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17話

 「はぁっ、はぁっ……!」


 呼吸が荒い。

 喉はカラカラで、胸が痛いほどに上下している。

 足は鉛のように重く、手にした木剣も、まるで鉄の塊を持っているかのようだった。


 ──けど、止まれない。


「まだ……まだだ……!」


 歯を食いしばり、俺は再び走り出す。


 何度も広場を走り、斬り、跳び続けた。

 気が遠くなるような反復。

 脚がもつれ、膝ががくがくと笑い始めている。


「その調子だ、坊主。もう一歩踏み込め!」


 ガルヴィスさんの声が飛ぶ。

 でも、それに返す声はもう出なかった。


 口の中がカラカラで、返事をする余裕すらない。


 ──限界って、どこにあるんだ?


 自分でもわからなかった。

 ただ、今の俺は、限界のずっと手前を“限界”だと思っていた。

 それを、今この修行で思い知らされている。


「……はぁっ、くっ……」


 視界が霞む。

 息を吸っても、空気が肺に入ってこない。

 身体の熱がどんどん抜けていくのがわかった。


 それでも俺は木剣を握りしめ、腕を振る。


 ──ドサッ。


 振り切った瞬間、俺はそのまま地面に倒れた。


 顔が土に触れ、冷たい感触が頬を打つ。


(もう……無理……)


 本気で、そう思った。


 でも──


 その瞬間だった。


 ──スゥ……ッ。


 胸の奥で、何かが“揺れた”気がした。


 暖かいような。

 けれど鋭く、真っ直ぐな力。


 それはまるで、心臓のすぐ近くから生まれて、全身へとじんわりと広がっていくような感覚だった。


(……これは……)


 まるで、火種のようなものが体の中にあるような...


「……おい、アレン」


 すぐそばで、ガルヴィスさんの声がした。


「今、何か感じたか?」


 俺は答えなかった。

 いや、答えられなかった。

 でも──


 俺の目は、地面に伏せたまま、大きく見開かれていた。


 確かに感じた。


 言葉にはできないけど、体が覚えている。

 あの感覚が、生命エネルギーだ。


「……へぇ、本当に感じたか。お前、やっぱり筋がいいな」


 ガルヴィスさんは口元を緩めながら、腕を組んだ。


「それが“生命エネルギー”だ。その感覚をしっかり体に刻んでおけ」


「……っ」


「その感覚を、忘れるな。それが、“気”の根本だ」


 俺はゆっくりと体を起こしながら、胸のあたりに手を当てた。


(……こんな感覚、初めてだ)


 体の奥底で、何かがほんの少しだけ、目覚めたような。

 弱々しくも確かに燃える、火種のような感覚。


「今日はここまでにしとけ。お前の身体はもうボロボロだ」


「……はい」


 ようやく小さく返事をした俺に、ガルヴィスさんは背を向けて歩き出した。


 俺はその背中を見ながら、ゆっくりと立ち上がる。


 腕も脚も、限界を超えて動かない。

 でも──


(感じられた……)


 その事実が、俺に不思議な力を与えていた。


 気を、生命エネルギーを、自分の中で感じた。

 これはきっと、小さな一歩。

 だけど確かな一歩。


「……俺は、強くなる」


 その誓いを、心の中で静かに繰り返した。

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