はじまり
昔々、テトラノールという小さな国に魔人と呼ばれる人々がいました。
彼らは他の人間が持っていない特別な能力――「魔力」というエネルギーを操る力を持っていたせいで森の中でひっそりと暮らさなければなりませんでしたが、ちっとも寂しくありませんでした。
何故なら、心優しい友人がすぐ傍にいたからです。
友人の名前は、模造骸骨。
森の中で暮らすようになった魔人が魔力で創った、雪のように真っ白ながいこつです。
模造骸骨は食事こそできませんでしたが、それ以外は魔人とほとんど同じで、もちろん話すこともできました。
ときには笑い、ときにはともに悲しんでくれる模造骸骨のおかげで、魔人たちは楽しい日々を過ごしていました。
しかし、その日々も長くは続きませんでした。
森で暮らすようになって百年が過ぎた頃、一部の魔人が「町で暮らしたい」と思うようになったのです。
「模造骸骨と一緒に町で暮らしたい」
「悪いことをしていない魔人が町で暮らせないなんておかしい」
その声はしだいに大きくなり、魔人は自分たちを森へ追いやった人間とたたかうことを決めました。
けれど――たたかいは失敗に終わりました。
そして、魔人と模造骸骨は、跡形もなく滅んでしまいました。
それからさらに三百年が過ぎた、ある日のことです。
テトラノールの田舎町・フラッタで暮らす一人の少年が、自宅の地下室で「がいこつの置物」を見つけました。
まるで眠るように横たわっているそのがいこつは、雪のように真っ白でした――。