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英雄の孫は今日も最強  作者: まーびん


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10/20

第10話  じいじの腕

毎週金曜更新の予定……です……多分。

 あれから3時間。

 俺は目を泣き腫らしたまま目を覚ました。


 転生して記憶を取り戻してから、初のギャン泣きだ。

 完全に幼児の感情に呑まれてしまっていた。

 恥ずかしい……。


 けど、今はそれどころじゃない。


 泣きすぎて重い頭をぶんぶんと振り、俺は父上、母上、祖母ちゃんがいる居間へと向かう。


「ちちうえ、ごめんなさい」


 俺は、部屋に入るなり、父上に謝った。

 

「心配ない。母上に治してもらったよ」


 父上は、袖を捲って腕を見せる。

 傷跡も残っていなかったが、俺は良心がチクチクと痛むのを感じた。

 結構な深手だったはずだ。

 でも、もう一度謝るのはまた今度にしよう。


 俺は、キッと顔を上げ、3人を見回す。


「おれ、いまからじいじのところにいくから!」

「ロイ」


 母上は、俺の前にしゃがみ、俺と目を合わせる。


「とめてもむだ。おれはひとりでもいく!」


 俺がじっと母上の目を見つめると、母上は確かめるように俺を見つめ返す。


「戦争に行くということがどういうことか、分かっているのでしょうね」

「わかってる」


 俺はしっかりと頷く。


「しぬかもしれないし、だれかをころすかもしれない」

「……貴方はまだ3歳なのですよ」


 母上は、震える声で俺を問いただす。

 でも、俺の決意は変わらない。

 

