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英雄の孫は今日も最強  作者: まーびん


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18/20

第18話  VS.ア―スドラゴン

お待たせしました~。

毎週金曜更新に戻ります。

「え……? あ! ロイ⁉ ちょっと待てよっ!」


 俺は呼び止めようとするベックの脇をすり抜け、帝都の外壁の外へと向かった。


 外へと続く道は人が混みあっていて、面倒になった俺は、裏道から屋根の上に登って、極力人目を避けて門へとたどり着く。

 この北門は、俺は一度も通ったことがないので、門番も当然顔見知りじゃない。

 しかし、今は帝都を出る人々の長蛇の列で騒然としていて、門番たちも身分証を出させていちいち確認できるような状況ではなかった。


 俺は人に見られない所を探して屋根から飛び降りると、避難民の列に紛れて門を通り抜ける。

 そして、しばらく歩くとそっと列から離れて、アースドラゴンが出たという帝都の北に向かって走り始めた。


「だれにもみつからないように、すぐにやっつけて、そのままにげる」


 楽勝……のはずだ、多分。


 家にあった魔物図鑑で読んだ記憶によると、アースドラゴンは20メートル級の巨大な歩く岩山と言う格好をしていて、普段は地中に埋まってじっとしているという。

 食事は基本的に鉱物で、時々大量の鉱石を喰らっては長い休眠をくり返し、積極的に人間を襲うようなことはない。

 しかし、進行ルートに集落や町があった場合、無造作に踏みつぶされてしまうことがあり、討伐をしようにも、頑丈な岩の皮膚のせいで内部まで魔法や斬撃が通らないらしい。


 が、俺には必殺の武器があるから、何とかなるだろう。

 そして、無事にア―スドラゴンを退治したら、俺はそのままシャルロット祖母ちゃんとの合流を目指すつもりだ。 

 帝都には、もう戻るわけにはいかない。


 あの、『日本語』を話すオレンジの髪の胡散臭い男。

 グランドマスターとか呼ばれていたが、俺の正体を知る奴の傍にいるのは危険すぎる。

 奴が帝国の手の者である可能性もあるし、勇者なのだとすればなおさら危険だ。


 俺はとにかく、ベックたち家族や、商店街の人々、クラウスのおじさんなど、お世話になった人々の安全を確保できたら、そのまま姿を消すことに決めた。



 俺は、ア―スドラゴンと先行している冒険者たちの戦闘音がする方へと、気配を消して向かう。

 帝都から森の中をしばらく走ると、そいつの姿が見えてきた。


「でかい……!」


 冒険者ギルドで大人たちが話していたように、このアースドラゴンは通常よりもはるかに大きかった。

 多分、全長50メートルはある巨体だ。

 その分、装甲も分厚く頑丈そうだ。


 アースドラゴンの周りを取り囲んでいる10人ほどの冒険者たちは、派手に爆発する魔法や、鈍器を使った攻撃をアースドラゴンにくり返し、足止めか、進路を逸らそうと試みているようだ。

