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英雄の孫は今日も最強  作者: まーびん


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第24話  スタンピードボス

毎週金曜更新の予定……です……多分。

「クソッ、とにかくロイを守れ!」


 ヴィンスは大剣を盾代わりに構え、俺を後ろに下がらせる。


「あの化け物を倒さねば、退路は開かぬという事だな!」


 騎士団長は、ヴィンスと同じく剣を構えて前に出る。


「ガレアスはロイ殿をお守りせよ! アロニア王国の賓客である!」

「はっ、騎士団長!」


 俺の前にはガレアスが剣を構えて立ち、その横をコルトがすり抜けて前に出る。


「私は弓で援護します!」


 しかし、全員が理解していた。

 身体強化を前提とした装備で、身体強化を失ったままあの化け物に敵うはずがないことを。


「ロイ様、何としてもロイ様だけは逃がします! ご安心を!」


 マリーカは、俺を後ろに庇い、ぶつぶつと詠唱を呟いて何度も魔法発動を試しているようだった。


 俺は、ようやく少し冷静さを取り戻し、パン、と思いっきり両手で頬を叩く。

 呆けている場合じゃなかった。

 何とか状況を打開しなくては。


 かといって、魔法や身体強化無しであいつには絶対に勝てない。

 では、俺が考察するべきは、魔法無効化をどう破るかだ。


 俺は、魔力の流れが見える、という特技を利用し、魔法発動をくり返すマリーカの様子を観察する。

 すると、魔力を体外で魔法として形作ろうとする途端に、ノイズのように黒い靄に妨害されていることが分かった。


 次に、俺は自分の手に身体強化魔法をかけようとして、観察してみる。

 すると、何か黒い靄のようなものが俺の魔力に干渉し、打ち消されていることが分かった。

 この靄、邪魔だな。


 俺は、新しい魔法を作る時のように、自分の魔力をこねながら、靄を打ち消すか弾き出す調合を探る。

 今回は、治癒や浄化に特化した、光魔法を使ってみている。

 すると、体内から光魔法の膜のようなものを作り出し、靄の干渉を弾き出すことに成功する。


「これでしんたいきょうかができる!」


 俺が歓声を上げた瞬間、ゴッと言う鈍い音と共に、ヴィンスと騎士団長が弾き飛ばされて壁に激突した。


「ぐあっ⁉」

「かはっ‼」


「ヴィンス!」

「お祖父様!」

 

「このっ……!」


 コルトは合成獣をけん制しようと矢を放つが、身体強化もない今、硬い鱗に傷一つ負わせられない。

 俺はヴィンスと騎士団長が自力で身動きしているのを視界の端で確認すると、合成獣の前に進み出た。


「よくもやったな」


 魔法無効化とか、ふざけた技使いやがって。


「こんどはこっちのばんだ!」


 俺は全身に光魔法の膜を張り、身体強化を最大にする。


「ロイ様⁉」


 俺は、一瞬で合成獣の下に潜ると、全力で腹に拳を突き上げた。


『グガァッ‼』


 合成獣は胃液をまき散らしてよろめいたが、すぐに俺を踏みつけにかかる。

 が、俺は瞬時に左に飛び、合成獣の足を蹴りつける。


 ゴキッ、と音がして合成獣の足がひしゃげたが、合成獣は俺の動きに即座に反応し、ドラゴンの大口を開けて俺にかぶりつこうとした。

 俺はそれを大きくバク転してかわし、壁を蹴って合成獣の横っ腹を蹴りつける。


 大きくよろめいて倒れるかに見えた合成獣だったが、尾をしならせ、俺の身体に鞭のように叩き付けて来た。

 俺は何とか腕でガードをしたが、衝撃が突き抜けてきて、俺は壁までフッ飛ばされる。

 クッソ痛い!

 俺は即座に自分に回復魔法をかける。


『グオオオォォォォッ‼』


 俺の善戦に怒り狂ったように、合成獣はまた咆哮を上げた。

 俺は、また魔法無効化の効果が強烈に襲ってきたのを見て、咆哮がそのトリガーになっていることを理解した。

 が、それももはや俺には効かない。 


「むだだ!」


 俺の余裕の表情に、合成獣は攻め方を変えることにしたらしい。


「あれは……!」


 ドラゴンの口に、魔力球が形成される。

 ブレスの準備段階か?

 それにしても、何だ、あの属性⁉

 見たことがないぞ⁉


 何にしても放っておくのは不味い。

 俺は、少し焦りを覚えながら、合成獣に向かって走る。

 手痛い一撃を入れれば、キャンセルできるかもしれない。


 しかし、当然合成獣もこの隙は警戒していたようで、今まで沈黙していたフェンリルの頭が俺に風魔法を放って近づけないように妨害してくる。

 クソッ、何であいつは魔法が撃てるんだよ!