「かんけいないよ。おれがじいじをたすけるの」


 小揺るぎもしない俺の強い視線に、母上は諦めたように目を瞑った。

 母上は、独り言のように呟く。


「貴方を二度と戦争には行かせないと言ったけれど、初めから無理な話だったわね」


 母上は俺の前髪をはらい、困ったようにほほ笑んだ。


「貴方は、英雄の孫だもの」


 俺は、一つ頷いて見せる。


「約束して頂戴」


 母上は俺の両手を握り、真剣な目で俺を見つめた。


「かならず、無事に帰って来なさい」

「やくそくする、ははうえ」


 俺はしっかりと頷いた。


「やはり、こうなりましたか」


 祖母ちゃんは椅子から立ち上がり、俺に歩み寄る。


「ロイだけを行かせはしません。わたくしも共に行きます」

「母上……!」


 父上は、戸惑うように声を上げた。

 戦闘員でもない祖母ちゃんが戦地に行くのに反対なのだろう。

 しかし、祖母ちゃんはにっこりとほほ笑む圧だけで父上を黙らせる。

 そうだった、マリアンヌ祖母ちゃんはおっとりして見えるのに、人一倍芯が強くて頑固なんだった。


 でも俺は、一刻も早く戦地に着きたい。

 そのための方策も、もう考えてある。

 けど、祖母ちゃんと行くなら、俺の策は使えない。


「マリーばあばは、あとからきて。おれはさきにいってる」


 俺は祖母ちゃんのドレスを握る。

 前みたいに引っ張ったりはしない。


 そして、俺は祖母ちゃんに一番重要なお願いをした。


「ばあば、おれにかいふくまほうのつかいかたをおしえて」



【ギネビア伯爵】


 東のエルンサルド王国は、我がモルグーネ王国との交渉が決裂したとみるや、突然攻め込んできた。

 宣戦布告などあったものではない。

 モルグーネ王国の東に位置する我がギネビア領の国境沿いの村々は、突然火矢を射かけられたのだ。


 狂っている。


「戦況はどうだ」

「は。夜になり、敵の進軍は停止しております」


 物見の塔の上で街を見下ろしていた私は、ギネビア私兵の部隊長の報告にわずかに安堵の息を漏らす。

 が、それも明け方までのわずかな延命に過ぎない。


「まさか、領都まで攻め込まれるとはな」


 私の顔に、苦々しいものが浮かぶ。


 エルンサルドの侵攻は、現在40キロに及んでいる。

 その先端は、すでに領都の外壁にまで届いていた。


 エルンサルドは、本来我が国よりも国力が下。

 油断があったことは否めない。

 しかし、それを差し引いても、エルンサルドの武力は圧倒的だった。


 いや、エルンサルドが抱える、 ❝ あの男 ❞ の武力が、だ。


 我々は国境から、戦闘で足止めをくり返しながら、この領都まで何とか落ち延びて来たのだ。


「ルードルフ殿は?」

「依然、意識が戻りません……」


 部隊長は、悄然として俯いた。


 紅の英雄ルードルフ殿には、国王を介してこのギネビア領から援助要請を出し、加勢して頂いた。

 しかし、思いがけぬ強敵に、我々を逃がすために盾になって戦われたのだ。

 そうでなければ今頃、我等ギネビア私兵は壊滅していただろう。


 重傷を負われたルードルフ殿は、現在回復魔法士が付きっ切りで治療をしているが、容体は芳しくないようだ。


「……英雄様でさえ勝てぬ相手に、我々ごときが何ができるというのでしょう……!」


 部隊長は、拳を震わせ、押し殺した声で独白する。

 それは、怒りか、悔しさか、恐怖によるものか。

 恐らく、その全てなのだろう。


「今は出来ることを成すのみ。領民を一人でも多く避難させよ」


 私は感情を排した声で、厳格に命令する。

 非常時だからこそ、部下の前で弱気は見せられぬ。


「は……!」


 部隊長はグッと歯噛みし、頭を下げる。

 そして、踵を返して走りだそうとしたその矢先に、はっと顔をこわばらせた。


「伯爵様! あれを!」

「む‼」


 暗い空を見上げると、青い光の筋が、一直線にこちらに向かって飛んでくる。

 敵の攻撃か、と身構えたが、それにしては方角が違う。

 一体何事か。


「こちらに向かってきます!」


 私は部隊長と共に、その青い光が向かう領主館の庭に走る。

 その光は、グッと向きを変えたかと思うと、鋭い勢いで地面に墜落した。

 流星でも落ちたというのか。


 部隊長は、火魔法を灯り代わりに様子を窺う。

 すると、土煙の中で何やら動く黒い影が見えた。


「何者か!」


 私は腰の剣を引き抜き、土煙の中に呼ばわる。

 すると、土煙からじゃりじゃりと軽い足音が聞こえて、瓦礫を踏み分けながら、黒髪の幼児がひょっこり姿を現した。


「……⁉」


 予想外すぎて二の句が継げないでいると、その子供は辺りを見回し、私に目を止める。


「ここは、ぎねびあであってるよね?」

「う……む……」


 私がかろうじて頷くと、子供は肩から下げていた小さい鞄から、くしゃくしゃの紙を取り出した。


「いちばんえらいひとにわたして」


 突き出されたその紙は、どうやら手紙のようだ。

 素直に受け取ってよいものか、と私が動けないでいると、子供はじれったそうに手紙をかさかさと振った。


「はやく!」

「う、うむ。一番偉い人は私だが」


 私は、仕方がなくその手紙を受け取り、部隊長の灯りの元、急いで目を通す。

 そして、まだどこか呆然としたまま、手紙から顔を上げて子供を見た。


「其方がロイ・フィリポス・ターセルで合っておるか?」

「あってるよ!」


