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宜しくお願いします。


  日本語も母国語が如く普通に喋ってるけど、お国はどちらなんだろう。

 二人とも美男美女なので、この病院が研修医に求める美的レベルは相当高いんだろうな、なんてどうでもいい思考をする。


 肌の色的に、黄色のアジア系と見てもいいかもしれないけれど、日本人ではないはず。

 茶髪はともかくとして、紺色はないだろうと思うんですよね。

 本当にこのお兄さんの地毛は何色なんだろうという風に思考が飛ばされた。



 髪色から察するに、なんとなくだけどやはりトリップ路線が高くなってきただろうか。

 だとしたら、理由は?


 さっき帰って来たとか言ってたけど、それはないはず。

 記憶がある限り、私はずっと日本人だったはずだから。

 それだけはちゃんと覚えてるし、写真だって記録としてあった。


 両親と妹の四人家族で。




 そこまで思い出してから、また記憶の穴に気付いた。

 家族の名前も、自分の名前のように思い出せないことに。


 とりあえず、現時点では想定外のことが起き過ぎているから、記憶が曖昧なんだろうということに

した。

 身体が自由に動かせないという事態は、思っていた以上に自分に負担をかけているみたいです。


 何かを切欠に思い出せるはず。

 そうじゃないと、今後困るから。

 家族に余計なショックは与えたくない。


 痴呆症とかになるには、年齢的に早過ぎるよね。

 若年性が付くものになっているなら話は別だけど、それはないと思いたい。


 「先生、終わりました」


 「こちらも済みました」


 「解った、ありがとう。では、さっきのようにベッドを動かすけど、痛かったら言ってね」


 「はい」


 ベッドが静かな音を微かにたてながら、動く。

 機械音がほとんどなく、ベッドの衣擦れの音しかしないなんて、凄く高品質なんだろうな。

 普通、ウィーンとか音が出るはずだろうに。


 今回は特に身体が痛むことなく、ベッドに背を凭れているポジションまで上がれました。

 その位置まで来て、自分に何が起こっているのか解って来た。


 思っていた以上のチューブが、自分に刺さっていることとか。

 医療ドラマでよく見る、ピッピッと脈拍を計るアレに似たような物まであるとか。


 そして、何よりもビックリしたのは、自分の身体が縮んでいるということ。

 その小ささにビックリ仰天して、言葉も出ない。

 身長百六十センチ少々はあったはずなのに、これじゃまるで子供だ。


 「身体が、縮んでる……」


 腕を動かして自分の手を見ようとすると、その手も小さくなっている。

 可愛いとか、そういうレベルのサイズである。


 赤ん坊ほどまではいっていないけれど、十分に小さい。

 小学校低学年くらいだろうか。

 記憶が定かではないので、良く解らない。

 十年以上前のことなんて詳細に覚えてないといった具合。


 「おっと。君は何歳くらいだったかは、覚えてるかな?」


 「二十代後半で、身長が百六十センチはあったはずです」


 処置の効果か、流暢に喋れるようになった。

 でも、普段聞きなれていない声で喋っているので、違和感が凄い。


 「声もなんだか、おかしいんですが……」


 とにかく今までの、記憶にある自分の声でないことは確かで。


 「うん。じゃあ、とりあえず、今の君自身とご対面と行こうか」


 「せ、先生!それは……」


 「まだ早いのではっ」


 医者の行動に酷く動揺している暫定研修医のお二人。

 何だか非常に気になるリアクションなんですが。


 「遅かれ早かれ、現実は知るべきだよ」


 医者がカラカラと移動式の机を、ベッドの上の丁度いい所あたりに持ってきた。

 そして、裂け目がある端っこの部分を持ち上げると、鏡になっており。


 「っ……」


 その鏡に映った自分自身に、言葉を失った。


 頬がこけて、すっかりやせ細った顔。

 ギョロリとこちらを見つめ返す、その瞳は赤く。


 そして、研修医のお兄さんとそっくりと言って良い程な紺色の髪の毛。

 昨日まで知っていた、私自身じゃない。


 「誰……?」


 「君だよ。今まで知っていただろう君は、君であって君じゃない。そこに写っている君が、

 本当の君だ」


 実は嘘でした。

 と、直ぐに言って欲しいのに、言ってくれない。


 何それ。

 これが、私って。


 腕も顔と同じようにやせ細っていて、まるで骨のよう。

 テレビでやっていた、募金を募集している途上国の子供と同じようだ。

 放って置いたら餓死でもしそうな、そんな身体の状態。


 こんな展開、全然よめませんでした。

 これなら体中が痛くても、なんとなく理由が解ってしまう。

 身体が万全ではなく、栄養失調だからと。


 衰弱してるにしても、これは酷い。

 ここまでとは、思いもしなかったです。


 「何もかもが、解らないんですが」


 そして、最大級の謎を投げかけさせてもらった。


 「私は、一体どこの誰だと言うんですか?昨日までの自分を、思い出せないんです。

 今の自分は今まで知っていた自分と、外見からして違うし……」


 アニメ色だと思ったお兄さんと、同色と言える髪色。

 別の場所で、地毛かどうかの確認が出来なさそうな、そんなお年頃。


 これまたアニメの登場人物のような、赤い目の色。

 聞き覚えがなく、初めて聞いた、高めの声音。

 子供の声だからと言われたら、普通に納得してしまいそうなほどの高さ。


 ちょっと、あり得ない。

 変化があり過ぎて、着いて行けないんですけど。


 「これじゃ、まったくの別人です。昨日までの私は、どこに行ったんですか?」


 「それはもちろん、君が知っている場所に居るまま。地球に、地球の人として存在している」


 「地球って。じゃあ、ここは一体どこなんですか?地球じゃないとでも?」


 お願いだから、地球でドラマだか映画の撮影に急遽借り出されたとかにして下さい。

 こういう風なことを他のフィクションの登場人物たちのように考える日が来るだなんて想像してなかった。


 「もちろん、ここは地球じゃない。ここは、『えあるすふぃあ』という名の星だ」


 問答無用で、トリップだということを提示してきた。

 冗談も体外にして欲しいけど、どうもこれが現実らしい。

 さっきからの痛みがその証拠と言ったらお分かりいただけるだろうか。


 ついさっき、起きる前までの自分が全くの別人に変わっているなんて。

 これが現実だとなると、単純なトリップ物じゃなくて、人物に憑依するというジャンルの方なのかな。


 疑問ばかりが浮かんで答えを求めている。

 ここはエアルスフィア。

 じゃあ私は一体ここの誰なんですか。

お読みいただきありがとうございました。

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