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英雄の孫は今日も最強  作者: まーびん


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14/19

第14話  初ダンジョンは急展開

毎週金曜更新の予定……です……多分。

【ガストール】


「ふふふ……ふふふふ……」


 魔法師団本部の廊下を、私はこの上ない上機嫌で歩く。

 気を抜くと、年甲斐もなくスキップでもしてしまいそうだ。


「れ、レッドラン師団長……? どうかされたのですか……?」

「おや、聞きたいですか? 聞きたいんですね? 仕方ありませんねぇ!」


 私は通りすがりの部下に話しかけられ、今日何十回目かの自慢をする。

 胸ポケットから取り出した小さい袋が、今日の私の上機嫌の理由だ。

 大切な大切なその小袋には、私が時間停止の魔法を厳重にかけてある。


「見てください! このクッキー! 私の孫のロイ君が、始めて稼いだお金で買ってくれたんですよ! なんて祖父想いの孫でしょう!」

「そ……それは……よ、よかったですね……!」


 部下はなぜか引き気味に頷き、さっさと行ってしまう。

 これから、ロイ君のすばらしさ可愛さを小一時間語ろうと思っていたのに、忙しない連中だ。

 

 まぁ、そんなことはどうでもいい。

 私は、ロイ君がくれたクッキーの袋を大事に胸ポケットにしまい、またルンルン気分で廊下を歩く。


 先日の魔法学園での臨時講師の折に、ロイ君が特注の杖を買ったと聞いて、私は嬉しかった。

 が、同時に、少しだけ悲しい気持ちにもなった。

 だって、ロイ君は初めて稼いだお金で私にクッキーを買ってくれると言っていたのに、その約束を忘れてしまっているのでは、と思ったからだ。


 いや、別に!

 ロイ君が自分の欲しい物にお金を使うのは、全く問題ないことだけれども!

 むしろ、祖父としては、ぜひそうしなさいと促してあげたいけれども!

 ただ、少しだけ悲しんでも仕方がなかったと思うのだ。


 しかし、ロイ君は私との約束を覚えてくれていた!

 ギルドで稼いだお金は、杖の代金に充てていなかったのだ!

 臨時講師の件で会った日に、ロイ君はミランダちゃんのお店のクッキーを買い、私の所まで持ってきてくれていたのだ!


 ただ、ロイ君がポケットから取り出した袋は、少しクシャッとしていて、中身が粉々になっていた。

 ロイ君もその事に気がついたようで、ちょっと焦ったように私を見上げていた。


 いやむしろ、そこで焦るロイ君が可愛い!

 粉でも何でも、むしろその気持ちだけで紅茶3杯はいける!


 もちろん、私はそんな荒ぶる内心はおくびにも出さずに、スマートで頼れる祖父として、ロイ君を慰めてお礼を言った。


「またかってくるね! こんどは、ちゃんとはこにいれてくる!」


 と決意を新たにしていたロイ君の、何と健気でいじらしい事か……。

 あぁ、私の孫が世界一可愛い……‼


 ロイ君の顔を思い出して恍惚とする私に、後ろから声がかけられた。

 私に報告が届いたようだ。


 ん、これはヘレス師団長からだ。

 ロイ君たちに、何かあったのだろうか。


 その報告を読んだ私は、思わず絶叫していた。


「ルードルフーーー‼ 私に無断でロイ君と小旅行⁉ 初ダンジョンだと⁉ 許せん‼ あの筋肉馬鹿めーーーっ‼」


 こうなっては私もうかうかしていられない。

 今のままでは、ロイ君の中の頼れる祖父像が、ルードルフ > 私 にどんどん傾いてしまう!


 私は猛烈な勢いで廊下を走る。

 この先一ヵ月の仕事をさっさと終わらせ、長期休みをもぎ取ってやるのだ!

 

 待っていろ、ルードルフめ!