 が、当のアースドラゴンは煩わしそうに払いのけるだけで、進路を変えようとはしていない。

 あの冒険者たちでは、太刀打ちできなそうだ。


「いい加減に怯みやが……っ、ぐはぁっ⁉」


 ハンマーを掲げた冒険者の一人が、圧倒的な質量のアースドラゴンに体当たりを喰らい、吹っ飛ばされる。


『グオオオォォォッ‼』


 アースドラゴンは岩で覆われた尾を振り、辺りの木を薙ぎ払って威嚇する。


「きゃあっ‼」

「うあぁっ⁉」


 冒険者たちは飛んでくる木を避け損ね、何人かが負傷したようだ。


「大丈夫かーっ!」

「たっ、退却だっ! 一旦体制を整えるぞっ‼」


 冒険者たちは、足の遅いア―スドラゴンから距離を取り、負傷した仲間を抱え、一旦離脱する。


 今が好機だ。

 俺は草むらから飛び出し、アースドラゴンの正面まで回り込むと、背の高い樹のてっぺんまで飛び上がった。


 アースドラゴンは、小さい俺の存在に気が付いていないのか、気にすることもなく足を進める。

 岩に埋もれる様にある小さい目は赤く血走っており、鼻息も荒く、足を踏み出すたびに地面が揺れた。


 ダメージは通ってないくせに、かなり苛立っているようだ。


「これは……しんろをかえるだけにしたかったけど、そうもいかないか」


 帝都に向かうア―スドラゴンの進路を変えられたとして、あの興奮状態だ、今度は他の街に被害が出るかもしれないし、下手をしたら恨みを持って帝都に戻って来るかも。


「やっぱり、とうばつしないとだめだな」


 お前に恨みはないが、このままでは帝国の人々に甚大な被害が出る。

 狩らせてもらうぞ。


 俺は両手の杖、もとい腕輪に、たっぷりと魔力を込める。

 相手は、斬撃、魔法が効きにくいアースドラゴン。

 となれば、使うのはシャルロット祖母ちゃんから受け継いだ『炎槌』一択!


 しかし、シャルロット祖母ちゃんから教わった『炎槌』は、一般的な魔導士の魔力量で扱うのに、最も威力を発揮する型の物。

 それ自体は、魔力の無駄がなく大変効率的で美しいのだが、このアースドラゴン相手では、それではまだ火力が足りない。


 魔力量が膨大な俺が、この化け物相手に『炎槌』で挑むのならば、シャルロット祖母ちゃんから習った型を破り、非常に燃費は悪くとも威力を上乗せした荒削りの『炎槌』を叩き込むしかない。

 俺は、手に出現させた『炎槌』に、更に高濃度の魔力を注いでいく。


 俺の手に握られた『炎槌』の先端は魔力を注ぐほどに巨大化し、纏う炎も赤から青、そして透明に近くなる。

 それに伴い、重量も増し、俺が立っている木の枝がミシミシと軋んだ。


「くらえ! 『ごうえんつい(業炎槌)‼』」


 俺は、高濃度のエネルギーを纏いチリチリと悲鳴を上げる『炎槌』を、力いっぱいアースドラゴンの頭に叩き付ける。


 ガキィィィンッ‼


 と派手な音を立て、ア―スドラゴンの頭蓋骨と『炎槌』が火花を散らした。


『グオオオォォォ‼』

「おおおぉっ‼」


 瞬間、鍔迫り合ったが、俺が押し切りア―スドラゴンの頭蓋を力任せに砕く。


 ドゴオオォォォッ‼


『オオォォォンッ……』


 ズシンッ、と大きな音を立て、ア―スドラゴンは地面に崩れ落ち、そのまま動かなくなった。


「はぁ……。やっつけたか」


 俺は『炎槌』を仕舞い、息を吐く。

 ぶっつけ本番だったけど、『炎槌』の新たなバージョンはなかなかの高威力だった。

 あれは今後も役に立ちそうだ。


 さて、無事討伐もできたことだし本当なら冒険者としては討伐報酬を貰いたいのだが、今回はそんな余裕はない。

 死体の始末ならさっきの冒険者たちが何とかするだろうから、すぐにここを離れた方が良さそうだ。



 俺は、冒険者たちが戻ってこない内に移動を始めたのだが、諦めたようにため息を吐く。


 ひい、ふう、みい……20人ぐらいか。

 俺の後を尾いてくる気配がある。

 でも、さっきの冒険者たちじゃないみたいだ。

 さすがに、全く誰にも見られない、っていうのは無理があったな……。


 俺はア―スドラゴンの死体からしばらく距離を稼ぎ、立ち止まる。

 追っ手たちは、俺の周りを遠巻きに取り囲み、じわじわと俺に接近してきた。


「へいたい? ていこくぐんかな」


 森の中から出てきたのは、揃いの騎士服に身を包み、上等の剣を携えた一団だ。

 中でも、目立つ兜をかぶった男が前に出て、俺に剣を突きつける。


「貴様は勇者マサトを倒した子供、ロイ・ターセルだな」


 勇者は倒したが、名前までは知らないな。

 あの勇者の事だろうか?

