8話
洞窟の中は静かだった。
奥へ進むにつれ、壁に奇妙な模様が浮かび上がってくる。
リディアが光の魔法を明るくすると、それが文字であることに気づいた。
「……これ、何かの文字?」
「分かるか?」
「……いいえ。初めて見るわね、何て書いてあるのかしら……」
リディアが指で文字をなぞると、ぼんやりと光が揺れた。
すると、かすかに壁が振動し、奥へと繋がる道が開いた。
「うわ、びっくりした!……偶然か?」
「わからないけど、行くしかないわね」
俺たちはさらに奥へ進むことにした。
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しばらく歩くと、細い道の先に光が見えた。
「……出口か?」
「急ぎましょ」
俺たちは足を速め、光の差す方へと駆け抜ける。
そして、狭い岩の隙間を抜けた瞬間──。
開けた森の中に飛び出した。
「やった……!」
「ようやく外に出られたな…
それじゃあ早く村の方へ戻ろうぜ。もう十分すぎるほど探検したし疲れた…」
「そうね……」
俺たちは静かに歩き出した。
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村へ戻る道すがら、リディアがぽつりと呟いた。
「ねぇ、アレン……」
「ん?」
「私、やっぱりおかしいのかもしれない」
「……おかしいって、何が?」
「今日、魔法が暴走しかけたでしょ? 最近、前よりも魔力が強くなってる気がするの」
リディアの声には、どこか不安が滲んでいた。
「でも、私、そんなにたくさん魔法の訓練をしたわけじゃないのよ?」
「……まぁ、確かに」
リディアの魔法の才能は、村の誰もが知るところだった。
でも、訓練もなしに急激に力が増すなんてことがあるのか?
「たまたまだろ。あんな魔物が相手だったから、無意識に力を引き出したんじゃねぇのか?」
「……そう、かしら」
リディアは考え込むように小さく息をついた。
「ま、気にすんなよ。お前はすげぇ魔法が使えるんだから、ちょっとくらい変なことがあってもおかしくねぇだろ?」
「……ふふ、そう言われると、そんな気もしてくるわね」
そう言って、リディアは小さく笑った。
その笑顔を見て、俺は少し安心した。