 卑怯だぞ!

 いつもみたいに俺も魔法キャンセルが使えたらいいのに!


 と考えて、俺はハッと気づく。

 俺の魔法キャンセルの方法と、この黒い靄って、同じ原理なんじゃないかと。


 俺の魔法キャンセルは、空間に俺の魔力を放出しておいて、その空間内での他人の魔法発動が行われる時に、俺の魔力を要所に割り込ませて妨害するというもの。

 つまり、今この空間には、あの合成獣の魔力が漂っていて、魔法発動を常に妨害されるから、俺たちは魔法が使えない。

 しかし、味方のレッサーフェンリルの魔法は妨害されないから、幾らでも魔法が使える。

 う~ん、ムカつく。


「だったら、おれのまりょくで、くうかんをうめればいい!」


 俺の体表を覆う光属性魔法の膜を、この部屋いっぱいまで広げてしまえば、俺は好きに魔法が使えるはず!

 俺は、すごい勢いで光魔法を体内で練り始める。

 黒い靄に押し込められるような圧力を感じながらも、俺はじわじわと光の膜を広げていく。


 魔力の押し合いのようになり、俺の額にうっすらと汗が浮かんだ。

 合成獣の魔力の圧力が半端じゃない。

 でも、俺の魔力が枯渇したわけでもないし、じわじわと俺の領域は広がり続けているのだ。

 均衡が崩れれば、一気に押し勝てる。


 部屋の半分まで俺の光の幕が押し返し、レッサーフェンリルの風魔法攻撃も、俺が支配する空間では無効化される。

 よし、勝てる!

 俺が気を抜いた瞬間、ドラゴンの口からブレスが放たれた。


『ゴオオオォォォッ‼』


 黒いブレスが真っすぐに俺に飛んできて、俺はそれをすかさず避ける。

 俺の領域に入った瞬間から、ブレスはかき消され続け、威力が弱まっているのだ。


 無駄撃ちだったな、と俺は口角を上げるが、そこにヴィンスの鋭い声が飛ぶ。


「ロイ、後ろだ!」

「⁉」


 俺が半分振り返った瞬間、弧を描いて俺を追ってきたブレスの残滓が俺に直撃する。

 いや、 ❝ 俺の背中の大事な卵 ❞ にだ‼


「あぁっ‼」


 俺の周囲は、さらに強力な光魔法の膜で包まれていたとはいえ、卵はブレスの直撃を受け、ひびが入ってしまった。

 俺の……俺の大事な卵に……ひびが……‼

 寝る時も、ご飯を食べる時も、冒険をする時も、大事に大事に育ててきた、俺だけの可愛い卵が……!