 首を傾げる俺に、隊長らしきその男は油断することなく告げる。


「我等はネヴィルディア帝国軍近衛隊である。覚悟するのだな、帝都に侵入したモルグーネの子鼠よ。その命、貰い受ける!」


 隊長の合図とともに、部下達は緊張した面持ちで俺に剣を構える。


「子供だと思って舐めるな! 相手はアースドラゴンを一撃で仕留めた化け物だ、全力でかかれ‼」


 今にも切りかかってきそうな兵たちに、俺も迎撃しようと両手の腕輪に魔力を込めた、その時。


「その子に手を出すのは控えてもらおうか、ブレスト将軍」

「⁉」


 突然、空からあのオレンジ髪の男が降ってきて、俺と隊長の間に降り立った。

 そして、オレンジ髪の男は剣を抜き、隊長に向かって構える。


「……何故貴方が出しゃばるのです? 冒険者ギルドグランドマスター、オーフェン殿」


 隊長はオレンジ髪の男を鋭く睨み、不愉快そうに鼻にしわを寄せた。

 反対に、オレンジ髪の男は軽い調子で肩をすくめ、笑みを浮かべる。


「彼は冒険者ギルドの新人冒険者でねぇ。つまり、僕たちの身内ってことだよ」


 ほう? この男、帝国の回し者じゃないのか。

 隊長はこめかみに青筋を立てて、奥歯を噛みしめている。


「この子供は帝国の脅威になり得ます。ここで息の根を止めるのが我らの責務」


 隊長は剣をピクリとも動かさず、俺に視線をくれる。

 しかし、オレンジ髪の男はその視線を切るように、俺の前に進み出た。


「それはつまり、ネヴィルディア帝国は冒険者ギルドを全面的に敵に回す覚悟がある、という事だね?」

「……! そこまでして、この子供を庇うおつもりか!」

「あぁ。僕は本気だよ」


 そう言うや否や、オレンジ髪の男は一刀で隊長の剣を叩き折る。

 あまりの速さに反応できず、隊長は遅れて身体を引いた。


「おのれ……‼」


 ん~、これは、実力の差は歴然だな。

 あのオレンジ髪の男、速度だけで言うなら、俺よりも速い。


「君たちがこの子を攻撃するというのならば、僕はグランドマスターの権限を行使し、冒険者ギルドのあらゆる権力を使って帝国と対立する。例え、お互いにどれほど損害が発生するとしても、ね」

「何故その子供にそこまで肩入れを? 平等を謳うはずの冒険者ギルドが、モルグーネ王国側についたと受け取られてもよろしいのかな?」


 戦闘では勝てないと悟った隊長は、皮肉気な笑みを浮かべて挑発するが、オレンジ髪の男もにっこりと笑みを浮かべて反撃する。


「くだらない挑発だねぇ。僕は、 ❝ 冒険者ギルドの要請を受け帝都を救った小さな英雄冒険者 ❞ が、理不尽にも帝国兵から危害を加えられそうになっていたところを救っただけさ。この言い分で、十分民衆はこちらの味方になると思うけど?」

「……」

「次の皇帝陛下は、不幸にも甥を二人とも事故で失って、即位式を控えているよね? ただでさえ疑惑渦巻くこんな時期に、冒険者ギルドと全面対立なんて、民衆がどう思うのかなぁ?」

