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11-2退院に向けて

宜しくお願いします。




  「そろそろ退院に向けて服を準備しようと思うのだけど」


 リハビリが順調に進んでいるある日、母様がそう口を開いた。


 「服とか一切ないんですよね」


 「ええ。実際に外出するのにも服が必要でしょう?だから通販で頼もうかと思ったのよ」


 「あるんですね、通販」


 「ここにカタログがあるから、見てちょうだい」


 母様が手渡してきた厚みのあるカタログを受け取った。

 子供服特集と表紙に書いてある。


 「サイズとかどうなんでしょう?」


 「身長を測らないとよね。もう測った?」


 「ああ、はい。身長と体重を昨日測りました。確か、百五センチだったかと」


 「じゃあ、百十五センチで見積もればいいわね。成長期だものね」


 どんなペースで身長が伸びるのか分からないけれど、伸び盛りなのは確かだ。

 しかも同じ年齢の人と比べたら極端に低いに違いない。


 「母様、一緒に見ましょう?」


 「そうね」


 母様がベッドに座って一緒に見る体勢になった。


 「今、季節って夏ですよね」


 「そうね。選ぶのは夏秋服が良いわね。冬は冬で、服店に行って直接買うのが良いわね」


 冬服を選ぶ頃には百十センチに到達している予感がする。

 始まりがチビなら伸びるまで服を買いなおさないといけない頻度が多い気がする。


 「このTシャツに半ズボンのセットが良さそうです」


 「色は?」


 「紺色ですかね。頭と同じで合いそうですし」


 「それは良いわね。そういえば、足の長さは測ってないわよね?」


 「ああ、そうですね。靴が必要ですよね」


 「メジャーを持ってきたのよ。測りましょう」


 母様がメジャーを手に足の方に移動した。


 「十七センチね。十八センチの物を買いましょう」


 全て大きめのサイズを買う予定となった。

 ちなみに靴の色は黒である。


 紺色のTシャツに同色の半ズボン、黒い靴でフルコーデだ。


 「どうですかね?」


 「良いと思うわ。似合ってるわよ、絶対!もう一色、選びましょ」


 「じゃあ、今度は青いシャツに黒いズボンで」


 「良いわね。少しお堅い場にも合う服も選びましょう」


 「ボタン付きの方ですね?白いYシャツにグレーのズボンとかどうです?」


 「完璧だわ。丁度いいとしか言いようがないわね。これで決まりね」


 靴はスニーカーとフォーマル用のローファーのようなタイプがそれぞれ一種類。

 そして忘れてはいけない靴下は二種類とも白で揃えた。


 「所で今日のリハビリは?」


 「この後からの予定です。見ますか?」


 「そうね、今後の参考に見ておこうかしら。帰ってからも継続よね?」


 「そうですね。可能な限り継続だと話をきいてます。プール以外は継続可能でしょうし」


 「あら、家にプールあるわよ」


 「あるんですか。それは凄いですね」


 実家が一気に豪邸なイメージに変わった。

 一体どんな家なんだろうか。

 内装をまったく一欠けらも覚えていないのが悔しい。


 そういえば水着はこの病院で配布されたものを使っていたなと思い出す。

 トランクスタイプではなくブーメランタイプの水着だ。


 「失礼します。そろそろリハビリの時間になりますが」


 「はい、今行きます。母様」


 「ええ」


 水着を持ち、プールがある病院の地下へと移動する。

 当初は車いすで移動していたが、今となっては普通に歩けるようになったため、歩いて移動している。


 着替えて少し浅めの子供用のプールに向かう。


 「歩き十周と泳ぎも出来るかな?」


 リハビリ担当の先生が問いかけてきたので、正直に答える。


 「大人の方で泳ぎたいです。クロール、平泳ぎ、背泳ぎなら出来ると思います」


 「バタフライ以外だね、わかった。歩きが終わったらプールを移って実行してご覧」


 「はい」


 早速子供用のプールに入り、歩き始める。