 子供は足踏みをしながら、拳を握って叫んだ。


「じいじ……くれないのえいゆうのところにつれていって!」



【ロイ】


 俺はターセル男爵領で、マリアンヌ祖母ちゃんから回復魔法を教わろうとした。


 この世界の回復魔法は光属性の魔法で、全属性の俺なら扱えるはず。

 ただ、使い方に少々コツがいるので、普段攻撃魔法ばかり使っていた俺は、その習得を後回しにしてきた。


 でも今は、一刻も早くその技術が必要だ。


 しかし、祖母ちゃんは、一朝一夕で回復魔法が身につくものではないと俺を窘めた。

 失敗すると、さらに怪我を悪化させることにもなりかねないんだと。

 その代わり、回復魔法の使い手を補助につけることで、俺の桁違いの魔力量を生かした治療ができるはず、と、そのやり方を教えてくれた。


 後は、ぶっつけ本番で臨むしかない。


 俺は、突然戦地を訪れても話が通るように、父上に一筆書いてもらった。

 俺の身元保証や、実力の保証などだ。

 それと、俺に回復魔法の補助要員を付けてくれるようにも頼んでもらう。

 この手紙を相手が信じてくれるかはわからないが、ないよりマシだ。


 祖母ちゃんは、竜騎で俺の後から来る。

 俺は祖母ちゃんの護衛をセクトたちに頼んだ。

 もちろん、ターセル男爵領の私兵はついているのだが、セクトたちはエルンサルド出身なので、いざという時、何か頼りになるかもしれないと思ったからだ。

 他に冒険者の知り合いがいなかったって言うのもあるけど。


 とにかく、俺は高速でギネビア伯爵領へと向かうことにした。


 俺は、母上のもう使わなくなった長杖を貰い、魔力を込める。

 爆発魔法、『エクスプロージョン』を改良した、ロケットのように推進力を生む魔法を使うのだ。

 身体強化とシールド魔法で自分を保護しながら、これで空を走破しようというわけだ。

 どんなに魔法で自分を守っても、重力は負担になるから、俺以外にはこのやり方は無理そうだ。


「ぜったいじいじをたすけるから!」


 俺は見送りの皆に手を振って、長杖にまたがり、爆風と共に東の地へと旅立った。



 ギネビア領に着くと、その場にいた伯爵に手紙を渡して、俺はさっさと祖父ちゃんがいる所に案内してもらう。


 祖父ちゃんがいる部屋は、領主館の奥まった部屋で、周囲は凄く静かだった。


「ここだ」


 伯爵は、自分も緊張しているみたいに、ゆっくりと扉を開ける。

 部屋の奥にベッドが一つだけあって、そこに祖父ちゃんは寝かされていた。

 

「……」


 俺は緊張につばを飲み込みながら、ゆっくりと近づく。

 踏み台に登って覗き込んだ祖父ちゃんは、ピクリともしないで、置物みたいに横たわっていた。


「内臓の損傷が激しく、なんとか傷はふさいだのですが、完全に回復したとは言えません。命にかかわらない傷は、後回しになっている状態です」


 部屋で待機していた回復魔法士が、状況を説明する。


 痣のある祖父ちゃんの顔をじっと眺めていても、瞼が開いたり、口が動いたりはしない。

 ゆっくりと胸が上下して呼吸をしているだけだ。


「もう3日、目を覚まされんのだ」

「……っっ」

 

 俺は祖父ちゃんの身体を見て、グッと息を呑みこむ。

 

「うでが……」


 祖父ちゃんの右腕が、無くなっていた。

 何度も俺の頭を撫でてくれ、抱き上げてくれた、あの祖父ちゃんの手が。


 サアッと、俺の周囲から音が遠ざかり、耳鳴りが聞こえ始める。


 血の気が引いているのに、頭の奥に妙に熱があって、ふつふつと怒りが込み上げてくる。


 どこのどいつがこんなことを……‼

 

 ビシッ‼ と俺の魔力放出に当てられ、窓ガラスに亀裂が入り、伯爵や部隊長の顔色が変わる。

 部屋にいた回復魔法士が、たまらず悲鳴を上げた。

 

「~~~~‼」


 俺はグッと奥歯を食いしばり、身体の奥の怒りを力ずくでねじ伏せる。

 今はこんなことをしている場合じゃない。

 また感情に呑まれていては、祖父ちゃんを助けることなどできやしない。


 俺は長く息を吐き、怒りを身体から追い出すと、部屋の隅で小さくなっている回復魔法士に目を向ける。


「じいじをなおす。てつだって」



 その若い女性の回復魔法士アガサは、マリー祖母ちゃんの弟子だと名乗った。

 俺は、祖母ちゃんから教わったやり方をアガサに伝える。


「このやり方、理論上は可能なはずです。ただ、こんなの前代未聞で……」

「だとしても、やる!」


 俺が祖父ちゃんに向き直ると、アガサは渋々俺に続いた。

 アガサは祖父ちゃんの身体に両手をかざす。

 その手に、俺が手を重ねた。


 魔力を使うのは俺。

 回復魔法の呪文の詠唱はアガサだ。

 この場合、アガサはいわば変換装置だ。

 俺が込めた魔力を、回復魔法に変換して祖父ちゃんに伝える役割。

 素人が失敗すると危険な所を担当してもらうのだ。


「……!」


 俺は目を瞑り、集中する。

 アガサの手の平に、俺は魔力を浸透させていった。


「う……!」


 アガサは違和感がある他人の魔力に一瞬竦んだが、すぐに呪文を唱え、回復魔法への変換を始める。

 回復魔法が祖父ちゃんの身体に流れ始めると、伯爵たちはほっとしたように息を吐いた。


 俺は回復魔法について完全な知識はない。

 でも、魔法にはイメージが強く影響を与えることは知っている。

 だから、気休めかもしれないと分かってはいたが、必死に祖父ちゃんの身体が元通りになるように強く念じる。


 治れ……! 治れ……!

