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英雄の孫は今日も最強  作者: まーびん


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第11話  異世界転移勇者

毎週金曜更新の予定……です……多分。

【エルンサルド王国将軍】


 エルンサルド王国は、長い歴史に渡り、戦争に加担することなく中立を保ってきた国だ。

 しかし、最近のネヴィルディア帝国からの、経済的、武力的な圧力により、王国内では意見が割れた。

 対帝国同盟に加入せよと言う者や、軍事力の増強を謳う者、中には帝国に従属すべしという者まで現れた。


 そんな中、エルンサルド王家が長いこと秘されてきたある秘術を行った。

 『勇者召喚』だ。


 勇者と呼ばれる圧倒的な力を持つ者を異世界から招き、戦力に加えようというのだ。


 王城の地下に、本当に召喚の魔法陣が眠っていたことも、私は知らなかった。

 私は、そのような伝説など眉唾だと思っていたのだ。


 しかし、 ❝ 不幸にも ❞ 勇者の召喚は成功してしまった。


 召喚の魔法陣に、黒目黒髪の、17歳の青年が異世界より現れたのだ。

 「マサト・アキミネ」と名乗った青年は、伝説に語られる勇者のように、強靭な身体を持ち、強力な魔法を使うことができた。


 最初の内は、王家や貴族たちは舞い上がり、これで帝国に対抗することができる、と喜んだ。

 勇者もエルンサルドに協力的な姿勢を見せ、一丸となって帝国の脅威に立ち向かえると思ったのだ。


 しかしそれは、勇者が反戦派の大臣を手にかけるまでの事だった。


「帝国など、僕がいれば敵ではないと言っているでしょう? それなのに、僕の邪魔をしようとするから」


 と、勇者はこともなげに言った。


 それからだ、誰もあの勇者に逆らえなくなったのは。 

 召喚をした王家でさえ、勇者に意見するのを恐れるようになった。

 

 それはそうだろう。

 あの、圧倒的な力を持つ勇者相手に、誰が逆らえると言うのか。

 我ら全軍をもってしても、敵う気がしないあの勇者に。


 そもそも、異世界から来た者を味方につける事など、端から無謀だったのだ。

 奴がどんな世界で生きていたのかは知らないが、まるで紙切れのように人を殺し、何の良心の呵責もないなど。

 きっと、血も涙もない弱肉強食の世界で生きてきたのだろう。

 そうでなければ、まるで我らの事を人間だと認めていないようではないか。



 その勇者は、帝国に対しても、隣国に対しても、同様に非情だった。


 まるで戦争を遊びか何かのように思っているのか、帝国兵を剣や魔法で虐殺し、楽しげに笑う。

 勇者は圧倒的な強さを見せつけ、確かに帝国相手にも引けを取らなかった。

 が、その姿は血に飢えた獣のようで、悍ましい。


 そして、隣国のモルグーネ王国に無理な要求を突きつけ、要求が通らぬと見るや、襲撃をかけさせた。


「物資を出さないなら、属国にして搾り取ればいいでしょう?」


 そうすれば、帝国との戦争を続けられる、と、勇者は語った。


 それが、どれほど近隣諸国の憎しみと不信を煽ることになるか、分かっているのか。

 エルンサルドと言う国は、永劫、まともな外交相手として顧みられなくなるのだぞ。


 この勇者の言う戦争とは、一体、何のためのものか。

 もはや、自衛のためではない。

 あの勇者は、戦争のために戦争を生む。

 まるで、自らの力を誇示できる場所を探すように。


 正気の沙汰ではない。


 しかし、情けないことに、エルンサルドの誰もがあの勇者に逆らえないのだ。

 逆らえば、自分が真っ先に殺されると分かっているから。


 この、将軍職を預かる私でさえも……。



【ロイ】


 俺は領主館の外に出て、火の手が上がる空を見上げた。

 領都の南東から、悲鳴や怒号が聞こえる。

 俺は身体強化魔法を最大にして、その方角に走り出した。

 