「……減らず口を……!」


 隊長の後ろの部下が足を踏み出すが、隊長は手でそれを制して、オレンジ髪の男を睨み据える。


「……今回は退いた方が賢明なようだ」


 隊長の命令で、部下達は俺を睨みながら、渋々剣を収める。


「ただし、貴様らの監視はしているからな」


 警戒しつつ後退する部下を横目で見て、隊長は捨て台詞を吐いて踵を返した。


「好きにしなよ。冒険者ギルドの中に立ち入らせるほど、僕は甘くないからね」


 オレンジ髪の男は剣を収め、フッ、と口角を上げる。

 そして、男は俺の方を振り返り、さて、と腰に手を当てた。


「では、勇者ロイ君。僕と一緒に来てもらおうか」


 君を冒険者ギルド本部の地下に招待しよう、と、男は俺に告げた。

 が、こんな怪しさ満点の誘いに乗るなんて、冗談じゃない。


「てきかもしれないのに、おれがついていくわけないでしょ」


 俺が腕を組むと、男は意外そうに目を丸くし、頭をかく。


「そうかい? でも、このまま帝都を出れば、君は間違いなく帝国に殺されるよ?」


 男は悪戯っぽくクスリと笑って、首を傾げる。


「奴らは君の実力を知っている。その上で準備をしてくるはずだ。いくら君だって、24時間命を狙われて、休息もないまま戦い続けられはしないだろう?」

「……」


 正直な所、俺が本気を出せば、帝国兵を振り切ってモルグーネ王国まで逃げ伸びられる可能性はそれなりにあると思っている。

 しかし、一切戦わずに、と言うわけにはいかないだろうから、帝国兵に犠牲が出るのは間違いない。

 それにもし俺が無事に逃げ延びられたとして、モルグーネ王国と帝国の緊張がさらに高まるだろうし、俺が暴れた分だけ政治的な問題が深刻になるだろう。

 だから、俺としても争いは極力避けたいところだ。


 悩む俺を後押しするように、男は両手を広げて説得を重ねる。


「冒険者ギルドの本部には、帝国と言えども手出しできない。世界中の冒険者を敵に回すことになるからね。帝国としても、このタイミングでそんなリスクは冒せないはずさ」

「そこまでして、おれをかばういみは?」


 グランドマスターってのは、多分ギルドマスターたちの上の、冒険者ギルドのトップなんだろう。

 そんな男が、職権を乱用し、他の冒険者達を盾にするような形をとってまで、俺を守ろうとしている。


 本当なら、俺がアースドラゴンを討伐したのだって冒険者ギルドの依頼を介したわけじゃなかったし、討伐は俺個人の暴走と言うことにして、俺を帝国に差し出す事だってできたはず。