『お前だけは許さん……‼』


 ぶわっ、とろくに練られてもいない光魔法の洪水が部屋を押し包み、俺は力尽くで部屋の支配権をもぎ取る。

 魔力切れの心配など、もう念頭から消え失せている。

 俺の意識にあるのは、あの合成獣への制裁だけだ。


『俺の卵を傷つけやがって! その身で償わせてやる!』


 俺は、無意識に念話で、しかも日本語でブチ切れながら、合成獣に歩み寄る。


『ガアァァァッ‼』


 合成獣は、何やら魔法を放って俺を足止めしようとしているようだが、俺は悉くその魔法を妨害し、発動を許さない。

 そして、俺の方は風魔法で合成獣を切り刻みながら、一歩一歩と近づいて行く。


 俺が目の前に立った時には、合成獣は血まみれになっていたが、まだ俺に吠え掛かってくる気力があった。


『オオオォォォォォッ‼』

『黙って消えろ‼』


 俺は残った魔力を右手の魔石に集め、重複詠唱を重ね掛けし、一気に放つ。


『『『『『『雷神‼』』』』』』


 ドオオオォォォン‼


 と轟音を響かせ、目の前の合成獣が吹き飛んで消し炭になる。


 俺は黒焦げになった部屋で、少しの間立ち尽くした。

 いっぺんに魔力を使って、疲労が酷い。

 俺は、アイテムバッグから魔力回復薬の原液を取り出して飲み干し、一息つく。


 そして、俺は背中の竜騎の卵をお腹側にくるりと回すと、卵の様子を確かめた。

 結構深いひびが入っていて、殻をはがすと中身が出て来そうで怖い。


「たまご……おれのたまごが……」


 俺はフラフラと入口の方に向かう。

 想像したくないけど、中身が死んじゃってたりしないだろうか。

 生まれる前に、死んでしまっていたらと思うと……。


 俺は涙目になり、ぐずぐず鼻をすすりながら、座り込んでいたヴィンスたちの所に戻った。


「ビンス、おれのたまごが……」


 疲れた様子のヴィンスは俺の手の中の卵を見て、う~ん、と悩む様子を見せた。


「とりあえず、コルト。索敵だ。まだ敵がいるかもわからん」

「えぇ」

「マリーカ、もう魔法は使えるのか?」

「行けるわ」

「よし、全員の傷を治せ」

「了解」


 ヴィンスは指示を出し終わると、自分のアイテムバッグから応急処置用の血止めシートを取り出し、おもむろに卵のひびにペタリと貼った。


「よし、これで大丈夫だろ」

「え? ほんとに?」


 あまりの簡単さに俺が目を丸くすると、ヴィンスは俺にいくつか確認する。


「この卵はあとどれぐらいで孵るって言われた?」

「たぶん、はんつきぐらい」

「そうか。なら、中身はかなり成長してるな。早い奴なら、あと1週間もすれば生まれてもおかしくねぇ。もし、今ここで割れてたとしても、生き延びる可能性はそれなりにあるはずだ」

「そうなの……?」


 俺は、ちょっとホッとして、手の中の卵を見下ろす。

 ヴィンスは俺の頭をいつになく優しく撫でて、ニカッと笑った。


「大丈夫だ。ロイが育てた卵なんだろう? 強い竜が生まれるはずだ。ひびぐらい、どうってことねぇさ」

「うん……! ビンス、ありがとう!」


 俺は安堵と嬉しさで、満面の笑みを浮かべる。

 俺は、二度と傷つかないように卵をお腹側で大事に守りながら、コルトが索敵から帰ってくるのを待った。

 その間に、ヴィンスたちからは色々と聞き取りをされる。


「それにしても、ロイ殿。先ほどの魔法無効化とやらは何であったのか、ご説明願えるか」


 マリーカの治療魔法を受け、腕を回して調子を確かめながら、騎士団長が俺に尋ねる。


「あれはね、くうかんにまりょくをながしてね、あいてのまほうをそがいしてね」


 俺は、身振り手振りを交えながら、合成獣との攻防を説明した。


「では……ロイ殿は、この土壇場で新たな魔法を作ったと……?」


 信じられないものを見るように、ガレアスが俺を凝視している。

 俺は首を横に振り、訂正した。


「おれも、まえからおなじまほうつかってたんだよ。でも、きづくのがおくれたの」


 身体強化まで阻害するほど、練度は合成獣の方が上だったし、そもそも最初にこの部屋にいたあいつの方が空間への魔力放出も万全で、どう考えても俺は不利だったんだから!

 劣勢になったのもしょうがなかったんだよ!


「いやいや、何でそんな人外魔法を日ごろから使ってんだよ!」


 ヴィンスは俺に突っ込み、首を横に振る。


「にしても、命のやりとりをしてる時に、なんて胆力だ。ロイ、お前、何度も死線をくぐってるだろ」

「えっと……うん」


 確かに、黒の森ではよく死線をくぐってきた。

 ていうか、実際に前世で一回死んでるし。

 だから、死ぬっていうことに対する恐怖が、他の人よりはちょっと薄いかもしれない。

 死にたいわけでは全然ないけどな。


「ロイ、お前もうSランクでいいんじゃねぇのか? お前がSランクじゃないなんて、それこそ詐欺だろ」

「おーふぇんがだめだって」

「は? お前、グランドマスターとも知り合いかよ」


 ヴィンスは呆れたように笑い、俺の肩をゆする。


「お前には敵わねぇな。知り合いになれてよかったぜ」

「おれもね、ビンスとしりあいになれてよかった」


 俺は卵を補修したシートを撫でて、にっこり笑った。



 しばらくして、コルトが広間に戻って来る。

 この広間の奥は、いつものダンジョンボスクリア報酬と、受付への転移の部屋。

 見えない壁が無くなって通れるようになった入り口は、これまで通ってきたダンジョンに続く普通の道だったらしい。

 

