32橋崩落
宜しくお願いします
長月下旬、某所。
本日は橋の完成式です。
谷から谷へと続く道を繋ぐ、大切な橋。
橋の計画時点から見守って来た。
博物館から五トントラックを二台取り寄せて、この記念すべき日に重量テストを行う。
万が一落ちた時用にトラックには針金で吊れる仕掛けとなっている。
開通式のテープカットが行われ、いよいよテストの時間となった。
トラックはリモコンで動く仕様になっている。
操作するのは、なんと僕です。
橋からひいひい爺様と他の重役の人達が離れ、テスト開始となった。
ラジコンのように操作するリモコンを使用し、一台ずつ慎重に進めて行った。
難なく一台目を橋の中央部分に乗せられたので、二台目に取り掛かる。
二台目も特に問題ない様に見えたのは一瞬のこと。
次の瞬間、橋が崩落した。
計画時点から十トンに耐えられるように建設されていたはずなのにだ。
橋は完全にトラックの下の部分から崩落し、谷底へと落ちて行った。
残されたのは針金で吊るされているトラックのみだ。
集まった多くの出席した人々から悲痛な悲鳴が聞こえた。
それと同時に次の瞬間、数多くのブーイングが発生した。
それにしても保険をかけておいて良かった。
トラックは念の為の対策があったので、博物館に無償で返せる。
「ひいひい爺様、橋どうなるんですか?」
「建設会社を変更して、再度建築する。ユートの懸念が当たったな」
「万が一を考えてただけですよ。今度の会社は時間をかけて建設して下さいね」
あの設計図を見てから一年未満で橋が出来た時点で変だと気づくべきだった。
結局何トンまで許容範囲だったのだろうか。
「可能重量は何キロだったんですかね?」
「十トンピッタリだったのだろう。トラックの重量が五トン以上だったのではないか?」
「全自動にする為に少し加えてありますが、まさかピッタリで落ちるとは思いませんでした」
プラスアルファくらい余裕があっても良いだろうに。
「帰ったら早速会社の入札を行わねばな。綿密に実行してくれるところを選ばねば」
「落ちた橋を建設した会社はどうなるんですか?」
「明日には倒産しているだろうな」
「そんなに早く……」
あまりの速さに口が半開きになった。
「責任は重い。多くの社員は路頭に迷うだろうな」
「なんとか救えませんか?」
「トップは橋を崩落した罪で逮捕されるだろうな。その下は、どうかな?」
ひいひい爺様の言葉にしばらく考えてみた。
一気に沢山の人が無職になってしまう。
「旅館の従業員とかに複数人もらえませんかね?」
山間に建設中の温泉旅館。
スタッフの数がまだ足りてなかったはず。
確か清掃部門だったかな。
「それは良いアイディアだ。希望者を募ろうな」
「はい!」
全員は流石に無理だろうけど、少人数ならば可能だろう。
清掃以外の部門も人が必要だろうから、後で確認しなきゃね。
けど、今は。
「トラックを回収しなきゃですね」
「ああ、頼む」
「はい」
頷きながら針金の元を操作する。
無事にトラック二台を平地まで戻せた。
良かった、博物館に問題なく返せそう。
また時期が来たら出張してもらう必要があるけど、それはその時に。
博物館の方がいらっしゃってるから、お二方にキーを返却した。
博物館からここまで運転して下さったのだ。
吊るされた針金を回収してから、綺麗な状態で返した。
「次は再来年くらいですかね?」
「そうだな、それくらいになるだろう」
橋の建設計画をじっくりとたててもらう。
一年未満と短かった今回を見直して作り直してもらう手筈。
まずは会社の選択からだけど、どうなることやら。
「入札、見学するか?」
「いえ。ひいひい爺様の観察眼にお任せします」
「ああ、任された」
ド素人の僕よりひいひい爺様の経験がある見方の方がいいに決まってる。
きっといい建設会社を選択してくれるはず。
少なくとも、今回の事のになるような企業ではないよね。
「早速帰って入札の準備をせねば。加える条件が追加になるからな」
「条件?何を加える予定なんですか?」
「十トン以上でも崩落しない橋を作るように要望をな」
確かに、今回のように数グラム重量をオーバーしただけで崩落する橋は危険だ。
是非要望に叶うような企業が出てくることを祈る。
まぁ、企業各社のプレゼン次第だろうけど。
「希望が通る企業が出てくると良いですけど」
「きっと大丈夫だろう。前回は閉鎖的な入札だったが、今回はオープンな入札になるからな」
つまり、前回はある程度忖度されていたということかな。
今回は一般にも開かれた場で行われるということらしい。
過去に橋建設の経験がある企業が当たるといいけど、どうなんだろう。
前にも思ったけど、橋を実際に建設したことのある企業がいいと思う。
初期の計画で最重量百キロなんて考えられないだろうから。
それだけあの事実はショックだった。
是非通りに叶った計画を提出する企業を選択してください。
もしかしたら、前回は裏の金銭でのやり取りがあったかもしれない。
今回はそんなことがないように監視の目を光らせておかないと。
