24話
瞼の裏に微かな光が差し込んでくる。
意識がゆっくりと浮上し、見慣れた自分の部屋の天井が目に入った。
「どうやって帰ってきたんだ……?」
確か、森の入り口あたりまで何とか戻ってきたことは覚えているのだが、そこからの記憶が思い出せない。
何とか思い出そうと自問自答していたが、思い出せずとりあえず起きあがろうと手を動かした瞬間……
「っ!?」
今まで感じたことのないような痛みが体に走る。
その未知の感覚を必死に耐えていると、足音と共に部屋のドアが開く音がした。
「アレン!」
大きな声と共に、リディアがこちらに駆け寄ってくる。
彼女の目には涙が浮かんでおり、今にも泣き出してしまいそうだ。
「リディア……?」
声を出すと、ひどく喉が渇いていることに気づいた。
「よかった……本当によかった……!」
リディアはベットのそばにやってくると、俺の手をぎゅっと握った。
その後ろから、村長も部屋に入ってきて、彼の顔にも安堵の色が浮かんでいる。
「アレン、目が覚めたか。心配したぞ。」
そう言いながら、水が入ったコップを手渡してくれる。
それを一気に飲み干したところで一息つくことができた。
「俺はどれくらい寝てたんだ?」
「1週間くらいだよ!ずっと意識が戻らなくて……本当に心配したんだから!」
そんなに長く寝ていたのか……驚きとともに、体の痛みがそれを物語っているようだった。
どうやら俺は、相当心配をかけてしまったようだ。
「森でのことは、リディアから聞いておる。お前が命懸けで戦ってくれたおかげでリディアは救われた。本当にありがとう」
村長が深く頭を下げる。
「前は、あんな所に魔獣などおらんかった。やはり何か異常事態が起こっているようじゃの……」
確かに、森で魔獣に遭遇したという話を今まで一度も聞いたことがない気はする。
「本格的に対策を考えなければいけないのぉ」
村長はそう呟くと、街のみんなと話してくると言って部屋を出ていった。
すると2人しかいなくなった部屋に静寂がやってくる。
「……リディアは大丈夫だったのか?」
「うん...私は全然大丈夫だよ。少し膝を擦りむいたくらい」
スカートを少しまくって擦りむいた箇所を見せてくれる。
少しとはいっても、血が滲んでいて痛そうだ。
「そういえば、あの後どうなったんだ?」
「あの後、大変だったんだよ。」
リディアは少し表情を曇らせながらも、1つずつ話してくれた。
森の入り口で倒れてしまった俺を、リディアが1人で村の近くまで運んでくれたらしい。
そのあとは、俺たちがいないことに気づいて村の周辺を捜索していた大人たちが見つけてくれて、そのまま家まで運んでもらったとのことだった。
「そっか...運んでくれてありがとな......」
それを聞いたリディアはついに泣きだしてしまった。
「ううん...私が森に行こうなんて言わなければこんなことにはならなかったし……。本当にごめんね」
……困ったな。
こういう時なんて言うのが正解なのだろう。
少しの間、悩んだあと俺は……
「あまり気にするな。2人とも生きて帰ってこれたんだから!」
言いながらリディアの頭をポンポンと叩く。
「それに、こういう時はごめんよりもありがとうって言ってほしいもんだろ?」
泣きながら、されるがまま頭をポンポンされていたリディアがハッとして、
「そ、そうだ...!大事なこと言ってなかった...」
腕で涙を拭いたリディアは、
「言うのが遅くなっちゃった...!本当に守ってくれてありがとね!すっごく、かっこよかったよ!」
と、はにかんだ笑顔で言ってくれた。
その満面の笑顔につられてつい俺も笑う。
「ああ、どういたしまして!」
とはいったものの、今回2人が生き延びることができたのは奇跡に近いんだよなぁ......
正直、今また同じような状況になったら生き延びられる自信はあまりない。
「──もっと強くならないとな......」
一人呟く。
「ん?何か言った?」
「いや、何でもないよ」
首をかしげながら不思議そうな顔をして、リディアがこっちを見てくる。
すると唐突に、
「ねぇ!指切りしよう!」
と言い放った。
「指切り?すごい急だな。まあいいけど、何を約束するんだ?」
「約束...うーん......」
視線を宙にさまよわせながら、考え始める。
「ん?何か約束したいことがあったんじゃないのか?」
「そういうわけじゃないんだけど、何となくしたいなって思って......」
──指切りってそういう物なんだっけ?
「でも、折角するなら何か約束したいよね~」
そう言うとリディアまた考え始めた。
うーん、約束か...
「じゃあさ、もしいつか、どちらかがまた今回みたいにピンチだったり、助けてほしい!ってなってたら、全力で助けるっていうのはどうだ?」
「……それいいっ!それにしよう!」
リディアは目をキラキラさせながらこちらに右手の小指を差し出してくる。
俺は差し出された指に自分の小指を絡ませた。
「じゃあ行くぞ」
と、俺が言うと頷きが返ってくる。
俺たちはゆっくりを息を吸うと……
「「俺は(私は)、リディアが(アレンが)ピンチの時は絶対に助ける。」」
そして、お互いの目を見ながら、大きな声で……
「「──指切った!!!」」
と言いながら勢いよく指を切った。
そのタイミングで窓からキラキラと陽の光が差し込み2人を照らす。
2人の顔には、それに負けないくらい満面の笑顔が輝いていた。




