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10病室の外の世界

宜しくお願いします。




  「うわ、こんな所に建ってたんですね」


 病室から初めて出て、外の世界を体験する。

 車椅子を自分で操作し、庭的な場所を見て回る。


 駐車場が見えたので車を見るが、そこでショッキングな事実を発見してしまった。

 タイヤがないのである。

 どうやって動いているのだろうと思い、現場の実際に動いている車を探した。

 すると、お馴染みの『ピーポー・ピーポー』という救急車が近づいてきたのが聞こえた。

 そちらに注目し、どう動いているのか見てみると。


 浮いていた。

 地面から数センチ上の中空を何の抵抗もなく浮いていた。

 いや、どうやって、どんな仕組みでああなってるんだろうか。


 「母様、救急車が浮いてますけど、こちらの車って全部そうなんですか?」


 「ええ、浮いてるわね。地球は浮いてなかったのね?」


 「はい、普通自動車はタイヤ四つで動いてました。バイクはタイヤ二つでした」


 「博物館に展示されている自動車はタイヤが付いていたわ。きっと地球式なのね。こちらの自動車は魔力も使用されているのよ」


 「魔力!地球には存在しない力です。そうなんですねぇ」


 感慨深く感想を述べた。

 ここはやはり地球じゃなくてエアルスフィアなんだと改めて実感した。

 他に何が地球と違うんだろうと、間違い探しならぬ相違探しをしてみることにした。


 車椅子はタイヤなのにな、とふと思った。

 自動で浮く車椅子も存在しているのかな。


 「全自動の車椅子も存在しているですか?」


 「あるわね。ユートレイクスの車椅子はリハビリを兼ねているからタイヤ仕様なのよ」


 「なるほど、そういうことでしたか」


 自力で動けばリハビリになる、なるほど確かにそうだ。


 「じゃあ、いっぱい動いて上半身を鍛えなきゃですね」


 「無理は禁物よ?」


 「はい、気を付けます」


 自然が多い環境で、木が多く植わっていた。

 ちょっとしたところに休憩できそうな広場があったので、そこに移動してみた。


 ちょっとした段差があったので、車椅子では上がれなかった。

 そこへ行くのは諦めて、横にあった駐車場を目指した。

 自転車が数台停まっていた。

 こちらは地球と同じくタイヤ仕様だ。

 そのまた横にはタイヤの無い自転車っぽい物もあったが。


 Uターンして、来た道を戻る。

 どこかで休憩して、のんびりしたいな。


 バス停的な停留所もあり、そこにベンチがあったので軽く休憩することにした。

 利用する訳じゃないので、どういう仕組みになっているのかを軽く見学するだけ。


 「バスも浮いてるんですよね?」


 「そうね。もう直ぐ来るから見てみたらどう?」


 「そうします」


 現在待っている乗客候補は五人。

 行儀よくベンチに座って待っている。


 そこに待っていたバスが来た。

 淡い緑色のバスだった。

 停車し、乗客を乗せていく。


 「乗りますか?」


 「いえ、見学です」


 運転手に問いかけられたので、素直に答えた。

 乗車口のドアが閉まり、バスが動いた。

 停車した状態でも浮いていた。

 鍵を抜いて完全にエンジンを止めれば地面に降りるのだろうか謎だ。


 「母様、車のエンジンを切って、鍵を抜けば車は地面に降りますか?」


 「そうね、鍵を抜けばそうなるわね」


 車椅子を方向転換し、入り口方面へと移動する。

 直ぐ近くにはタクシー乗り場もあった。

 皆、一律に停車しているが、浮いていた。


 「タクシーは黒いのが地球の日本と同じです。他の色もあるんですか?」


 「あるわね。白いのや黄色いのが一般的かしら」


 「なるほど」


 黒だけではないらしい。

 日本みたいに個人タクシーは白、みたいなのがあるのかもしれない。

 後はアメリカで有名な黄色のタクシー、イエローキャブかな。


 「あそこの堤防の先は川ですか」


 「そうね。水害がないように去年増築されて今の形になったわ。少し前までは川に入れるくらいだったのよ」


