2-3帰国後自覚初日
宜しくお願いします。
「失礼します。晩御飯をお持ちしました」
言葉を発し部屋に入室してきたのは恐らく看護師の方。
よく見れば父様と母様とは別の種類の白い服を着ていた。
メニューは、とろみがかかったお湯っぽいものと、
具材がないスープみたいなもの。
それと牛乳とオレンジジュースだった。
胃に負担をかけないための食事だよね。
思いっきり病院食でちょっとだけがっかりしてしまった。
明日のお粥は期待していいのか微妙なところ。
「ご馳走様でした」
ほぼ液体なので直ぐに食べ終わった。
お腹がチャポチャポになってる気がするけど大丈夫かな。
「明日には点滴取れそうかしら?」
「そうだな。直接栄養をとれるのに勝るものはないからな。
少なくとも最低限の種類の点滴に変わるんじゃないか?」
横の点滴を見る。
今現在繋がっているのは、中身が黄色っぽいものの一種類のみ。
もうすぐ終わりそうだ。
そこへ看護師さんが来て晩御飯の食器が乗ったトレーを持って行った。
そして戻って来たところで、丁度終わった点滴を透明な液の物と取り換えた。
「もう間もなく先生がいらっしゃって、夜の診察を行います」
「分かりました。点滴の話をきけそうですね」
「ああ。良いタイミングだ」
「それでは失礼します」
そう言って看護師さんは去って行った。
「ところで歯磨きとか、どうなってるんですか?」
デザートまで食事を終えたら、次は歯のケアだろうと思ってきいてみると。
「病院のセットに確かあったはずよ。一応、それも聞きましょうね」
「はい」
そうこうしているとノックの後に医者の先生が入って来た。
「ご気分はどうかな?」
「悪くないです。ご飯も全部食べれましたし」
「そうか、それは良かった。量は小児用のそれにしたから、
それが丁度良かったのかもしれないね。
さて、じゃあ口を開けて、あーと言ってくれるかな?」
「はい。あー」
先生が金属の平たい棒を私の舌の上に置いて、診察を始めた。
次にペンライトのような物を取り出して。
「目で僕の指を追って」
指示された通りに、先生の指を右へ左へと追った。
「足をこちらに動かせるかな?」
「はい」
先生が言った方向へ足を移動させる。
すると私の膝に、ハンマーのような器具を使って打った。
反射で膝から下が跳ね上がった。
「うん、良いね。衰弱気味だけど健康体だ。リハビリも進めていこうね」
「はい」
「ところで先生、点滴は取れそうですか?」
父様が問いかけると。
「そうですね、明日の様子を見次第ですね。
ご飯をちゃんと食べられていれば直にとれるでしょう」
前向きな答えが返って来た。
「後、歯磨きはどうなってるんですか?」
「ああ、そうだね。ここに洗面器を持ってきて実施することにしようか。
後、気が付いたから身体の洗浄もした方がいいですね。
これは明日にしましょう」
身体を洗うのは、シャワー室の予約が必要だからとのことだった。
少しすると、看護師さんが洗面器と水の入ったカップを持ってきてくれた。
歯ブラシはベッドの隣にあった引き出しから出して、渡してくれた。
歯磨きが終わると、先生が洗面器を持って行った。
夜の診察も無事に終わっていたらしい。
「父様、母様の晩御飯は良いんですか?」
「帰ったらあるだろうから大丈夫だ」
「気にしちゃダメよ。今は自分のことを考えなさい」
「面会時間とか気になるんですけど」
病院に入院した経験は間接的にもないので分からない。
お見舞いの経験から、面会時間というのが指定されているだろうことだけは分かっていたけど。
「ここは特別個室だから面会時間は設定されていない」
「特別個室。凄い所に入ってたんですね」
「衰弱が激しかったからな。今回、召喚魔法が成功しなければ
死んでいたかもしれないんだ」
「本当にギリギリのところだったのよ」
母様が私の手を握って来た。
「間に合ってよかったです」
「まったくだ。憑依していた元の人から上手く魂が外せて良かった」
「身体はこちらにあって、魂だけ抜けていた状態だったと?」
植物人間状態に近い感じだったのかな。
「そうだ。それが禁断の魔法の正体だ。
戻って来れたのも真実の泉の力も使ってたからな」
「水に入った感覚があったんですが、それですか」
「ええ、真実の泉の水ね。その後、この病院に再入院したのよ。
本当に良かったわ。言葉も問題なかったし。今の状態はどう?」
「言葉は日本語なんで問題なく喋れます。後、元の人に彼氏がいたんですが、
戻ってから恋しいという気持ちには一切なってないので、正常だと思います」
恋しいどころか、逆にその人と一緒になって大丈夫なんだろうかという気持ちが
占めている。
その他に友人関係などがまったく思い出せないせいか、問題が思いつかない。
家族のことも一切思い出せないが、現在の家族である父様と母様がリンクスで
繋がっている感覚がするので、問題ない。
おかげさまでホームシックにもなっていない。
「確かにそれは分かりやすい例だな。交際期間は長かったのか?