 領都南東部は、街の外壁が破壊され、街の8分の1ほどが瓦礫と化していた。

 逃げ惑う街の人々と、遠巻きに展開するエルンサルド軍。

 その中央に、そいつは居た。


 黒目、黒髪、眼鏡の、学生服を着た若い青年。

 ここが日本なら、人ごみの中の一人って感じだけど、戦場と言う場所柄、その青年は酷く異質に映った。


 そいつは駆け付けた俺を見ると、不思議そうに首を傾げた。


「子供……? 僕に何か用?」


「おまえ、にほんじんだな」


 俺は油断なく口を開く。


 こいつが、伝説の ❝ 勇者 ❞ とやらなのは、間違いない。


 何故ここに勇者がいるのかは知らない。

 だが、気配が明らかに他の人間達とは違うのだ。

 祖父ちゃんが言う通り、こいつは強い。


「へぇ、君、転生者なんだ?」


 青年は、興味深そうに俺を下から上まで眺めまわした。


「僕はエルンサルド王国を救うために召喚された勇者だよ。帝国を倒して欲しいって頼まれたんだ」


「ここはていこくじゃないだろ」


 俺が厳しく指摘すると、その勇者は馬鹿にしたように肩をすくめる。


「そうだね。でも、素直に僕の言う事を聞かなかったから、ちょっと自分の立場ってものを思い知らせてあげようと思ってさ」


 立場? と俺が眉を寄せると、勇者は手の中の短杖を弄びながら、淡々と呟いた。


「僕の命令は絶対だ。この世界のNPCは、黙って僕の命令に従っていればいいんだよ」


 ……は?

 イカレてんのか、こいつ。


 NPCって、要はゲームのキャラってことだろうけど、この世界の人間は実際に生きている。

 殴られれば痛いし、殺されれば生き返らない。

 生活もあれば、家族もいる。


 異世界転移してちょっと力を得たからって、こいつ、何か恥ずかしい思い違いをしているようだな。


 呆れる俺に気が付いていないのか、勇者はちょっと得意げに俺に尋ねる。


「転移する時、女神から聞いたんだけどさ。転生と転移の違いって知ってる?」


 女神……? 

 俺はそんな者に会った覚えはない。


 勇者は怪訝そうな俺を気にせず、勝手に説明を続ける。


「僕みたいな転移者は、向こうの世界の肉体と魂を持つ。でも君みたいな転生者は、こっちの肉体と向こうの世界の魂を持つ」


 つまり、と、勇者は俺を見下ろし、嫌味ったらしく目を細めた。


「君の肉体はこの世界製で粗悪品だから、君は僕より弱いんだ」


「そあくひんだと?」


 俺は、あの家族の元に生まれたことを誇りに思っている。

 この血も、身体も、家族と繋がっている大事な証だ。


「そあくなのは、ひとのきもちがわからない、おまえののうみそだろ」


「はぁ?」


 勇者はギッと眉を顰め、足を振りかぶる。

 攻撃が来る! と、俺は腕でガードをした。


 が、俺の腕の上から勇者のつま先がめり込んできて、腹に突き刺さる。


「がは……っ‼?」


 凄まじい威力にミシミシと骨がきしむ音がして、衝撃がガードを突き抜けてくる。

 蹴り飛ばされた俺は吹っ飛んで瓦礫に突っ込み、全身を強く打ち付けられた。


「げほっ! けほっ、かはっ‼」


 俺の口から、ぼたぼたと鮮血が吐き出され、内臓へのダメージが深刻であることが知れる。


 3歳児を全力で蹴り飛ばせるなんて、どんな神経してやがるんだ、この野郎!


 俺は、魔力回復を待つ間にアガサに習った、最も簡単な回復魔法の呪文を脳内で唱え、なんとかある程度内臓を癒す。

 