 後もうちょっと低かったら釣りとかできたかもしれない。

 川自体が見れなくてちょっと残念。


 「そろそろ戻りましょうか」


 「そうね、この辺りで見学できるところは粗方済んだと思うわ」


 「はい。病室に戻ります。その前に母様、腕お願いします」


 「了解よ」


 両腕に回復魔法を使ってもらい、筋肉痛になりそうだった痛みが引いた。

 自分の力で車椅子を動かすのが、こんなにも大変だとは思わなかった。


 「さぁ、病室まで頑張って」


 「はい、行きます」


 まずはエレベーターを目指す。

 そして、上がったら南病棟まで進む。

 そこから曲がって三部屋目が私が入っている病室だ。


 病院内の売店で飲み物を買うことも一瞬頭を過ったが、晩御飯まで持つかと思い、スルーした。


 五階に着いたところで車椅子から降りて、後ろに回った。

 車椅子を補助にして歩くためだ。


 「無理しちゃダメよ?」


 「はい。大丈夫です」


 足が若干プルプルしているが、これは許容範囲内。

 そう距離もないので、行けるはず。

 自主的なリハビリのスタートです。


 心の中で一、二、一、二と数を数えながら進む。

 途中で母様に足に回復魔法をかけてもらい、なんとか病室にたどり着けた。


 「なんだかんだで病室が一番落ち着きますね」


 帰って来たという気持ちになる。


 「きっと退院したら、ユートの部屋がそうなるわ」


 「そうなると良いですね。早く退院したいです」


 リハビリやその他諸々があるから、まだ時間がかかりそうだけど。


 「今度先生に会ったら、どの程度で退院できるのか目安を聞いておきましょうね」


 「はい。楽しみです」


 どんな家なのか、それさえも期待しちゃっている。

 貴族の家だから、きっと大きいんだろうなとか。

 何部屋あるんだろうかとか。

 もしかしてプールがあったりするのかなとか。

 次から次へと質問が沸いて出てきた。


 「家は何階建てなんですか?」


 「四階建てよ。ユートの部屋は一階だけれど」


 「父様と母様の部屋は何階なんですか?」


 「二階よ。ユートの部屋の真上ね」


 となると、爺様が三階でひい爺様が四階ということかな。

 ひいひい爺様は何階に自室があるんだろう。

 分かりやすいようで複雑な部屋割りかもしれない。


 「私の部屋ってもう家具とか設置されているんですか?」


 「寝室にベッドがあるだけよ。他は退院してから一緒に考えましょうね」


 「はい、分かりました」


 どうも私の部屋は寝室以外にもありそうな雰囲気。

 勉強机が欲しいけど、寝室の外になるのかな。


 「私の部屋の間取りってどうなってるんですか?」


 「入った所にまず部屋があって、その部屋の奥の扉を開けると寝室があるわ」


 「二部屋あるってことですか?」


 「そうね、そうなるわ。一般人の常識的には外れているからビックリしたかしら?」


 「はい。勉強用の机は寝室に置かないことだけは決定しました」


 「ええ、そうするといいわ。ガランと今は何もない部屋に設置すると良いわ」


 「はい、そうしますね」


 勉強机の他に本棚も置きたいな。

 どれくらいの大きさの部屋があるんだか凄く気になる。

 寝室も大きそうだ。

 ベッドはシングルかセミダブル、どっちかな。


 「ベッドの大きさってどれくらいなんですか?」


 「セミダブルよ。これで分かるかしら?」


 ベッドのサイズの表現は地球と一緒らしい。

 分かりやすくて何より。


 「はい、大体想像できます。シングルじゃないんですね」


 「アイリーゼの部屋もセミダブルよ。シングルは狭い印象を受けてしまうから」


 「なるほど。となると父様と母様の部屋のベッドはキングサイズですか?」


 「正解よ。良く分かったわね」


 将来的に私の部屋のベッドもキングサイズに変更するかもしれないと思った。

 ちょっと以上に気が早い思考だったかな。


 「私も結婚したらベッドのサイズを変更しようと思います」


 「そうすると良いわ。セミダブルで二人はちょっと狭いと思うし」