「裏で金銭のやり取りがない様に見張っておいてください」
「前回はあったかもしれないということだな?」
「はい。その可能性があったと思います。競合他社があったのに、あまりにもアッサリと決まり過ぎてる気がしまして」
よく考えたら、あんなちゃっちい建設計画でも通るなんておかしかった。
「確かにそうだな。分かった、目を光らせておく」
「お願いします」
補佐役レベルでも目を光らせておけば問題ないはず。
前回の入札で金銭のやり取りがあったならば、今回も通用するようにしてくるだろう。
逮捕案件なのは当然なので、警察相当の役目を持った人に声をかければいいだろう。
今回の入札は十一票からなるという。
対して参加する企業の数は五社とのこと。
上手くいきますように。
「今回建設した企業の倒産は確定なんですか?」
「逆に聞くが、これ以降建設を任せられると思うか?」
「橋のような大きな案件は無理だと思います。苦情の電話が殺到する程度で終わるんじゃないですか?」
「株式会社なんだ、株の暴落が見える。その結果の倒産だ」
なるほど、と頷いた。
「何人くらいが路頭に迷いますかね?」
「百人以上、千人未満だろうな。普通に大きな企業だからな」
十人程度の採用枠だけじゃ全然足りないんだなと納得した。
清掃部門の他に、旅館で人手が足りない部門ってあったかな。
そもそも建設会社から旅館の清掃係への転職というのは無理があるかもしれない。
「職業訓練校、開校できましたっけ?」
「まだ実施できるほどの完成度ではない。出来るのは最速で来年度になるだろうな」
公共事業だから、その為の金銭も投入されなければならない。
来年度から州立の事業として予算に組み込まれるはずだよね。
「離職した人々が第一期生になりそうですね」
「そうだな。そうなる可能性が高い。それより先に別級生の数が、ぐんと高くなりそうだ」
確かに職業訓練校が無ければそちらに人員が流れるはず。
金銭的余裕は十分にあるのかな。
ないと本当に路頭に迷うことになるんだけど。
奨学金制度みたいなのがあると良いのかもしれない。
地球と違ってこちらは特級まで無償だから、有償になる別級になってからでないと分からないけど。
「別級は授業料が無料になる制度とかあるんですか?地球には奨学金制度というものがありましたが」
「ああ、こちらにも奨学金制度がある。ある程度の成績をきちんと修める必要があるがな。
返還不要な物とそのまま譲渡されるものがあった」
地球と似ているというか、聞いた感じ同じっぽいかな。
私の時は奨学金制度を活用しなかったから、詳しいことは分からないけど。
「多分同じ制度だと思います。離職した人々の為に無償で活用されることが多くなりそうですね」
「そうだな。最低二年、最高四年、じっくりと次の事業につながる学問を学ぶ必要があるな」
別級の学習期間は大学と同じみたい。
短大の二年制と一般の四年制。
一般の企業に勤めるのにそこまで就学期間が必要になるか、ちょっと疑問に思っちゃったけど。
特級の三年と六年を比較すると、そっちの方が長いからきっと必要な修学事項が多いんだろうな。
僕は何年通うことになるのかな。
選択するコースによって決まるから、それまでの辛抱だね。
「旅館で計何人必要になるか、計算する必要がありますね。即戦力を求めることになりますが」
「一般企業と違って接客が主だろうから、その訓練が必要になる。まぁ、大丈夫だろう」
専門的な知識が必要な一般企業と、旅館の接客係では必要なスキルが全然違う。
早く決めてOJTを実行できればいいけど。
採用に関しては面接次第といったところ。
翌日。
ひいひい爺様の読み通り、橋の建設を担当したエッツェン株式会社が倒産した。
そして上層部の幹部達は損害賠償の容疑で逮捕された。
エルイーノ領にある本部の建物には報道陣が殺到し、物凄いことになっていた。
建物から出てくる社員一人一人に囲み取材が実施されていた。
下手したらノイローゼになりそうな感じじゃないかな。
所で旅館で必要な人員は全部で三十四人ということになった。
一番多いのが清掃係で、二十四人。
次に調理担当が五人。
そして最後が接客担当で、こちらも五人という計算でした。
離職した約百人がこの採用に駆け込んだ。
残ったその他大勢は別級に進学する方向で動いているらしい。
これもひいひい爺様の観察眼が光ったかな。
離職した方々に職をと思って、旅館の採用を回したけど、傷口に塩を塗るようなことだったかもしれない。
ほとんどが別級に進学する方向で進んでいる。
今まで培ってきたノウハウを他の企業で活用するというのは厳しいらしい。
橋を建設したのに崩落したから。
落ちたのに何を培うというのだろうか。
他に僕に出来ることと言えば、沢山の雇用を求める企業がありますようにと、また正社員採用が多くあることを願うしかない。
橋が崩落したエルイーノ領の企業はここエアル領、地元じゃないから色々と難しい。
向こうで実施される企業があるように願うのみ。
まぁ、なるようになるしかないよね。
お読みいただきありがとうございます




