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宜しくお願いします。



  また意識が戻って目を開けた時は、あまりの眩しさで反射的に目を閉じた。


 「気づいたようだね」


 聞こえた声に再度目を開けてみると、白髪の白衣のお兄さんがペンライトのようなものを持っていた。

 眩しい光の正体はそれですね。


 口を開けて何か問いかけようにも、空の空気が出るばかりで声にならない。


 「ちょっと待ちなさい。今、喋れるようにするから」


 こちらのしたいことを瞬時に受け取ってくれて、ありがとうございます。

 若そうなのに白髪な医者に、心の中で取り敢えず感謝を伝える。


 この医者はもしかして、アルビノっていう色素の薄いあれだったりするんでしょうか。

 でも話で聞いていたアルビノとは色彩が違い、よく見ると目が赤ではなく黒だった。

 日本人かなと、色彩の組み合わせが珍しいのもあり彼のことをマジマジと見てしまった。


 「よし、いいよ。ただし、ゆっくりね」


 柔和な笑みを浮かべた医者から許可が出たので早速。


 「……あ……ありがと、ございま」


 今度はちゃんと声が出たので、ちょっと感動する。

 昨日は普通に歩いていたはずなのに、今はやっと喋れる程度とは凄い違いだ。


 ただし、自分が発した声に違和感がある。

 いつも通りの自分の声ではない気が。


 「私……どこ?何故?」


 まさか起きて早々、有名なセリフの一端を、自分が言うことになろうとは思いもよらなかった。

 ここはどこ、私は誰って有名なあの台詞です。

 事故の影響か、いまいち自分自身のことも良く解っていない。

 私は『誰』なのかも、すっぽりと抜け落ちているのだから。


 「ここは病院だよ。君の身体は、極度な衰弱状態でね。今、集中的に治療中だよ。

 僕が言っていることは、解るかな?」


 「はい。大丈夫、です。事故じゃ、ないん、ですか?」


 「事故じゃなく、故意的にだね。君は、君の家族の要望により、この地に帰って来たんだよ」


 「帰っ……て……?」


 意味が解らない。


 交通事故にあったから、この状態という訳ではないと?

 事故で、長期間入院しているからの衰弱とかではなく?

 植物人間からの回復などではなく、元からだと言う?


 更に訳わからないのは、場所の説明。

 意味深過ぎて、謎過ぎる。


 「この地……どこ?ですか?」


 言い方からしておかしいから、突っ込んできいてみた。

 藪蛇になるかもしれないけど、これは問わなければいけない所のはず。


 自分のことは思い出せないけど、最後に居た場所なら覚えている。

 都内にある職場から、帰る途中だった。


 だから、この病院も都内の病院だと思っていたら、どうも違う空気がプンプンしている。

 本当に一体、どういうことなんだろう。


 「えあるとうだよ。ここは君が生まれた病院でもあるんだけど、当然、覚えていないよね」


 医者の口から、知らない単語が飛び出た。

 訂正、単語ではなく地名だと思われます。


 もちろん、初めて聞いた。

 なのに、帰って来たってマジで何?

