5話
翌朝、俺はいつもの広場で剣の稽古をしていた。
木剣を握り、ひたすら振るう。
「はっ!」
バシュッと風を切る音が響く。
剣士になるためには、日々の鍛錬が欠かせない。
──そんな俺の背後から、足音が近づいてきた。
「アッレーン!」
「……またお前か」
振り向くと、リディア が手を腰に当てて立っていた。
「またって何よ! いいこと思いついたの!」
「……またロクでもねぇことじゃねぇだろうな」
「失礼ね! 今日はちゃんとした勝負をしようと思って!」
「勝負?」
「そう! 剣 vs 魔法の決闘よ!」
リディアはニヤリと笑いながら、手をかざしてみせた。
「ほら、たまにはどこまで成長したのか、試してみたいでしょ?」
「……まぁ、確かにな」
俺は剣士としての腕を日々磨いているが、実はリディアに勝てたことがない
始まりは、お互いにまだ5歳だった頃、駄菓子屋のおばちゃんがくれたお菓子を巡って大喧嘩をしたときだ、
あの時は手も足も出ずボッコボコにされ、恥ずかしいことに俺は大泣きをしてしまった。
それから現在に至るまで幾度となく戦いを挑んだが悲しいことに敗北記録を伸ばし続けている。
確か前回戦ったのは一月ほど前だったか…
確かに、自分がどれくらい成長したのか確かめるにはいい機会かもしれない。
「いいぜ。でも、手加減しろよ?」
「するわけないでしょ!」
⸻
剣士 vs 魔法使いの模擬戦が始まった。
リディアが軽く手をかざすと、小さな火の玉がふわりと生まれる。
「じゃあ、行くわよ!」
「おう!」
リディアが火の玉を飛ばしてくる。
俺はそれを紙一重でかわしながら、リディアとの距離を詰めた。
「ふふっ、やるわね!」
リディアは余裕の笑みを浮かべながら、次々と魔法を繰り出す。
俺はそれを避けながら、一気に踏み込む。
「もらった!」
俺の木剣がリディアに届きそうになった瞬間──。
「甘いわ!」
リディアの足元から、突然強い風が巻き上がった。
「うわっ!?」
突風に吹き飛ばされ、俺は後ろに転がった。
まるで、見えない壁に弾かれたみたいだった。
──やっぱり、魔法ってずるい。
剣士は攻撃のために相手に近づかなきゃならねぇ。でも、魔法使いは遠距離から攻撃できるし、こうやって防御にも使える。
剣でどうにかできる相手じゃない。
「くっそ……もう一回だ!」
⸻
それから何度か勝負を繰り返したが、結果は──完敗。
俺の剣はリディアに届かず、リディアの魔法にはどうしても対処しきれなかった。
木剣を握りしめたまま、俺は悔しさで唇を噛む。
「……やっぱり、剣では魔法には勝てないのか?」
「アレン?」
リディアが不思議そうに俺の顔を覗き込んできた。
「なんか、いつもみたいに負け惜しみ言わないのね?」
「……だって、実際にどうしようもなかったんだよ」
「……」
リディアは何かを考えるように黙った。
俺は剣士として、魔法使い相手にどう戦うべきなのか、今まで深く考えたことがなかった。
でも今日、ハッキリと実感した。
──このままじゃダメだ。
「……それでも、俺は剣を捨てない」
強く握りしめた木剣が、ギシリと音を立てる。
「どんなに魔法が強くても、剣で戦う道を諦めるつもりはない」
「……」
リディアは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにくすっと微笑んだ。
「ま、アレンならそう言うと思った」
「当たり前だ」
俺たちは互いにそう言いながら、最後に笑い合った。