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23話

 俺は恐怖で震える体を鼓舞し、魔獣と化したクマへと突っ込む。

 クマはその場から動かず、こちらが来るのをじっと待っている。

 まるで、獲物が自分の網にかかかるのを待つように。

 

 「うぉおおおおお!」

 

 後もう少しで剣の届く間合いに入る。

 と思った次の瞬間、クマが横なぎに腕を振り回した。

 

「うわっ!?」

 ……この時、俺はラッキーだったのだろう。

 たまたま、足元にあった石につまずき、情けないくらい派手に転んで地面を転がることで、奇跡的に攻撃をよけることができたのだから。


「た、助かった......!?」


 転がったときについた土を払いながら起き上がる。

 血走った眼のクマと目があった。


 (......なんか、さっきほど怖くないな)

 血走った目、巨大な体躯、今も恐ろしいことには間違いない。

 だが、転んだことで、何かが吹っ切れたのか、

 それとも、恐怖は一定のラインを超えるとマヒするのか、

 不思議なことに今、俺の体の震えは止まっていた。

 

「ふぅ、リディアが逃げ切れるくらいの時間は......俺が稼がないと」


 深呼吸。心を落ち着けることに集中する。

 そして気づく――さっきは、気を使わずに突っ込んでいたことに。


 「.......馬鹿か、俺は」


 意識を集中し、気を発現させる。

 うん、今ならうまく気を使える。


 次の瞬間、クマがその巨大な図体でこちらに突っ込んできた。

 巨大な見た目に反してスピードは驚くほど速い

 気付けば目と鼻の先まで近づいていた。


 「やばい!ぶつかる!?」


 またしても死を予感した。

 しかし……今度は先ほどとは違った。

 ……ぶつかる瞬間、体が勝手に動き、間一髪のところでかわすことができた。


「っ......!」


 不思議な感覚だった。

 目では追えていなかったはずだ。

 なのに、なぜかよけることができた。

 

「くっ......!」


 それを考える暇もなく、クマが今度は腕を振って攻撃してくる。

 だが、またしても体が動き、間一髪で攻撃をよけることができた。


「これは......」

 

 2度も起これば偶然とは考えにくい。

 ......そういえば攻撃されたとき、次どこに攻撃がきそうなのかわかってたような?

 もしかして、感が鋭くなっているのか?


「だったら!」

 今度はクマに向かって、こちらから仕掛ける。

 クマの目の前に、走って近づく、

 すると当然のように、恐ろしい威力の攻撃が降ってくる。

 しかし、その攻撃も当たらなければ何の意味もない。


「ふっ!」

 攻撃をよけた俺は、隙だらけの脇腹めがけて木剣を叩きつける。

 こちらの攻撃は、寸分の狂いなく狙った場所に当たった。

 ......だが、まるで岩を殴ったかのように、手ごたえがない。

 

「くっ!硬すぎる!」

 攻撃しては避け、攻撃しては避け、それを何度か繰り返す。

 しかし、こちらの攻撃は全く通じていない。


 気を使っていれば、相手の攻撃をよけることはできる。

 だが、こちらの攻撃が効かない以上、何れ体力の限界がやってくる。

 それに、気を使うのは今回の戦闘が初めてだ、限界までのタイムリミットも近いだろう。


 「......やるしかねぇ!」

 俺は一か八かの勝負に出た。

 クマの攻撃をぎりぎりのところで躱し、勢いのまま飛び上がる!


 狙うは、目だ!

「──せぇい!!」


 木剣がクマの目に、寸分の狂いなく吸い込まれた。

 クマは、血を飛び散らしながら仰け反った!