 そして、ダンジョンボスや、他の強力な魔獣の気配もなく、やはりさっきの合成獣がスタンピードボスだったのだろう、という結論に達した。


「スタンピードボスが、ダンジョンボスを吸収したのでしょうか」

「合成獣……キマイラ化していたってことか? そんなことがあり得……いや、実際にあったんだがよ……」

「片方の首、あれは確かにレッサーフェンリルでしたからね」


 『ラピスラズリ』の面々は、互いに頷き合っている。

 騎士団長も、外部と連絡を付けた上で、それに同意した。


「ダンジョン内外で、魔獣の増殖は報告されておらぬ。経過観察は必要だが、スタンピードは終息した、と判断してもよかろう」

「よかった……!」

「これで生きて帰れます」

「さすがに疲れたぜ」


 皆安堵のため息をつき、肩の荷を下ろす。

 ガレアスは俺の前に膝をつき、騎士の礼を執った。


「ロイ殿。スタンピードボスを倒して頂き、感謝いたします」


 騎士団長もそれに続き、礼を執る。


「ロイ殿の活躍が無ければ、あの合成獣が外に出ていた可能性もあった」

「それは……想像したくありませんね」

「だな。魔法無効化をまき散らすあいつが、どんな被害をもたらしてたか想像もつかねぇ」


 身震いするコルトに、ヴィンスも顔を顰める。


「それに、倒さない限り、ダンジョンから魔獣が湧き続けるのですよ? アロニアの国が滅びますわよ」


 マリーカの言葉に、ガレアスも騎士団長も苦い顔をした。


「まぁ、それらは防げた、と言う事だ。ロイ殿のおかげでな」

「あいつ、おれのたまごにてをだしたから! とうぜんのむくい!」


 俺は、あの合成獣を思い出してプンプンしながら、卵をいたわるように撫でる。


「お前ら、ロイの卵には絶対手を出すなよ。俺は消し炭にされるのは御免だぞ」

「手を出すわけないじゃない」

「私だって消し炭は御免です」


 ヴィンスたちは小声で冗談を言い合い、笑い合っていた。


 俺たちは、これ以上ダンジョンで調べる所もないので、最奥のダンジョンボスクリア報酬の部屋に進む。

 そこには、宝箱が3つと転移魔法陣があった。


「ボスを倒したのはロイだ。だから、3つともロイの報酬だな」


 ヴィンスたちがそう言うので、俺は小躍りして喜ぶ。


「やった! おれのたからばこっ!」


 俺は駆け寄って宝箱を開けてみる。


 一つ目の宝箱から出てきたのは、一見普通のペン。

 俺が首を傾げていると、コルトが鑑定魔法で視ながら教えてくれた。


「これは『魔力ペン』ですね。自分の魔力を使って、文字が書ける便利な物です」

「え……それだけ?」


 俺が目を丸くすると、コルトは苦笑する。


「確かに……あのボスを倒した報酬としては、少し安く感じるかもしれませんが……。一応、『魔力ペン』の中でも最高品質ですよ?」

「そっか……」


 俺はアイテムバッグにペンを仕舞い、気を取り直して次を開ける。


「お! これは珍しい。『隠者のマント』ですね」


 宝箱をのぞき込み、コルトは笑みを浮かべた。


「これを装備している間、自身の姿を透明にできるようです」

「すごい!」


 それは結構なチートアイテムなんじゃないだろうか?


「戦闘で不意を突くのに良さそうですね。逃げるにしても、姿が見えなければ追っ手を撒きやすそうですし」


 コルトの言葉に俺が満足そうに頷いていると、ヴィンスはニヤニヤと俺の顔をのぞき込む。


「悪さに使うなよ~? 女湯覗いたりとかなぁ」

「貴方と一緒にするんじゃありません!」


 マリーカがピシャリとヴィンスを叱ってくれる。

 が、俺はもっと高尚な使い道を考えているのだ!


「ははうえにしかられそうなときに、これでかくれよう!」


 そして、母上の怒りが冷めた頃を見計らって出て来れば、完璧じゃないか?

 俺の得意げな顔を見て、コルトとマリーカは子供だな、とでも言いたげに苦笑する。


「ロイ……ちゃんと叱られとかねぇと、後が怖いぞ?」


 ヴィンスは、経験則か、しみじみとそうつぶやいた。


 そして、俺はようやく、3つの宝箱の内、一番豪華そうな宝箱に向き合う。


「今まで出た二つの報酬は、このダンジョンで見かけたことのない品でした」

「ボスがあんなことになってたからなぁ。いつもと違うアイテムが出てるのかもしれん」

「通常の報酬よりレアリティが高いですわよね? ということは、この宝箱も……」


 それは楽しみだ。

 俺は、ちょっとドキドキしながら、最後の宝箱を開けてみる。

 そこにあったのは―――。


「くびかざり?」

「タリスマン、ですね。ただ……」


 見るからに、汚れた、と言うか、禍々しいオーラが出ているタリスマンだ。


「鑑定魔法では、『呪いのタリスマン』と出ますね……。装備すると、弱体化効果が出るようです」


 コルトの鑑定結果に、俺はガクリとうな垂れる。


「はずれか……!」


 呪いの装備なんて、この世界にあったのか……!


