2-1帰国後自覚初日
宜しくお願いします。
今更驚いて叫んでも、どうにもならないと悟った。
とりあえず冷静になり、まずは現状について考えることにした。
「もしかして男の子で叫んだのは、女性だったから?」
気づいた母様がきいてきた。
「はい。憑依していた人が女性だったんです。ずっと女性だと思って生きてきたから、
叫んでしまったんです」
ボーイッシュではあったけど、男性ではなかったから。
男性になりたい願望が若干あったので、普通の人と比べて適正はあるのかもしれないけど。
初めての感覚で下の部分から自分は男子だっていうことが伝わっている。
「ゆっくりとなじんでいけば良いわ」
母様がフォローしてくれた。
ありがたい。
次に考え付いたこととは、男性のトイレ事情。
さっそくご教授してほしいと教えを請うことにした。
「父様、歩けるようになったらトイレのやり方教えてくださいね」
「ああ、もちろん」
今現在の筋力では、こうして座ってるので精一杯。
リハビリ等をして筋力を付けていかなければ。
「十歳というと、学校に通っている年齢帯だと思うんですが、こちらにも学校ってありますか?」
その次に思いついたのが年齢関係のこと。
ここの技術力的に学校がないとは思わないが、念の為。
「もちろんあるぞ。ティ、中級編入で良いと思うか?」
「ええ、丁度いいと思うわ」
「それで、学校に通うのは何年後なんですか?」
小学校からデビューとなるんだろうか。
中が共通の中学生からのデビューなのだろうか。
「中級編入だから七年後だな。今年が初級初年度だから。もしかして学校に通う年数が違うのか?」
「はい、日本と違いますね。恐らく初級である小学校は六年、そこから中学、高校、大学と
三、三、二か四ですよ。海外の例だと七、四、二、四というのもありましたが」
中学以降、合計十年の変動はあまりない。
こちらとは通う年数が全然違うということになる。
「こちらと比べて若干短いんだな」
「平均寿命が約八十年なので、それ相応だと思いますが」
「寿命がたった八十年なのか。こちらでは約二百四十年だぞ」
寿命が三倍の二百歳越えとは、ずいぶんと長いことで。
これから途方もない年月を生きていかなければならないことになる。
「ああ、だから学校に通う年数が長いのかもしれませんね」
「初級七の次は、中級四、上級四に特級六だから結構長いな」
学校は級でまとめられているんだな。
義務教育はやっぱり小学校である初級からだろうか。
「義務教育はやっぱり初級からですか?」
「教育の義務があるのは幼年学級から特級だな。義務教育とはそういう意味で合ってるか?」
「はい、合ってます。幼年学級は初級の前ですか?」
「いや、二つ前だ。幼年学級、入門、初級、中級という順番だからな。五歳の年から二年間
通うことになっている」
小学校の二つ前ということは、幼稚園の前ということだから保育園からという認識で合ってる
だろうか。
通う年齢的には幼稚園だけど。
「なるほど。近所に学校があるんですよね?どれくらいか知りませんが、歩いて通う必要性が
ありますね」
「いや、学校は入門から全部全寮制だ。だから学術を売りにしているイグズの学校に行くことや、
武器を売りにしているイテラックの学校に行くことも出来る。
入寮する際に飛行機のチケットを予約できる。希望する寮は第十希望まで選択出来るように
なっている」
なるほど、ずいぶんと自由度が高い政策で。
第十希望まであるということはそれだけ寮が存在しているという意味。
例えば学術を売りにしたイグズで考えれば、国民の生活の一つとして運営されているだろうことが
伺えた。
「地球の寮で自炊を経験したんですが、こちらも自炊ですか?」
「いや、作ってくれる。朝晩、週末の昼間もな。平日の昼は給食が出るから必要ない。
上級からは学食で食べることになる」
上級は学食ということは、生徒全員分を用意しているということ。
物凄い労働力だななんて思った。
「じゃあ、学校に行く際は寮を選ばなきゃいけないんですね」
「そうだな。入学案内としてガイドブックが送られて来るから、そこから選ぶ必要がある。
後は制服が送られて来るぞ」
「制服!それは楽しみですね。後どこの国の学校を選べばいいのかサッパリ分からないので、
色々教えてくださいね」
学術を売りにしているというイグズ、武器を売りにしているというイテラックの他にも色々と売りに
している国があるだろうから。
今現在の選択だとイグズの学校だろうか。
「もちろんだ。俺の推薦はイグズ中央校だな。共学で、しかも和気あいあいと過ごせるからな」
「私も中央校をお勧めするわ。私が通っていた女子校は女子校で良いけれど、閉鎖的な環境で
小さくなってしまうから。男子校もそうだと思うわ」
お二人ともイグズ中央校を推薦してきた。
