22話
俺たちは、村から少し行ったところにある。森の入り口に立っていた。
「今更だけど、本当に行くのか?やっぱりやめておいた方がいいんじゃ...」
カルヴィスが危険だって言ってたからなぁ
「ここまで来て何言ってるの?さっき探検するって決まったでしょ!」
「そうだな...」
俺の心配をよそに、リディアは行く気満々だ。
こうなったらこいつはいうことを聞かない。
「まあ、あまり奥まで行かなければ問題はないか。」
そう呟くと俺は森の入り口に歩き出した。
「あ、待ってよー!」
リディアが元気についてくる。
「それで、探検って今日は何をするんだ?入口付近なんてもう何回も探検しただろ?」
そう、この森は、俺たちが小さいころからの遊び場だ。
大人たちにあまり奥まではいかないように言われているから、入口あたりだけだが、ここのことは知り尽くしている。
「うーん、それもそうねぇ......じゃあ、キノコ狩りにしよう!」
「キノコ狩りか、いいぜ!」
「よし!せっかくなら勝負にしよー!たくさん集められた方が勝ちね!
じゃあ...よーいドン!」
リディアは掛け声をかけたとたんに走り出す。
「あ、ずりぃ!」
俺も急がないと!
倒木や朽ち木、木の根付近や、苔が生い茂っているところなどを念入りに探しては、見つけたキノコを片っ端から確保していく。
「ふぅ、結構集められたな。」
俺の目の前には大量のキノコでできた山ができていた。
「そういえば、これ、いつまでやるんだ?」
確か制限時間って決めてなかったよな...?
「おーい、リディアー!これいつまでやるんだー?」
……返事がない。
そういえば、だいぶ前からあいつ見てないな....
「たく...あのバカ!」
枝葉をかき分け、湿った土の上を全力で走る。
周囲は昼間だというのに薄暗く、光源になるものは木々の間から漏れる陽の光だけ。
「あいつ、どこまで行ったんだ!」
心臓がいたいくらいに脈を打つ。額に汗が滲む。
「はぁ...はぁ...」
結構奥まで来たが、あいつ見当たらないな...
もしかして、途中ですれ違ったのか?
――バキッ!
「ッ!」
勢いよく後ろを振り返る。
「今、音がしたよな...魔物か...?」
腰の木剣を抜き、慎重に音のした方に歩を進める。
――ガサッガサッ
やっぱり何かいるな...
「ふぅ...」
息を整えると同時に、俺は全身に”気”を纏う
そして、歩を進めようとした瞬間――
――ガサッ!
大量のキノコを抱えたリディアが、ひょっこりと現れた。
「うわぁ!びっくりしたぁ!ってなんだアレンか...え?光ってる?」
見つけられたことに安堵するのと同時に、こいつの能天気な言葉に怒りがふつふつとわいてくる。
「おい!こんな奥までなんで来てるんだ!」
「え?...あ、ほんとだ...集中してたから気づかなかった...」
はぁ、そんなことだと思った。
「とりあえず、急いで入口の方に戻るぞ」
俺たちは来た道の方に足を向け、歩き出そうとしたその時――
――ガサッ
すぐさま音がした方向に目を向ける。
するとそこには、血走った眼をしたクマが涎をダラダラと垂らしながらこちらを眺めていた。
「なんだ、ただのクマじゃん!私の魔法で吹っ飛ばしてやる!」
右手をクマの方へ向けたと思ったら、火の塊が手の先に集まりだす。
……っ!こいつあほか!
「おい!山火事を起こす気か!やるなら別のにしろ!」
「あ、そっか、ごめんごめん。」
火の塊が霧散したと思ったら、今度は土が手の先に集まっていき、みるみるうちに大きな岩を形作る。
「じゃあ行くよ!吹っ飛べ!」
掛け声とともにクマに向かって岩が射出された。
リディアの魔法で作られた岩が空気を切り裂き、唸りを上げてクマに向かって飛んでいく。
ズドォンッ!!
地響きを伴ってクマの正面に着弾、土と葉が一気に舞い上がった。
「……やった!命中!」
リディアが嬉しそうに声を上げる。
土煙の向こう側、クマの姿が一瞬見えなくなる。
だが──
揺れる地面。やがて土煙の中から、さっきと変わらぬ姿でクマが現れた。
「うそ……あれ、くらって平気なの!?」
リディアの声が震える。
確かに直撃したはずだった。だが、クマはその巨体を揺らしながら、ゆっくりと、確実にこちらに向かって歩みを進めてくる。
「こいつ、ただのクマじゃないな……」
よく見ると、クマの体はところどころが黒く変色しており、目は赤く爛々と輝いている。そしてその身体全体から、うっすらと魔力のような気配が漂っていた。
「……魔獣か。カルヴィスが言ってた、動物が魔力を取り込んで変異したやつ……!」
俺はすぐに木剣を構えた。
だが、足がすくむ。
気を使ったとして──この相手には勝てるのか?
クマはさらに距離を詰めてくる。目は血走り、涎を垂らし、完全に“獲物”として俺たちを捉えていた。
「……リディア、下がれ。逃げる準備をしろ」
「でも──!」
「いいから!」
怒鳴るように言うと同時に、俺は全身に気を纏い直す。
足が重い。心臓がうるさいくらいに鳴っている。
でも──
(逃げるだけじゃ、ダメだ...すぐに追いつかれる)
ふと、カルヴィスの言葉が脳裏をよぎる。
――気を使うのに大切なのは、自分自身の“意思”だ。
(俺は、ここで立ち向かう。リディアを守るためにも──!)
一歩、前へ踏み出す。
その瞬間、全身が震えるほどの力に包まれた気がした。
俺は木剣を振り上げ、吼えるように叫んだ。
「──うおおおおっ!!」
そして、クマへ向かって真っ直ぐに駆け出した──。