 蹴りの一つで、なんて威力だ。

 こいつ、脳みそは勘違い残念野郎だが、実力は本物の勇者らしい。

 余計に質が悪い。


 祖父ちゃんが俺に警告した通り、こいつは、祖父ちゃんよりも、俺よりも強い。

 こいつに正面から肉弾戦を挑んでも、肉体の性能の差で負けてしまう。


 俺はダメージがまだ残る足を震わせながら、何とか立ち上がる。


「おまえがゆうしゃでも、していいこととわるいことがある」


 俺の指摘に、勇者は馬鹿にしたように首を横に振って肩をすくめた。


「分かってないなぁ。僕はプレイヤーで、この世界の連中は皆NPCなんだ」


 勇者は、逃げ遅れて瓦礫の陰で震えていた三つ編みの女の子を見つけて、髪を掴んで捕まえる。


「きゃあぁっ!」


「この世界でなら、僕はNPCに何をしても許されるんだよ。僕がこの世界の主人公なんだからね」


 勇者は女の子に向けて杖を構え、魔力を込め始める。


「……‼」


 俺はギリ、と歯噛みする。

 こいつは、この世界の人間達を、自分の欲を満たす玩具としか思っていない。

 こんな奴を野放しにするわけにはいかない。


「止めたいなら止めてごらんよ。でも、この世界に生まれた君はモブにすぎないよ。君じゃ、僕には絶対に勝てない」


 険しい顔で睨む俺に、勇者は優越感に満ちた笑みで俺を見下す。

 とにかくあの女の子を逃がさないと、と、俺は勇者が魔法を発動する前に両手に魔力を込めた。


「あぁ、魔法を使う気なら無駄だよ? 僕と君の魔法は同格。君の魔法では、僕を傷つけることはできないよ」


 勇者は杖を女の子から離さないまま、ぶつぶつと呪文を唱えて自分にシールドを張る。


「この世界では僕が最強なんだ。君は黙って、僕がこの世界の支配者になるのを見ていればいいんだよ」


 勇者は自分に酔うように、あははは、と笑う。

 俺はこの勇者の身勝手な言い分に、いい加減うんざりして来た。


『……もういい』


「は……?」


 グチッ、と肉を貫く鈍い音をさせて、俺の放った氷柱が、勇者のシールドを貫通し肩に突き刺さる。


「う゛あぁぁぁぁっ‼」


 肩を押さえて蹲る勇者の悲鳴を聞きながら、俺は冷静さを取り戻すように、小さく息を吐いた。



 俺は、前世の記憶を取り戻してからの出来事を全部覚えている。


 大事な家族との時間、祖父ちゃんと過ごした日々の事を。


 赤ん坊でまだ口もきけなかった俺の部屋に、祖父ちゃんは毎日コソコソと通ってきた。

 ベッドで寝る俺に指を伸ばして、俺が指をつかむと顔をくしゃくしゃにして笑って喜んでいた。

 俺が歩けるようになると、転んでけがをしないようにと、過保護なまでに付きっ切りで俺を見ていてくれた。

 俺が祖父ちゃんの真似をして身体強化魔法を使って見せると、父上たちが止めるのも聞かず、俺に身体強化のやり方や戦い方を見せて遊んでくれた。


 毎日毎日、俺の隣には祖父ちゃんがいてくれたんだ。


 祖父ちゃんは、俺が望むことは全部叶えてくれたし、いつも俺の事を考えてくれた。

 たとえ世界中が敵になったって、祖父ちゃんだけは俺の味方でいてくれると、俺は何の疑いもなく信じられる。


 その、俺の大切な祖父ちゃんを、こいつはこんな身勝手な理由で傷つけやがったのか。


 上等だ。


 俺は念話で、日本語で勇者に語る。


『お前の考えは分かった。お前はこの世界にとって害悪だ。死んで俺の祖父ちゃんに詫びろ』


「ひ……っ‼」


 俺がまた手を構えると、勇者は血相を変え、女の子を放り出して俺に杖を向ける。

 ぶつぶつと高速で詠唱をして、俺に火魔法を放った。


「く、クソォッ‼ 焼け死ねっ‼ 『ファイアジャベリン』‼」


『キャンセル』


「⁉」


 俺がパチンと指を鳴らすと、勇者の魔法がかき消える。


「な……⁉ 何故僕の魔法が……⁉」


 それは俺が、魔法発動を阻害するオリジナル魔法を使っているからだ。

 発動前に、相手の魔法の要所に俺の魔力を割り込ませて阻害することで、魔法発動を成り立たなくさせるのだ。

 