 元の、強くて頑丈な祖父ちゃんの身体に戻れ!


 俺には不思議と、祖父ちゃんの身体の中のエラーが知覚できるように感じた。

 回復魔法の魔力で繋がっているからかもしれない。

 滞りや欠損、負傷などの位置が明確に分かり、俺は祖父ちゃんに良くなって欲しい一心で、それらを癒すようにイメージをする。


 祖父ちゃんの細胞一つ一つに回復魔法が行き渡り、折れた骨や切れた腱が再び繋がり、筋肉が再生される様。

 内臓の欠損が癒され、体内に溢れた血が血管に戻っていく様を。

 目を瞑ったまま、何度も、何度も、祖父ちゃんが元気な姿になるように強くイメージした。


 どれぐらいそうしていたのか分からない。

 しかし、背後から、呆然とした伯爵の声が聞こえた。


「これは……まさか……」


「はぁ……はぁ……」


 俺は額に汗を浮かべながら、うっすらと目を開ける。


「腕が……戻っている⁉」


 伯爵はよろよろとベッドに歩み寄り、祖父ちゃんをのぞき込む。

 俺もつられて目をやると、そこには、確かに祖父ちゃんの右腕があった。


 目を瞑っている間は、俺のイメージが想像の産物なのか、実際の祖父ちゃんの身体なのかはわからなかった。

 でも、俺のイメージ通りに、祖父ちゃんの腕が再生しているのだとしたら。


「なおった……の……?」

「あ、あり得ません……!」


 呪文を唱え続け、疲れ切った様子のアガサが、声を振り絞って答える。


「回復魔法は、傷を塞ぐのが限度で、再生は……!」

「しかし、実際にこうして治っているのだ!」


 伯爵とアガサは、何やら言い合っている。


 俺は、フラフラしながら祖父ちゃんのベッドに身を乗り出した。

 何だろう、すごく気持ちが悪いし、頭がくらくらして立っていられない。


「じいじ、なおったよね……?」

 

 俺が伯爵に目を向けると、伯爵は俺の具合悪そうな様子にオロオロしながら、首を縦に振る。


「私には、そう見えるが……。顔色も先ほどまでより良いようだぞ……?」

「よかった……」


 俺は大きく息を吐き出して、震える手でベッドサイドに寄せていた俺の鞄を指さす。

 俺の、この具合の悪さの見当がついたのだ。


「それとって……」

「こ、これか⁉」


 伯爵は慌てて俺の手に鞄を渡す。

 俺は、何度かしくじりながらも、震える手で鞄の中の瓶を取り出した。


「それは魔力回復薬かね……」

「って、それ、原液じゃないですか!」


 慌てるアガサ達の目の前で、俺はその小瓶を一気飲みした。

 魔力欠乏症が、これで少しずつ楽になっていくはずだ。


「ちょっと! それって致死量……っ‼」


 アガサは慌てて俺の手から瓶を取り上げるが、俺の腹にもう全部収まっている。


「は、吐き出してっ!」


 俺を抱き上げようとするアガサに、俺は手を突き出して静止する。


「だいじょうぶだよ、いつものんでるから」

「は!?」


 俺はアガサの手を固辞して、祖父ちゃんの傍にコロンと寝転がる。

 薬が効いてくるまで、動けそうにない。


 だから、俺はまだ朦朧とする頭で、回復魔法の考察をする。


「かいふくまほうは、かいふくのほうこうせいを、でぃーえぬえーからよみとってるとおもう。からだは、もとのかたちをじぶんでしってて、かいふくまほうがなおるのをほじょしてあげれば、てとかまたはやせるの。でも、すごいまりょくがいるから、ふつうのひとにはむりで、だからきずをふさぐことしかできないっていわれてて……」