 ますます解らなくなった。


 自分が好んで、よく読んでいたライトノベルの展開のようになってきていて、ちょっと焦る。

 今流行りの異世界に突然招待されたり、呼ばれたりしちゃう所謂トリップ系ですか、そうなんですか。


 これも良くある展開だけど、夢落ちだっていうのが今望まれてるパターンですよ。

 でもきっと、そうはいかないんだろうなと冷静に考えている自分もいて。


 「私は、誰、なん、ですか?」


 頭からオーバーヒートの煙が出る前に、ぶっちゃけてみた。

 自分自身のことが、まったく思い出せないから。


 名前と年齢、家族のことなど。

 普段ならば問題なく、スラスラと言えるはずなのに。

 思い出そうと思っても記憶がジャミングされてて出てこない。


 私は、どこの誰なのか。

 彼は私を誰だというのか。


 「記憶は、ないのかな?」


 「思い、出せま、せん。解りま、せん」


 「そうか。元の身体に戻って来たゆえの、弊害かな」


 「身体……動かせ、ません」


 筋肉痛でも、ここまでは痛くないはず。

 これまで感じた事がある痛みというものを、全て凌駕している。


 口を動かすだけでも、一苦労。

 お蔭で流暢に喋れないで、つっかえつっかえだ。


 「これまで動かしてこなかったからだね。恐らくリハビリをしないと、君が思う通りには動かせないよ。

 ベッドを動かして、起き上がらせてみようか」


 医者が横にあるのであろう、スイッチを押した途端、ほぼ無音でベッドが動き出した。

 その動く振動でさえ、身体に響くとはどういうことなんですか。


 「痛い、です」


 「うん?ベッドの動作が、かな?」


 「はい」


 「ううん、これは想定外。まだ起き上がる動作には、対応できないのかもしれないね。他に身体で動かせる部分はあるかな?」


 「動か、すと……痛い、です。全部。喋る、の、ギリギリ」


 「そうか。じゃあ、ちょっと指の部分に即効性のある治療をするから、動かせそうだったら教えてくれるかな?」


 「はい」


 彼は彼側にある右手の方に手を伸ばし、触れてきた。


 少しすると、指先が暖かくなってきた。

 これが治療かと、しばらく黙って待つことにする。


 「動かせそうなら、やってみてくれるかな?」


 彼の言葉に、右手の人差し指に力を入れてみる。

 すると、さっきまでの痛みが嘘のようになくなっていて、難なく動かせるようになっていた。


 「効いたか。通常の痛み止めの治療で対応できるとなると、僕じゃない適任がいるな」


 そう言った医者は、ポケットから携帯らしきものを取り出しながら、一端ベッドのそばを離れた。


 動くようになった指を動かしながら、次は何だろうと少し身構える。

 指と口以外は動けない状態だから、心構えをするしか出来ないんだけれども。


 動けるようになるのならば、早く自由に動きたい。

 今自分がどこにいるのか、見て実際に確認したい。


 まだ、トリップしたと決まっていないのだから。


 『えあるとう』とやらが自分が知らない、日本以外の国にある都市名説を捨てきれていないしね。

 今すぐ地図帳を持ってきて欲しいなと、ちょっとばかり思った。


  顔以外の身体の部分を動かすのに、身体中がギシギシと軋んでいるような感覚。

 右手の人差し指付近は、先ほどの処置だかで良くなったが、それだけ。


 早く適任という人だかを呼んで、引継ぎをしてくれないでしょうかね。

 動きたいのに動けないというのが、これほどまでに苦痛を伴うとは思いもしなかった。


 ちょっと力を入れるだけで、筋肉や関節が悲鳴をあげる。

 本当に私の身体は一体、どうなってしまったんですか。

 衰弱するだけで、こんなにも自由がきかなくなるものなのか。


 「早く、なんとか、して、下さい」


 マジで、早くどうにかしてほしい。

 代わりの人員は、まだなんですか。

 というか、あなたに出来たんだから、あなたが治すんじゃダメなんですか。


 「痛い、です」


 「ああ、悪いね。もう間もなく来るから。彼等の献身的な処置に叶うものは、あるまいよ。

 直ぐに良くなるから。もう少しの辛抱だよ」


 シャアアっと、カーテンか何かが動く音がした直後、


 「先生!目を覚ましたと聞きました」


 誰かが、部屋に入って来たようだ。

 漸くという程時間はたってないと思うけど、自分にはそれほど待った気分だ。

 速やかに処置をお願いします。


 「ああ、お待ちかねのようだね。痛み止めで大丈夫だから、身体全体的に頼むよ」


 「解りました。ティっ」


 「ええっ」


 どうやら一人だけではなく、二人いたみたいです。

 二人は片側ずつに分かれて、ベッドに近づいてきた。


 とても若く見える男女だ。

 研修医とかなのか、ぱっと見学生位にしか見えない。


 「良いと言うまで、なるべく大人しくしていて」


 「はい」


 大人しくも何も、痛みが先行して動きたくない状態です。


 「頭から順にで」


 「「はいっ」」


 最初の医者の指示に勢いよく男女が返事をして、頭から触れられる。


 口の上に被せてあった酸素マスク的な物も外されて、彼等の手が顔から撫でるように触れていく。

 ボンヤリと暖かい何か、ホッカイロを当てられているような感覚は、こんな感じといったそれ。

 そこから、ジワジワとくすぐったくなってきた。


 処置をしてくれているのは、紺色の髪のお兄さんと、茶髪のお姉さん。

 一見外国人のような風貌の彼等は、私より年下のように見える。


 私は二十代後半だったはずなんだけど、やっぱり詳細が思い出せない。

 自分のことが思い出せないなんて、身体が動かせない以上に致命的ではないでしょうか。


 それにしても、お兄さんはアニメな髪色で。

 地毛だったらビックリだけど、流石にそれはないよね。

 凄く綺麗に染められてるなと思った。

 出身はどこなんだろうという疑問とともに。

お読みいただきありがとうございます。

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