4話
次の週末。少し肌寒い春の風に吹かれながら、私は駅前の広場を見渡した。
「あっ……いた」
人混みの中で立っている陸斗を見つけて、思わず小走りになる。私が手を振ると、陸斗もすぐに気づいて笑顔で応えてくれた。
「おまたせ!」
「おはよう美鈴。寒くなかったか?」
「ちょっとだけ。でも平気。……来てくれてありがとう!」
今日の陸斗は、いつもより落ち着いた服装をしていて、なんだか大人っぽく見える。もちろん、そんなことを口には出せず、私は心の中でひっそりとドキっとしていた。
「それじゃあ、早速行こっか」
陸斗と並んで歩き出すと、足元に舞い残った桜の花びらがふわふわと転がった。静かな春の空気に、心が少しずつ柔らかくなっていく。
「多分ここであっていると思う……」
たどり着いたその店は、過去に飛ばされた時と同じ姿で、静かに佇んでいた。木製の扉、ガラス越しに見えるクラシックな時計たち。私はそっと扉に手をかけた。
カラン、とベルの音が鳴る。
中は静かで落ち着いていて、まるで時間の流れ方が違うような、そんな空間だった。
棚に並べられた時計たちが静かに時を刻み、ショーケースの中にいる時計たちは、ライトに照らされてどこか誇らしげに見えた。
「うわ、これ見て。天文時計みたい」
「それはムーンフェイスだね。月の満ち欠けが分かるんだ」
「あれ? この時計は針が4本あるよ」
「それはGMTだね。他の国の時刻も表示できるんだ」
ふたりでショーケースを移動しながら、目にとまった時計の感想を交わしていく。私が疑問に思った事を陸斗が得意げに説明してくれた。
「時計って、ただ時間を知るための道具だと思ったけど……ちゃんと個性があるんだね」
「そうなんだよ、どれもカッコいいよな!」
そんな話をしているうちに、シンプルな白い文字盤の腕時計と目が合って、私はピタリと足を止めた。
「……これ、私の時計と同じだよね?」
「そうだね、いい時計だな」
2人でジィーッと見つめていると、店の奥から年配の店主さんがゆったりとした足取りで現れた。どこかで見たことがあるような、でも思い出せない、そんな不思議な既視感。もしかして……お父さんと話していた店主さん?
「いらっしゃいませ。ごゆっくりどうぞ」
優しく響く声に、ふたりしてぺこりと頭を下げた。
「あの……この時計、ずいぶん前に、誰かが買いに来たことってありますか?」
店主さんは少しだけ目を細め、しばらく黙ったあとで、ぽつりとつぶやいた。
「……そうですね。昔、そういった方がいらっしゃったような。ご自分のために、でも、いずれは誰かの手に渡すためにと……」
私は息を呑んだ。でも、店主さんはそれ以上は何も言わず、ただ、ゆっくりと微笑んでいた。
「そういう時計は、世代を超えて大切な人に引き継がれていくものですよ」
店主さんの言葉を聞いたあと、私たちはしばらく無言でその時計を眺めていた。白い文字盤の中で、時の針は静かに、でも確かに進み続けている。
それからもう少しだけ店内を見て回ってから、私たちは静かにお店をあとにした。扉を閉めるとき、またあのベルの音がカランと鳴って、背中を優しく押してくれた気がした。