 シングルに一人、セミダブルに一点五人分と考えると、確かに狭い。


 「ですよね。かなり気が早いですけど、その時になったら私もキングサイズに変更お願いします」


 「ええ、承ったわ」


 「どんな人が伴侶になるのかな」


 ふと、そんな呟きが形になってから消えた。


 「そればかりは自分で探さないと分からないわ。その時が来るまで自然体にしていれば大丈夫よ」


 「はい、無理しないように頑張ります」


 学校に通い始めたら私の前に立つかもしれないその子は、一体どんな子なのかな。

 ボンヤリどころかまったくもって姿形が分からない。


 「母様は何歳の頃、恋に関して自覚しましたか?」


 「上級でネルと会った時ね。こう電波のように感じたわ。それまでは全く考えていなかったから」


 ビビッと電撃がってやつでしょうかね。

 そうなんだ、凄いな。

 私もいつかなるのかな。


 「母様のような運命的な出会いに期待しておきます。母様の交際手帳、父様の名前のみですよね?」


 「ええ。最初で最後の一人よ」


 「私もそういう形を夢見てます。二人目なんて欲しくないです」


 「そうなると良いわね。本当、どんな子になるのかしら」


 「分かりません。とりあえず分かるのは、この病院に入院している子じゃないことくらいでしょうか」


 「そうね。接点がないものね。きっと学校に行ったら会うんじゃないかしら」


 「そうですね。学校に通っている十四年間の間に会うんだと思います」


 中級四年、上級四年、特級六年だったはず。

 合計で十四年間、どんな出会いがあるのか楽しみ。

 同性なら親友、異性なら恋人と。

 早く会いたいと切望している。

 人より倍くらいその思いが強いと思う。

 

 テレビを見て、この世界の美醜はかなり高い度合いにあることを発見した。

 テレビに出演しているゲストタレントより一般視聴者の方が美人なこともあり。

 きっと普通の子でも地球的視点から見て美人やら可愛い子になると思われる。


 学校に通い出したら、お相手を求めてキョロキョロしそうな気がする。

 気を付けなきゃ。

 ただでさえ髪の毛の色や瞳の色がカラフルで目移りしそうなのに。


 「テレビに出てる一般視聴者が美人さんが多いのは何か故意的なんですか?」


 「美人だったの?一般人だと褒めるほどの美人はいないと思うけど」


 「母様視点ではそうなんですね」


 一般人の美人のレベルが高いことがハッキリした。

 男性の方はどうなんだか気になるところ。

 お昼のワイドショーではあまり一般人の視聴者として出てないから難しい。

 ゲストタレントでは結構なイケメンが多い。

 顔が整っており、立派な美男子と褒められる容姿をしている。


 私の容姿はどうなのかな。

 イケメンな父様と美人な母様の子として、それなりだと思いたい。

 お二人のDNAを継いでいるアイリーゼも可愛かったしね。


 「プールでのリハビリの時間が迫ってます」


 担当の看護師さんがそう言って去って行った。


 「あ、はい。分かりました、向かいます」


 引き出しにしまってあった海パンを持ち、車椅子に乗り、プールのある地下を目指す。

 時間丁度に目的の場所に着いた。


 「では始めましょうか。今日は何周出来るかな?」


 初日に三周、それから五周と徐々に増えてきた。


 「十周にチャレンジします」


 まだ到達していなかった大台を申告した。


 「了解。じゃあ、始めてね」


 「はい」


 始めの二周は結構速いペースで進めたと思う。

 問題はその先。

 母様に回復魔法をかけてもらいながらの進み具合となった。

 なんとか十周をやりきった。

 魔法がなかったら途中でギブアップしてるよ、これ。

 終わってからも回復魔法をかけてもらわなければ、ほとんど動けないくらいだった。


 でもチャレンジして良かった。

 回復魔法かけられつつだったけど、大台に乗れたのは大きな収穫だったから。

 次もラップ数を増やして、この調子で頑張ろう。

お読みいただきありがとうございます。

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