 そんなことは知らない勇者は、何度も杖に魔力を込め、詠唱をくり返す。


 が、俺はその全ての魔法を発動前に打ち消してやった。


「クソッ‼ クソッ‼ どうして魔法が発動できないっ⁉」


『何度やっても無駄だ』


 めちゃくちゃに呪文を連発する勇者に、俺は無詠唱で土塊を叩き付ける。


「かはっ!」


 勇者は鳩尾を強打され、地面に這いつくばって俺を睨んだ。


「な、何だよその無詠唱魔法は……っ⁉ 何で僕より魔法の威力が強いんだよぉっ‼」


『俺とお前の魔法が同格でも、それは使い方次第で変わるってことだ』


 俺は転生してから毎日、魔法の練習や開発に勤しんできた。

 『念話』を利用した無詠唱に近い魔法発動。

 そしてそれにより実現した、『重複詠唱』などだ。


 本来、呪文詠唱を重複させて2倍3倍の威力を出す魔法は、一人では使えない。

 口が一つしかないからだ。

 この世界で重複詠唱が使われる時と言えば、魔法師団などで、複数の訓練された魔法使いが、詠唱を同時に行って魔法を発動する時ぐらいだ。

 その成功率も、あまり高くないと聞く。


 だが、俺の『念話』を応用したやり方であれば、脳内で詠唱を重複させられることに気が付いたのだ。


 しかし、そのことを知る由もない勇者は、俺との間に魔法のスペック差があると考えているらしい。


「クソオォッ‼ 調子に乗るなぁっ‼」


 勇者は、今度は腰の剣を抜き、高速で俺に切りかかってくる。


 しかし、この短絡的な勇者が力任せの行動に出る事など、俺にはお見通しだ。


『『『フリージングゾーン』』』


 パキ、と地面が凍り付き、勇者の足をからめとる。


「ぐ……っ⁉」


『『『アイスランス』』』


 凍った地面から突き上がる氷が、勇者の脇腹を刺し貫いた。


「うぎゃあぁぁぁっ‼」


 勇者は剣で氷を叩き割り、俺から逃げるように後ろへ脱出する。


「クソォッ‼ クソオォォッ‼」


 勇者はわき腹を押さえたまま、痛みに震えながら俺を凝視している。


「こんなはずはない……っ‼ ぼ、僕は勇者だ‼ この僕がこんな子供に……っ‼」


『転生者が見た目通りの年齢なわけないだろ、馬鹿なのか』


 俺は冷酷な目で勇者を睨む。


「っっ……‼」


『お前はこの世界に来たばかりかもしれないが、俺はこの世界に生まれてもう3歳。つまり、俺の方が3年先輩ってことだ』


 魔法の力に差があるとすれば、それはスペックではなく、3年の努力の差だ。

 俺は両手に魔力をみなぎらせ、その手を勇者にかざす。


『二度と俺の家族に手を出せないよう、ケリをつけてやる』


「ひ……‼ ひぃぃ……っ‼」


 俺の全力の一撃が来ると察して、防ぎようのない勇者は尻もちをつく。

 

『6重詠唱、『『『『『『ヘルフレア……』』』』』』⁉』


 しかし、俺の魔法が発動する前に、思いがけない爆発が起きた。

 

 ドォン‼

 

 と、俺のすぐ足元で爆発が起き、俺は瞬時にシールドを張る。


 俺の邪魔をするとは、一体どこの誰だ!

 煙に巻かれ、俺は風魔法で煙をかき消す。


「く……!」


 視界が開けると、目の前ですっ転んでいた勇者の姿がない。

 俺の隙を突いて、全力の身体強化魔法で逃走したのだろう。

 どの方向へ向かったかも知れず、まして、俺の身体能力では勇者を追っても追いつけはしない。


 俺は舌打ちして辺りを見回す。


「なかまがいたのか……!」


 しかし、俺を遠巻きにして竦んでいる様子のエルンサルド兵たちに、勇者救出の動きなどなかった。

 では、一体誰が勇者を逃がした?


