11-3退院に向けて
宜しくお願いします。
初めて来た二階でエレベータを探す。
角を曲がった所で、丁度エレベータが来たので、入って押されてなかった五階のボタンを押した。
「便利ですよね、エレベーター。こういうのも、あって良かったと思います」
「色んなものが創始者経由で導入されているわ。ここにはないけどエスカレーターもあるし」
「普通にあって安心しました」
ポンと軽い音が鳴り、五階に到着した。
エレベーターから降りる。
「今の所、なくて不便な物ってあったのかしら?」
「特にないですね。娯楽要素のテレビもありますし。ご飯も知っているメニューだったりしましたし。後は退院してから色々触れて知ろうと思います」
戻って来てから、カルチャーショックはそう多くない。
地球にはない、魔法に関するアレコレくらいだと思う。
「テレビを見ていて不足していたことに気づいたそうね?」
「天気予報のことですか?衛星写真がなかったのでビックリしましたけど、それのことですかね」
入院している部屋に戻って来て、ベッドの上に座りながら言った。
机の上に置いてあった水のペットボトルから、水を少し飲んだ。
「それよ。近々、気象予報用のロケットが打ち上げられるそうよ。凄く画期的な事らしいわ」
「それで災害とかを予報できるようになればいいですね。特に嵐の多い時期とか」
主な水害対策とか出来るかもしれない。
そうなれば多くの人が助かる可能性がある。
「そうなのよ!葉月に向けてデータを集めて合わせるらしいわ」
「葉月……嵐が多い月なんですか?」
「ええ、その月に集中的に大きな嵐が発生するから。終わった翌月なんて嵐が明けた月だから嵐明祭なんてあるくらいなのよ?」
「季節は秋ですよね?」
「今は、水無月で夏の二か月目だから、後二か月の猶予があるわ」
「じゃあ、ロケットでデータ収集するまであまり時間がなさそうで大変ですね」
たった二か月しかないなら、猶予はあってないようなものな気がする。
収集できるデータも少なさそう。
「冬の神無月も台風が頻発するけれど、それには十分な対応ができそうね」
「川の近くの家とかは、川が決壊したりするのを避ける為に対策を取れるように出来ますかね」
堤防を作ったり、事前に動くことが出来るはず。
「そうね、川が近い所は堤防を延長して建てたりして対策をとることが出来るわね。もうその辺りも動いているはずよ」
「凄いやる気でしたもんね、ひいひい爺様が」
お見舞いの際の会話から発生した。
現侯爵のひいひい爺様が物凄いやる気を出していた。
「ええ。常に領民の命を助ける方向で頑張ってるわ。他国の民の為にもなるって、大張り切りしていたわ」
「ハザードマップがあるのなら、低い場所から堤防を延長して建てるのが良い対策ですね」
「ハザードマップというのは何?」
「水害の起こりやすさや、その可能性を記した地図のことです。母様の調子的になさそうですね」
「ええ、ないわね。また一つ、あった方が良い物が増えたわね。ハザードマップ、作りましょう。
川の近くの高低差を徹底的に調べる必要があるわね」
詳細に計測しなければいけないから、人材を沢山必要とするだろう。
現行の補佐役の数で足りるのかな。
「人海戦術になりますけど、人数足りるんですか?」
「役所の人間と補佐役で少しずつ進めて行けば大丈夫なはずよ。堤防の建築も業界のシーズンじゃないから直ぐに出来ると思うわよ?