 ロイ君と初ダンジョンに潜るのはこの私だ‼



【ロイ】


 ルードルフ私兵団を立ち上げて、1ヵ月。

 子供たちの生活はほとんど整っていた。


 商人として働くミランダ姉ちゃんに紹介してもらい、婦人会の子育てを終えた有閑夫人に、料理や子供たちの世話を依頼した。

 ありがたいことに、元々シスタ教があまり浸透していなかったターセル子爵領の夫人たちは、子供たちを劣悪な環境に置くわけにはいかないと、こぞって協力してくれた。

 亜人だからと差別するような声は、まるで聞こえなかった。

 祖父ちゃんは領民たちに絶大な支持を得ているから、その祖父ちゃんの私兵団という触れ込みもかなり効果的だったと思う。


 その他にも、ミランダ姉ちゃんは、友達と一緒に自ら教鞭を取り、休日に子供たちに読み書き計算を教えている。

 ついでに有望そうな子には商人への勧誘なども行っているようだ。

 相変わらず抜け目がない。


 ミランダ姉ちゃんは、更に町長にまで話を通し、子供たちでもできそうな仕事を斡旋してくれるように渡りを付けていた。

 そこから、徐々に自分たちで生活費を賄えるようにしていくんだそうだ。

 将来、祖父ちゃんの報奨金が無くなっても運営して行けるように、との計らいだろう。


 成人前にしてこの立ち回り、この人脈の広さ。

 ミランダ姉ちゃん、その内大商会でも開いて、地元の名士にでも成り上がっていそうだな。


 しかし、たった1ヵ月では、子供たちの体調はまだ万全ではない。

 長い間栄養が足りていなかった体には、十分な栄養と休息が必要になる。


 まぁ、俺は元々、この子たちを保護したかったのであって、戦闘に出したいわけではない。

 だから、毎日遊んで楽しく暮らしてくれればそれでいいのだが。

 ミランダ姉ちゃんも、そんな俺の意志を汲み取ってくれているようだ。

 祖父ちゃんは、俺とミランダ姉ちゃんが、ああでもない、こうでもない、と運営について頭を悩ませるのを、微笑ましげに見守っていた。


 しかし、それだけでは納得しない人物もいるのだ。


「何か仕事をお与えください、ロイ様! このフィニアス、何でもいたします!」


 フン、フン、と鼻息荒く俺に迫るのは、エルフのフィニアスだ。

 フィニアスは、外傷を祖母ちゃんの回復魔法で治してもらい、さらに欠損を俺が治したので、見た目にはすっかり健康体だ。

 失った目も治っている。

 最初は汚れて分からなかったが、フィニアスはプラチナブロンドの長い髪をしていて、淡い黄緑の目も涼やかで、20代前半のイケメンと言った感じだ。

 実は、フィニアスは婦人会の奥様たちからも密かに人気があるのだが、本人は知らない。


 フィニアスは元奴隷と言う話だったし、何もせず休んでいるのが落ち着かないのだろう。

 突然与えられた自由を持て余しているのか、それとも、働いていない時間が後ろめたいのかもしれない。

 俺たちに恩義を感じているようだから、なおさらだ。


 でも回復魔法では、栄養失調までは治せないし、心の傷も治せない。

 フィニアスだってまだ本調子ではないはずだ。


「じゃあ、まずはげんきになってね。しごとはそれからね」

「いえ! すでに十分元気です! 働かせてください!」


 俺が宥めても、フィニアスは、自分の存在価値を証明したがるように、頑なに俺に頼み込む。

 仕方ないから、何か簡単な家事でも頼もうかな、と思っていると、そこにミランダ姉ちゃんがやってきた。


「ちょっと、貴方!」

「はっ、はいっ! ミランダ様!」

 

 フィニアスが胸に手を当て敬礼すると、ミランダ姉ちゃんは腰に手を当ててぷりぷり怒る。


「いいこと! 貴方が休まなければ、子供たちも落ち着いて休めないのよ! 仕事はそのうち必ずしてもらうのだから、今は体を休めなさい! 貴方が子供たちにお手本を見せないでどうするの!」

「も、申し訳ありません……!」


 叱られてワンコのようにしょぼんとするフィニアスに、ミランダ姉ちゃんは思わずクスクス笑う。


「その気持ちは大事よ。でも、焦ってはいけないわ。貴方の力が必要になったら必ず声をかけるから、その時はよろしくね」

「はい! お任せください!」


 フィニアスが耳をピンと立て、尻尾を振っているのが見える気がする。

 フィニアスの扱いは、ミランダ姉ちゃんに任せておいて良さそうだ。

 すでに尻に敷かれてるっぽいし。


「はぁ……ロイのお姉さまって、かっこいいのね……」


 俺の後ろで感心したようにため息を吐いているのは、カテリーナだ。

 カテリーナは、俺がまた何か始めたと聞いて、視察という名目でターセル子爵領に入り浸っている。

 国王の推薦付きだそうだ。

 いや、止めろよ。

 一国の姫が、いつまでも辺境の貧乏領をうろうろしていていいのか。


 ミランダ姉ちゃんはカテリーナに気付き、こっちにやって来る。


「貴族の令嬢なんて、将来は夫の添え物扱いでしょう? 私はね、平民として自分の力で身を立てたいの! 自分の実力がどこまで通じるか、試してみたくなるじゃない?」

「自立した女性、憧れますわ……!」


 カテリーナはアイドルを前にしたような、うっとりした目でミランダ姉ちゃんを見つめる。


「お姉さまと呼ばせてくださいませ!」

「もちろんですわ、カテリーナ様」


 ミランダ姉ちゃんはカテリーナの手を取り、何やら通じ合っている。

 ミランダ姉ちゃんたちの結託に、嫌な予感を覚えるのは俺だけだろうか……。



 とにかく、子供たちには、自立する術を学ばせつつ、健やかで健全な子供時代を過ごしてもらうつもりだ。

 もちろん、それには遊びも含まれる。


「めいよこもん! ボール投げて~!」

「めいよこもん! かくれんぼしよー!」

「いくよ~!」


 最近、午後になると、俺は子供たちに交じって遊んでいる。

 いや、遊んであげているのだ。

 俺の中身は大人だから。

 名誉顧問だぞ、名誉顧問。


「さいしょにあのきまではしったひとのかちね!」


 俺は、皆に合わせて身体強化魔法を封印し、身体の力だけで走る。

 子供だけできゃあきゃあと走ると、俺は後ろから2番目になった。

 悔しくなどない、手加減をしたのだ!

 俺はまだ3歳だから、大きくなれば足なんてすぐに速くなるんだ!

 多分……!


 子供たちは全員で9人で、エルフが1人、ドワーフが2人、獣人が5人、竜人っぽい鱗がある子が1人だ。

 皆、まだ10歳にも満たないが、ちょっとだけ魔法が使えるらしい。

 でも、種族によって得意な属性に偏りがあるらしく、俺たちは時々魔法を見せ合って遊ぶ。

 もちろん、無理のない範囲だが訓練を兼ねている。

 

 しかし、最近俺はある事実を悟った。

 俺は、初期魔法を教えるのが絶望的に下手だった。

 俺は感覚で魔法を使いすぎているから、今更、出来ない所から教えるっていうことになかなか立ち返れない。

 何でできないかが分からないからだ。

 カテリーナに教えた時は、すでに基礎がしっかりしていたから、応用から教えればいいので困らなかったのだが。


 しかし、そんな俺の悩みを解消してくれたのは、母上だった。

 母上は、ガストール祖父ちゃんの娘だけあり、魔法の基礎がめちゃくちゃしっかりしていて、子供たちに一から魔法を教えるのも上手だった。


 と言うか、始めて知ったんだけど、母上は嫁いでくる前は伯爵令嬢だったらしい。

 母上にちゃんとした教養があるのは感じてたけど、まさか伯爵令嬢がこんな元貧乏男爵家に嫁いだなんて思わないし。

 てことは、ガストール祖父ちゃんは伯爵位を持ってることになる。


 俺がちょっと母上に聞いた話では、ガストール祖父ちゃんは元々侯爵家の出身で、親の跡目を継がず一代で武功を上げ、伯爵位にまで登り詰めたらしい。

 その過程で、ルードルフ祖父ちゃんの功績を高位貴族から押し付けられる形になってしまい、上に抗議したものの黙殺され、ルードルフ祖父ちゃん本人に言ってもまともに取り合われず、そこから祖父ちゃんたちは険悪な仲になったという話だった。

