1話
村の朝は早い。
鶏が鳴き、農家の人々が畑へ向かう。鍛冶場では火が灯り、村人たちはそれぞれの仕事を始めていた。
そんな中、俺──アレン は、村の外れにある広場で木剣を握っていた。
やや癖のある黒髪に、日焼けした肌。鍛錬のせいか、村の同世代よりも体つきは引き締まっている。
振りかぶった剣を、全力で振り下ろす。
「はっ!」
バシュッ、と風を切る音が響いた。
──剣士は、ただ剣を振るだけでは駄目だ。
英雄譚に出てくる伝説の剣士は、常に最適な動きをし、無駄のない戦いをしていたと言われている。
俺もそんな剣士になりたくて、毎朝こうして鍛錬している。
「……でも、本当にこれで強くなれるのか?」
剣を握りしめながら、少し考える。
村には剣士の師匠なんていないし、俺は完全な自己流だ。
だから、戦いの経験もなければ、実戦でどれほど通用するのかもわからない。
それでも、俺は剣士になりたい。
小さい頃、村の鍛冶屋のじいさんに聞かせてもらった英雄譚。
かつて、世界を救った剣士がいた
彼はどんな強敵にも立ち向かい、仲間を守り、最後には世界を救ったという。
俺はその話に夢中になり、気がつけば「俺もそんな剣士になりたい」と思うようになっていた。
剣を握る手を見つめる。
「……でも、俺みたいな田舎の少年が、そんな剣士になれるのか?」
そう呟いた瞬間──。
「アッレーン!!」
俺の名前を呼ぶ、やたら元気な声が響いた。
「ん?」
振り向くと、金色の髪をポニーテールにした少女──リディア が走ってくる。
「アンタ、また剣の練習してるの?」
「おう。今日こそ完璧な構えを──」
「それよりさ! こっち来てよ!」
「おい、人の話を聞け!」
リディアは俺の腕をぐいっと引っ張ると、無理やり広場から引きずり出した。
「いいからいいから! 面白いもの見せてあげる!」
「……またお前の魔法の実験か?」
「ち、違うわよ!」
「いや、その間が怪しいな」
俺は半ば呆れながらも、彼女に引っ張られていった。