 完全に俺の死角から魔法を放ったことからも、この戦いの成り行きを見ていた者に間違いないだろうが。


「……ゆうしゃをとりにがしたのは、めんどうだな」


 今回は、3年のハンデがあったから制圧できた。

 だが、身体のスペックで言えば勇者の方が上。

 努力の差が縮まれば、次がどうなるかはわからない。


「やっかいな……」


 俺は、はぁ、と大きくため息をつき、その場にペタリと座り込んだ。

 今日はちょっと魔力を使いすぎた。

 3歳児には過酷な一日だったな。



【エルンサルド王国将軍】


 勇者がモルグーネ王国に侵攻した時、私はモルグーネ王国は滅びを免れないと思っていた。

 実際、あのエルンサルドでも名高い「紅の英雄」でさえ、勇者に傷一つつける事すら敵わなかったのだ。

 勇者はギネビア領の外壁を容易く破壊し、今にも街を吹き飛ばそうという勢いだった。


 しかし、ギネビアの領都で、私は信じられないものを見た。

 まだ5歳にも満たないであろう幼児が、勇者の前に立ちふさがったのだ。


 何と健気で、何と勇気に満ちた行いであろうか。


 しかしあろうことか、勇者はその子供を蹴り飛ばし、少女に杖を向けるという蛮行に出た。

 これ以上、勇者の非道を見過ごしていいものなのか。

 私は怒りに震え、例え殺されるとしても、一言勇者に物申してから死のう、と足を踏み出そうとした。


 それからが、最大の衝撃だった。


 その幼児は、立ち上がって勇者と何事か話していたかと思うと、勇者を魔法で圧倒したのだ。

 あの、誰も敵わなかった勇者を、5歳にも満たない幼子がだ。

 私は勇者が放り出した少女を保護しつつ、その子供の戦いの行方を固唾を呑んで見守った。


 果たして、その子供は勇者を叩きのめし、勝利した。


 勇者に止めを刺そうとした子供を何者かが妨害したため、勇者の完全排除はできなかったものの、その子供はモルグーネ王国を守り通したのだ。

 私は、敵対していると分かっていても、その子供に感謝と称賛の念を禁じえなかった。

 何より、勇者と言う脅威が退けられたことに対する安堵が、私のみならずエルンサルドの兵たち全員に染み渡ったことだろう。


 私はエルンサルド軍に投降を命じ、私自身も縛に就いた。

 勇者が敗れた以上、我々エルンサルド軍に戦闘続行の意志などない。

 こんな戦争自体、元々不本意だったのだ。

 私たちは、領民や兵たちから怒りや憎しみの目を向けられながらも、それを甘んじて受け入れた。


 私は領主館の東にある貴人用の牢へ入れられ、一晩を過ごす。

 そして翌朝、私は思わぬ客人を迎えていた。 


「どうやってゆうしゃをしょうかんしたの?」


 私を訪ねてきたのは、あの子供だった。

 少年の尋問に、私の身体が緊張に強張るのを感じる。

 なにせ、目の前の子供はあどけなく見えるが、あの勇者よりも強いのだ。

 私は言葉を選びながら、慎重に答える。


「こ、国王陛下が、城の地下にある古い魔法陣を使って勇者を召喚したのだよ」

「えるんさるどのしろ?」


 私が頷くと、その子供は背後に立っていた赤い鎧の冒険者らしき男を振り返る。


「ばしょ、わかる?」

「え、えぇと、城の場所なら分かりますが……」


 その冒険者は、動揺したように質問する。


「な、何をするつもりなんですか? 兄貴」

「こわすの」


 子供は、端的に、しかし、明確に答えた。

 戦争を仕掛けた手前言えた立場ではないが、エルンサルドにこの子供の力が向かうのか、と、私は息をつめる。


「ほかにもゆうしゃはいる? そのまほうじんはまたつくれるの?」


 その質問の両方に、私は首を横に振る。

 召喚した勇者は「マサト・アキミネ」一人であり、あの魔法陣は古代から受け継いだもので製法は失伝しているらしい。

 私の答えに、子供は納得したように頷くと、あっさりと牢を去ろうとする。

 私は慌てて、その背中に声をかけた。


「こ、この度の事は、勇者と我等エルンサルド軍が引き起こしたのだ! 国民に罪はない、どうか慈悲を……‼」


 すると、子供はつんとした顔で私を振り返り、鼻を鳴らした。


「おれはまほうじんをこわしにいくだけ。にどとゆうしゃをしょうかんできないようにする」