「え⁉ え⁉ でぃーえぬえーって、何⁉」


 俺が予想した理論をつらつらと語っていると、アガサはパニックを起こしたように頭を抱えた。


「ま、まぁ、治ったのならそれでよいではないか……!」


 伯爵はアガサを無理やり椅子に座らせ、俺に向き直る。


「ロイ殿だったな。大恩あるルードルフ殿を治療して頂き、感謝する」

「おれのじいじだから」


 俺は、コロンと寝返りを打ち、祖父ちゃんの顔の傍まで這って行って、祖父ちゃんの顔を眺める。

 確かに、さっきまでよりも血色がいいし、呼吸が深くなったように思える。


「まにあってよかった」


 俺は祖父ちゃんの首元に頭を埋め、ギュッと抱き付く。

 筋張った、筋肉質な祖父ちゃんの身体は、ちゃんと暖かかった。

 じわじわと安堵が沸き上がってきて、気が抜けた俺は笑顔でほろりと涙を一つこぼした。



 俺は、祖父ちゃんの傍でうとうとしながら魔力の回復を待つ。

 まだやるべきことが残っている。


 そうしている間にも夜は白み始めた。

 伯爵は祖父ちゃんが目を覚まさないので、アガサにこの場を任せ、指揮を執るため戻っていく。

 俺はもう一本魔力回復薬の原液を飲もうとして、心配したアガサに止められていた。


 ドオオォォン‼


 と、ふいに領主館が揺れた。


「て、敵襲……⁉」


 アガサは椅子から立ち上がり、出口と俺と祖父ちゃんを見比べる。

 逃げるべきかどうか迷っているのだろう。


 俺は祖父ちゃんの傍でゆっくりと立ち上がる。

 魔力は8割方回復した。

 もうこれ以上は待っていられない。


 俺は、いつもは中に引っ込めている魔力を、外に向かって開放する。


「ひ……!」


 アガサは俺を振り返り、グッと体を縮めた。

 今俺は、魔獣のような気配を発しているのだろう。

 いや、身体強化魔法を垂れ流している時の祖父ちゃんが近いかもしれないな。


「じいじをおねがい」


 俺はアガサに祖父ちゃんの事を頼んでおく。


 俺は、祖父ちゃんをこんな目に合わせた奴と決着をつけてくる。

 俺が足を踏み出そうとした時、大きい手が俺の腕をつかんだ。


「ロイ……」


 かすれた声に、俺がはっとしてふり向くと、祖父ちゃんが薄く目を開けて俺を見ていた。

 意識が戻ったのか!


「じいじ!」

 

 俺は祖父ちゃんに抱き付いて、祖父ちゃんは俺の背中を右手で強く抱きしめる。

 祖父ちゃん、俺じゃなかったら背骨が折れてるよ。


「じいじ! おれにまかせて、やすんでて!」


 俺は笑顔で祖父ちゃんの手を押し返し、安静にさせる。


 しかし、祖父ちゃんはもう一度俺の腕をつかみ、引き寄せた。

 祖父ちゃんは、孫に会えた嬉しさ、ではなく、鬼気迫る表情をしていた。


「ロイ……!  ❝ 奴 ❞ と戦ってはならん……‼」

「!」


 祖父ちゃんは、俺の目を見てはっきりと告げた。


「奴は、ロイよりも強い……! 絶対に戦うな……‼」


 気力を振り絞ってそう言うと、祖父ちゃんはふっと息を吐いてまた意識を失った。

 祖父ちゃんが、俺より強いと断言する奴。

 それが、祖父ちゃんを傷つけた輩なのか。


「ろ、ロイ君! ルードルフ様の言う通りだよ、ここで一緒にいよう!」


 アガサは俺がまた無茶なことをすると思って、俺の手を握る。

 しかし、俺はアガサの手から自分の手を引き抜き、ベッドから飛び降りた。


「そいつをたおさないと、またじいじがやられるでしょ」


 俺は、決意を秘めた表情で部屋を後にする。


 どこの誰だか知らないが、俺にそいつを許す気はないのだ。

 たとえ俺より強かろうが、俺の祖父ちゃんを痛めつけたツケはきっちり払わせてやる。

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