3話
リディアの魔法の実験から解放された俺は、村の広場へと戻ってきた。
朝とは違い、日が高く昇った頃の村は活気に満ちている。
鍛冶場のカーンカーンという音、パン屋から漂う香ばしい匂い、行き交う村人たちの元気な声。
この村は、俺にとって世界のすべてだった。
「お、アレン!」
鍛冶場のほうから、大きな声が聞こえた。
振り向くと、屈強な体格の大男──ガルスじいさん が手を振っていた。
「剣の稽古はどうだ?」
「まぁまぁかな」
「ははは! 自己流じゃ限界があるぞ!」
「分かってるよ。でも、俺には師匠なんていないからな」
「だからって、お前さんが剣を振るのをやめることはないんだろ?」
「……当然だ」
俺がそう言うと、ガルスじいさんは満足そうにうなずいた。
「そうこなくちゃな! さて、そろそろ今日の仕事に戻るか」
そう言って、ガルスじいさんは鍛冶場へ戻っていった。
鍛冶場の向かいには、小さなパン屋がある。
焼きたてのパンの匂いに釣られて覗いてみると、店の奥からレイナおばさん が顔を出した。
「あら、アレン。お腹空いたの?」
「いや、ただいい匂いがするなって思って」
「ふふ、じゃあこれ持っていきなさい」
そう言って、レイナおばさんは小さな丸パンを手渡してくれた。
「えっ、いいの?」
「もちろん! また感想を聞かせてちょうだい」
「レイナおばさんのパンは世界一だよ!」
「ありがとうね」
レイナおばさんはくすくす笑いながらパンを渡してくれた。
村には、こんな風に気さくな人たちが多い。
「ん?」
広場を歩いていると、農家のロベルトがじっと俺を見つめていた。
ロベルトは俺より二つ年上の、農家の息子だ。
村の仕事をよく手伝っていて、体も大きいし力も強い。兄貴分っぽいところもあるけど、たまに無茶な頼みごとをしてきたりもする。
「アレン、お前、今ヒマか?」
「ん? まぁ、そうだけど」
「なら手伝え! うちの畑の柵が壊れちまってな、修理しなきゃならん」
「……俺、修理とか得意じゃねぇけど?」
「いいから来い!」
無理やり腕を引かれ、俺は畑へと連れて行かれた。