「……君は一体何者なんだ……?」


 私が思わず尋ねると、その子供はニッと不敵に笑った。


「おれは、えいゆうのじいじのまごなの」


 そして、その2日後。

 エルンサルド王国の王城に特大の雷が落ち、城の一部が跡形もなく焼失したと知らされた。

 この状況に、エルンサルド国王は是非もなく敗北を宣言。

 この一連の騒動は、一応の決着を見た。


 この後、私は戦犯として、モルグーネ王国で裁かれることになるのだろう。

 だから私は、最初から勇者になど頼るのは反対だったのだ……。



【ロイ】


 俺が勇者を倒して戻った時、祖父ちゃんはまだ眠っていた。

 アガサによると、容体は安定しているから、休めば問題はないそうだ。

 よかった。


 勇者を取り逃したのは痛かったが、考えてもどうしようもない。

 また攻撃して来たなら、全力で迎え撃つだけだ。


 俺は、このギネビア伯爵領の領主、パーシヴァル・ワース・ギネビア伯爵に領主館に滞在することを許されて、祖父ちゃんの部屋にベッドを運んでもらい、そこでひと眠りして休んだ。


 それから、マリー祖母ちゃんと共にやってきたセクト達と合流したり、エルンサルドの将軍から勇者召喚の魔法陣の事などを聞いて、祖父ちゃんの白竜ディアナに乗って、エルンサルド王城地下の魔法陣を破壊してきたりした。

 俺の『重複詠唱魔法』の威力を見たセクトたちは、ドン引きしていたっけ。

 でも、また勇者を召喚されてはたまらないから、仕方がない。


 祖父ちゃんは、勇者を倒して帰ってきた翌日には少しの時間目を覚ましていて、3日も経つ頃には、椅子に座ったりゆっくり歩いたりできるようになっていた。


「フン♪ フン♪」


 俺は祖父ちゃんの膝に座り、上半身を揺らしてリズムを取りながら、鼻歌を歌う。


「ご機嫌だな、ロイ」


 祖父ちゃんはニコニコしながら俺の頭を撫でた。

 だって、祖父ちゃんが元気になったんだから、浮かれてしまうのもしょうがない。


「ルードルフ殿にはギネビア兵を守って頂き、ロイ殿には勇者を退け領地を守っていただきました。お二人には本当に感謝しております」


 祖父ちゃんの容体が良くなって、ギネビア伯爵は改めて挨拶にきていた。


「おれは、じいじのかたきをとっただけ」


 俺は祖父ちゃんの膝の上で腕を組み、得意げに反り返る。


「その気持ちは嬉しいが、あまり危険なことは……うぅむ……」


 祖父ちゃんは俺を叱っていいのか褒めていいのか少し悩んだが、結局笑って俺の頭を撫でてくれた。


「まぁ、同じ立場ならワシもそうしたであろう。あの勇者相手によく勝利したな、ロイよ」

「うん!」

 

 実際、ちょっとは大変だったしね。

 俺と祖父ちゃんのやりとりを微笑ましく見ていたギネビア伯爵は、どこか肩の荷が下りたように息を吐いた。


「とにかく、お二人には非常にお世話になりました。そこで、些少ながら、私から恩賞を出させていただきたい」


 それと共に、王家にターセル男爵家の陞爵と俺の叙爵を進言したい、と、ギネビア伯爵は告げた。


「陞爵はともかく、叙爵か……」


 祖父ちゃんはちらりと俺を見る。

 俺は冒険者を目指しているので、将来は平民でいた方が身軽でいいのだ。


「しゃくいとか、いらないもん」


 俺は顔の前でバツを作り、拒否する。


「うむ。ロイが叙爵して貴族位を持てば、王家はロイを戦争でこき使うであろうからな」

「しかし……!」


 それでは、戦功に対して何の報いもないことになる。

 周りの貴族たちに対しても示しがつかない、とギネビア伯爵は訴えた。


「ただでさえ、ルードルフ殿は長い間正しく評価されてこなかったのですから! この上孫のロイ殿までも……!」


 ギネビア伯爵は、俺が生まれて来る前の、祖父ちゃんと高位貴族たちとの確執を語り始める。


 それによると、男爵家出身で中立派だった祖父ちゃんは、政治を担う先王派の高位貴族たちから距離が遠く、元々よく思われていなかった。

 しかし、戦争で祖父ちゃんが武勲を上げ名声が高まるにつれ、一方的に危険視されるようになり、高位貴族たちは当時の将軍たちをも抱き込んで不当に祖父ちゃんの功績を奪っていたらしい。

