31誕生日
宜しくお願いします
二回目の誕生日、十一歳になりました。
現在の居場所は、去年と同様に別荘です。
「ユート、プレゼントよ」
「ありがとうございます!」
ラッピングされた小箱を母様から受取った。
今年は何をいただけたんだろうか。
包装がビリビリにならないように気を付けて、開ける。
腕時計は細長だったけど、今回の箱は正四角形に近い。
箱を開けて中身を見る。
手に取って、何なのか分析する。
革製で黒く、開くことが出来るようになっており、小型のポケットがある。
恐らくこれは。
「お財布、ですか?」
「ええ、そうよ」
「これも一緒にな」
父様から封筒が渡された。
何が入っているのかはなんとなく分かった。
封筒の中身を見てみると、予想通り紙幣が入っていた。
さかさまにして中身を取り出してみると、奥から硬貨も出て来た。
右角にアラビア数字で千と印字されている紙幣と、真ん中にアラビア数字で五百と彫られている硬貨。
「千円と五百円まで!あ、通貨は円で合ってますか?」
「ああ、同じなんだな。流石にデザインは違うよな?」
「はい。全然違います。日本の紙幣は人物が描かれていますが、こちらは建築物ですかね?」
紙幣には日本の国会議事堂やアメリカのホワイトハウスのような建物が真ん中に描かれていた。
どこかの国の国会だったりするのかな。
「イグズ中央にある迎賓館だな」
代わって硬貨の方は植物、五百を囲う月桂冠のようなデザインだった。
実際に月桂冠かどうかは知らないけど。
対して裏には可愛い花がプリントされていた。
表の葉の花かな。
財布を開いて慎重にピン札の紙幣とキラキラ輝く硬貨をしまった。
「大事に使いますね。ありがとうございます」
初お小遣いでもあるのかな。
千円か五百円どっちかになると思ってたんだけど、両方とはね。
「あ、もしかしてお小遣い開始ですか?」
「ああ、そうだな。毎月千五百円と考えているが」
「分かりました。ありがとうございます」
これで家族の誕生日プレゼントが買えるようになった。
よくよく吟味して買うことにしよう。
「私は?」
アイリーゼの問いかけに、父様は。
「お小遣いか?幼年学級が始まったら五百円な」
「はい!」
アイリーゼの次の誕生日プレゼントも僕と同じような財布になりそうだなと思った。
そう言えばアイリーゼだけじゃなくて両親の誕生日も知らないという事実に気づいた。
僕の誕生日はこうして祝ってもらってるけど、アイリーゼの誕生日は?
祝ってなくない?
それとも僕に内緒で祝ってるのかな。
「父様、母様、それとアイリーゼの誕生日はいつですか!?」
「ん?どうした急に?」
「今回の僕みたいに祝ってません!」
一大事だと思って言えば。
「ああ、そういうことか。プレゼントは五歳から三十歳までと決めている。それまでとそれ以降は誕生日はケーキのみだ」
なるほど、そういうことですか。
アイリーゼは今年四歳だからまだ祝ってもらえる期間じゃないということ。
父様と母様は年齢が過ぎてるから対象外ということかな。
「でも、誕生日ケーキを食べた覚えがありません」
「ユートがカルトゥズに留学している間に過ぎたからな」
父様の言葉に脱力した。
知らない内に誕生日ケーキを食べていたということじゃなくて良かったけど。
「ちなみにアイリーゼは睦月、ネルは弥生、私は如月よ」
見事にカルトゥズに留学している期間中だった。
「去年はまだ帰国してなくて、今年は留学で流れたということですか……」
ちょっと凹みました。
一緒に祝いたかったな。
来年に持ち越しですね。
忘れないようにしないと。
アイリーゼの誕生日プレゼントは来年からだから丁度良いかも。
それまでにお小遣いを貯めて準備しなくちゃね。
何をあげようかと今から悩んでおこう。
両親とプレゼントがバッティングしないようにコッソリと明かしておかなきゃだよね。
ちょっと来年を思うとドキドキして来ました。
