21話
カルヴィスが村を去った次の日の朝。
いつも通り、日課の剣の訓練をするため広場に向かっていた俺は、不意に後頭部に何かが当たる衝撃を感じた。
「いってぇええええ! な、なんだ!?」
振り返ると、そこには金色の髪をポニーテールにまとめた少女──リディアが、頬を膨らませて腕を組んで立っていた。
「お、お前……なにすんだよ!?」
「うるさい! アレンが悪いんだから!」
「はぁ!? いやいや、何言ってるのか全然わかんねぇよ!」
俺は驚きつつも困惑する。この数日、リディアとはあまり顔を合わせていなかった。カルヴィスとの気の修行で手一杯だったのだ。
だから、怒らせるようなことは何もしていないと思うんだけど...
「悪いって……俺、なんかしたか?」
「本当に、わからないの……?」
リディアが、さっきまでの怒りの表情とは打って変わって、今にも泣き出しそうな目で俺を見つめてくる。
(ま、まずい……! こういう時は──)
「リディア、ごめんなさあああいッ!!」
俺は地面にひれ伏し、両手を高く掲げて額を地面にこすりつける最上級の謝罪ポーズを披露した。
「ちょっ、ちょっと!? 急に何してんのよ!?」
「昔、村長に教わったんだ! リディアが本気で怒ってる時はこうするのが一番だって!」
「おじいちゃん、アレンに何教えてるのよー! やめてよ、恥ずかしいからっ!」
「じゃ、じゃあ許してくれるのか……?」
「……もう、許すわよ! だから、立ちなさいってば!」
ふぅ……。さすが村長、リディアの取り扱いには一家言あるだけのことはある。
「それで……結局なんで怒ってたんだ?」
「そ、それはもういいの……!(だって、アレンと遊べなくて寂しかったなんて言えない……)」
「ん? 今なんか言ったか?」
「なーんにも言ってないわよっ!」
……まあ、よく分からないけど許してもらえたみたいだし、よしとしよう。
「じゃあ、俺はそろそろ広場で稽古──」
「今から探検に行くわよっ!」
俺の言葉をリディアの大声がかき消した。
「……は?」
「探検よ! 久しぶりにちょっと村の外まで行ってみない?」
「え、でも最近、魔物の動きが活発になってるって、村長が心配してたぞ?」
「ちょっと外を歩くくらいなら平気よ! それに、魔物が出たら私が倒すから!」
「……普通は男が守る流れだと思うんだけどな」
「なにか言った?」
「な、なんでもないです!」
……まぁ、たしかに最近はずっと修行づけだったし、少し気分転換も悪くないか。
「じゃ、じゃあ、少しくらいならいいけど……」
「決まりね! ほら、早く行くわよ!」
そう言って、リディアは俺の袖を引っ張る。
「お、おい、引っ張るなって……!」
こうして、俺はリディアに引きずられるようにして、久々の“探検”へと連れ出されるのだった。