 「よし──」


 しかし、次の瞬間、クマが乱雑に振り回した腕に当たってしまった。

 その腕は、攻撃とは言えないような、ただただ、振り回しただけのものだった。

 しかし、初めて攻撃が通じて気が緩んでいた俺にとって十分な威力の攻撃となってしまった。


「ぐはっ!」


 吹き飛ばされ、木に背中からぶつかる。


「はぁ、はぁ....油断しちまったな......」

 

 背中からくる激痛にうまく呼吸ができず、意識が霞む。

 その視界の端には、ゆっくりとこちらに迫ってくるクマの姿が見える。


(リディアは上手く逃げられたかな)

 意識が遠のく中で、ふと思い出す。

 ──そういえば、結局リディアには最後まで勝てなかったな。

 ──町に行ったり、冒険もしてみたかった。

 …他にも色々なやってみたかったことが頭の中を駆け巡る。

 これが走馬灯ってやつか。

 あまりの未練の多さに心が揺れる。

 何より……

 ──最強の剣士になる夢も叶えられなかった。

 

 その夢を思い出した瞬間、意識が浮上した。

 

 目の前では、クマが俺を食べようと口を広げて近づいてきていた。

 だが、背中を強く打ったからか、体が上手く動かせない。

 

「くっそぉ......」


 口はどんどんと近づいてくる。

 

 やっぱりここで終わりなのか?

 いや──こんなとこで

 ──死んでたまるか!!!


 自分の中で何かにひびが入るような、そんな音がした気がした。

 次の瞬間、体の奥から力が溢れ出し、白い光が爆ぜるように広がる。


「うぉおおおおおおっ!!」


 全身の力を振り絞り右拳を握る。

 そして、大口を開けているクマの頬へと一直線に振りぬいた。


 その拳はクマの頬にめり込み、クマは砂煙をまき散らしながら吹き飛ぶ。

 が、まだ、目は死んでいない。すぐに起き上がろうとしている。


(今だ......!)

 そう思って俺はすぐさま追撃に移ろうとした──が。

 

「っ......!」

 激しい頭痛で視界が揺れ、膝が崩れ、気も霧散する。


「な、んだ、これっ!」

 

 頭痛はどんどんと激しくなり、それと同時に意識が遠のいていく。


(......もう、ダメか......)

 諦めかけた、そのとき。


「アレン!!」

 リディアの声がした気がした。

 何とか重い瞼を持ち上げると、目の前に彼女が飛び出してきており、右手にはドリルのような土の塊が浮いていた。


「くらえええええっ!!」


 突き出した右の手、そこから土の塊が発射される。

 その土の塊は、ドリルのようにギュルギュルと回転を伴いながら、

 クマのつぶれた目にまっすぐに突き刺さり、そのまま脳天を貫いた。


 断末魔の咆哮を残し、クマは、土煙を巻き上げながら大地に崩れ落ちる。

 しばらくの静寂が訪れる。


「アレン……!」


 駆け寄ってきたリディアの声が、遠くのほうから聞こえる。

 耳鳴りのように、ぼやけた世界。地面に膝をついたまま、俺はかろうじて顔を上げた。


「だ、大丈夫……平気だ……」


 強がりが口をついて出た。

 でも、それも限界だった。


「……う、ぐ……!」


 全身がズキズキと痛む。特に、背中と右腕。

 力が入らない。視界がゆらゆらと揺れていた。


「アレン、無理しないで! 立てる?」


 リディアの手を借りて、なんとか立ち上がる。


「助かったよ、てかお前、逃げなかったのか?」


 リディアが優しく微笑む。

「アレン1人を置いて逃げられるわけないでしょ?」

 

「……ふっ」

 なんか、その笑顔見てたら、ちょっとだけ涙が出そうになった。


「とにかく、ここを離れよう。もう魔物が来ないとは限らないわ」


「お、おう……」


 ふたりで肩を組みながら、俺たちは森の奥から、ゆっくりと歩き出した。


 木々の間を抜け、見慣れた道を辿る。

 リディアが口数少なく、俺を支えながら進んでくれる。

 俺はと言えば、もう何も考えられない。ただ、早く村に帰りたい――それだけだった。


 そして、森の入り口の陽の差す場所が見えたとき。


「っ……!」


 どこかで張り詰めていた糸が切れた。

 視界が大きく揺れ、足元が崩れるように感じた。


「アレン!?」


 リディアの声がまた遠ざかる。

 倒れゆく中で、心に浮かんだのは──


(……勝ててよかった。リディアを、守れて……よかった……)


 最後の意識が、深い闇の中へと沈んでいった。

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