17イトコと対面
宜しくお願いします。
今日は親族などが集まる特別な日。
こういう日は夏と冬に一日ずつあるらしい。
ホストであるひいひい爺様が表に立って、皆様に挨拶をしていた。
「よう。見ない顔だな。もしかしてお前が帰国したユートレイクスか?」
同じ年齢位の少年に突然問われて素直に頷いた。
「初めまして。ユートレイクス・エアルと申します。以後お見知りおきを」
誰だか分からないけど、とりあえず自己紹介をした。
「硬いな、もう少し軽く行こうぜ。俺は一個下のガーガット・エアル、お前のイトコだ。宜しく」
濃い目の赤っぽい色をした髪の毛と、青系の瞳を持つ従弟に出会った。
エアルが苗字だから、父方のイトコということになる。
「こちらこそよろしく。それで、どうしたの?」
「一戦しないか?」
なんと体術戦の申し込みをしてきた。
好戦的だな。
「ここで?どうせならやりやすい環境の場所に移動しようよ」
「ああ、良いな。行こうぜ」
自室から外に出た所、庭がいい感じじゃないかと考え、実行に移すことにした。
今日のこの集まりは親族が一同に介して、今後の事を話し合う機会らしい。
つまりイトコがいるということで合っている。
私やガーガット君の他にも子供がいることが明らかになっている。
そして、ちょうど玄関前の広間を移動している時に見たことのない女の子に遭遇した。
「貴方、誰?知らない子が警備をかいくぐって侵入したのね。貴女、早くこの子を家の外に追い出しなさい」
「は?ちょっと待って」
初対面の女の子にそう言われた私は、補佐役ぽくない人に腕を掴まれ、連行された。
「私はネルトール父様とティーヤ母様の息子。不審者じゃない!」
訴えもむなしく、聞き入れてもらえなかった。
ガーガット君の方を見ると、両手を上げて、お手上げのジェスチャーをしていた。
そんな。
外に追い出され、出入口のゲートの所の外まで追い出されてしまった。
スリッパのままで。
ガチャンという音で完全に締め出されたことを悟った私は、以前に教えられたルートをたどることにした。
そのルートというのは補佐役の住んでいるマンションの管理人に助けを求める方法。
急いで隣にある補佐役のマンションに入った。
ここに来るのは二回目。
お世話になることはないと思っていたんだけどな。
「あれ、ユートレイクス様。如何なさいましたか?」
直ぐ私だと理解してくれてありがたい。
クラークにあたる場所にいる補佐役の一人が気づいてくれた。
「年が近い女の子の補佐役っぽい人に命令されて締め出されました。家に戻りたいので助けて下さい」
「年が近い女の子ですか。恐らく従姉のエシェーザさんでしょうね。まだユートレイクス様の帰還を知らされていなかったのでしょう。直ぐに参りましょう。人を呼びますね」
今回の集まりで従姉が我が家にいるんだろう。
そもそも紹介もされていないと思いだした。
なんで後回しにされているのかな。
間もなく人が二人、男女が現れて礼をしたので、同じように礼を返した。
「ヴァンス、リーシェル。宜しく頼む」
「かしこまりました。ユートレイクス様、参りましょう」
「よろしくお願いします」
補佐役の二人に先導されて道を進む。
正面の扉があるところではなく、横っちょにある補佐役専用の扉を使用した。
しかも鍵を使用するのではなく、指紋認証みたいな仕組みで開く扉だった。
「こんな所に専用の扉があったんですね」
「いちいち正門を開けるわけにはいきませんからね」
「正門を使用しない時など、お使いくださいね。ユートレイクス様も登録されてますから」
「そうですか。分かりました、覚えておきます」
今回と同じ方法でまた締め出されるとは思わないけど、覚えておいて損はない。
正門を使わない時用に心にとどめておこう。
「それにしても、スリッパを履かれてるのに追い出されたのですね」
「一言いう前に命令を実行されました。静止することしか出来ませんでした」
「エアル家に警備をかいくぐって侵入するなんてほぼ不可能なのに……」
「ですよね!警備員と補佐役をなめてますよね」
正門横の詰所にいる警備員に敬礼しながら、通り過ぎた。
「あの方々を突破するなんて普通の子供には不可能だと思いますよ」
「それ以前に扉に鍵がかかってますしね」
「それにしても、何故警備員は出される時に気づかなかったんでしょうか」
確かにそう言われると疑問が浮かぶ。
あの時、どうしてスルーされたんだろうかと。