 なのに、冒険者ギルドの身を切ってまでわざわざ俺を庇っている。

 それは、俺が冒険者登録しているから、と言うだけではないだろう。


「あんた、にほんじんなのか?」


 俺は両手を戦闘態勢に構えながら、核心を突く。

 すると、男は緩く首を横に振り、両手を上げて戦意がないことを示した。


「いや。僕はこの世界の人間さ。身体も魂もね」

「……にほんごをはなしたのは?」

「その理由が知りたければ、本部へおいでよ」

「……」


 俺はこの男の食えない笑みを見て、小さく舌打ちする。

 どうしても、俺を冒険者ギルド本部へ連れて行きたいらしい。


 このままここを出ても、帝国に追われるだけだ。

 だったら、罠かもしれないが、情報を集めた方がいいかもしれないな。


「わかった。でも、なにかしたら、ほんきではんげきするからね」

「あはは、怖いなぁ」


 男は俺の言葉に怯んだ様子もなく、先に立って歩き始める。


 物陰に潜む帝国兵の刺すような視線を感じながら、俺と男は冒険者ギルド本部へと足を向けた。



 冒険者ギルド本部は、この帝都の冒険者ギルドのすぐ裏に併設されていた、塔のような大きい建物だった。

 建築様式が違うのか、見慣れない薄黄色っぽいレンガで建てられていて、入り口は大きく立派だ。


「グランドマスター!」


 冒険者ギルドの前を通りかかると、職員の声で俺たちに気付いたクラウスのおじさんが駆け出して来る。


「今までどこに行っていたのです! アースドラゴンが何者かに討伐されたとの報告が……‼」

「しっ」


 オレンジ髪の男は自分の口に指を当て、黙るように促す。


「クラウス君にも説明しよう。いいかな?」


 男が俺を見るので、俺は小さく頷いた。

 どうせ遅かれ早かれ、俺がアースドラゴンを倒した事実は知れ渡ってしまうだろう。

 だったら、先に話しておいた方がいい。


 怪訝そうなクラウスのおじさんも引き連れ、俺たちは冒険者ギルド本部のグランドマスター執務室へと向かった。



 冒険者ギルドの本部の中は、かなり天井が高く、仕切りも少なくて解放的だった。

 受付嬢は一人いたが、グランドマスターの姿を一目見て、軽く会釈をしただけで通してくれる。

 その事務的な様子から、あまり外部の人間が入ってくるような施設ではなさそうだ。


「好きな所に座っていいよ」


 グランドマスター執務室に入ると、男はさっさと自分の椅子に座る。

 クラウスのおじさんは迷うに視線を彷徨わせ、ローテーブル前のソファに座り、俺にも座るように促した。


「じゃ、まずは自己紹介かな。僕は冒険者ギルドのグランドマスター、オーフェンだ。そっちは、お互いの事は知っているね?」


 オーフェンは俺とクラウスのおじさんを交互に見て、クラウスのおじさんは頷く。


「グランドマスター。この部屋に案内するということは、よほどの機密事項なのですな」

「いや、機密と言うか、もう帝国にはバレてしまっているんだけどねぇ」


 オーフェンは俺を手で示す。


「アースドラゴンを倒したのは、このロイ君だ」

「は……?」


 クラウスのおじさんはきょとんと眼を丸くし、俺を見る。


「……は?」


 クラウスのおじさんは今度はオーフェンを見て、次いで苦々しく顔をしかめた。


「この非常時に、冗談が過ぎますな……」

「冗談じゃないさ」


 オーフェンが俺に続きを譲る仕草をしたので、俺は仕方なく手に『炎槌』を出して見せる。


「⁉」

「ロイ君は、紅の英雄ルードルフ、氷瀑の大魔導士ガストール、そして、君の尊敬する炎槌の戦乙女シャルロットの孫であり、現在最強の冒険者なんだよ」


 オーフェンは面白がるように目を細め、クラウスのおじさんは絶句している。


「シャルロットさんの……孫…………⁉」


 あ、引っかかるのはそこなのか。

 冒険者だからかな。


 『炎槌』を消した俺をまじまじと見つめるクラウスのおじさんに、オーフェンはさらに事情を説明する。


「この子は今、帝国から命を狙われていてねぇ。モルグーネ王国との戦争に利用する気か、それともこの子自身を脅威に思っての事か。なんにせよ、帝都を守った冒険者に対して、あんまりな仕打ちじゃないかい?」

「……」

「だから、僕たちでこの子を匿う。これは、相談ではなく決定だ。従ってもらうよ? クラウス君」


 グランドマスターとしての命令に、クラウスのおじさんはしっかりと頷く。


「異存はありません」


 クラウスのおじさんは、ソファに深く腰掛け、腕を組む。


「冒険者を守るのは、ギルドの責務。帝国の横暴は許せませんからな。もし身柄の引き渡しを要求してくるようなことがあれば、各地の冒険者ギルドと連携して、帝国にギルドの総意を突き付けなくてはなりますまい」

「君ならそう言ってくれると思ったよ」


 オーフェンはニコニコとほほ笑み、指を組む。


「では、僕はまだロイ君と重要な話があるから。後はよろしく」


 チラリと出口に視線をやって退出を促し、ここから先の話は聞かなくていい、と言外に匂わせるオーフェンに、クラウスのおじさんはもの言いたげに俺を見る。


「では、私はもう行くとしよう。……少年」

「!」


 うぅ、気まずいな。

 シャルロット祖母ちゃんの事含め、話すわけにはいかなかったからしょうがないとはいえ、クラウスのおじさんにはたくさんお世話になったのに、騙すような形になってしまった。