「ま、まぁ……『隠者のマント』なんてすげぇレアなものが出たんだ、気を落とすなよ!」


 ヴィンスはポンと俺の背中を叩き、慰める。


「そ、そうですわね、呪いのアイテムでも、コレクターに売れば珍品として高値がつくかもしれませんし……」

「ほんとに⁉」

「いや、売れねぇだろ、こんな呪われたアイテム」

「ヴィンス!」

「やっぱり、はずれか……」


 一番期待したか空箱がスカ振りで、俺はがっくりと肩を落とす。

 しかし、悔しいので、一応その不吉なタリスマンを持って帰ることにして、アイテムバッグに突っ込んだ。

 アイテムバッグ内の他の物にまで、変な影響とか出ないよな?

 コルトは大丈夫と言っていたけど。


 そして、俺はとぼとぼとダンジョン脱出用の魔法陣に向かった。

 あ、そういえば。

 俺は魔法陣の前でしゃがみ込み、じーっと魔法陣を見つめる。


「ロイ様? その魔法陣が何か?」

「てんいまほうじん、おぼえてるの」


 この間から思っていたのだが、ダンジョンの転移の時も、オーフェンがギルド本部で転移を使った時も、魔法陣が必須だった。

 なら、同じ魔法陣を再現すれば、転移魔法が使えるのではないか?

 もちろん、場所の指定や何やを変えなければならず、弄る必要は出てくるのだろうが。

 少なくとも、何もない状態から転移魔法を創り出すより、開発に役立つかもしれない。


「マリーカ、てんいまほうのやりかたしってる?」

「いえ、わたくし程度ではとても。転移魔法が使える人間など、世界中を探しても片手の指ほどしかいないと思われますわ」


 それも、失敗することが多く、完全な転移魔法を使いこなせるかは微妙らしい。

 オーフェンは、冒険者ギルド本部の『特別な力』とやらで成功させていたけど。


 あれ多分、『賢者トウヤ』関係の力を使ったって意味だろう。

 でも、かつての『賢者トウヤ』にだってできたのなら、俺だって転移魔法が使えるかもしれない。


「そんなに気になるなら、写しておきましょうか?」


 コルトは、アイテムバッグから筆記用具を出して、サラサラと転移魔法陣を描き写して渡してくれた。

 さすが、マッピングもできる弓士は頼りになる。


 そして、俺はいくつかの戦果を携え、転移魔法陣の青い光に包まれて、『勇壮なる獣』ダンジョンの受付へと帰還したのだった。



 受付に着くと、すでに父上が俺を待っていて、俺を見るなりほっとして、両手を広げて膝をつく。


「ロイ!」

「ちちうえー!」


 俺は父上の腕に飛び込んで、満面の笑みで報告する。


「おれ、ぼすたおしてきたよ!」

「さすがだな、ロイは」


 父上は俺の頭をくしゃくしゃ撫でて、俺に怪我がないか確かめている。

 ちょっとぐらい怪我したって、俺ならすぐ治せるのにね。

 そして、俺は肩を落とし、大変残念な報告をした。


「ちちうえ、おれ、しっぱいした……」

「失敗?」

「ぼすのませきこわしちゃった……!」


 そう、ブチ切れて大魔法を使ったせいで、あの合成獣の魔石が吹き飛んでしまったのだ。

 ドロップ品だってあったかもしれないのに……惜しいことをした‼

 

「たかくうれたかもしれないのに!」

「う、うん、そうか……、私は命があっただけでよかったと思うが」


 父上は苦笑して、俺の後ろのヴィンスたちに目をやる。


「ロイの警護、ご苦労だったな」

「いやぁ、どっちかってーと、俺らの方が警護されちまったぐらいさ」


 ヴィンスはあっけらかんと笑い、マリーカとコルトも苦笑いをしている。

 しかし、父上は首を横に振り、意味ありげに俺をちらりと見た。


「いや、よくやってくれた。私が心配していたのは戦闘面だけではない。ロイの事だから、油断して罠にかかったり、面白そうなものを見つけてフラフラ迷子になったり、同盟国会議が終わるまでダンジョンに籠り切りだったりしそうだと思っていたからな」


