表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/26

1-4ここはどこ?私は誰?

宜しくお願いします。




  「君、は赤ん坊のころに、誘拐にあったんだ」


 「は?」


 今まで黙っていたお兄さんが口を開き、ゆっくりと話し始めた。


 「禁断の魔法で、宇宙のかなたに投げられてしまったの」


 今度は、お姉さんのターン。


 ちょっと待って。

 魔法って何だ、魔法って。

 いつの間にか、ファンタジーに巻き込まれてたとでも。


 「それ以来、約十年。君を探していた」


 十年。

 長いようで短い。

 何とも言えない。

 でも。


 「十年前も、私は日本人のはずですけど?」


 何をしていたか、記憶があります。

 普通に高校生してたはずですが。


 「地球とこちらじゃ、時の刻み方に相違があるようだね。今日は、ええとやよいの……」


 「四十五日です、先生」


 「四十五日?四十五日もあるんですか!?」


 つい大声になってしまったが、それも仕方がないと思う。

 ひと月に四十五日あるなんて、地球の常識が通じていないのだから。

 やよいは、弥生で漢字変換が合っているはずだけど、四十五日は想定外。


 「三番目の月、やよいは四十六日ある月だ。地球でも同じかな?」


 「地球の弥生は同じく三番目の月、三月ですが、三十一日までしかありませんっ」


 ひと月に四十六日もあるなんて、ここはどこなんだ。

 って、地球じゃなくて、何とかスフィアだった。

 早速地球の常識が通じないという転移ものでおなじみのカルチャーショックが。


 「どんな漢字を書くんですか?弓にこういう字が付くのと、生まれるで弥生ですが」


 ジェスチャーで漢字を表して問いかける。


 「字は同じだね」


 何も考えないで漢字と言ったけど、漢字も同じようにあるんですね。


 「一年は三百六十五日、じゃないんですね?」


 「ああ。一年は、五百八十四日だよ」


 愕然とした。

 約一点五倍じゃないですか。


 「私が、十五年以上も前のことを覚えていないのは、そういうことですか……」


 二十代後半の年齢だった。

 それなのに、小学校の頃の思い出が、何一つ出てこない。

 中学生の出来事ならば、思い出せることがあったのに。


 「事情は、少し理解してもらえたようだね」


 「それで帰って来たになった、ということは理解しました。私は、元々ここの出身なんですか?」


 「この病院で生まれたのよ。これが、当時の写真」


 スッとお姉さんが写真をテーブルの上に置いたので、それを取って見てみると。

 そこには三人の人物が、写っていた。

 お姉さんと、お兄さんと、紺色の髪と赤い瞳をもった赤ん坊が。


 「ちょっ。お二人は研修医では無く、私の両親なんですか?」


 問いかけをした直後、キュッと軽くお姉さんに抱きしめられた。

 応えるようにした抱擁に、ふと納得した。

 医者が処置を任せた理由も、きっと二人が私の実の両親だから。


 「マジですか……」


 ほっこりと暖かい、ひと肌を密に感じる母親と思われる人の抱擁。

 グスっと、泣き声っぽい物が聞こえるのは、取り敢えずスルーで良いですか。


 「ちょっと、まとめさせていただきますね。私は赤ん坊の頃に攫われ、地球に放り出された、ここ出身の貴方方の子供、ということで?」


 良い匂いのする母親と思われる人物の抱き締めが、一際強くなりました。

 彼女の温もりから、妙な安心感を感じ取り、身体の力がスッと抜けた。


 赤ん坊の頃の記憶があって、身体が勝手にそれを感じ取っているとかなんだろうか。

 凄く落ち着くんだけど、理由がサッパリ解らない。


 「親子の絆、その繋がりを感じるかな?」


 「良く解りませんけど、凄くホッとしてます」


 「君の家は、その力がとても強い家系だから。リンクスも無事に確認出来ましたし、

 異常はないようですね」


 「先生、ありがとうございます」


 礼を言ったお兄さんも、お姉さんと一緒に私の抱擁に加わった。

 同時に感じる、新たな安心感。


 ホワっと、何かに包まれているように錯覚する。

 実際には何も見えないけど、見えない膜に覆われているような、そんな感覚がする。


 これが『リンクス』というもののせい?




 「おかえりなさい」


 「おかえり、ユートレイクス」


 頭をくしゃっと撫でられて、言われた文字列がストンと自分の中に溶け込んだ。

 こんな感覚は初めてで、一瞬何も言えなくなる。


 でも、自然と言葉は口から解き放たれて。


 「ただいま戻りました。父様(とうさま)母様(かあさま)


 と、そんな音になっていた。


 今の今まで、昨日までの私は自分の父親と母親をそう呼んだ事はない。

 物語の中で見た事があるだけの、呼び方だった。


 なのに、自然と出た声は彼等を、そう呼んでいた。

 不思議だ。


 これが、さっき医者が言った親子の繋がりという物の力なんでしょうか。

 リンクスとやらは、リンクするという、英語の『繋がり』そのままの意で良いのかな。


 「父様、苦し……」


 抱擁が安心を通り越して、危険地帯に突入してます。


 「ああ。悪い」


 またもや、くしゃりと髪の毛を撫でられた。


 「撫でるの、好きなんですね」


 「ずっと。戻って来たら、したかったことだから……。俺の色、そのままのその髪にずっと触れたかった」


 ナデナデと、更に回数を重ねる彼に苦笑してしまう。

 どれだけ飢えていたんですか。


 「身体を問題なく動かせるようになったら、早く家に帰りましょうね。妹がお兄ちゃんのこと、凄く待ってるのよ」


 「は……い?……いや。え?」


 自分が彼等の子供で、紺色の髪で赤い瞳だというのを割とアッサリとすんなり受け入れた私だけど。

 最後にさりげなく落ちた爆弾に、しばし呆然としてから。


 「お兄ちゃん、って……お……お、男ー!?」


 今まで以上の、まさかの展開に思いっきり絶叫しましたとも。

 私はボーイッシュではあっても、男では断じてないんですけど、と。


 まさかの性転換の要素まで入ってるって、どれだけ設定ぶちこめば済むんですか!?


















Side ???




  「通じたっ!」


 魔法が発動したという、その手ごたえを確かに感じた。

 今まで練習してきた空振りっぷりも、今ならば判る。


 部屋から飛び出して下の階にいるお母さんに報告するため、急ぐ。

 焦ったせいで、階段を降りてるところの最後の段を踏み外してしまった。

 結果、凄い勢いで床に転んで落ちてしまった。


 「どうしたのって……もう。シュアリン、大丈夫なの?」


 様子を見に来てくれたお母さん。

 大丈夫だけど大丈夫じゃないです。


 ”痛い……”


 タイミングは今しかないとばかりに念話をお母さんに送ったら。


 「シュアリン!?あなた……」

 ”よく頑張ったわね、おめでとう。今晩はご馳走で決定ね!”


 お母さんからの念話が何も問題なく受信出来たことに、飛び上がって喜んでしまった。

 後は、通う学校が西校じゃなくて中央校にして欲しいとお願いするだけ。

 今年はともかく、再来年の初級からは絶対中央校にしてもらわなきゃ。

 でも、出来れば来年から通いたい。

 上手く行きますように。

お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