第12章〜第14章
第12章 野良ネコ
久保さんと一緒に登校していると、一匹の三毛ネコを見つけた。
「わ、かわいいー」
人に慣れているのか、近づいても逃げずにゴロ寝を決め込んでいる。久保さんはしゃがんでネコの頭を撫でる。
「よしよし。よしよし」
ニマニマと嬉しそうな顔をしてネコを撫ででいる。「久保さんって、ネコ好きだっけ」
「うん、好きだね。あと、このネコ、卓くんに似てない?」
「えー、そう?」
急にそう言われても……
「なんか、この、グテーってしてるところ」
「僕、休みの日はそんなゴロゴロしてないけどね」
「そういうんじゃないよ。なんかこの。目をつぶってる顔がなんとなく、卓くんに見えるの」
「うそー」
ネコの顔を覗き込み、じっと見る。
うーん。見えないな。
すると、ネコは急に起き上がってピューッと逃げてしまった。
「あー……」
「卓くんのせいだ。卓くんのせいだ」
はやし立てる久保さん。チャンガチャンガ。僕は何も言えなくなった。
「ほら、遅刻するよ」
そう言って、しゃがんでいる久保さんの腕を引いて立ち上がらせる。
「また会ったらね」
第13章 お返し
「ねぇ、卓くん」
「ん?」
学校が終わってすぐ、久保さんが声をかけてきた。
「この前の、グミのお金のお返し、いいかな?」
「あぁ、うん。もちろん」
「やった」
この時を見越して、多めにお金を持ってきてよかった。詳しくは、第七章。
*
来たのは、駅前から離れたところにある書店だった。
本を買うのかな?
「あった。これこれ」
デンと音がしそうなほど見せてきたのは、映画化で話題になった文庫本だった。
「いやね。この本ね。ちょっと高いんだよね。だから、足りない分を卓くんに出してもらおうってね」
「え……」
僕は驚いた。全額僕に支払わせてもいいのに。でも彼女は、高くて足りない分の負担だけだった。優しいな。
「え、どうしたの?」
久保さんはコクリと首をかしげる。
「い、いや。うん。分かった」
二人でレジに行くと、書店屋のおばあさんが笑っていた。ちょっと恥ずかしい。僕は意を決した。
僕は、千円札と小銭を出す。
「え……」
久保さんは目を丸くする。
「いいの?」
その三文字は、不安と少しの嬉しさをかたどっていた。
「うん……僕はグミのお金を全部払ってもらったし、足りない分を払うんじゃ、僕の気がおさまらないよ」
「…………分かった」
照れくさそうに言い、書店のおばあちゃんは僕の出したお金をレジに入れた。
「幸せにね」
その声を背に聞き、僕たちは書店を後にした。
第14章 三色ボールペン
久保さんは、三色ボールペンを持って僕の席に近づく。
「ねぇ、卓くん」
「ん?」
「赤いペン二本ない?なくなちゃってさー。赤色」
「あるよ」
僕は筆箱から、赤いボールペンを出し、久保さんに渡す。そういえば次の授業は、プリントの丸つけだった。
「ありがとう。助かる」
「別に、青でもよくない?それ。別に、提出しても文句は言われないでしょ」
久保さんは少し機嫌が悪そうな顔をする。
「分かってないね。卓くんは」
「ん?」
「赤色はね、正解の意味があるの。青は、なんか、間違いを直したみたいな印象になるじゃん」
「…………まぁ、そうだね。うん」
一応、これ以上機嫌を損ねたら危ういから、うなずく。
「でもさー、赤色ってすぐ無くなるよねー」
久保さんは僕の赤いボールペンを見る。僕は小学校時代を思い出す。
「そうだね。丸つけとか、直しとかでね。でも、小学校くらいじゃ、赤は正解で、青は間違ったところの正しい答えを書いて、その上から丸をつけるってものだったなー」
「なっつかしいー」
久保さんは快活な笑顔を向ける。
「でも、小学校じゃ、ボールペンいいのに、シャーペンがダメな理由なんだ?」
全小中学生の疑問を投げかけてきた。
「卓くん、知ってる?」
「色々あるらしいけど、高価なものだから盗まれる可能性があるってのが僕の中じゃ有力だね」
「さすが。物知り」
あどけない笑顔を向け、久保さんは自分の席へ戻っていった。
でも、この小学校シャーペン禁止については、謎だ。その校則を定めた人を召喚して話を聞きたいくらいだ。
いでよ。いつしかの校長先生。なんちゃって。
こんちくわんこそば。
今回も、雑巾のごとく絞り出しました。その割には話数が少ないですけど。次回は多くしようかなと思います。でも、投稿頻度は落ちそう。それは気にしない。対価は量と面白いお話だぜ。
第十二章は、通っている高校の最寄り駅にネコがいるので、それを思い出して書きました。しかも、実際に近づいても逃げないんですよ。無防備に寝てます。かわいいですよね。多分、僕は一生ネコ派。




