6話
「アッレーン! 早くしなさいよ!」
「……はいはい、わかってるって」
俺はため息をつきながら、リディアの後を追った。
ここは村の外れにある森の奥。
そもそものきっかけは、昨日、村の広場で村の老人たちの世間話をリディアが聞いてしまったことからだった。
「何百年も前、ここには大きな王国があったらしいが、滅びてしまってな。その時代の遺跡が森の奥深くにあると言われておる」
それを聞いたリディアが、興味を持たないわけがなかった。
「へぇ~! そんなのがあるなら、見に行ってみようよ!」
「ば、馬鹿かお前? そんなのただの昔話だろ」
「でも、実際に見に行った人はいないんでしょ? だったら本当にあるかもしれないじゃない!」
「……普通、そういうのは危ないから行かねぇんだよ」
俺のツッコミを完全に無視し、リディアは「決まりね!」と宣言。
こうして、俺まで巻き込まれることになってしまったのである。
「ま、どうせ大したものはねぇだろ」
「そんなの、行ってみなきゃ分からないじゃない!」
リディアはずんずんと森の奥へ進んでいく。
……こいつ、何も考えずに突っ走る癖、絶対に直らねぇよな。
俺は頭を抱えながらも、洞窟へと向かっていくリディアを止めることはしなかった。
なぜなら、正直俺も少しだけワクワクしていたからだ。
⸻
しばらく歩くと、鬱蒼とした森の奥にぽっかりと洞窟の入り口が現れた。
洞窟の中は暗く、冷たい空気が流れている。
「……なんか、こういうの、すごいそれっぽいよな」
「でしょ? だから冒険なのよ!」
「お前、何があるかわからないってこと、ちゃんと理解してるよな?」
「大丈夫よ! ほら、魔法の灯りをつけるから!」
リディアが軽く手をかざすと、彼女の手のひらから淡い光の玉が生まれた。
その光が洞窟内を照らし、周囲の様子がはっきりと見える。
「……便利すぎるだろ」
「魔法って、そういうものなのよ」
俺は軽く肩をすくめた。
「まぁいい、気をつけて行くぞ」
「はいはい!」
こうして、俺たちは洞窟の奥へと進んでいった。
⸻
「……何もないな」
洞窟の中は思ったよりも広かったが、特に目立ったものはなかった。
壁はただの岩で、床は湿っていて、ところどころに小さな水たまりがあるだけ。
「ほんとに何もないわね……」
リディアも、少しだけ退屈そうにしていた。
「ほら、言っただろ。ただの洞窟だって」
「うーん……私の直感が絶対に何かあるって言ってるんだけどな〜」
「おいおい、直感って、当てになるのか?」
「私の勘はよく当たるって有名なんだから!」
「初めて聞いたが……」
そう言いながら周囲を見回した瞬間──。
「……ん?」
足元が、ぐらりと揺れた。
「アレン! 床が──!」
「うおっ!?」
次の瞬間、俺たちの足元の地面が崩れ、俺たちは下へと落ちていった。
⸻
ドサッ!
「いってぇ……」
「もー! 何よこれ!」
俺たちは、洞窟の地下に落ちていた。
幸い、高さはそれほどなかったが、周囲はさらに暗く、リディアの魔法の光がなかったら何も見えなかっただろう。
「大丈夫か?」
「ええ、なんとか……でも、どうやって戻るのよ?」
俺たちが落ちてきた穴はよじ登るにしては高い位置にある。
「とりあえず、出口を探すしかねぇな」
「うぅ……こういうの、ワクワクするけど、ちょっと怖いわね」
リディアが腕を組みながら、少し不安そうに呟いた。
「それにしても、急に遺跡っぽくなってきたな」
洞窟の地下は、今までの岩肌の壁とは違い、どこか人工的な作りになっていた。
壁には規則的な彫刻や、見たことのない文字が刻まれており、床の一部は石畳になっている。
洞窟というより、まるで誰かが作った地下神殿のような雰囲気だ。
天井にはかすかに古い燭台が取り付けられており、かつてはここに人がいたことを物語っていた。
「……これ、本当にただの洞窟じゃないわね」
「なんか、不気味だな……」
リディアの魔法の光が壁の彫刻を照らし、その影が揺れるたびに、不気味な雰囲気が増していく。
「アレン、あれ……」
リディアが指をさした方向には、古びた石碑があった。
「……なんだ、これ?」
俺たちはゆっくりと近づく。
その石碑には、見たことのない文字が刻まれていた。
「読める?」
「いや、初めて見る字だな……」
俺は、何の気なしに石碑に手を触れた。
その瞬間──。
ズズンッ……!
洞窟全体が、微かに震えた。
「な、なに!?」
「やべぇ、なんか変なのに触っちまったか!?」
リディアの光の魔法が、一瞬だけ不安定に揺れる。
そして、俺たちの周囲から、何かが動く音が聞こえた。
「アレン……もしかして、これ……」
「……まずいな」
俺は、木剣を強く握りしめた。