 俺がチラチラと視線を上げ下げしていると、クラウスのおじさんは小さくため息をついた。


「言いたいことはたくさんあるが……」

「…………」

「とにかく、帝都を救ってくれたことに礼を言おう。助かった」


 俺がちらりと顔を上げると、クラウスのおじさんは呆れたように笑っていた。

 俺はちょっとホッとして、にっこり微笑み返す。


「うん。おれも、みんながぶじでよかった」

「……うむ」


 クラウスのおじさんは、頬を緩ませ、頷いた。

 皆を守ろうとした俺の善意が、少しでも伝わっているといいのだが。


 クラウスのおじさんが退出すると、俺はオーフェンの方に向き直る。


「クラウスのおじさんに、おれがいせかいじんだって、はなさないの?」

「彼は知る必要がないからね」


 オーフェンはそっけなく言った。


「でも帝国は、君が異世界から来たということを掴んでいると思うよ?」


 そういえば、勇者を倒した、ってことは知られてたな。

 でも、俺が転生者だってことまでバレているのか?


「……なんでそうおもうの?」

「だって、君が退治したもう一人の勇者様は、この帝都に逃げ込んでいるからねぇ。話を聞かないわけがないだろう?」

「! あいつがここに⁉」


 俺が顔を険しくすると、オーフェンは宥めるように手の平を見せる。


「あぁ、警戒しなくたって大丈夫だよ。彼は今、君に怯えて引き籠っているようだから」

「なんでそんなことまでしってる? おまえ、なにものだ」


 この男、様々な事情に精通しすぎている。

 それこそ、帝国の手の者かと疑うぐらいに。

 とても偶然で掴めるような情報ではない。


 不信感を露わにする俺に、オーフェンは面白そうな笑みを浮かべて、頬杖を突く。


「そう警戒しなさんなって。僕は元々君たち勇者を監視しているんだ。それこそが、グランドマスターの仕事だからね」

「……?」


 そして、オーフェンは冒険者ギルドという組織の成り立ちについて語り始めた。



【勇者マサト・アキミネ】


 僕はあの転生者の子供に敗れた後、ネヴィルディア帝国の皇帝に謁見し、帝都に匿われていた。

 僕が謁見した皇帝はまだ成人していない子供だったので、僕の進退については、皇帝の後見人で前皇帝の王弟である男と話をした。

 それによると、僕には将軍の地位を確約するが、まだ軍内部での調整が色々とあり、まずは僕の生活を整えることを優先してほしいという事だった。


 でも、僕だって馬鹿じゃない。


 王弟が皇帝の座を狙い暗躍している事なんて、火を見るより明らかだ。

 というより、これだけの大国に権力者が乱立していて、そう言った政争が無い訳がない。

 今は水面下で何事かの計画が進行していて、僕に構う余裕がないのだろう。


 まぁ、それなら僕にも都合がいい。

 今は僕も体力を回復させる事に集中させてもらおう。

 帝国が内部から潰れるのなら、それまでだ。

 僕は寝首をかかれないかの心配だけしていればいいのだから。


 そうして僕は一応自由行動を認められはしたが、監視のつもりか、僕には第一皇女のサーニアがつけられ、四六時中行動を共にする羽目になった。


 サーニアは僕より少し年下の16歳で、顔は悪くない方だが、いつもおっとりしていて、はっきり言ってトロい女だった。

 でも、性格は良いようで、僕の前でも笑顔を絶やさない。

 僕が魔法の訓練を終えて帰ってくると、いつも自分の手で紅茶を入れて、僕を労おうとする。


 僕に取り入る気なのか、取り入るように命令されているのか。

 でも、そう言うつもりなら、僕としても拒否する理由はない。

 僕の力になるというのなら利用するまでだ。


 そんなある時、皇帝と皇子が ❝ 事故死 ❞ したという知らせがあった。

 次の皇帝には、前王の王弟、あの叔父がなるという。

 これは、暗殺で決まりだな。


 サーニアは数日僕の前に姿を見せず、次に会った時には目元を赤く腫らしていた。

 一度に二人の弟を亡くしてショックだったんだろう。

 でも一人っ子の僕は、彼女をどう慰めていいか分からなかった。

 そう、僕はサーニアを慰めてやりたいと思ってしまっていたんだ。