 いや、祖父ちゃんたち、十分仲いいと思うけど。

 喧嘩するほど仲がいいっていうし。


 とにかく、子供たちの教育は順調に滑り出した。

 後は、俺が身体強化とか戦い方を教えれば、読み書き計算、魔法、肉弾戦と、何でもこなせる人材が育つはず。

 あの子たち、将来の職は選び放題になるかもしれない。

 楽しみだな。



 そんなこんなで忙しい日々を送っていると、ガストール祖父ちゃんがターセル子爵領を訪ねて来た。

 客室で待っているという話を聞き、俺はルードルフ祖父ちゃんと一緒に部屋に駆け込む。


「ロイく~ん! 誕生日おめでとう~‼」


 ガストール祖父ちゃんは、俺を見るなり、デレデレの笑顔を浮かべる。

 俺はパッと顔を輝かせ、ガストール祖父ちゃんの腰に抱き付いた。


「ガスじいじ! おれのたんじょうびおぼえてたの⁉」


 そう、俺は今日ついに4歳になったのだ!

 不思議とちょっと偉くなったような気がする。


「ロイ、ワシだって覚えておったぞ!」


 ルードルフ祖父ちゃんは、対抗するように宣言する。

 うん、ルードルフ祖父ちゃんにはおはようの後に誕生日を祝ってもらったもんね。


「それで、ロイ君にすごいプレゼントを用意したんですよ!」


 ガストール祖父ちゃんは、ニッコニコで小さい箱を差し出す。


「ぷれぜんと⁉」


 俺は、待ちきれないように飛び跳ねながら、箱を受け取った。

 父上が何か不安そうな顔をしているが、ガストール祖父ちゃんは俺の趣味をよく分かっているので、プレゼントを外す事などないはずだ!

 俺は、急いで箱を開け、中を覗き込んだ。


「かみ?」


 入っていたのは紙一枚で、俺はその文字を読んでみる。


「つうこうしょう?」

「はい! エルンサルド王国への通行許可証です!」

「はい⁉」


 父上は、驚いたように身を乗り出した。


「エルンサルドに行くのですか⁉ き、危険では⁉」


 ついこの間まで戦争してた相手だから、そう思うのは当然だよね。

 でも、ガストール祖父ちゃんはニコニコと父上に説明する。


「大丈夫です。エルンサルド王国は、我が国と同盟を結びましたから」


 首を傾げる俺に、ガストール祖父ちゃんは説明する。


「エルンサルドの更に東に、バルバス王国という国があるのですが、バルバス王国は我が国と同じく対帝国同盟に加盟しています。この間、エルンサルドがちょっと悪さをしましたね? それで、エルンサルドを挟む我が国とバルバス王国で、圧力をかけたのですよ」


 つまり、武力をちらつかせて無理やり対帝国同盟に加入させたんだな。


「そうでもしなければ、勇者を失ったエルンサルドが帝国に乗っ取られるのは時間の問題でしたからね」


 ガストール祖父ちゃんは、やれやれ、と言うようにため息を吐く。

 

「同盟国になったから、通行許可が出るのは分かります……。が、危険ではないのですか? 元敵国民だと襲われたりは……。いや、お義父上やロイを害せるとは思えませんが……」


 父上は、同盟云々は知っていたようだが、そもそも問題はそこではない、と考えているようだ。


「それに、プレゼント、と言うことは、ロイを連れて行くのですよね?」

「えぇ、ロイ君もきっと行きたいはずですから」

「?」


 俺は、エルンサルドに特に興味はないが?

 と思っていると、ガストール祖父ちゃんの口から、重大な事実が語られる。


「エルンサルドには、世界最古のダンジョンがあるのですよ!」

「いく! ぜったいいく‼」


 俺は目を輝かせ、ガストール祖父ちゃんの膝によじ登る!

 前回初ダンジョンを逃して悔しい思いをしたばかりだ!

 それが、世界最古のダンジョンにリベンジマッチだと⁉


「ガスじいじ、すぐいこう‼ はやくいこう‼」

「もちろんですよ! ロイ君を初ダンジョンに連れて行くのは、この私ですからね‼」

 

 ガストール祖父ちゃんは、ルードルフ祖父ちゃんをちらりと見て嘲笑する。

 ぐぬぬぬ、と悔しげなルードルフ祖父ちゃんは、負けじと身を乗り出して参戦した。


「わ、ワシも行くぞ! 貴様だけに任せておけるか‼」

「いいえ、貴方は留守番でもしていなさい‼」

「だめだよ、ぜんいんでいかないと‼」


 俺は二人の喧嘩に割って入り、フンス、フンス、と鼻息を荒くして目を輝かせる。


「だんじょんは、ぼうけんしゃのろまん! ぱーてぃでこうりゃくするの!」

「おぉ!」

「『じいじと孫』パーティの出番ですか!」

「何です、そのパーティ名は……」


 と父上は天井を仰いだが、俺たち3人は、久々の冒険者活動に胸を高鳴らせるのだった。



 俺と祖父ちゃんたち3人は、すぐに身支度を整え、エルンサルドに出発した。

 あまりの準備の速さに、母上は呆れたような白い眼を向けていたっけ。

 でも、好きな物には全力になってしまうのは仕方がない。

 せっかくの誕生日プレゼントなんだし。


 白竜ディアナのおかげで、二日後にはエルンサルド国内に到着。

 この日は宿に一泊することにして、翌朝、念願のダンジョンに向かった。


「ようこそ。ここは『白亜の迷宮』と呼ばれるダンジョンです。古代遺跡がダンジョン化したと言われていますが、どの文明のものかは解明されておりません。白亜の迷宮は世界最古のダンジョンと言われ、かつては勇者もこのダンジョンに―――」


 受付のお姉さんに冒険者ライセンスを見せ、このダンジョンの説明や注意事項を聞く。


 人工物由来のダンジョンってことは、宝箱がざっくざくのはずだ!

