事象の地平
「事象の地平だよ」
大間伸一は久しぶりに会った同級生にこう答えた。
相談があるから一杯飲もうと居酒屋に入ったところだった。
理系だの平成生まれだのと言われているが、若手技師として無難に働いている。
「地平とは影響するかしないかの境界線のことだろう」
友人は机に指で線を引いた。そこは以心伝心、同じ釜の飯を食った仲だ。友人は文武両道で物理の成績も良かった。
「そう、境界線の向こうは別世界。光でさえも観測出来ないんだ」
とりあえず二人はビールを頼んだ。
「ならば大宇宙はなぜ存在している? お互いに影響しあって、そのバランスの上に成り立っているのではないか」
友人なりに応援してくれているようだ。
「ありがとう。頑張ってみるよ」
今日は友人に再会出来てとても良かった。
会ってからの五分で、未来へと奮い立つ勇気のようなものをもらった。
伸一は熱い心でグラスを持って立ち上がり、向こうに座る女子会に声を掛けた。
「お嬢さんたち、一緒に飲みましょう」