 認めたくないが、僕は、時折寂しそうにするサーニアの事が気になり始めていた。



 そんな風に、僕も帝都での生活に慣れ始めていたある日、帝国は僕に戦闘に赴くように告げた。

 敵はア―スドラゴン。

 この帝都に向かって来ているという。

 帝国は今、戦争以外では兵を出したくないらしく、僕の戦力を見込んで頼んできたというわけだ。


 知能の低い魔獣ごとき、僕の敵ではない。

 この程度で僕の実力を示せて、帝国に恩を売れるなら、悪くない話だ。


 僕には護衛という名目の近衛兵が20人ほどつけられたが、どうせ僕の見張りだということは分かっている。

 助力など不要だから、この連中がせいぜい足手まといにならないでくれれば、それでいい。

 僕はア―スドラゴンを討伐するために外壁の外へと向かった。


 しかし、そこで僕は見てしまったのだ。

 ア―スドラゴンを一撃で仕留める、あの黒髪の子供を。


「あいつ……‼ あいつがここに……っ⁉ 何故……っ⁉」

「勇者様⁉ あいつとは……⁉ まさか、件の……⁉ お答えください‼」


 近衛隊長は震える僕を見て、肩を掴んで何か言っていたが、僕はあの子供から目が離せなかった。


 まさか、帝国にまで僕を殺しに来たのか⁉

 いや、それも当然だ。

 奴にとって僕はこの世界で唯一の天敵。

 僕かあいつか、生き残った者だけがこの世界を支配できる。

 奴が僕の息の根を止めに来ないわけがない。

 僕だったら絶対にそうする。


「無理だ……まだ奴には勝てない……‼ 逃げないと殺される……っ‼」


 僕は気配を殺し、近衛隊長が止めるのを無視して、全力で帝都へと駆け戻った。

 

 僕に与えられた自室に駆け込み、僕は一番奥の寝室に立てこもる。


 いくら奴が強くても、この皇帝の城の襲撃はためらうのではないか。

 万が一攻撃してきたとして、帝国兵は反撃するだろうし、この城の奥にある部屋に到達するまで少しは時間がかかるだろう。

 帝国兵たちが盾になっている間に、僕は裏口から逃げればいい。


 僕はシーツを被り、ベッドの上で震えながら耳を澄ませる。

 すると、パタパタと軽い足音がして、扉を開けようとノブを回す音がした。

 しかし、僕が鍵をかけていたので、ガチャリと重い音がする。


「勇者様? 大丈夫ですか?」


 扉の向こうから聞こえたのは、サーニアの声だ。


「来るな! 誰にも会いたくない!」

「……申し訳ありません。承知いたしかねます」


 開けますね、と断りを入れ、サーニアは城のマスターキーで扉を開け、部屋に入ってきた。

 僕は、シーツを被って震える無様な姿をサーニアに見られて、カッとなる。


「来るなと言っただろう!」

「っ!」


 僕が投げたグラスがサーニアの後ろの扉に当たって砕けたが、サーニアはグッと硬直しただけで、部屋から出ようとはしない。


「勇者様。この私に、何があったかお話しくださいませ」


 サーニアは、いつものような笑顔を浮かべ、穏やかな声で僕に語りかける。

 ゆっくりと部屋を横切り、サーニアは僕の隣に座った。


「何をそんなに怯えていらっしゃるのです? 勇者様ほどお強いお方が」


 サーニアは、そっと僕の手に手を重ねて、包み込むように握る。


「恐れることはありません。このサーニアがついております」

「……っ」


 サーニアは、ニコッと柔らかな笑みで僕を見つめた。

 僕は、戦力的には何の助けにもならないと分かっているのに、このサーニアの笑みを見て、身体の力が抜けてしまう。


 思わず縋りついて泣き出したくなる衝動を必死にこらえて俯いていると、サーニアは僕の背中に手を回して、僕を包み込んでくれた。


「大丈夫です、勇者様。すべて上手く行きますわ。私にお任せください」

「サーニア……」


 僕は目を瞑り、サーニアに体重を預け、柔らかい感触に包まれる。


 この時の僕は、恐怖のあまり見落としていたんだ。

 サーニアの瞳の奥にある、鈍くギラギラとした野望に満ちた光を。


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