物語のその先へ
テトラノールという小さな国の田舎町・フラッタで、雪のように真っ白ながいこつの置物――模造骸骨が見つかってから、三度目の春がやってきました。
眠りから覚めた心優しい模造骸骨は、『エルトゥス・アサラ』という名前をくれた少年と一緒に「声と想いを届けるための会社」を作りました。
発話代行サービス・イストリア――。
別の国の言葉で「物語」という意味の会社名には「皆がそれぞれ紡いでいる物語をよりよいものにする会社でありたい」という願いが込められています。
様々な事情を抱えている人々に声と想いを届ける仕事は、決して簡単ではありません。
それでも、エルトゥスは幸せでした。どんなに大変な仕事でも少年が手助けしてくれましたし、一緒に働いている二人の女性が――自分たちのように依頼人から直接感謝されるわけでもないのに――それぞれ自分の役目を果たしてくれている姿を見ると「僕も自分の役目を果たそう」と思えたのです。
ただ、最近のエルトゥスには、時々考えることがあります。
自分を創ってくれた魔人のことです。
たたかいに敗れた魔人は、他の模造骸骨と一緒に跡形もなく滅んでしまいましたから、昔の記憶がないエルトゥスには自分を創ってくれた人のことが何も分かりません。
少年は「きっとエルみたいに優しい人だったんだろうね」と言いますが、それを確認することはできないのです。
(――僕を創ってくれた魔人はどんな人だったんだろう)
そう考えているエルトゥスですが、寂しいわけではありません。
それではどうして考えているのかというと、「あること」が頭の中にあったからです。
(――もしかして、僕には特別な役目があるのかな)
エルトゥス以外の模造骸骨は、魔人と一緒にあとかたもなく滅んでしまいました。
それなのに、エルトゥスだけが静かに眠っていたのです。それには何か意味があって、もしかしたら自分には特別な役目があるんじゃないか……。
そう思ったからこそ、自分を創ってくれた魔人のことを考えていたのでした。
もちろん、特別な役目が本当にあるのかは分かりません。エルトゥスは少年のように優秀な頭脳を持っていませんし、その少年は役目のことなど一度も話しませんでしたから。
けれど、もしも自分を創った魔人が特別な役目を与えていたのだとしたら――。
いいえ、もし特別な役目があったとしても、エルトゥスの気持ちは変わりません。
エルトゥス・アサラは声と想いを届ける力を持っています。そしてそれは、自分を創ってくれた魔人が授けてくれたものなのです。
だから、エルトゥスはこれからも声と想いを届け続けるでしょう。
「そうしたい」と心から思わせてくれた少年と一緒に――。