 強い武器とかアイテムバッグとか、ポーションとか!

 金銀財宝でもいい!

 夢があるなぁ!


 俺がそわそわして入場許可を待っていると、ガストール祖父ちゃんが俺を振り返る。


「今回得たアイテムは、私の分は全てロイ君にプレゼントしますからね」

「えっ⁉ でも、いいの⁉」

「はい。それも誕生日プレゼントですから」

「ふおおぉぉぉ‼」


 ガストール祖父ちゃんが太っ腹すぎる!

 今俺の目には、ガストール祖父ちゃんが今世一輝いて見える!

 俺がこの上なく目をキラキラさせていると、ルードルフ祖父ちゃんも慌てて対抗する。


「待て! ワシの取り分だって、ロイにプレゼントするぞ! 全てロイが取るといい!」

「ほんと⁉ やったぁ!」


 姫プか!

 新手の姫プなのか!


「え、えぇと……説明は以上ですね……」


 受付のお姉さんは、俺たちのやりとりに苦笑いして、スタンプを押した通行許可証を差し出す。

 俺は卒業証書でも受け取る時のように、恭しく両手でそれを受け取り、颯爽とダンジョンへと歩き出した。

 さぁ、探すぞ!

 待っていろ、レアアイテム‼



 白亜の迷宮第一階層は、迷路地帯となっていた。


 足を踏み入れると、結構人が居る。

 ダンジョン内で冒険者同士で争うことは表向き禁じられているので、皆思いのほかのんびりと探索をしているようだ。


「迷路か……壁をぶち破ってはいかんのか?」

「はっ、これだから脳筋は! ダンジョン攻略の風情がないのですよ!」


 風情うんぬんより、普通に怒られそうだ。

 俺の後ろで祖父ちゃんたちがやり合っているが、俺はワクワクに胸を高鳴らせながらどんどん歩いて行く。


「あった! たからばこだ!」


 しばらく歩いて角を曲がると、行き止まりの通路に赤い宝箱があった。


「おれがあけるから! みててね!」

「し、慎重に、ロイ君!」

「気を付けるのだぞ!」


 ダンジョンの宝箱からは、突然毒が噴き出すかもしれないし、落とし穴に落とされたり、矢が飛んでくるかもしれない。

 トラップがつきものなのだ。

 それに、ミミックの可能性だってある。

 大丈夫、俺も油断をするつもりはない!


 俺はいつでも防御魔法を張れるように構えながら、慎重に宝箱を開けた。

 何も起こらない、この宝箱にトラップはなかったようだ。


「これは……」

「うむ……」


 祖父ちゃんたちは中を覗き込み、戸惑うように目を見交わせる。


「ませきだ」


 宝箱の中から現れたのは、紫色の小さな魔石。

 クズ魔石と呼ばれる、最も価値の低い魔石だ。

 プルプルと身を震わせる俺に、ガストール祖父ちゃんは慌てて声をかける。


「ろ、ロイ君! まだ一つ目ですし! この後きっとすごいアイテムが……」

「やったぁーーー‼ はつあいてむだ‼」


 俺はガストール祖父ちゃんが言い終わる前に、その場で両手を突き上げて歓声を上げた。


 俺の人生初めての宝箱!

 冒険者としての偉大な一歩だ!


「みて! おれがみつけたませき! きれいでしょ!」


 俺は魔石を頭の上に掲げ、祖父ちゃんたちに見せる。

 値段なんて問題じゃない。

 初めて開けた宝箱から出た、と言う、俺の歴史に残る代えがたい価値があるのだ。


「これ、ははうえにあげようかな! よろこんでくれるかな!」


 祖父ちゃんたちは、俺が落ち込んでいないのを見て、ほっと笑顔になる。


「えぇ、きっとすごく喜んでくれますよ」

「記念の品か。他と混ざらぬよう、大事に持って帰らなければならんな」


 ルードルフ祖父ちゃんの言葉に、ガストール祖父ちゃんは、そうだ、と手を打った。


「私のアイテムバッグに、このダンジョンの戦利品を収納していきましょう。他の物は入っていませんから、混ざることはありませんよ」


 それは、ガストール祖父ちゃんがシャルロット祖母ちゃんから貰った、すご~くお高いアイテムバッグらしく、倉庫ぐらいの容量があり、時間停止機能と重量大幅軽減機能までついているらしい。

 めっちゃ欲しいな、そのアイテムバッグ!

 しかし、そう言うのは自分で手に入れてこそ意味があるのだ!