 父上の言葉に、ヴィンスたちは何故か「あ~……」と思い当たることがある様な顔をしている。

 解せぬ。

 俺はちゃんと期限までには帰ってくるつもりだったぞ? 一応。


 そんな和やかな会話をしていると、騎士団長が口を挟んだ。


「ターセル子爵。ロイ殿。この度はスタンピードを終息に導いて頂き、改めてお礼申し上げる」

「ロイ殿のおかげで、無事に同盟国会議を開催することが出来そうです」

「そんな。こちらこそ、ロイを守って頂き、感謝いたします」

「いえ、我らに出来た事など、何ほどもありませぬ」

「ロイ殿がいなければ、さらに混沌とした状況になっていたことでしょう」


 騎士団長とガレアスは深く頭を下げた。

 父上は恐縮し、つられて頭を下げる。


「その、騎士団長様もお疲れでしょう。まずは一旦休まれてから、同盟国会議の前にお話しの場を設けられてはいかがでしょうか」

「これはかたじけない。ぜひそうさせて頂こう」


 騎士団長はあっさりと同意し、この場を離れるようだ。

 多分、早く国王に報告に向かいたいんだろうな。

 しかし、ガレアスは名残惜しそうに俺を見て、俺の前に膝をつく。


「ロイ殿。私は貴殿の強さに感銘を受けました。我等の危機を救っていただいた御恩は、必ず返します」

「う~ん、じゃあ、そのうちね」

「はい!」


 俺は適当にそう答えたが、ガレアスは満面の笑みで深く頷いた。

 なんだか、フィニアスに近い匂いがする……。


 そして、俺はヴィンスたちや騎士団長たちと別れ、使節団が泊まる宿へと帰ったのだった。



【王弟オレリアス】


 カルコテリア王国より同盟国会議に遅参する旨の知らせがあり、私はロイ君に先にダンジョン攻略に行ってくるよう促した。

 それ自体は別に間違ってなどいなかったのだが……。

 例のごとく、ロイ君はまたとんでもないことをやらかして……いや、成し遂げて帰って来たらしい。


「ターセル子爵。アロニア国王陛下から、直々に呼び出されたのだが? 一体ダンジョンで何をすれば、このようなことになるのかな?」

 

 同盟国会議が始まる前日。

 私とターセル子爵はアロニア王城へ呼び出されていた。

 大人同士の話し合いをする、と言うことで、ロイ君は宿でお留守番だ。


 アロニア王城に向かう馬車の中、私が笑顔を引きつらせて尋ねると、ターセル子爵は気まずそうに視線を逸らした。

 これはロイ君が母君に叱られる時にやる仕草だ。

 似たもの親子だな……なんて言ってる場合ではない。

 絶対に何かやらかしている。


「アロニア王国側からは、まだ口外せぬように、と言われているのですが……」


 ターセル子爵から聞き出した情報によると、ロイ君は攻略のために『勇壮なる獣』ダンジョンに潜ったはいいが、その場でスタンピードの発生を知り、そのままスタンピードボスを倒して帰って来たらしい。


「スタンピード? そんな情報はアロニア王国から聞いていないが」


 顎に手をやり考える私に、ターセル子爵は頷いて見せる。


「はい。同盟国会議の招待を各国に送った後で、スタンピードの兆候が発覚したらしく。同盟国会議に支障がないよう、内々で収束させようと考えていたようです」

「ふむ。スタンピードのせいで開催を延期、または中断する、などとなれば、『騎士の国』と名高いアロニア王国の名折れだからな。しかし、それでは何故ロイ君の助力を?」

「それが、いつもとはスタンピードの様相が違ったらしく。スタンピードボスにも異常が見られたとか。通常の騎士や冒険者では、対処が難しかったと聞いています」


 私は思わず眉間を押さえ、ため息を吐く。


「いやいや、それを倒す4歳児って、どうなんだい……?」

「すみません……」


 ターセル子爵も思わず謝り、わずかに沈黙が流れる。


「まぁ、何にせよ、アロニア国王陛下からはお叱りを受けるわけではなさそうだ。もしかしたら、『ロイ君がダンジョンを吹き飛ばした』なんて国際問題かと身構えていたからね」

「それは……無くもないかもしれませんが……。いえ、私もホッとしております……」


 ロイ君のような破天荒な息子がいたら、胃がいくつあっても足りないな。

 ターセル子爵が胃の辺りを押さえるのを、私は同情するように眺めた。



 アロニア王城に着くと、私たちはプライベートな客室に呼ばれ、人払いがされた。

 向かいに座るのは、アロニア国王。

 その後ろに、騎士団長と、その孫と紹介されたガレアスと言う騎士が立つ。

 この二人は、ロイ君と共にダンジョンに潜ったらしい。


「同盟国会議の前にお呼び立てして申し訳ない」


 どっしり、と言う形容詞が似合いそうな、脂肪も筋肉もたっぷりついたアロニア国王は、御年40で貫禄がある。

 

