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14話

 いつもと変わらぬ村の朝。

 鶏が鳴き、村人たちはそれぞれの仕事を始めていた。

 

 俺は広場で木剣を振りながら、昨夜のリディアとの戦いを思い返していた。


 確かに俺は成長している。

 でも、それでもまだ勝てない。

 リディアと、いや、魔法使いと自分との間に大きな壁があることを感じる。

 決定的に何かが足りないのだ。

 だがその足りないものを埋める方法が俺にはわからない。


「……くそっ!」


 悔しさを木剣に込めて振るう。

 もっと強くならなきゃ。

 もっと、もっと──


 そのとき、村の入り口のほうから大きな声が響いた。


「おーい! 誰かいるかー!?」


 聞き慣れない男の声。

 不審に思い俺は木剣を肩に担ぎながら、村の入口のほうへと向かった。



 村の門の前に立っていたのは、旅人風の男だった。

 年齢は三十前後だろうか。

 がっしりとした体格で、背中には長剣を背負っている。

 服装は動きやすい軽装で、腰にはいくつかの道具袋をぶら下げていた。


「お?坊主。この村の人間か?」

「そうだけど……あんた、誰だ?」


 男はニヤリと笑いながら、腰に手を当てた。


「俺はガルヴィス。ちょっとした用があって、この村に寄らせてもらったんだが……村長はいるか?」

「村長? いると思うけど…村長に一体なんの用だよ?」

「おっと、疑われるのも無理はねぇな。でも、俺はただの冒険者だ。ちょっとした情報を伝えに来ただけさ」

「冒険者……?」


 その単語に、俺の胸がざわついた。

 冒険者……。

 村の外の世界を旅し、魔物と戦い、依頼をこなす者たち。

 俺が憧れている生き方のひとつ。

 

 俺の両親も冒険者だったと聞いている。

 聞いているという言い方なのは、俺には両親の記憶があまりないからだ。両親は俺がまだ物心着く前に村の近くに現れた魔物を退治しに行き、村を守るのと引き換えに命を落としてしまった。

 両親はそれなりに実力のある冒険者だったと聞いているが、村のみんなが言うことだ、実際どうだったかはわからない。

 


「……とりあえず、村長の家まで案内するよ」

 

「おう、助かるぜ」


 こうして、俺はガルヴィスとともに村長の家へと向かった。



 村長の家で、ガルヴィスは簡単に自己紹介をしたあと、真剣な顔で話を切り出した。


「単刀直入に言おう。この近くで、魔物の活動が活発になっている。いずれこの村も襲撃される可能性が高い」


「……なんじゃと?」


 村長の表情が険しくなる。


「ここから東の森の奥、最近になって魔物の群れが現れたという報告があった。まだ大きな被害は出ていないが、用心するに越したことはねぇ」


「この村も狙われるやもしれん、ということじゃな」


「そういうこった」


 ガルヴィスは腕を組みながら言う。


「幸い、今のところこの村の近くに魔物が現れたって報告はない。でもな、こういうのは気づいたときには手遅れってパターンが多いんだ。護衛を雇うなり、村の防備を整えるなり、考えたほうがいい」


 村長はしばらく沈黙したあと、ゆっくりとうなずいた。


「……ふむ、なるほどのう。ところで、その魔物とは、どのようなものなのじゃ?」


「……村の外に出ることが少ないと、あまり見たこともないだろうな」


 ガルヴィスは軽く顎を撫でながら言った。


「魔物には大きく分けて二種類だ。動物が魔力を取り込んで変異した魔獣と、元から異形の存在として生まれた魔物だ」


「ふむ……」


「森の奥にいるのは、ほとんどが魔獣だな。狼や熊が変異し、牙や爪が鋭くなり、通常よりも頑丈になっている。さらに、魔力を持つことで異常な素早さを得たり、簡単な魔法を使うこともある」


 俺はガルヴィスの話に思わず息を呑んだ。


 ただの動物ではなく、魔力によって強化された存在。


 そんなのが村に襲いかかってきたら……?


「異形の魔物のほうはどうなのじゃ?」


「そっちはやっかいだ。普通の生き物の形をしていないものも多いし、知性を持つものもいる。特に、群れを作る魔物は厄介だな」


もしかして前、探検した洞窟の中で現れた黒い靄みたいなやつも魔物だったのだろうか?


「後、もう一つ、知性を持った個体の中に自分のことを魔人だというやつがいるらしい、そいつらは全員例外なくとてつもない力を持っていると言われている。」

 「まあ、魔人に関しては噂話程度だと思ってくれればいい、俺も見たことはないし、見たことがあるやつにもあったことはないからな」

 

「……貴重な情報じゃ、礼を言うぞい」


 村長は深く考え込むように頷いた。


「少なくとも、警戒を強めねばならんじゃろうな」


「そういうこった。ま、とりあえずは頭の片隅にでも入れといてくれ」


 ガルヴィスは軽く肩をすくめると、俺のほうをチラリと見た。


「ところで、そこの坊主……さっきからやたらとこっちを見てくるな」


「……!」


 俺は思わず背筋を伸ばす。


「お前、冒険者に興味があるのか?」


「ああ、村の外の世界を知りたい、そしていずれは最強の剣士になりたいんだ!」


 俺の言葉に、ガルヴィスは目を細めた。


「へぇ……そりゃまた大きな目標だな」


「教えてくれ! どうやったら、剣士として強くなれるんだ?」


 俺は木剣を握りしめ、真剣にガルヴィスを見つめる。


 すると、ガルヴィスはしばらく俺を見つめたあと、ニヤリと笑った。


「そうだな……だったら、少し付き合ってやるか」


「えっ?」


「今から広場で待ってろ。お前の腕前、ちょっと試してやるよ」


 そう言い残し、ガルヴィスは村長の家を出て行った。


「……まじかよ」


 俺は興奮と緊張を覚えながら、木剣を強く握りしめた。

 本物の冒険者と戦える。

 この機会を、絶対に無駄にするわけにはいかない。


 俺は急いで広場へと向かった。

 

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