交際の状態は?」
「結婚を約束している状態でした。もうすぐ同棲といったところですかね。
交際期間は五年くらいです」
「仮婚約中かな?それで恋しい気持ちがないのなら正常だ。
本来の自分に戻ったな。改めてお帰り、ユートレイクス」
「はい、戻りました。ただいまです」
父様が抱きしめてきたので応えた。
「父様、仮婚約って何ですか?」
「交際関係の交際後の……って、交際手帳がもしかしてないのか!?」
物凄く驚いているけど、存在していないものはない。
「交際手帳?そんなのありませんでしたよ」
「こちらでは交際手帳の手順にそって交際をしていくんだ。
順番は仮交際、交際、仮婚約、婚約、公認婚約、正式婚約、結婚となっている。
交際手帳は結婚式で燃えて灰になる」
どうやら地球の交際関係よりシステマティックに進めていく必要があるみたい。
面倒そうなシステムに従う必要があるんだろうか。
「交際手帳の手順に沿わないといけないんですか?」
「沿わなければ指一本触れることさえもできないぞ」
「そんな!?」
思っていたより厳しいらしい。
「家族なら問題ないが、それ以外ならば直接触れられない。
同性以外に触れるには手袋をしている必要がある。
仮交際の関係になって、初めて触れられるようになる」
「手を繋ぐとかもですか?」
「ああ、含められるな。顔へのキスも交際になってからだ」
随分と複雑そうなシステムだ。
出来ないのにしたらどうなるんだろうか。
「出来ないのにしたら、どうなるんですか?」
ドストレートに聞いてみたらば。
「寸前に吹き飛ばされる。反射魔法的なものが働くんだ」
出た、魔法要素だ。
やっぱりこの世界のジャンルは科学技術の高さからして
サイエンス・フィクションに思わせておいて、
実際はファンタジーらしい。
「女性側が納得しなかったら手動で吹き飛ばすこともあるわよ。
私はしたことがないけれど」
「思っていた以上に物騒ですね。男性は防戦一方ですか」
「心が通っていれば問題ないだろう?」
つまりは両想いなら問題ないということ。
これぞ恋愛といったところかな。
「そういうことですか」
現代日本における女性の弱者が魔法で守られている世界観か。
優しく見えるが実際はどうなのだろうか。
「ユートレイクスの交際手帳は実家の机の引き出しの中に保管してある。
退院したら、内容から確認してみるといい」
「はい、分かりました」
「本当に常識が常識じゃないのね」
「全員に交際手帳があるんですね?」
「ええ、生まれると自動的に現れるの。結婚式で燃えて消え、
その灰を役所に提出するまで、ずっと肌身離さず所持するのが一般的よ」
灰までも使用する必要があるとは、これから随分と長い付き合いになりそう。
なんとなく早く交際手帳の内容を確認したくなってきた。
一体どんなことが記載されているのか興味津々である。
結婚する年齢とか大まかに決まってそうだな、なんて思った。
後、地球と比べて年齢層が広い為、結婚は晩婚が多そうだなと感じた。
寿命が二百四十歳だから、三十以上は晩婚という地球の常識は当てはめられないだろうけど。
むしろ三十以上からが結婚適齢期なんじゃないかな。
色々考えていたら、こちらの婚姻事情が知りたくなった次第。
学生結婚とか認められているんだろうか。
後、寿命が二百四十歳からした成人年齢を知りたいと思った。
お読みいただきありがとうございました。