「しかし、会議の前にどうしても話しておかなければならないことがあってな」

「それは、先日我が使節団の共の者がダンジョンに潜った件について、でしょうか?」

「いや、そのような遠回りな言い方などせんでよい」


 アロニア国王は髭を撫で、苦笑した。


「ロイ殿には、スタンピードの終息に助力して頂いたと聞いておる」

「は……」


 どうやら、私にスタンピードの情報を隠すつもりはないようだな。

 アロニア国王は、ターセル子爵の方に視線を向け、鷹揚に尋ねる。


「その後、ロイ殿に疲れなど残ってはおらなかったかな?」

「は、その……お心遣い痛み入ります。ですが、ご心配は無用にございます……」


 ターセル子爵は肩を落とし、ため息混じりに苦笑する。


「ダンジョンで入手した『隠者のマント』を使って、隠れてダンジョンにまた入ろうとしたので……、宿で謹慎させております」

「謹慎……」


 私は、ロイ君の謹慎を思い出して、少し遠い目をする。

 宿から出てはいけない、と言われたロイ君は、宿中を探検して回り、カティもそんなロイ君について回っていた。

 私たちも二人を連れ戻そうと宿の中をうろつく羽目になったため、二人を抱えて部屋に戻るたびに、宿の従業員や他の使節団から私達まで生暖かい目を向けられることになってしまった。


「わはは、元気そうで何よりであるな!」


 アロニア国王はむしろ嬉しそうに笑い、本題を切り出す。


「それで、この度のスタンピードの件であるが、同盟国の使節団方には、元より収束して安全を確保してから通達するつもりであった。明日の会議の場で公表しよう」

「承知しました」


 私が頷くと、アロニア国王も大きく頷く。


「ついては、その場でロイ殿をスタンピード終息の功労者として発表し、褒賞も授与したいのだが。アロニアの爵位などどうか?」


 アロニア国王がちらりとターセル子爵を見るので、私は笑みを浮かべてアロニア国王を威圧する。


「他国に籍がある者に爵位を授与するなど、慣例にありませんね」

「なに、慣例にないなら、慣例を作れば良いではないか」

「そのような慣例などいりません」


 アロニア国王の食えない笑みを見て、私は内心で舌打ちする。

 この国王、一見豪快な武人に見えて、いや、それは実際そうなのだが、実は腹芸もこなせるタイプなのだ。

 さっそく、あいさつ代わりにロイ君を取り込みに来たか。


「まぁ、そうまで言うなら、褒賞は金品にしよう。それならばモルグーネ王国としても文句はないであろう」


 アロニア国王はニヤリと悪そうに笑う。


「元々、そちらはロイ殿の実力を公に周知するために会議に来られたのであろうからな? であれば、功績が一つ二つ増えたところで、かえって箔が付くというもの」

「……」


 ロイ君のお披露目を行うことは、まだアロニア国王にも話していなかったが、他の国々もある程度察しているだろうとは思っている。

 そうでなければ、4歳児を同盟国会議に連れてくる理由がない。

 それに、ロイ君が只者ではない事は、少し情報を集めれば知れるのだから。


 ただ、スタンピードの件で、アロニア国王がどこまでロイ君の実際の力を掴んだのか……。

 我がモルグーネ王家も、まだロイ君の実力の深淵は計れていないというのに。

 

「時に、ターセル子爵。ロイ殿は『隠者のマント』で忍び込もうとするほどアロニア王国のダンジョンを気に入られたようだな。もしアロニア王国に亡命するなら、子爵に公爵家の地位を保証しても構わんぞ? 『紅の英雄』殿も来られるなら、もう一つ公爵家を構えてもいい」

「王弟である私の前で亡命の話など、不躾ではありませんか?」


 私はにっこりと笑みを深め、アロニア国王を牽制する。

 が、この狸親父は全く笑みを崩すことなく、私を見つめ返す。


「なぁに、ただの冗談だ。しかし、いざという時、そう、王家に愛想を尽かした時などに、わずかでも思い出すことがあれば、と思ってな。なぁ、ターセル子爵殿」

「は……えぇ……その……」


 ターセル子爵は身の置き場がなさそうに、どんどん小さくなっている。

 王族同士の舌戦に、田舎貴族のターセル子爵は口の挟みようもないらしい。

 そろそろ胃に穴が開いてしまわないだろうか。


「陛下。冗談はさておき、話を進めましょうぞ」


 アロニア国王の背後の騎士団長が声をかけると、冗談ではないのだがな、とアロニア国王は居住まいを正す。


「ガレアスよ。説明を」


 アロニア国王の指示で、騎士団長の孫が前に進み出て、手に持っている資料を読み上げる。


「この度のスタンピードは、常とは違う点が多々ありました。生息しない魔物の目撃情報から、スタンピード本格発生までの流れが異常に早く、また、スタンピードボスも異常個体でありました」