 プールサイドには母様が見守っている中、私は黙々とラップを繰り返していく。

 補助なしで歩けるようになってから時間がたったせいか最近はスピードが増している。

 退院するまで後どれくらいなのか分からないが、それまでには違和感のない歩行速度を目指す。

 意識して急いで歩くと、水の抵抗がより強く感じるようになった。


 「後一周半よ!」


 「はい!」


 母様の声に、より一層気合を入れて歩くことにした。

 ポンと端の壁に触り、最後のラップへと進む。

 心の中で一、二、一、二、と数を数えながら歩く。

 あと少しで今日のノルマは終わりだ。

 大人用プールでのデビューに気が逸る。


 「ゴール!」


 壁をタッチしながら言った。


 「よく頑張ったわね」


 母様に褒められて気分が上昇する。


 「じゃあ、次はオマケの一般プールでの泳ぎになるよ」


 「はい、よろしくお願いします」


 リハビリ担当の先生について一般プールへと。

 一番端のレーンが未使用だったので、そこを使うことになった。

 さぁ、泳ぎのデビューだ。

 泳ぎ方は覚えているから大丈夫だと思うけど、不安も若干ある。

 まずはお試しに横に置いてあったビート版を使ってバタ足をして慣れていくことにした。

 すると一周もしない内に結構ヘトヘトになってしまっていた。


 「すみません、泳ぎはちょっと難しいと思います」


 「そのようだね。次からはビート板を使ってのバタ足を主にやっていこう」


 「はい」


 一般プールは子供用と違って深さだけではなく、長さもあった。

 今の私の体力では、バタ足を二周したところで精一杯だった。


 「一般用のプールは長さ何メートルあるんですか?」


 「二十五メートルあるね。子供用は十五メートルだよ。子供用からしたら約倍だから色々ときついだろうね」


 「そうですね、キツイ感じが強いです」


 感想を言いながらプールから上がった。


 「お疲れ様」


 「ありがとうございます」


 母様から手渡されたタオルを受け取り、それで身体を拭った。


 「まだしばらくリハビリが必要ですね。直ぐ疲れてしまいます」


 「焦らずじっくりと取り組んでいけば大丈夫よ」


 「そうですね。頑張ります」


 更衣室に行き、着替えをした。

 今日のリハビリはこれで終わりだと思われる。

 退院に向けてメニューが強化されてきそうだ。


 「上半身の強化に、筋トレを始める。まずは文字を書いてもらおうか」


 消しゴムと鉛筆を渡され、例文が書かれている用紙を見た。

 懐かしい感覚に、そう言えば憑依してたあの人にはペンだこがあったな、なんて思いだした。

 今の自分にはない物だ。


 【あ】から五十音順が書かれた用紙の真似をしながら書いていく。

 カタカナに移り、アルファベットもあった。

 漢字も複数あり、書くのに時間がかかった。


 右上に名前を書く欄があったので、カタカナで「ユートレイクス エアル」と書いた。


 「名前を書くときってもしかしてアルファベットで書くんですか?」


 「ええ、アルファベットで書くわ」


 消しゴムで名前を消してから、アルファベットで書きなおした。


 「略名のレイでもいいわよ」


 「なるほど。それで私の略名って綴りはどんな感じなんですか?」


 「Rei(アールイーアイ)ね。どこどこ学校、何年何組のレイって名乗るようになるわ」


 「そうなんですね。学校に行くのがまた楽しみになってきました」


 「毎年違う学校に通うから新鮮よ」


 「え、毎年違う所に通うんですか?」


 「ええ。だから合わなかった場合は、一年我慢すれば違う学校に通えるから便利よ。と言っても、上級は実力主義で同じクラスになる

 可能性が高いけれど」


 例えばイジメに合っていたとして、一年我慢すれば違う学校に通うことになる。

 毎年転校ということは、毎年違うメンバーでクラスの一員となる訳で。

 それすなわち、寮も毎年違う所になるということで。


 一年ごとに変わるとは、若干めんどくさいけど、母様の言う通り新鮮なのかもしれない。