 ガストール祖父ちゃんは、他の魔石と混ざらないように最初の一個だけを小袋に入れ、アイテムバッグにしまう。

 そのまま、ガストール祖父ちゃんは、俺とルードルフ祖父ちゃんのリュックも預かってアイムバッグにしまった。


「私は肉弾戦をするつもりがありませんから、荷物持ちも兼ねましょう」


 ガストール祖父ちゃんはそう言ってくれるが、氷瀑の大魔導士に荷物持ちをさせちゃうなんて、部下が見たら卒倒するかもしれないな。

 でも、ここはお言葉に甘えよう。

 なにせ、ここは危険と隣り合わせのダンジョンだ。

 前衛の俺とルードルフ祖父ちゃんが自由に動けなくては、いざという時困ってしまう。 


 俺は、浮かれ気分をちょっと引き締めて、また歩き出した。


 第一階層の迷路は、うろうろと歩いているうちに、何とかクリアできた。

 途中、俺はちょっと迷ったが、祖父ちゃんたちは口を挟まずに見守ってくれていた。

 多分、祖父ちゃんたちだけなら最短でクリアできていたかもしれないが、そこは誕生日プレゼントだから、大目に見てもらおう。



 そして、第二階層。

 ここは、ジャングルになっていた。

 湿度も熱気もあり、空と太陽まで見える。


 さすがダンジョン! 

 常識など通じないな!

 それでこそロマン! 

 ロマンの塊だ!


「だんじょんすごい!」


 俺は、外のような景色に興奮しながらずんずんと歩く。

 俺、今、すごく冒険者してない?


「ロイ!」

「わぁっ!」


 ルードルフ祖父ちゃんが、猫の子を掴むように俺の襟をつかみ、後ろに引いた。

 うわ、足元に毒沼があった……!


「危険ですね……、ここは、私がロイ君を抱っこしていきましょうか」

「いや、ワシが肩車して行こう」

「いえいえ、貴方は前衛でしょう? ここは後衛の私が……!」

「いや、前衛同士として、ワシが……!」

「おれ、じぶんであるけるから」


 俺は祖父ちゃんたちの手を断り、慎重に歩く。


「ロイ君、この階層は毒が多いようですが、毒は解毒ポーションでないと治せないので、気を付けてくださいね?」


 祖父ちゃんたちは、ハラハラしながら俺を見守っていた。

 はじめてのお使いじゃないんだから……。


 ガストール祖父ちゃん曰く、回復魔法で毒を解毒するのは難しいらしい。

 マリアンヌ祖母ちゃんほどの使い手ならば、血液中の毒を一か所に集め、瀉血させることで、体内の毒をある程度取り除くことも可能らしいのだが、一般的な回復魔法士では不可能だそうだ。

 俺はそれを聞いてちょっと試してみたくなったが、危険すぎると猛反対されそうなのでやめておいた。


 この第二階層は、毒沼や毒棘植物、毒魔獣などが多く、麻痺や睡眠、溶解、継続ダメージなどの、いろんな毒があった。

 といっても、実際に身体で試したわけじゃない。

 ガストール祖父ちゃんが鑑定魔法で調べてくれたのだ。

 俺も早く鑑定魔法を使いたいが、鑑定魔法には審美眼が必要なので、長年にわたり美術品や骨とう品で目を養うなど、独特の鍛錬が必要になる。

 4歳児で貧乏貴族の3男の俺では、まだ使いこなせそうにない……。

 カテリーナなら、もうちょっと鑑定魔法が使えるのかもしれないが。


 この過酷な毒階層の宝箱からは、いろんなポーション類が出た。

 体力を回復するもの、疲れにくくするもの、攻撃力を上げるものまである。

 解毒ポーションも沢山あった。

 第二階層クリアのための救済措置になっているのかもしれないな。


 俺と祖父ちゃんたちは、足元に気を遣いながらゆっくりペースで第二階層を走破した。



 そして、続く第三階層。

 ここは、打って変わってカラッと乾燥した砂漠地帯だった。

 日差しが暑い……。


 この階層には、何故か他の冒険者たちが沢山いた。

 第二階層にはあんまりいなかったのに。

 その理由は、宝箱を開けていくと分かった。


「ほう、この階層は武器防具の宝箱が多いのですね。アイテムの換金率が高いから、冒険者たちがこの階層に集まっているようです」

「なるほどな。しかし、その分競争が苛烈になっておる」


 宝箱を巡り、小競り合いをしている所などもたまに見かけるし、治安は悪そうだな。


「ロイ君、こんな教育に悪いところはやめて、さっさと次の階に……」

「あのたからばこっ! おれがとるのっ!」


 俺は、冒険者たちの競争に乗り遅れまいと、見つけた宝箱めがけて走る。

 火事と喧嘩は冒険者の華だ!

 それに、換金率の高いアイテムは俺も欲しい!