そういえば、ひいひい爺様達の誕生日も留学で流れたのかな。
気になったので聞いてみることにした。
「父様、母様。ひいひい爺様達の誕生日も祝わないんですか?」
「デザートをいつもと違うケーキにした時が誕生日だったのよ。公言はしてないわね」
「そうなんですか」
過去を振り返ってデザートがケーキだった時を思い出す。
確かロールケーキ、バウムクーヘン、モンブラン、アップルパイ、チーズケーキとフルーツタルトがあったはず。
人数分のケーキを思い出せたけど、いつだったか詳しい日付は思い出せなかった。
どうして祝わないのかな。
おめでたいんだから盛大に祝えばいいのに。
何か理由があるのかな。
気になったことを考えながらプレゼントでもらった財布を大事にズボンのポケットにしまおうとして失敗した。
ポケットに入れるには、財布はちょっと大きかった。
大人のズボンのポケットだったら入ったかもしれない。
後でリュックの中にしまっとこうと決めた。
「記念に誕生日を祝う歌だけでも歌った方が良いと思うんですが」
何もないのは味気なくないかなと、ふと考えて思った。
「歌を?」
「はい。ありますか?ハッピバースデートゥユーって始まるんですけど」
英語だから日本語訳の歌が伝わっているかもしれないけど、一応聞いてみると。
「ああ、あるな。伝わっている。次回から採用してみようか」
「是非!歌のプレゼントです!」
「それは良い考えだな」
父様に諾をもらえて嬉しくなった。
次は睦月生まれのアイリーゼの誕生日での披露かな。
それとも間にひいひい爺様達の中の誰かが誕生日を迎えるかな。
何にしてもワクワクしてきました。
よくよく考えると、平均寿命が二百四十歳のここでは早々に誕生日プレゼントのネタ切れになるなと思った。
五歳から三十歳までプレゼントを渡して祝うっていうのは、かなり妥当なのかも。
学校に通っている場合は、入門から寮生活だからプレゼントの手渡しはできなさそう。
その場合はどうするんだろう。
宅急便で送られて来るとかかな。
その時にならないと分からなそうです。
例えばアイリーゼの場合、春休みと誕生日が被らないから事前にプレゼントを渡すのかな。
僕の場合は秋休みと被りそうだから直接手渡し出来そうだけど。
「そういえばアイリーゼの誕生日ってプレゼントを直接渡せる日なんですか?」
「睦月の五日だから何とか手渡しできる日だな」
「そうですか、それは良かったです」
来年は僕もプレゼントを選んで買おうと心に決めた。
その為には町に出ないといけないから、父様か母様に同伴をお願いしないとね。
「「失礼します」」
別荘のドアが開き、二人の人が入って来た。
お昼の担当をされる補佐役の方かな。
「昼か。宜しく頼む」
「「はい!」」
二人は静かにキッチンへ向かった。
材料なのか、手持ちのバッグを持っていた。
お昼ご飯はなんだろう、気になる。
「お昼の準備している間に軽くお風呂入ってきて良いですか?」
「ああ、俺も行く。一緒に入ろう」
「はい!」
父様と一緒に風呂場の脱衣所に向かい、服を脱いで風呂場に入った。
湯を混ぜる棒で何回かかき混ぜ、湯の全体が丁度良い温度になるようにする。
ざっくりと身体を洗い流してから、風呂に入った。
「良い湯ですねー」
「ああ、気持ちいい。また後でゆっくりと入ろうな」
「はい!」
ご飯前だからゆっくりしないで軽く浸かる程度で済ました。
お昼の準備に合わせたつもりだけど、出来てるかな。
「昼の準備はどう?」
「出来てます、父様、兄様早く!」
「うん、今行く」
父様と一緒に着席すると、お待ちかねのお昼ご飯が運ばれてきた。
気になるメニューは、焼きそばだった。
別に置いてあった青のりを振りかけてから、紅ショウガを少しつまんで上に乗せた。
「いただきます!」
父様、母様、アイリーゼに僕と皆の声が揃った。
一口、二口と食べ進めて行く。
オーソドックスなソース味が普通に美味しい。