ちょっと一件電話してくるわね」
「はい、行ってらっしゃい」
母様が部屋から出て行った。
時間を見たらもう直ぐ昼ご飯の時間だった。
今日の昼ご飯からお粥じゃなくて普通食になる予定。
献立が何か、今からちょっと楽しみだ。
ここまで日本食の頻度が高く、洋風の料理が少なめだ。
お粥じゃなくて、普通のご飯になるのを期待する。
洋風のご飯の場合、ご飯のポジションはパンになるのだろうか。
そうこうしているうちにご飯が運ばれてきた。
献立はカレーライスに福神漬けっぽいものと厚揚げ、それにカットされたオレンジと飲むヨーグルトっぽいものだった。
「いただきます」
と、手を合わせてから食べ始めた。
カレーは甘口らしく、あまり辛さは感じなかった。
厚揚げは少し苦みを感じる味付けだった。
オレンジは新鮮で、みずみずしかった。
飲むヨーグルトはどこか懐かしさを思い起こさせる味だった。
「ご馳走様でした」
食べ終わって手を合わせて食後のルーティンをした。
普通食になっても、楽に噛んで食べられたのでホッと一安心。
量の具合も腹八分で丁度良く終わった。
量はまだ調整されているかもしれないけど、十分満足感を満たしてくれた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
母様が戻って来た。
「無事、ハザードマップの話が出来たわ。今日から動くそうよ」
「それは凄いですね。でも水害が起こりやすい地域の住民からしたら、ありがたいでしょうね」
「そうなのよね。堤防も延長して建築していく必要があるから、早めに動くと良いのよね。データの配布はどうしていたのか分かる?」
「確か、役所で管理してネットで参照できるようになってました。もちろんタダです」
色でその地域の水害発生の具合を示していた。
川が近い場所が当然のように濃い色で塗られていた。
水害だけではなく、土砂災害が起こりそうな所も描いてあったっけ。
「母様、水害だけでなく、その後に起こり得る土砂災害の地域も描いてありました」
「二次災害もね?分かったわ、後で連絡しておくわ。ありがとう」
「いいえ。それで沢山の人達の命が助かるなら、当然です」
「そうね。所で昼食は終わったのね。美味しかった?」
頷き一つで肯定した。
「カレーでした。辛くなくて美味しかったです」
「それは良かったわ。他には?」
「厚揚げがあって、少し苦みを感じました。多分にがりだと思います」
推測にしかないが、多分そうだと思う。
それ以外で何かそういうものがあれば別だけど。
「そうね、にがりの可能性が高いわ。色々と食べさせてくれて感謝しなければね」
「そうですね。無事五味全て感じましたね。後は五味じゃないですけど、辛みを感じたことがないです」
カレーに辛みがあれば、それで完璧だったけど、そうはならなかった。
辛みを感じさせるとしたら、それはどんなメニューになるのかな。
キムチや麻婆豆腐がパッと頭の中で閃いたけど、実際はどうなんだか。
「献立に書いてないのかしら?辛みを感じるメニュー」
「ありそうなのはないですね。一週間の献立ですけど」
こちらの一週間は九日だ。
もらっている献立表には九日分のメニューが並んでいる。
「じゃあ、来週かもしれないわね。あら?明日のお昼のおうどんは?七味唐辛子を入れると辛くなるわよね」
思いっきり盲点だった。
確かにうどんについてくる七味唐辛子を入れれば当然辛くなる。
「確かにそうです。七味、付いてきますかね?」
「ついてこない可能性があるのを忘れてたわ」
確かに付いてこない可能性は十分にある。
うどんと七味がセットになって考えていたから、盲点だった。
「明日の昼を楽しみにしておきますね」
果たして七味唐辛子は付いてくるのか否か。
「そうして。他のメニューは辛みはなさそうね」
「この牛丼とかも七味の可能性ありますけど?」
昼ご飯の丼ものに注目してみた。
「となると、こっちの親子丼もそうかしら?」
「両方とも七味の可能性がありますね」
「七味の可能性ばかりね。他にハッキリとした辛みはないのかしら?」
唐辛子の辛みではない、何か別の辛みといったらコショウくらいかな。
「ハッキリと辛みを感じさせるメニューを出してくるかもしれませんね。麻婆豆腐やキムチみたいに。その二つ、ありますか?」
「あるわよ。麻婆豆腐の方がキムチより古いわね。キムチは割と最近導入された物よ」
「そうなんですね。じゃあ、二つの内のどちらかが来るかもと期待しておきますね」
「それがいいわ。他は七味の可能性を秘めているものばかりだものね」
「え、まだありました?」
「ええ。ここの豚汁とか、そうよね」
豚汁も七味唐辛子が付いてくるかもしれないメニューの一つにカウントされる。
よく見ていなければ分からなかったかもしれない。
母様の観察眼に脱帽した。
「確かに、そうですね。よく見てらっしゃいましたね」
「汁物にも七味が使われているはずと思い当たっただけよ?とにかく、今週の献立はそんな感じね」
「はい、他の辛みの可能性はちょっとないですね」
来週の献立に期待するしかない。
今は週の真ん中だから、次はもう少し待つ必要がありそう。
普通食に変わって早々に五味の中の苦みが来たから、順番的に辛みも来るんじゃないかと思ってしまった。
「辛みのメニューが来るのは来週でしょうね。楽しみにしておきましょ」
「はい。そうします」
昼ご飯が乗っていたトレーを持ち、配膳のワゴンの方に向かう。
「ご馳走様でした」
「はい、ありがとうございます」
看護師さんが空の皿が乗ったトレーを受け取ってくれた。
ちょっと前までは、配膳ワゴンの所まで行くのにも一苦労だったけど、今は苦無く運べるようになった。
リハビリが順調に出来てる証拠かな。
介護が必要だった当初から考えると、随分と色々出来るようになったと思う。
お読みいただきありがとうございました。