「某らも些か考えあぐねております。ダンジョンが変化しているのか、将又…… ❝ 何者か ❞ の介入があった可能性も」

「! まさか、うちのロイが関係しているとでもお疑いで……」


 ターセル子爵が騎士団長の言葉に顔を青くすると、騎士団長がはっきりと否定する。


「いえ、それはありませぬ。スタンピードボスとの戦いでは、ロイ殿ですらひやりとする場面がござった。仕掛けた側であるならば、そのようなことあり得ますまい。そもそも、スタンピードの兆候は、ロイ殿がアロニアに来る前からあったのです」

「では、一体何者が……」


 スタンピードに介入するなんて、普通の知識の範囲内で出来る事ではない。

 研究者か、どこかの高位魔導士か……。

 しかし、ガレアスが語ったのは、あまりに予想外の相手だった。


「実は、これは真偽確かならぬ情報ではございますが……、アロニア王国内で魔族と思しき者を見かけた、と言う証言があります」

「魔族ですと……?」

「まさか、今の時代において……」


 信じられない、と言う顔をする私たちに、アロニア国王も難しい顔を見せる。


「確かに、もはや伝説上の存在、と捉える向きもある。しかし、赤い瞳といえば、魔族の特徴。それがこの不審なスタンピードの時期に目撃されたとなれば……」

「関係を疑いたくもなりますか」

「それで、その魔族は今どこに?」


 思わず、と言った様子でターセル子爵が尋ねると、ガレアスが首を横に振る。 


「その場から煙のごとく消え去ったと」

「うぅん……情報としては、かなり不確かなものですね」

「はい。ですが、一応共有しておいた方が良いかと。何せ、ご子息のロイ殿は、今この国にいる者の中で、最も強力な戦力ですから!」


 何故か熱っぽく語るガレアスの言葉に、とっさに否定できない私は眉間にしわを寄せるが、ターセル子爵は苦笑いを浮かべた。

 この『騎士の国』で、最も強力な戦力扱いされても、正面からはいそうですとは言いづらい。


「は、そのような過分な扱いを……」

「いえ、某も孫も本気ですぞ」


 騎士団長まで、力強く同意する。


「国王陛下にもすでに進言いたしましたが、絶対に、何があろうと、ロイ殿と敵対するようなことがあってはなりませぬ」

「我等騎士団の総力を持ってしても、ロイ殿には敵いません!」


 ガレアス殿は何故ちょっと嬉しそうなのか。

 しかし、悲しいかな、ロイ君に敵わないのは我がモルグーネ王家も認める所だ。


「ごほん」


 アロニア国王は、家臣の勝手な発言に咳払いし、私に目をやる。


「ところで、騎士団長がロイ殿から興味深い話を伺った、と申しておってな」

「はて、何でしょうか」


 私は何やら嫌な予感がして、とっさに笑みを貼り付ける。


「ロイ殿のご祖父であられる氷瀑の大魔導士ガストール殿。そのガストール殿が、以前よりずいぶんと強くなったとロイ殿が仰られたそうでな」

「はぁ……」


 私が相槌を打つと、騎士団長が身を乗り出さんばかりに熱を入れて尋ねてくる。


「失礼ながら、老齢になって、何のきっかけもなく急に実力が伸びるとは考えにくい物です。某は、ロイ殿の影響が少なからずある者と確信しておりますが。いかがですかな?」

「!」

「同盟国の戦力増強は必須。であれば……」


 アロニア国王はニヤリと笑い、髭を撫でた。


「我々にもぜひ、その技術をお教え願いたいものですな」


 ロイ君、不用意な発言が過ぎる!


 アロニア王国は武を重んじるあまり、強くなるためならイカれた訓練にも喜んで飛び込んでいく脳筋たちの集まりでもある。

 つまり、戦力増強のための情報があると確信されてしまうと、非常にしつこく厄介な相手なのだ。


 そして、技術というものは、一度流出してしまえばコントロールできなくなる。

 最悪の場合は、技術が帝国に奪われ、自分たちに牙を剥く事すらあり得るのだ。


 しかし、武に執着するこのアロニア王国だけではなく、同盟国のほかの国々にも、強くなってもらわなければならない理由があるのも事実。

 そう、帝国の勇者と言う脅威が。


「……その辺りも含め、同盟国会議では有意義な情報交換をしたいと思っている所存です」


 私は、口の端を引きつらせて、かろうじて笑顔と呼べる程度の表情を保ちながら、そろそろ失礼しよう、と席を立った。

 これ以上この狸親父の巣に留まっていたら、機密情報を聞き出されかねない。


 半ば強引に会談を打ち切り、ターセル子爵を伴って逃げるように廊下を歩きながら、私は顔を顰める。


 一つだけ、今の私にも断言できることがある。

 明日の同盟国会議は荒れる、ということだ。


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