あっという間に食べ終えた。
「ご馳走様でした」
また家族全員でハモった。
今日は良いタイミングで揃うね、珍しい。
「お粗末様でした」
補佐役二人の声も揃っていた。
「晩御飯も期待してますね」
「かしこまりました」
今年もデザートに手作り誕生日ケーキ作ってもらえるのかな。
去年、補佐役の長達がそれが誕生日プレゼントですって言ってくれた。
そんなこともあり、今回もちょっと以上に期待しちゃう。
それより、どう過ごして晩御飯までの時間を潰そうかな。
落ち葉を栞にするのは去年作ったしな。
何をすべきか。
「ユート、ちょっと散歩しないか?」
「はい、行きます!」
父様に声をかけられたので元気よく返事した。
どこでも行きますとばかりに。
「はいはいはい、私も!」
「じゃあ、私も行こうかしら」
母様とアイリーゼも一緒に行きたいと。
「おう、行くか」
父様は頷いて答えていた。
どこか目的地があるのかな。
靴を履いて外に出た。
外は紅葉まっさかりで色とりどりのシーズン。
先を行く父様に並んで足を踏み出した。
「どこ行くんですか?」
「着くまで内緒だ」
「了解です」
この辺りの地理に詳しくないので、着くまで分からない。
もしかして旅館を建てている建築現場に行くのかな。
確かそう遠くない場所にあったはず。
実際の現場は見たことがないから、そうかもしれない。
登っている坂道をしばらく黙々と歩く。
秋のカラフルな景色を楽しみながら行こうと心に決めた。
赤、黄色、茶色と色んな色にあふれている。
冬ももうすぐそこまで来てる気配が。
ジグザグな坂道が続く。
もう二十分以上歩いてるはず。
歩き始めた時間を確認してないから正確な時間は分からないけど。
「ここら辺の家って全部別荘なんですかね?」
何軒か通過している家を横目で見ながら歩いている。
「ああ、そうだ。ここらは別荘地として有名だからな」
「なるほど。いつ頃から建ってるか分かりますか?」
「かなり古いぞ。うーん、十世代前くらいかな」
「それは凄いですね」
そんなに古くから建ってるとは思わなかったです。
そこまでとなると、定期的にメンテナンスとかもしてるんだろうね。
「別荘は侯爵の別邸なんですか?それともエアル家の別荘なんですか?」
「エアル家の別荘だな。侯爵の別邸はそろそろ見えてくる」
「この近くなんですか」
別邸があることに驚きつつ言った。
「ほら、あそこだ。茶色の屋根が見えるだろ?」
父様が指差しながら一件の家を示した。
あそこが侯爵の別邸なんだ。
「行先はここですか?」
「いや、もう少し上だ」
「先行きましょう」
「そうだな」
父様に先を急かした。
目的地はここではないそうだしね。
さらにそこから十分ほど。
だだっ広い空き地に到着した。
「ここだ」
「ここは?何の場所なんですか?」
僕の予想していた旅館の建設現場じゃなかったらしい。
「ここは駐車場の予定地だ。ほら、ここから現場が見えるだろ?」
父様が腕を伸ばして指差した先には、建設現場が見えた。
「旅館ですか?」
「正解だ。どうせだから下見に来ようと思ってな」
どうやら予想は当たってたみたいです。
「もう半分は出来ているらしい。来年の夏頃、完成予定だ」
夏ってことは冬が過ぎて、春を越えたらもうすぐそこだよね。
うわ、待ちきれないな。
遠くから改めて建設現場を視察する。
カバーに覆われてて中の状態が確認できない。
もう内装に取り掛かってるのかな。
テープで付近を立ち入り禁止にしてるからこれ以上近くから見ることは出来ない。
もっと近づいてじっくりと建設現場を見たかったけど、しょうがない。
これ以上の長居は不要とばかりに、別荘に戻ることにした。
帰りはお昼寝タイムでお眠になったアイリーゼを父様がおぶった。
今回、思っていたより近くに旅館が出来るんだと知れた。
これは大きな収穫になりました。
お読みいただきありがとうございます