 地球計算で一点五年毎にクラス替えが起きるということ。

 クラスメートと仲良くなれたらいいけど、できなかったらそれはそれでしょうがないと思える。


 上級は上級で実力主義らしく、また違うみたいだけど。

 毎年その実力を測る為のテストがありそうだなと思った。


 「学生成人と言われる五年生までの辛抱よ。親しい人たちにだけ教えればいいから。誰にでも教える必要はないわ」


 学生成人なんてものがあるんだ。

 名前を名乗れるようになるからかな。


 後親しい人たちにだけ教えるという流れ。

 疎遠な人たちとは秘密がバレなくていい感じかも。

 そもそも名前だけで家柄までバレる可能性は低い訳だし、道理に適っている。


 「学校卒業したらカミングアウト、自分から自分のことを教える感じですか?」


 「そうね。集まってそこで改めて自己紹介するという感じかしら」


 「家柄が貴族っていうのは大きいですよね」


 一般市民と違って、色んなイメージを持たれてそう。

 私は私で変わるつもりはないけど。


 「その辺りはネルに聞いた方が良いかもしれないわね。私は貴族になるということについて、お友達に変化はほぼなかったから」


 その点、父様は最初から貴族だから、状況は私と同じ。

 貴族だというカミングアウトは、どうだったんだろうか。


 「父様に後できいてみますね。終わりました」


 文字を書いていた紙をリハビリ担当の先生に渡す。


 「はい、確かに。では、このボールを潰せますか?」


 先生からスポンジ製のボールを受け取り、潰してみると。

 最小のサイズになった。

 両手で潰してみると、ぺったんこになる。

 握力が普通の状態に鍛えられた。

 リハビリ始めた当初と違った結果に満足する。


 「良い感じですね」


 「出来るようになって嬉しいです」


 「おめでとうございます。では、次からはこちらのボールでお願いします」


 「はい」


 最初のスポンジボールと比べると、やや重い感じのスポンジ製のボールを受け取った。

 空間が多かった初代と比較すると重厚感があるタイプのボールだ。

 そう簡単には握り潰せなさそうだけど、大丈夫かな。


 思いっきりに握って半分くらいに潰せた。

 出だしとしては悪くないと思う。


 「握力を鍛えるのにも使えるボールなので、これから握って鍛えてくださいね」


 「はい、分かりました」


 「では、本日はこれで終わりとなります。お疲れ様でした」


 「はい、ありがとうございました」


 ボールを片手に部屋まで戻る。


 「随分と長く時間をかけてやってたわね」


 「出来ることが増えたからだと思います。プールではバタ足に変わったり、文字を書く練習が始まったり」


 「そうね。少しずつ色々と出来るようになって良いわね」


 「はい!」


 母様と会話をしながら廊下を進む。


 「今日はエレベータを使うのではなく、行けるところまで階段を昇ろうと思います」


 「大丈夫なの?」


 「ゆっくり行けば出来ると思います」


 左側にあった階段を目指す。


 「では、行きましょう」


 「ええ。疲れたら言いなさいよ?」


 「はい。無理は禁物ですもんね」


 一歩二歩と歩みを進めていく。

 左手を手すりに、確実に。


 目指すべき階は五階で、現在は地下一階。

 最初から全部を昇れるとは思わないけど、先日みたいに三階くらいは昇りたい。

 そう思いながら足を一生懸命交互に動かす。


 「今日はここまでにします」


 到達した階は二階。

 三階分昇れたという達成感で身体が喜びで満ちる。


 「結構上がれた方じゃないかしら?よく頑張ったわね」


 「ありがとうございます。また、お願いしますね」


 自己流の階段リハビリに付き合ってもらった母様に礼を言った。

 今日だけのことではなく、また明日もやる予定だけどね。


お読みいただきありがとうございました。

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