「それも後で聞いてみましょう。きちんと勤務していたかの確認とともに」
「勤務怠慢の可能性が浮上しましたね」
「ユートレイクス様を締め出す前に締め出されるべきは締め出したエシェーザさんですよ」
私は様付けなのにエシェーザさんはさん付けなんですね。
そこに扱いの差を感じた。
「そのエシェーザさんに付いてる補佐役の方が補佐役っぽくないと思ったんですけど」
「ユートレイクス様のご慧眼通り補佐役ではありません。エシェーザさん付のメイドです。二人付いてます」
「恰好からして違うから立場が分からなくて」
紺色のワンピースにエプロンという、日本でお馴染みのメイドさん的な格好だった。
黒のベストにパンツという補佐役がしている恰好ではなかった。
「一応対応は補佐役も兼務していることになっていますが、こちらの仕事を担当したことはありませんね。エシェーザさん専用となってます」
「金食い虫だと言われてますね」
「エシェーザさんが学校ある時はどうしてるんですか?」
「そこが金食い虫たるゆえんです。自分たちの部屋に引きこもってますよ」
「補佐役の仕事があるのに、引きこもりですか。私が雇い主だったらクビ案件ですね」
働かざる者は食うべからずというやつですよ。
「私も同意見です」
「私もです」
全寮制に通っている主がいない間は好き放題というのは、やはり認められない。
「話が合いますね。今日話し合ったらどうですか?」
「侯爵様がいらっしゃったなら話が通ると思いますが、いらっしゃらないとどうも……」
「なるほど、そうなんですね。忙しい方だから、どうしようもないですね。今日はまた別件で忙しいかもしれませんね」
毎日休みなく別館で執務を行ってらっしゃると聞いている。
メイドの勤務怠慢を問うだけの為に呼び出させるなんて無理だよね。
「裏から入りますね」
「はい」
直ぐに見える扉ではなく、裏から入る。
補佐役などの専用のルートだと思われる。
「裏なら私の部屋に入ることも出来たのかも」
「参りますか?」
「いいえ、よしておきましょう。裏庭に通ずるドアにロックがかかってるかもしれません」
家庭教師の先生と外で習い事を行ったり、アイリーゼと遊んだりと部屋の外での用事が多いけど。
最後にドアをアンロックしたのはいつだったか覚えていない。
それに確か今晩の晩御飯の担当は父様と母様だった気がするから、最初から部屋の外に出てた方が良い気がする。
家族全員参加で作るから台所に入れないとどうしようもない。
彼女とはどこで遭遇するかな。
「エシェーザさんの部屋ってあるんですか?」
裏口から家の中に入ってから湧いて出た質問。
「一階の客間だと伺ってます。ユートレイクス様の部屋とは逆側の部屋になりますね」
後少しで遭遇した広間に到着する。
追い出された時と同じところにいるとは思わなかったので、部屋の場所を聞いたけど。
普段から家の中でどう過ごしているのかな。
そして、部屋を与えられているなら、どういう立場にいる人なのかなと思った。
「あら、貴方。どうやって戻って来たのかしら。戻って来れないように、市外に追い出してちょうだい!」
広間にまだいたんだ。
集まりの交流でもしていたんだろうか。
またしてもメイドさんが距離を詰めて来たけど、今回は。
「エシェーザさん、こちらはユートレイクス・エアル様。ネルトール様とティーヤ様の第一子であられます」
補佐役のお二人が前に立って私のこと守りながら紹介してくれた。
「初めまして。ネルトールとティーヤが一子、ユートレイクス・エアルと申します。以後お見知りおきを」
改めて自己紹介をした。
これで通じると良いけど。
「もう病院に行く必要がないのは貴方が死んだからと聞いたわ。偽物さん?」
通じなかった。
どこの誰情報なんだか。
「病院に行く必要がなくなったのは、退院したからですよ」
きちんと説明すればわかってくれるかな。
「偽物ではなく本人だと?」
「はい。向こうに自室を持つ本人です」
部屋の方向に指をさして示した。
他にどう説明すればいいか分からなかったから自室で証明できるんじゃないかと考えた。
「アイリーゼの隣?」
「そうです」
最初は離れているのを想像してたけど、実は隣同士でした。
そして、たまにアイリーゼの部屋で一緒に寝たりしている。
「開かずの扉が開いたのね。そう。そこ、貴方の部屋だったのね」
本人だって認めてもらえたっぽい?