「フフン、貴様だけ先に行ってもいいのだぞ?」


 ルードルフ祖父ちゃんも、負けじと俺に続く。

 ガストール祖父ちゃんは、やれやれ、とため息をつきながら、ゆっくりと俺たちの後に続いた。

 でも結局、ガストール祖父ちゃんも遅れて本気を出していたので、争奪戦の魔力って恐ろしい。


 そして、第四階層に続く入り口が見えてきたところで、別の冒険者グループが俺たちの方に走り寄ってきた。

 いや、あれは何かに追われているな。

 大きい砂埃が見える。


「ルーじいじ!」

「おう!」


 ルードルフ祖父ちゃんは仁王立ちになり、逃げてくる冒険者たちに目配せする。

 リーダーっぽい男の人が、感謝するように頷いた。

 そして、冒険者たちがルードルフ祖父ちゃんの横を走り抜けると、地面の下から巨大なムカデのようなものが頭をもたげた。

 サンドワームだ。

 デカい、頭だけで2メートル以上はありそうだ。


 サンドワームは大口を開け、ルードルフ祖父ちゃんに躍りかかる。

 しかし、ルードルフ祖父ちゃんは避けることはせず、右手を引いて、力を溜めるように構えた。

 そして、サンドワームの頭が祖父ちゃんに届く瞬間、右手を振り切ってサンドワームの頭を吹き飛ばす。


 サンドワームの頭に祖父ちゃんの拳が触れた瞬間、ボッ! と空気が爆発したような音と共に、サンドワームの頭が衝撃を受けて弾け飛んだ。

 いや、人間業じゃねぇ……何今の……。


「見たか、ロイ! ワシの新たな必殺技を! この一撃なら、勇者をも上回ろうぞ!」


 ルードルフ祖父ちゃんは、得意げに俺たちを振り返る。

 俺は、魔力の流れが見えるから、ルードルフ祖父ちゃんがやった非現実的なことが理解できた。

 ルードルフ祖父ちゃんは、パンチの一瞬、全身の身体強化を右こぶしに全て凝縮させ、サンドワームを殴ったのだ。

 そして、次の瞬間にはまた全身に戻していた。

 離れ業すぎるし、危険すぎる。


 身体強化魔法は、攻撃力だけでなく防御の強化も兼ねている。

 つまり、拳に身体強化を凝縮させるということは、他の守りを全部捨てるということになる。

 それを、戦闘の合間の一瞬で成立させるなんて、化け物でしかない。 

 身体強化魔法を常時発動して鍛錬している、ルードルフ祖父ちゃんにしかできない荒業だ。

 俺だって、やろうと思えば多分ゆっくりしか身体強化を移動させられない……。


「貴方ねぇ……」


 ガストール祖父ちゃんも、さすがに呆れ果てている。

 

「はぁ。今の技……ロイ君が強化した右腕だからこそできる芸当ですね」

「うむ」


 ルードルフ祖父ちゃんは右手の拳をぐーぱーして、具合を確かめる。


「今の技を前の身体で行っておれば、拳が砕けていたであろう」


 え、そうなの?

 

「身体強化していても、あの威力の反動は魔法で保護しきれないのですよ。だから、絶対に真似してはダメですよ? ロイ君の可愛いお手々に何かあっては大変ですから」


 そりゃあ大変だ……。

 うん、真似しないでおこう。

 俺は自分の両手をそっと後ろに隠した。

 

 助けた冒険者たちは、祖父ちゃんの強さにビビり散らしながらも、ヘコヘコと頭を下げて去っていった。

 お礼にポーションをたくさんくれたので、俺はほくほくだった。



 そして、第四階層。

 ここは見渡す限りの雪原地帯だ。

 砂漠からの寒暖差で風邪ひきそう。


 この階層は、中~上位魔石が宝箱から多く出る。

 俺の腕輪の魔石には敵わないがな!

 ビックリするぐらい高かったんだよ、これ……。 


 このダンジョンは全部で五階層で、五階はボス部屋らしいから、探索ができる階層は実質この階までってことになる。

 さぁ、宝箱宝箱!


「むむ……」


 変わらずウキウキの俺と違い、ガストール祖父ちゃんはさっきからちょっと不機嫌で、ずっと愛用の金杖を握りしめている。

 ルードルフ祖父ちゃんが活躍したのが面白くないんだろうな。

 俺が、「まねできない!」「すごい!」ってルードルフ祖父ちゃんを褒めたから、それからすっかり拗ねているのだ。


「私だって……私だって新しい方法を思いついたのに……!」


 ガストール祖父ちゃんは、ぶつぶつと呟きながら後をついて来る。

 なら、早速見せてもらいたいな。


「ガスじいじ、なにかくるよ?」

「お!」


 前を見ると、岩山の影から、巨大なユキヒョウのような魔獣が飛び出してきた。

 いや、サーベルタイガーか?

 二本の大きい牙が口から突き出している。


「ふふふ、私の出番のようですね!」


 ガストール祖父ちゃんは、意気揚々と前に進み出る。


「氷瀑と呼ばれる私の実力を、見せてあげましょう」


 おぉ!

 俺も見たことのない、ガストール祖父ちゃんの必殺技か!

 ガストール祖父ちゃんは、『フローティング』という高度な魔法で宙に浮きながら、杖を天にかざす。

 脳内では、『無詠唱魔法』で呪文を唱えているのだろう。

 すごく大魔導士っぽい!


 ガストール祖父ちゃんの背後に氷雪が集まり、その塊がどんどん大きくなっていく。

 そして、雪崩を打ったように決壊し、サーベルタイガーを飲み込んだ。

 まるで雪で出来た滝みたいだ!

 これが氷瀑!


 雪崩はいつまでも収まらず、辺り一面を雪で押し流し、覆い尽くす。

 2キロ平方メートル以上の範囲を、4メートルを超える雪崩が襲う。

 確かに、対軍隊でこれができれば強いだろうな。

 

「貴様、以前より攻撃範囲が増しておるではないか」


 ルードルフ祖父ちゃんは、渋々という風に、一応褒める。

 ガストール祖父ちゃんはスーッと滑るように降りてきて、胸を張った。


「フッ、まぁ、研究の成果ですよ」


 ガストール祖父ちゃんは、自分の首に下げていたペンダントを取り出す。

 それは、空洞のガラス球に液体を閉じ込めたようなものだった。


「実は、新しい触媒を開発しましてね。『魔力を溜める』触媒なのですが」

「魔石とは違うのか?」

「魔石にも、多少は魔力を溜められます。この触媒の材料の一つでもありますしね。ですが、この触媒は、魔石の比ではないほどの魔力を溜められるのですよ」

「つまり、ためておけば、じぶんのまりょくじょうげんいじょうのまほうがつかえるの?」

「そうです!」


 だから、ガストール祖父ちゃんの氷瀑の威力が上がったのか。


「ロイ君、『重複詠唱魔法』が、誰にでも有用でない理由が分かりますか?」

「うん。まりょくりょうがすくないひとは、じゅうふくできないからでしょ?」

「そうです。人によっては、魔力量自体が大魔法の発動に満たない場合もありますし、そう言う人が『重複詠唱魔法』を使えたとしても、大して威力の底上げにはなりません。自分の魔力量を超える魔法発動はできないですからね」