「じゃあ、私もイグズ中央校にしようと思います」
早々に決めて言った。
父様と母様両名の推薦があるなら間違いはないはずと。
「よし、じゃあ帰ったら早速申請しとくな」
「はい、お願いします」
一体どんな学校なのか、今から楽しみだ。
「中級の寮は八人部屋だ。直ぐに友達も出来るだろうな」
「結構多いんですね。頑張ります」
「上級六人、特級四人と徐々に減っていく感じになる」
「なるほど、そうなんですね」
「特に特級は希望する同室の仲間が選べるから安定するぞ」
中、上とランダムだろうから、そこから特と選べるのは大きい。
きっと打ち解けた仲間と一緒の部屋になれるんだろうな。
今から特級の寮のルームメイトがどんな人達になるのか興味津々だ。
「多分だが一回イグズに飛んで、学力試験を受ける必要があるかもしれない」
「それも往復の飛行機のチケットがもらえるんですか?」
「恐らくな。後は、体験入学をすると良い。学校がどんな所か見当がつくだろう。
七年目の体験旅行の時期が丁度良いんじゃないか?」
「それは良いアイディアね。ただ勉強するのと違うから、きっと充実した時間が過ごせると思うわ」
体験旅行とはどんな感じなんだろうか。
勉強なしでアクティビティ多しといった感じだろうか。
その時が楽しみになってきた。
「今はそこに向かってリハビリしないとですね。座ってるだけでも疲れてくる今じゃあ
とてもじゃないですけど、難しいです」
「ああ、悪い。回復魔法を使うか」
父様が私の腰辺りに手で触れる。
すると温かくなって、さっきまであった疲労が消えた。
「凄いです。どういう仕組みなんですか?」
「どういうものというより、こういうものだと理解してるから、大まかなことしか分からない。
健康の促進をしてるとしかな」
結構アバウトな感じでも成り立っているんだな。
でも、それで効くんだから凄い。
「ありがとうございます」
「当然だ。礼はいらない」
「ここでの当たり前が私にとっては当たり前ではないので、お礼は当然です」
「そうか。じゃあ、受け取っておこう」
ポンポンと私の頭をかるく撫でながら父様がにこやかに言った。
「リハビリの予約をする必要があるかな?とはいえ最初は身近な所で出来るような簡単なものかも
しれないが」
いつの間にか、この部屋から去っていた白髪のお医者さんを思う。
ナースコールがあれば、それで呼んでも良いのだろうか。
「落ち着きましたか?」
考えてた人がひょっこりと現れた。
「ええ。今リハビリの話をしていたところです」
「ああ、そうですね。必要ですね。まずは簡単にこなせそうなことから始めましょうか。
このボールを握れるかな?」
医者がポケットから取り出したスポンジ状に見えるボールを受け取った。
握って握力を測る物なのだろう。
グッと力を入れてボールをしっかりと握った。
指が少し沈むが、潰れて可能な限りの最小のサイズまでにはならない。
凄く悔しい気分になった。
何度も握って最小のサイズになるまで握ろうと努力するが、出来ない。
「流石に初めてで最小まで握るのは困難みたいですね。反対はどうかな?」
言われたので、握ってる手を変えて同じように試してみる。
左も右と変わらないくらいしか握りこめなかった。
「今はこれで手いっぱいみたいです」
何度も握り返しながら言った。
またボールを両手で持ち、左右から潰すように握ってみたけど、ぺったんこにはならなかった。
凄く悔しい。
普通の健康体ならば苦にならないだろうことが出来なくて。
「うん。それはここに置いておくから、気が付いたときに握ってトレーニングしてね。
今現在の大まかな筋力は理解したから大丈夫。ゆっくり取り組んでいこう」
「はい。分かりました」
立って走ってまでするには道のりが遠そうだ。
早く自分の身体で自由に動いたり色々したいのにな。
「後、もうすぐ晩ご飯の時間だけど、普通に食べられそうかな?」
「おかゆとかなら大丈夫だと思います。その、噛む力に自信がなくて」
「そうか。今日は流動食だから、明日からおかゆの指示をしとくね。後、何かあったら
そこの呼び出しベルを鳴らしてね。それじゃあ」
軽く手を振って、医者が部屋から出て行った。
そしてようやくナースコールもとい呼び出しベルの場所を知った。
「早く潰したい……」
手にボールを持ち、握って潰す。
「焦らなくても、その気持ちさえあれば直ぐに潰せるようになる」
「はい。ただ、そう直ぐに諦めないだけです」
ググっと今持てる全力でボールを潰すが、三分の一くらいしか潰せていない。
「握って反復運動をすればいずれ、ね」
「努力します」
「ええ、頑張って」
母様が頭を撫でながらエールを送ってくれた。
早く立って走れるようになるためにも、リハビリを頑張らなくては。
お二人の期待に応えられるように努力しないと。
お読みいただきありがとうございました。