をつき、山の上の空を見上げた。


 今すぐ、祖父ちゃんがひょっこり帰ってきてくれないかな。

 それで戦争なんて忘れて、いつもみたいに遊んでくれればいいのに。

 俺がそんなことを考えていた時、俺が見ていたのとは違う方向の空から、風を切る音が聞こえた。


「?」


 俺がそちらを見ると、竜騎がこちらに向かってきていた。

 それも、かなり速い速度だ。


「ははうえ、あれみて!」


 俺が洗濯物を干していた母上に報告すると、母上は険しい顔をして父上を呼びに行く。

 屋敷から父上が飛び出して来るのと、竜騎が屋敷の前に着陸したのがほぼ同時だった。


「何があった?」


 父上は厳しい声音で尋ねる。

 何故なら、その竜騎はターセル男爵領の私兵のもので、本来なら屋敷に乗り付けてまで伝令を運ぶ者ではないからだ。つまり、よほど火急の用があるという事だ。

 伝令は興奮と緊張で震えながら、叫ぶように報告する。


「ターセル男爵領西、トリスタニア王国より、宣戦布告の書状が届きました!」

「な……に……?」


 父上は、想定外の報告に、殴られたように立ち尽くす。


 トリスタニア王国はこのモルグーネ王国の西に位置し、北の帝国とも国境を同じくしている。

 モルグーネ王国内で南西に位置するこのターセル男爵領のお隣さんでもある訳なのだが、ウチの王国とトリスタニア王国は、対帝国を掲げる同盟国だったはず。

 それなのに、宣戦布告?


 俺が目をぱちぱちさせて様子を窺っていると、父上はようやく正気を取り戻し、伝令に詰め寄る。


「その書状は!」

「ここに!」


 伝令が差し出した書状をひったくるようにして、父上は急いで中身に目を通す。


「馬鹿な……‼」


 読むなりそう吐き捨て、書状を地面に叩きつけそうな父上に、今度は母上がそれをひったくる。


「何ですって⁉ トリスタニアで謀反⁉ 首謀者が帝国と手を組んで、モルグーネ王国を侵略しにきたというのですか‼」


 つまり、漏れ聞いた情報から推測すると、トリスタニア王国でクーデターがあり、今の王室とは別に帝国寄りの為政者が立って、このモルグーネ王国を侵略してきたという訳か。

 で、その矢面に立たされているのが、このターセル男爵領というわけだ。


「父上の不在を狙ったのか……‼」


 父上の父上、俺の祖父ちゃんが戦争に行っている間に、この男爵領を狙ったわけだな。


「どうなさいますの」


 母上は、決意を促すように父上を見つめる。


「当然、打って出る! 同盟を破棄して後ろから刺すような輩に、敗けるわけにはいかないからな!」


 父上は伝令に全軍を招集するように伝えて、自分も竜の準備に向かった。


「ロイ、貴方は私と一緒に来なさい」


 母上は俺を抱き上げて屋敷に入るが、俺の心の中では何をどうするべきかはもう決まっていた。



【ルードルフ】


 敵の包囲を突破し、無事に自陣営に帰還したワシは、安堵の表情を浮かべる部下たちを眺めながら、遅い昼食を取っていた。


 油断はしないでもらいたいものだが、気を張りすぎても持たぬ。

 敵も将を入れ替え陣形を整えるのに時間がかかるだろうから、今のうちに英気を養っておくのは悪い事ではない。

 そのようなことを考えていると、天幕に駆け寄ってくる荒々しい足音が聞こえた。

 何か非常事態が起こったようだ。


「竜騎による緊急伝令! トリスタニア王国が同盟を破棄し、ターセル男爵領へと侵攻を開始しました! 先陣は、あのドミニア将軍が率いる部隊です!」


 転がるように駆け込んできた兵が、ワシとオレリアスを見ながら叫ぶ。


「馬鹿な⁉ 同盟破棄だと⁉」


 オレリアスは椅子を蹴立てて立ち上がり、怒鳴り返した。

 見るからに頭が真っ白になっておるようだ。

 ワシは、顎髭を撫でながら思案する。

 あの王家は昔から我が国と仲が良かったはずだが、なぜそのような暴挙に出たのか。


「おそらく、帝国に唆されたのであろうな。王家は無事か?」

「いえ、謀反により、ドミニア将軍が王位についたと……」

「ほう」


 やはり謀反があったか。その謀反の首謀者が、ターセル男爵領に進軍してきている訳か。


「『英雄ルードルフが不在の隙なら、ターセルの地を奪える』とでも帝国に囁かれたか」

「愚かな……! 帝国の脅威には、各国が一丸となって立ち向かわねばならぬというのに……!」


 オレリアスは、白くなるほど拳をギリギリと握りしめている。

 他の兵たちにも動揺が広がり、口々に騒ぎ始めた。


「し、しかし……まさかドミニア将軍が自ら出てくるとは!」

「ドミニア将軍は、ルードルフ様に比肩するほどの実力と言われております! トリスタニアは本気でターセル男爵領を落とすつもりという事か……!」

「どうされるのですか、ルードルフ様! 今すぐターセル男爵領に戻られ……」


「よい」


 最後まで言わせず、ワシは片手を上げて制した。


「ワシはこのまま帝国を叩き潰すとしよう」

「「「⁉」」」

「し、しかし、ターセル男爵領は⁉ いかがなさるのです⁉」


 オレリアスは、身を乗り出すようにワシに問う。

 しかし、ワシはなぜオレリアスがそれほどまでに動揺するのか、見当がつかなかった。


「む? オレリアス、そなた一緒に聞いておったであろうが」

「は……?」


 本気で分からぬ様子のオレリアスに、ワシも呆れて首を傾げた。


「ワシは、ロイにターセル男爵領を任せると約束した。では、ロイが守るであろう」

「……は……?」


 まだ意味が分からぬ様子のオレリアスに、ワシは確認する。


「ドミニア将軍はワシ程度の実力なのであろう?」

「は、はい……そう言われておりますが……」

「ならば、何も心配はいらぬ」


 ワシは得意げに腕を組み、胸を張る。


「ワシのかわいい孫は、このワシよりも強いのでな!」


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