 先王を掌握していた高位貴族たちは、祖父ちゃんの発言権を削ろうと、敵も味方も手を組んで包囲網を敷いていたのだという。


 それゆえ、戦争の英雄ともてはやされるようになっても、祖父ちゃんは長く副将軍の地位に止められ、男爵と言う実家の発言力の弱さもあって、危険な戦地に積極的に送り込まれていたらしい。

 まぁ、そのおかげというか、部下達からの祖父ちゃんへの信頼は非常に厚く、下の者からは一層崇め奉られるようになったとか。


 それらの祖父ちゃんに対する冷遇が正されるきっかけが、7年前から6年前にかけて起きた現国王と王弟による政変で、現国王たちは腐敗した高位貴族たちを軍や政治から一掃して、体制を改めたのだという。

 王弟が軍にいるのも、現国王派が軍に土台を作るためだったらしく、その時に祖父ちゃんにも近づいてきて弟子になったのだとか。

 ちゃんと仕事してたんだな、あの王弟。


 元々中立派で、政変を機に現王家派に鞍替えしたギネビア伯爵は、祖父ちゃんが正しく評価されていないことに長年忸怩たる思いを持っていた。

 その当時、ギネビア伯爵を含む中立派や反先王派の貴族たちは、祖父ちゃんの地位を上げて反先王派の旗印として担ぎ上げようと、祖父ちゃんの陞爵や昇進を推す話もあったそうだ。

 しかし、面倒臭がった祖父ちゃんはそれらを断り、政争から降りたらしい。


 元々貴族らしい腹の探り合いなど好まない祖父ちゃんは、顎をさすってのんびりと当時を思い出している。


「まぁ良いではないか。爵位が上がれば上がるほど、面倒な付き合いも増えたことだろう。それを回避できたと思えば、別に惜しくはない。それに、当主は息子に譲ったのだから、今陞爵されようとワシにはもう関係ないしな」


 俺は膝の上で祖父ちゃんに背中を預け、祖父ちゃんを見上げた。


「じゃあ、おかねもらったら? じいじ」

「うん? 報奨金か?」

「そう。ぼうけんしゃって、おかねがかかるんだよ?」


 俺に付き合って、祖父ちゃんも冒険者業をやるなら、何かと物入りだろう。

 武器や防具、生活費に、移動費や宿賃や修繕費や……考えると頭が痛くなってくるが、とにかくお金がかかる。


「ふむ、そうだな。今までワシ個人の資産と言うものを考えたことがなかったな」


 なんと、祖父ちゃんは今まで陞爵の代わりに受け取っていた報奨金は、全て男爵領につぎ込んでいたらしい。

 しかも、せっかく稼いだ祖父ちゃんの報奨金は、貧しかった男爵領に元々あった借金の返済に充てたり、飢饉対策などに次々と消えて行ったらしいのだ。

 祖父ちゃんも父上もお人好しだから、近隣の同じく貧乏な男爵家などに、飢饉の際は資金を貸していたとか。

 祖父ちゃんは今、お小遣い程度の手当てを父上から支給されていて、そのお金で俺のおやつ代などを払っていたらしい。


「じいじ……」


 戦争の英雄が、あまりに不憫な懐事情だ。

 俺は、将来沢山お金を稼げるようになったら、祖父ちゃんを悠々自適に過ごさせてあげよう、と心に決めた。

 もちろん、一緒に冒険者はしてもらうが。


 やるせない顔で祖父ちゃんを見つめる俺に、ギネビア伯爵はコホン、と咳払いをする。


「で、では、ルードルフ殿には、報奨金をお支払いいたします。それで、ロイ殿も同じでよろしいのか?」

「ううん、おれね、ほしいものあるの」


 俺は、今回の戦いで、パワーアップの重要性を痛感した。

 なので、俺専用のあれがどうしても欲しいのだ。

 あれとはすなわち。


「おれだけのつえがほしい!」

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