「現イールである私に部屋を明け渡しなさい!」
イールって何のことなんだろう。
頭にはてなマークが一杯浮かんでる。
なんで部屋を明け渡すなんてことになるんだろう。
「僕の部屋は僕だけの物です。明け渡しなんかしません。後、イールって何ですか?」
「イールとは継承者の事だ。その役を代役でエシェーザに渡していたんだ。ユートが帰還したから元の地位に戻そうな」
父様が階段から降りながら説明してくれた。
すぐ横には母様もいた。
「別に僕じゃなくても良いんじゃないですか?」
「エアル家は長男が継承者と決まっている。例外はない」
「そうですか」
ちょっとばかり気が重い。
継承者ってなんだか特別っぽくて微妙。
って、既に将来侯爵になることは納得したことだったんだ。
改めて腹をくくるしかない。
「おお、良い所に二人がそろっているじゃないか」
ひいひい爺様だった。
この集まりのメインのホストだよね、時間は大丈夫なのかな。
「エシェーザ、ユート来なさい」
台の上に位置している所に呼ばれたので、素直にひいひい爺様の元に行く。
「なんですか、ひいひいお爺様?」
エシェーザさんが猫なで声で爺様に問うた。
「イールの譲渡式だ。ここにイールの位をエシェーザからユートレイクスに受け渡す!」
ひいひい爺様がそう言って私達に触れた途端、床が軽く光った。
「ユートレイクス、今日から貴族名はユートレイクス・エアル・ラオル=イール・マルト・アピテタと名乗りなさい」
「ユートレイクス・エアル・ラオル=イール・マルト・アピテタ」
とりあえず復唱してみた。
長くてすぐに忘れそうな気がするけど。
「エシェーザ。君はエシェーザ・ロイヤール・ラオル・マルト・アピテタと名乗りなさい」
「そんな!イールは終始私では……!」
「エアル家の継承者は長男と決まっている。君に預けていたのは例外中の例外だ。早急に荷物をまとめて母国へ帰りなさい」
「な、なんで……」
やっぱり部屋を与えられていたのは例外だったみたい。
彼女の母国はどこなんだろう。
「今回、ナリーサが参加しているから一緒に帰りなさい。分かったね」
感じ的には親族が迎えに来てくれてるみたいだけど。
「……はい」
「それからメイド二名。エアル家からはクビを申し渡す。ロイヤール家に処遇を聞きなさい。明日までに部屋を出るように」
「は、はい」
言いにくいことをスパッと言ってくださった。
やっぱりひいひい爺様も僕と同じくクビという処置をなさった。
内心で大きく頷きながら拍手を送った。
これでこの集まりも終わりらしい。
夜まではかからなかったね。
来賓は続々と玄関から外へ向かっていく。
「ガーガット君、またね。対戦は次回に持ち越しで」
「ああ。またな」
唯一仲良くなった従弟に帰りの挨拶をした。
ところ変わって、ひいひい爺様の前では。
「ネルトール、ティーヤ、ユートレイクス、晩御飯期待しているぞ」
「はい、期待に沿えるよう頑張ります」
「頑張ります!」
アイリーゼも呼びに行こうかな。
三人で始めたら、一人だけ仲間外れみたいになっちゃうもんね。
「アイリーゼを呼んできます」
「ああ、頼む」
「はい!」
小走りでアイリーゼの部屋に向かった。
ドアを三回ノックしてから入る。
皆が集まる集まりでもアイリーゼは召集されなかったんだな。
自室で時間を静かに過ごしていたみたい。
「兄様!どうしたんですか?」
「晩御飯を一緒に作りに行こう?」
「はい!行きます」
アイリーゼと一緒に台所に向かった。
今日は何を作るのかな。
沢山手伝いが出来れば良いけど。
お読みいただきありがとうございました。