「でも、それがあれば、かえられる?」


 そうです! と、ガストール祖父ちゃんはペンダントを掲げて見せた。


「日ごろから、自分の魔力をこの触媒に溜めておけば、実戦で大魔法を使うことも不可能ではありません!」

「すごい! かっきてき!」


 俺はパチパチと手を叩き、感心する。

 俺の祖父ちゃん、二人とも天才過ぎないか。

 

「おれのじいじは、ふたりともすごい!」


 チートであるはずの俺にも真似できない、経験の積み重ねと、創意工夫。

 そしてそれを可能にする天才的なセンス。

 俺が本心から褒めちぎると、祖父ちゃんたちはデレッデレの顔で頭をかく。


「そうですか? いやいや、他の人ならともかく、ロイ君に褒められると恐縮ですねぇ♪」

「ま、まぁ、ロイはワシの弟子だからな。師匠として、これぐらいの威厳は見せんとなぁ♪」


 それから、祖父ちゃんたちはクレバスに嵌っても魔獣に襲われても上機嫌で、終始ニコニコして第四階層を突破したのだった。



 第五階層、ボス部屋。

 ここが最後の階層だ。

 この階層は一つの大きな部屋になっていて、そこでボスが待ち構えている。

 俺と祖父ちゃんたちは慎重に部屋の扉を開け、ボスを見つけた。

 このダンジョンのボスは複数の種類から抽選で決まるらしいのだが、俺たちが遭遇したのはキマイラだった。


「キマイラは、物理攻撃を繰り出す獅子と、魔法攻撃を繰り出す山羊と、毒を吐く蛇の尾が一体になった魔獣ですね」

「では、ワシが獅子をやろう」

「では私は山羊を」

「じゃあおれはへび……」


 祖父ちゃんたちの分担と比べてちょっと敵の小物感が否めないけど、回復魔法を使える俺が蛇担当ってのは、まぁ、アリか。


『グルオオオォォォ‼』


 キマイラの獅子の頭が咆哮をする。

 魔力のこもった咆哮で、並の冒険者なら竦んで身動きを封じられるところだ。

 だが、もちろん俺たちにそんなものは効かない。


「喰らえ!」


 ドゴォ! とルードルフ祖父ちゃんの拳の一撃で、瓦礫を飛び散らせながら獅子の頭が地面にめり込む。


「『サンダーレイン』!」


 同時に、ガストール祖父ちゃんの魔法で山羊の頭を雷が直撃した。


「わっ! わっ!」


 ちょ、ちょっと待った!

 まだ俺が戦ってないのにキマイラが死んじゃう⁉

 見て、フラフラしてるじゃん!

 せっかくの初ダンジョンボスなのに‼


「えっと! えっと! 『『『グレイプニル』』』‼」


 俺の魔法発動に合わせ、ゴゴゴ、と地面が揺れ、祖父ちゃんたちが慌ててキマイラから距離を取る。


「な、何だ⁉」

「ロイ君、この魔法は⁉」


 祖父ちゃんたちが驚く間に、地面から黒い鞭が何本も現れ、キマイラを捕縛した。


『シャアアァァァ‼』


 蛇の尻尾がのたうって毒を吐くが、闇属性の鞭がその口を締め上げ、毒を止めた。

 もがくキマイラを、鞭が包帯のようにぎちぎちに縛り上げ、そのまま地面に穴のように広がった闇に沈んでいく。

 あれ、闇属性のブラックホールに取り込まれた端から消滅してるんだよね。

 うわぁ、すごく悪役っぽい魔法になってしまった……。


「ろ、ロイ君のオリジナル魔法ですか……」

「何と凶悪……いや、強力な魔法だ……」


 言い直さなくていいよ、ルードルフ祖父ちゃん。

 俺もそう思うから……。

 軽い気持ちで作ったらこの仕上がり。

 闇属性、恐るべし。

 次はもっと明るい魔法にしよう……。


「まぁ……何にせよ、ボスは倒したようですね」

「そ、そうだな。早く宝箱を開けるぞ」


 さっきの魔法は人に向けないように、と、ちょっとしたお小言を貰いながら、俺と祖父ちゃんたちは、キマイラを倒したことで現れた部屋の奥の扉へと向かった。



 白亜の迷宮ダンジョン、第五階層、最奥の間。

 ダンジョンボスを倒した先に、初めて現れる小部屋だ。

 ここには、ボスを討伐した報酬の、最も豪華な宝箱がある。

 ……はず。


 緊張を滲ませ、最奥の間に足を踏み入れた俺と祖父ちゃんたちは、思わずほうとため息をついた。


 そこは、青白い光で浮かび上がった幻想的な小部屋で、手前には金の宝箱が一つあり、その奥では石柱が床に突き立っていた。

 石柱の下には魔法陣が描かれており、あれがダンジョン受付への転移陣となっているはずだ。


「たからばこ! かいしゅうしよう!」


 俺は本日初の金色宝箱に駆け寄り、嬉しくてぴょんぴょん跳ねる。

 最も豪華な宝箱! 

 さぁ何が出るのか!


 俺は、逸る気持ちを落ち着け、慎重に宝箱を開いた!


「……べると……?」

「2本ありますね」


 箱の中にあったのは、2本の皮のベルトで、小さいバッグのようなものがそれぞれに着いている。

 でも、こんなに小さいバッグじゃ、ポーションの瓶も入らないかもしれない。

 本当に、試験管一本ぐらいの容量しかないのだ。


「一体何の効果があるのだ?」


 ルードルフ祖父ちゃんも首を傾げ、箱をのぞき込む。

 ガストール祖父ちゃんは、早速鑑定魔法を使った。


「こ、これは……!」


 ガストール祖父ちゃんは、はっとして目を輝かせる。

 お、何だ、すごい物なのか!?


