第26章
第26章 夜の空
家で遊んでいたら、あっという間に十九時になっていた。
「あ……帰らないと……」
卓くんは慌ててソファから立ち上がる。
「ほんとだ。もうこんな時間だ……」
私も立ち上がってゲームの電源を落とし、玄関で靴を履いている卓くんに近づく。
「送ろうか?」
「あぁ、いや……」
こういうのに慣れてないのだろうか。少し、たどたどしくなっている。
私は彼が断るかもしれないから、返事を待たずに靴を履く。
「行くよ」
「……うん」
二人で家を出る。夏の夜空は、涼しかった。薄い半袖を着たかった。
「あれ、そういえば久保さんって寒がりだよね?」
「うん……」
「無理に、ついてこなくていいからね」
この「、」はなんだろうか。まさか心配をしているのだろうか。まぁ、優しいからそうと思える。
「ううん。大丈夫」
「じゃ、行くか」
私と卓くんは並んで歩く。
「夏休み、あともう少しで終わるのか……」
急な哀愁な発言に、私は少し目を丸くする。いままで、そんなこと一回も行ってないから。
「なに、急に。現実的になっちゃって」
「いや。なんかね」
「……ふーん」
まさか、余命あと数ヶ月というんじゃないんだろうな。この男。それなら、やりたいことやっておこうかなと思い、一応言ってみる。
「なに、なんかあるの?学校が嫌になったの?」
「いいや。なんか、夏休みが長いと、これがいつも通りになるというか、朝早く起きるのが困難になるということで……」
なんだ。聞いて損した。
「で、僕は早く起きれるとして……」
「うん。そこは認めるんだ」
「問題は……」
卓くんはじっと私を見る。
「久保さんだよ。休み気分でそのまま寝坊だからね」
「私、そこまで信用ない?」
「そうだね。僕は起こしに来るような気の利く友人じゃないんでね」
しれっとイラっとくることを言った。言葉のナイフだ。
角を曲がり、あとは彼の家までまっすぐ行くだけだ。
「あぁ、もうちょっと送ってあげるよ」
偉そうに言って、卓くんは素直に「いいよ」と言った。
「…………お」
卓くんは立ち止まって空を見上げていた。
「UFOいた?」
「いや、三日月が……」
指差す方には、薄そうな形の三日月があった。
「月……だね」
私は言葉を失う。
「月が、綺麗ですね」
「…………ん?」
卓くんが突然に月に贈った褒め言葉を、私は首を思いっきりかたむける。
「あれ、知らないの?月に関する慣用句とか言葉って結構多いんだよ」
「お……」
いつもの雑学タイムだ。しばらくなかった気がする。
「たとえば、ベートヴェンの曲の一つに、『ピアノソナタ月光』があったり、あと、年月にもあるね。一月は睦月、二月は如月、四月は卯月、五月は皐月、六月は水無月、七月は文月、八月は葉月、九月は長月、十月は神無月、十一月は霜月。他にも、ことわざなら雲泥の差を表す月とすっぽん。月の光で月明かりとかね。あと、藤原道長が詠んだ句にも月があるんだよ。『この世をば 我が世とぞ思う望月の 欠けたることを無しと思へば』この句は……」
「……お、おぅ」
いつにも増して、彼は力説する。やはり、溜まってたのかな?
「……あ、ごめん。寒がりなのに長々と」
どうやら、卓くんは正気に戻ったようだ。苦笑いを浮かべながら、彼は歩き出す。
そして、卓くんの家に前に着く。
「じゃ、僕はこれでね。ありがとうね。送ってくれて」
「うん、気をつけてね」
「……ん?」
「いや、雷に」
「あぁ、それほど怒られないから大丈夫だよ。久保さんも気をつけなよ。女の子一人で」
「大丈夫。襲われるような体じゃないから」
「自分で言って大丈夫?それ」
しばらく、二人で笑い合った後卓くんドアに手をかける。
「じゃ、久保さん。おやすみ」
「うん。おやすみ。卓くん」
卓くんは手を振ると、ドアを開けて家に入って行った。
やれやれ。また楽しい日々が始まりそうだな。あくびをして、家のある反対方向へ歩いて行った。
こんちくわんこそば。作者の小早川です。
投稿が僕的には遅くなってしまいました。だから、この1章で食い繋ぎます。でも、中々にいい完成度ではないでしょうか。特別編みたいです。
この話、今日の三日月を見て思いつきました。
あともう少しで終わる夏休み。終わってほしくないけど、寂しさがある。それが、僕の中の夏休みです。