7話
周囲の暗闇の中、何かが蠢く音が響いた。
「アレン……なんか、嫌な感じがする……」
リディアが珍しく警戒した声を出す。
そして、光の魔法が少しずつ周囲を照らすと──
「……おいおい、マジかよ」
目の前に現れたのは、黒い影のような生き物だった。
輪郭はぼんやりとした霧のようで、形定まっていない。
──いや、それだけじゃない。
その影の中央には、青白い光る目が一対、俺たちを見下ろしていた。
「なに、これ……」
「分かんねぇけど、敵意はバリバリだな……!」
黒い影は、ゆらりと動いたかと思うと、突然鋭い触手のようなものを伸ばしてきた!
「くそっ!」
俺は木剣でそれを叩き落とそうとする。
──が、手応えがない!?
「アレン! その剣、効いてないわよ!」
「言われなくても分かってる!」
黒い影の体は、まるで煙のように剣をすり抜けた。
「魔法なら……!」
リディアがすかさず手をかざし、瞬時に小さな炎を生み出した。
その炎を指先で弾くと、火の玉が黒い影に向かって飛んでいく。
ゴォッ!!
炎が影の体を焼くように広がり、黒い影は苦しむように揺らいだ。
「効いてる!」
「やっぱり魔法か!」
剣ではダメだが、魔法なら通じるらしい。
「このまま押し切るわ!」
リディアは両手をかざし、より大きな炎を放とうとする。
しかし──
「……っ!?」
突然、リディアが顔をしかめた。
「おい、どうした!?」
「……魔力が……うまく制御できない……」
その瞬間、リディアの手から暴発するように炎が広がった!
「リディア!?」
俺は咄嗟にリディアの腕を引っ張り、暴発した魔法の余波から避ける。
ズドン!!
炎が洞窟の壁を焦がし、黒い影を吹き飛ばした。
「はぁ……はぁ……」
「お前、大丈夫か?」
「……ごめん、ちょっと、力が暴走した……」
リディアは肩で息をしながら、手を握ったり開いたりしていた。
「なんか、最近こういうことがたまにあるのよね……」
「……」
村の誰も魔法を使えない中、彼女は生まれつき魔法が使えた。
だが最近になって、魔力の制御が難しくなってきているらしい。
「とりあえず、今の魔法であいつも逃げたみたいだな……」
俺は黒い影が消えた方向を見つめながら呟く。
「……行こう。あいつがまた戻ってくるかもしれない。
急いで出口を探さねぇと」
「うん……」
俺たちは、小走りで奥へと続く道を進んだ。