「これは、転送バッグですね! この二つのベルトは対になっていて、この小さいバッグに入れたものを、瞬時に相手に届けられるという仕様のようです!」

「しかし……ポーションも入らんぞ? ろくなものを送れんであろうが」

「えぇ、しかも、お互いに1日に1回しか物を送れないようです!」

「はずれか……」


 これは俺の引きが悪いのかな。

 俺ががっくりと肩を落とすと、ガストール祖父ちゃんはぶんぶんと首を横に振る。


「いいえ、これはすごい物ですよ! ロイ君!」


 ガストール祖父ちゃんは俺の手を握り、熱弁した。


「片方のベルトを私に下さい! もう片方はロイ君が! そして、毎日じいじと文通しましょう!」

「貴様が興奮しておったのはそれか……」


 ルードルフ祖父ちゃんが呆れるが、ガストール祖父ちゃんはくわっと目を剥く。


「貴方は毎日ロイ君に会っているくせに! 黙っていなさい! 私は、年に数回しかロイ君に会えないのですよっ‼」

「う、う~ん」


 ガストール祖父ちゃんの言い分は分かるけど、毎日手紙を書くのは俺には大変だ。

 っていうか、それって情報チートできる奴だよね?

 孫との文通に使っていい代物なんだろうか……?

 あれこれと悩んだ俺は、はしゃぐガストール祖父ちゃんを無下にするわけにもいかず、妥協案を出す。


「い、いっしゅうかんにいっかいなら……」

「本当ですか⁉」

「孫に気を遣わせるでない」


 澄ましてガストール祖父ちゃんを叱るルードルフ祖父ちゃんだけど、逆の立場だったらきっと同じことを言っていただろうな。

 想像できすぎる。


「いやぁ、ダンジョンに来てよかったですねぇ~‼」


 終いには俺よりほくほくしているガストール祖父ちゃんと、俺はおそろいのベルトを身に着けて、帰還のための魔法陣に向かった。


「だんじょんたのしかったね!」

「えぇ、とても大きな収穫がありましたしね!」

「ロイが望むなら、またすぐに来よう!」

「なっ! 私抜きでは来させませんよ!」


 なんて、俺たちは変わらない話をしながら、転移魔法陣に乗る。


 そして、俺はふと魔法陣の中央にある石柱を見て、固まった。



 え、嘘だろ……?

 何故、『あれ』がここに…………。


 俺の目に飛び込んできたのは、石柱に刻まれた『日本語』だった。


「『神を疑え』……?」


 俺は思わず、石碑に記してある通りに読み上げてしまった。


 次の瞬間、足元の魔法陣が赤く光り、視界が真っ赤になる。


「わっ!」


 俺は思わず腕で顔を覆い、ふわふわとした感覚に身体を揺らした。

 いや、身体が勝手に揺れているのか。


「………………っ⁉」


 少しすると、赤い光がすうっと引いて行き、次に視界が真っ暗になる。


 え、受付⁉

 帰ってきたのか⁉

 こんなに真っ暗だったっけ⁉


「ルーじいじ? ガスじいじ? いないの⁉」


 俺は混乱しながらも、光魔法で指先に灯りをともし、辺りを見回す。


 石壁の狭い部屋だ。

 足元には、魔法陣らしきものが刻まれているが、魔力を感じない。

 こちらからは機能しない、一方通行の魔法陣なのかもしれない。


 そして、ここには祖父ちゃんたちもいない。

 俺一人のようだ。

 

「なにがどうなって……」


 俺は、とにかく出口がないかと通路を歩き回り、ここがどうやら地下ではないかと考えた。

 どこにも窓がなく、真っ暗なのだ。

 そこで、俺は階段を見つけては、上へ上へと歩く。

 敵も味方もいない不気味な空間は、世界に俺一人になってしまったようで、すごく心細い。


 俺がついに半泣きになりそうな頃、ようやく上から差してくる光を見つけた。

 近づくにつれて、人ごみの喧騒も聞こえる気がする。


 石壁の隙間から、光が差し込んでいる。

 俺は急いでそこに向かって走り、石壁を殴って破壊する。

 どうやら、俺は壁の後ろの隠し通路にいたようだ。

 思わず壊してしまった、ごめん。


 通路を出た先には光が降り注ぎ、細い路地裏になっていて、横に目をやれば大通りを行きかう人々も見える。

 よかった、世界にはちゃんと俺以外の人もいた。


 俺はほっとしたが、すぐにヤバい現実を思い出す。


「じいじたちとはぐれた! それに、おれなにももってない!」


 俺の魔法用の腕輪はあるが、リュックも何もかもガストール祖父ちゃんに預けたままだ。


「じいじをさがさないと!」


 俺は、走って大通りに出た。

 そして、愕然とする。


 ここ、明らかにエルンサルドじゃない。

 白亜の迷宮ダンジョンの受付はおろか、エルンサルドの白い建築様式の街並みでもない。

 

 道行く人々の服装もなんだか見慣れないし、建築様式も、赤レンガと白漆喰を多用した見慣れないもので、俺が来たことのない町であることは確かだ。


 街の外壁には、ところどころに赤いタペストリーが吊るされ、金糸で鷲の紋章が刺繍されている。

 俺はこの世界を良く知らないが、少なくとも俺は見たことのない意匠だ。

 だから、モルグーネ王国のどこかでもないかもしれない。


 俺はとにかく現在地の情報が欲しくて、近くの露店で店番をしている、眠そうな男に話しかける。


「ねぇ、おじさん。ここどこ?」

「あぁ?」


 俺が尋ねると、店番の男は気だるげに背後のタペストリーを親指で示し、答える。


「見りゃあ分かんだろ? ここは帝都だ。ネヴィルディア帝国の帝都だよ」


「え―――」


 ここ、ネヴィルディア帝国なの…………?

 俺、敵国でひとりぼっち…………?


 俺は思わず言葉を失った。

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